ハードルが高かった映画作りはEOSムービーなどの登場により、ハードウェア的な障害は取り除かれつつある。映画好きが数人でも集まれば、あとは創作意欲があれば充分という時代になった。
 この企画では1年間に12本、女優・藤沢玲花主演のショートムービーを毎月制作し、その制作課程をお伝えしつつ、ビデオサロンのホームページで完成作品を公開していく。その目的はただひとつ。仲間と協力して作る映像制作の楽しさを、たくさんの人に知ってもらうためにほかならない。
 さて、第2回目は第1回とは打って変わって切ない恋の物語。高校の担任の先生に恋した女の子と、生徒である彼女に思いを寄せる男性教師の物語。たった数時間の出来事を美しい情景と共に描ききったのは、本誌「一眼流映像表現術」でお馴染みのふるいちやすし氏。
 ロケは良く晴れた1月24日。ロケ地は海の見える神奈川県の葉山町。予定よりも撮影時間は押し、最後のショットを撮り終えた時には完全に日が落ちた。時間に追われながらも監督をはじめ、出演者の集中力は途切れず、素晴らしい映像をカメラに収めることができた。雄大な自然の中でつむがれた人間ドラマをお楽しみください。さて、上映の時間になりました!


『無言歌』



あらすじ
学校の帰り道。バスを待つ香奈里(藤沢玲花)は、乗り遅れた担任・時田(吉田比登志)に歩いて帰ろうと誘う。海岸沿いを歩きながら、お互いの気持ちを、何気ない言葉のやりとりの中から確かめ合う二人は…。●カメラ:キヤノンEOS 5D Mark II / ●編集:Final Cut Pro 7 / ●上映時間:12分04秒
監督/脚本/撮影/編集/音楽●ふるいちやすし
furuichi.jpg
▲映像作家/音楽家。音楽の世界から転身。デジイチムービー登場後は真っ先に飛びつき、魅力的なミュージックビデオやCMを量産中。
ふるいちやすし監督の公式HP
主演●藤沢玲花
fujisawa.jpg
▲山下香奈里(17)役。担任の時田に恋をする高校生。父親とは小学生の時、死別。今回はセリフの奥に秘められた思いを熱演。注目!
藤沢玲花さんの公式HP(ジェイライブ)
GUEST●吉田比登志
yoshida.jpg
▲時田 護(38)役。香奈里の担任。独身の国語教師。香奈里に恋をする。普段は舞台やモデルとして活躍。禁断の先生役を見事に演じた。
吉田比登志さんの公式HP
制作スタッフ
all.jpg
▲スタッフは出演者も含めてこの5人。右から時田先生役の吉田比登志さん、香奈里役の藤沢玲花さん、監督のふるいち氏に、撮影を手伝ってもらった江口裕祐さん。そしてエキストラで参加してもらった小野茉莉花さん。お疲れ様!

制作後記 / ふるいちやすし


 「愛している」という言葉を使わずに強いラブストーリーを作りたかった。言葉の力を借りずに熱い思いを伝えようと作り始めたこの作品だが、強力な二つのライバルがそこにはあった。一つは海という大きな力を持った風景。その美しさにヒトの思いは揉み消されてしまいそうになる。そしてもう一つが藤沢玲花が持つ特別な透明感。透明感は時として人形的な美しさとなり、これもまた思いを封じ込めてしまう。
 だから本番に入ってからも出演の二人にはずっと「もっと、もっと強く思ってくれ」と言い続けた。そして見事にそれに応えてくれた藤沢玲花の眼差し、息遣い。そうなると二つのライバルは邪魔をするどころか強力に、そして大きくそれを押し出してくれた。僕は演出家としてとても幸せな一日を過ごした。
 レンズはアンジェニューの28㎜を手に入れた。すでに持っていた45~90㎜のズームと併せて、やっとすべてのカットをアンジェニューで撮ることができるようになった。以前からアンジェニューだけで一つの作品を作りたいという希望はあった。そしてこの作品こそがそれだと思い、慌てて状態が良く手頃な物を探した。
 マウントが「エギザクタ」という古い一眼レフカメラのものだったので、アダプター選びからミラーが引っ掛からないようにするための加工まで、とても手間がかかった。しかし、一言で言うと「春のような」トーンと色が、寒い真冬のロケ現場でもモニターを見る度に僕の胸をフウゥッと暖めてくれた。映像作家としてもとても幸せな一日を過ごした。
 そして音楽家としても…。昔観たディズニー映画の中で、サウンドトラックの録音風景が紹介され、映画のスクリーンを見ながらオーケストラを指揮する人がいた。子供心に大きな憧れを感じたのを覚えている。今、モニターの前でギターを弾いていると、規模は全然違うけど「夢は叶ったのだ」と感じる。このテクノロジーの進歩に心から感謝している。