映画『THE DOCUMENTARY OF AKB48 to be continued』で使われたEOS 5D Mark IIの表現力


2月11・12日の2日間にわたり、「ブリリア ショートショート シアター」(横浜・みなとみらい)にて開催されたキヤノン「EOS MOVIE スペシャルセミナー」。2日目の12日には、ビデオサロン編集部の企画協力で、3つの事例を紹介するセッションが行われた。
その最初を飾るのは、現在公開中のAKB48のドキュメンタリー映画「THE DOCUMENTARY OF AKB48 to be continued」(製作総指揮:岩井俊二/企画:秋元康/監督:寒竹ゆり)におけるEOS MOVIEの活用事例。出演はフォトグラファーの神戸千木氏と、プロデューサーの高橋信一氏(ロックウェルアイズ)。


kanbe%26takahashi01.jpg
中央が神戸千木氏、右が高橋信一氏。左は司会進行のビデオサロン一柳編集長
撮った素材は68TBのデータと1500本のテープ
1月22日より劇場公開中の「THE DOCUMENTARY OF AKB48 to be continued」は、アイドルグループAKB48の2010年の活動に密着、彼女たちの「今」をドキュメントし、その未来をも描き出した映画。「今まで見たことのないAKB48を見せたい」という信念のもと、1年にわたり彼女たちに密着した。その核となる主要メンバーのインタビューをEOS 5D MarkⅡで撮影している。
高橋氏は岩井俊二監督が主宰する「ロックウェルアイズ」にプロデューサーとして所属。神戸氏は撮影監督の故篠田昇氏(岩井監督の作品の撮影監督を務めていた)に師事し、一昨年、岩井氏が監督したAKB48の「桜の栞」のPV(EOS MOVIEで撮影)にもカメラマンとして参加している。
神戸氏が岩井監督と出会った頃は、まだフィルムも残ってはいたものの、ちょうど映画もデジタルで撮ろうという動きが出てきた時代。岩井氏も篠田氏も人一倍ルックにはこだわりがある人だが、フィルムに固執することなくデジタルにも積極的に取り組んでいて、その二人の影響を強く受けたと神戸氏はいう。
高橋氏によれば、「桜の栞」のPVを撮ったときから岩井監督の頭には「ドキュメント的なものを撮りたい」という構想があったそうだ。「人数も多いし、素材的にいったいどのぐらい撮れば充分になるのかなというのはありましたが、密着しているとテレビで見ているのとは全く違うなと。スポ根的というのか、その部分が伝えられたら面白くなるかなと思いました」
「桜の栞」ではEOS 5D MarkⅡとEOS 7Dを計7台使って、都内を練り歩きながらメンバー48人一人ひとりの表情を追ったが、それとは全く違う手法・スタイルをとった。「カメラマンの数が全然違う」(神戸氏)というとおり、少人数体制で、最も少ないときは寒竹監督に神戸氏、高橋氏、アシスタントの4人。音声はピンマイクで拾って別に用意したビデオカメラで収録した。
公式サイトの宣伝文句に「収録テープが1000本以上」とあるが、密着を決めた時点で記録用のビデオカメラで撮影を始めていて、その一部はテープ収録で、それだけで1000本を軽く超えて最終的に1500本ほどにもなった。データで収録した分は2TBのHDDに記録・保存したが、これが最終的に34台、68TBにもなった。この膨大な素材を編集スタッフ2名と監督で編集したが、監督は約1カ月編集室に籠もることになったという。
インタビューは5D MarkⅡ4台体制で収録
映画の半分以上を占めるのがメンバーのインタビュー。10月から12月にかけて、一人あたり1時間半~2時間ぐらいの時間で収録。「なるべく素の状態でナマの声にしたいということで、各メンバーに『自分に還る時間』というコンセプトを伝えて、そうなれる設定や場所を聞いて、可能な範囲で探しました」(高橋氏)
インタビューの収録にはEOS 5D MarkⅡを4台使用。5D MarkIIで統一した理由について神戸氏は、「センサーがフル35mmということが大きい。(APS-Cの7Dより)被写界深度を浅くできるし、レンズも一つ長いのが使えて、その分より被写体に近づける」と説明。3台は三脚に固定し、レンズは単焦点を使用。1台は神戸氏が手持ちで撮影しているが、機動性を重視して70-200mm F2.8のズームレンズを使用した。「このレンズはすごくいいレンズです」と神戸氏。「アングルを変えられる自由度が欲しいから」とカメラサポートは使っていない。全てのインタビュをこの仕様で通した。照明は1灯だけ使い、なるべく現場の明かりで撮影するよう心がけた。
ここで、EOS MOVIEで撮影した部分のダイジェストを上映。ポイントはライブシーンとインタビューシーンのボケ味。実は、映画では普通ここまでぼかすことはないという。「でも、スチル写真だとこのぐらいぼかすことがあるじゃないですか。広い画面の中で人物だけにフォーカスをとると、そこに意識が行きやすくなります」(神戸氏)
kanbe%26takahashi02.jpg
ピクチャースタイルは1種類
EOSシリーズには、トーンを作るためのソフト「ピクチャースタイルエディター」がある。RAWで撮影した静止画をサンプルに、好みのトーンを作っていくのだが、あらかじめプリセットされたスタイルのほかに、任意に設定することも可能だ。この作品ではオリジナルのピクチャースタイルを使用しているが、基本的に1種類だけで、「桜の栞」の時に作ったものをそのまま使用しているという。プリセットにある「ニュートラル」に少し手を加えているそうだが、「ものすごく微妙で、ワンタッチでものすごく変化する。何十通りも作って、その一つを選びました」(神戸氏)
基本的な考えとして、撮影の段階でハイライトのとびや暗部のつぶれを抑えて、なるべくデータ情報を多くして、後でいらない情報を減らす方向だ。カラーコレクション(色調整)については、色がよければそのまま使う方針で、結果的にカラコレした部分と全くしていない部分があるという。
編集にはFinal Cut Proを使用。大量の映像ファイルをマルチで編集するため、オフラインの段階でProRes 422 Proxyにいったん落として、後でProRes 422 HQに再変換している。高橋氏によると、撮影は今年の元旦まで続き、納品は1月14日! デジタル上映だから可能なスケジュールとも言える。
上映をデジタルシネマパッケージ(DCP)で行なっているのもこの映画の特徴。フィルムに焼かないデジタルデータでの上映で、劇場に届くのはHDD1台とプロテクトを外すためのUSBのキーだけ。現像費用や物流コストの削減につながる。フィルムに焼く場合は、現像の段階で色味をチェックする「タイミング」という作業が入るが、DCPでは実際にデータ上映を行なって色味をチェックする。神戸氏も立ち会っているが、色味はオリジナルとほぼ一緒だったという。「この作品ではフィルムは1本も焼いていません。TOHOシネマズやT-JOY系は全面的に対応していますし、シネコンにおいては全スクリーンで採用されつつあります。そこまで上映技術は変化しているのです」(高橋氏)
THE DOCUMENTARY OF AKB48 to be continued公式サイト http://www.2010-akb48.jp/index.html
レポート=編集部・本吉

vsw