ドキュメンタリーを中心に活動するカメラマン・板谷秀彰氏が、自身の経験に基づく実践的な撮影論・テクニックを紹介するエッセイ。7月号と8月号の2回にわたって「本腰を入れて撮影する」と題し、撮影時の姿勢や体の使い方について、「腰の使い方」を軸に置いて解説しています。
軽妙洒脱な文体が好評の板谷氏ですが、「具体的な身体の動きや姿勢を文章で伝えるのは難しい!」と語り、ここは自らがお手本になってレクチャーしてくれることに。誌面では写真で解説していますが、やはり動画で動きも含めて見ていただくとより分かりやすいでしょう。記事と合わせてご覧ください。



まずは7月号で解説した三脚を使った撮影の際の姿勢と腰の使い方。最初に悪い例(へっぴり腰)を紹介していますが、実はこのスタイルが意外と多いのです。少し離れた位置からカメラを覗き込むようにすると、前かがみになり体の重心も前に移動するので、腰を引いてバランスをとろうとしてへっぴり腰になるわけです。この姿勢でパンやティルトをすると手だけで操作することになり、安定したカメラワークができません。レンズと目の視野が一致しない点も問題です。
今度はお尻をスッと前に出すように片足(この場合はビューファインダーの関係で左足)を一歩前に出し、軽く膝を曲げるようにすると、「腰が入った」感じで体がカメラに近づきます。この状態では、体の重心が自分の立っている位置の中心近くに収まり、楽に立つことができます。膝を曲げることで視線が下がり、レンズの方向と視野が一致するメリットもあります。
この姿勢が理解できたら、三脚の脚の向きにも注意しましょう。三脚の脚と脚の間が立ちやすそうなのですが、これは不正解。脚の1本がカメラの左横になるように位置を変え、左足はその脚をまたぐようにします。こうすることで、カメラをパンする際の最初の踏み出しがスムーズになるのです。

次に8月号で解説している手持ち撮影。手持ち撮影によく使われるハンドヘルドタイプのENGカメラは、たいてい両手で支えながら液晶で画像を確認しますが、特に低い位置のものを撮る場合、前かがみになりがちです。重心が前に偏るので、バランスをとろうと腰が引けて骨盤が寝た状態になり、姿勢が安定しません。膝を曲げて姿勢を低くしながら上体を起こすようにすると、重心が体の下に収まり姿勢が安定します。また左右どちらかの脚に重心をかけておくと、この姿勢から歩き出すのが楽になります。
手持ちによる歩き撮りでよくありがちなのは、つま先でソロソロと歩くことです。こうした忍者か泥棒のような歩き方は、足音はしなくなりますが、歩きづらくて足の踏み出しが小さいうえ、カメラも安定しません。
まっすぐ立ち、踵から着地してつま先に抜けるような正しいウォーキングスタイルのほうが、はるかに楽でカメラも安定します。このとき、骨盤を少しだけ突き出すような感覚で体重を前に押し出すと、ストライドが大きくとれます。応用編として、モデルと一緒に歩きながら撮影する事例も紹介しています。