わが愛しきアイドル歌謡⑧~過去のビデオ機材たち/前編


 2005年から2006年にかけてビデオサロンに掲載された岡野肇さんの連載の再掲載です。今回はアイドルやエアチェックネタとは離れてかつてのビデオデッキのお話。貴重な写真が満載です。


◆統一1型って何?
 テレビ番組などの映像が「記録」できることを私が知ったのは昭和40年代のはじめ、小学生の時でした。NHK教育テレビの番組にクラス全員で出演することになったのですが、放送時間が授業中にあたり見られません。それを聞いて親父が医者をしていたクラスメイトの1人が自分の家で「録画」してくれるというのです。「録画」という言葉自体初耳で、クラスは大騒ぎになりました。彼の父はある社会人リーグのサッカー部の専属トレーナーで、テレビで放送される試合を録画し選手をチェックするためにビデオデッキを購入したのです。
 いよいよその日がきました。ま新しいソニーの『統一1型白黒オープンリールデッキ』が再生をし始めました。当時としては豪勢な洋館の応接間で、クラス全員で輪になって見たのを思い出します。
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▲オープンリールタイプのテープを使用する統一1型のソニーAV-3700
 あれから30年あまりたってこの『統一1型オープンリールデッキ』のとある1台は、私の古機材収集癖を知っている友人が、どこかの役所の払い下げ品を見つけて来てくれ、手にすることになりました。そのデッキには数本の録画済みデープが付属していて、ある体育館でのシーンのバックの窓から、開通したばかりの首都高速道路に三輪トラックが走行しているのを見た時、このフォーマットのすごさを実感しました。
 時は流れて高校生となった私は、ある先生と出会います。クラスの副担任であったこの先生は、いわいる「幻のオリンピック選手」でした。陸上競技でアジア大会にも出場し、次はオリンピックと目されていたのですが、不運にもボイコットに巻き込まれ涙をのんだのです。そんなことになる数年前のある日、放課後に自分のフォームをチェックするためのビデオ撮影を手伝ってほしいと言われました。統一1型に出会ってから時は流れましたが、まだまだビデオ撮影が一部の人の趣味でしかなかった時代でしたので、珍しさも手伝って機材運びに協力しました。その時のフォーマットが後に「シブサン」と呼ばれ、テレビニュースに革命をもたらした『Uマチック規格』でした。
◆カムバックVTR=Uマチック
 プロ野球に「カムバック賞」というのがありますが、もしビデオ業界にこの賞があれ当然受賞したであろうフォーマットが『Uマチック規格』です。このフォーマットは前フォーマットである『統一1型』につづく統一規格で、1970年前後にソニー・松下・ビクターから相次いで発売されました。発売当初は家庭用で、最大60分収録可能の、統一規格としては初めてのカセットタイプのVTRでした。ほとんどの機種が懐かしい回転式のチャンネルの付いたTVチューナーを内蔵していました。
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▲松下の家庭用UマチックVTR。手前はミニDVテープ
 ちょうどテレビ局各社では当時高価であった放送用VTR(おそらく2インチ)用テープを使い回していた時期でしたので、この家庭用『Uマチック規格』で録画され残っていたものからDVDなどでソフト化され蘇った番組もあります。3/4インチという、後に出る1/2インチのベータやVHSより余裕のある記録幅であったせいもあって、無理な高画質化処理をしていない素直な画質が特徴で、家庭用としては充分なスペックを持っていました。それを裏付ける、後につながる先駆的な機能をいくつか揚げてみます。
①2チャンネル音声トラック
当初は同時録音用1チャンネルとアフレコ用としての1チャンネル計2チャンネルでしたが、のちに同時2チャンネルも録音可能になりました。とにかく二つのトラックを持っていたおかげで後からお話しする放送用VTRとしての生き残ったのです。ちなみに、発売当時のTV放送はもちろんモノラルで、音声多重放送が開始されるのは数年後です。
②理想的なU字型ローディング
後のベータやベータカム等に引き継がれる事となるU字型ローディングを初めて採用しています。面積あたりの記録量を増やすために回転ヘッドを採用していますが、その分安定したテープとヘッドとの密着性が必要となり、理想的なU字型が考えられました。規格の呼び名もここからきています。
③アダプターのいらないL・Sカセット挿入
DV規格などではあたり前ですが、大きさの異なるカセットをアダプターなしで挿入できるという利点を持っていました。
④タイムコードの記録
今では家庭用でも常識となっているタイムコードが記録できました。もっとも放送用としてカムバックしてからで、深層記録タイプでしたがこれも当時としては画期的でした。
 このようなスペックを持っていたからこそこの規格は二度目の命を与えられることとなります。家庭用として発売されたこの規格ですが、最大60分という収録時間の短さと、なんといっても高価格であったこともあり、売れ行きは厳しかったのです。
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▲巨大な回転ドラムにU字型にテープを巻きつける
 ちょうどその頃、テレビ界では外(ロケ)撮影をビデオ化するという命題に取り組んでいました。この時代まではスタジオ以外、つまり外で撮影するときは中継車を使うしかなく、もっと手軽に撮影したい場合は、フィルム撮影したものをテレシネするしか方法がありませんでした。しかし、アメリカではVTRを背中に背負うなどしたVTR撮影(「ENG」=エレクトリック・ニュース・ギャザリング)が始まっていました。しかし体格の差もあり日本では普及しづらい撮影方法でした。
◆TBCのおかげでUマッチが放送用の規格に昇格する
 そこで目を付けられたのが、高い基本スペックを持った『Uマチック規格』だったのです。しかし、テレビ放送は放送法にのっとった品質の電波を送出することが義務づけられており、家庭用のままの『Uマチック規格』ではジッターなどの細かい揺れや振動が出やすいなどの問題があり、このままでは無理でした。そこに救世主として登場したのが「TBC」タイムベースコレクターだったのです。この装置は、アメリカの宇宙開発の副産物で、ビデオのフレームをデジタイズし整えた後、再びアナログ化して出すというものです。このコラボレーションにより、『放送用Uマチック規格』が誕生しました。同時に、アンチローディングの強化が図られるとともに、20分収録のスモールカセットも規格に追加されま
した。ショルダータイプのUマチックVTRの誕生です。
このフォーマットで達成できなかったこと、それは「VTR一体型カメラ」でした。このことは、逆に次世代フォーマットの開発の合い言葉となり、これもまた家庭用の座を追われつつ合ったあるフォーマットがよみがえり、世界市場の独占を成し遂げるのですが、その事は次回お話ししましょう。
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▲ソニーUマチックの業務用ENGシステム
◆知られざる余生
 最後にもう一言。
 放送用でも新規格に座を追われた『Uマチック規格』ですが、つい最近までオーディオの世界で業務用デジタルマザーフォーマットとして生き残っていた事実はあまり知られていないUマチックの余生です。まだ家庭用だった頃の1台は、今も私の部屋の片隅にひっそりと鎮座しています。Uマチックは今の「ビデオの母」なのです。
【後日談】
実は昨年の夏、30数年ぶりに『統一1型』の持ち主であった同級生とクラス会で
再開しました。さっそくあのデッキとテープの行方を聞いたところ
『あれから10年くらいで知り合いの電気屋さんにテープごと譲ってしまった』とのこと
懐かしの私の少年時代の映像はどこかにいってしまったというわけです。残念。
しかし、いまでも3/4のデッキは健在で自宅と会社で完動品です。