コストパフォーマンスの高さで業界に激震が走った
ATEMスイッチャー
3モデルの違いと使いこなしを検証する


 3つのモデルから構成される、ブラックマジックデザイン社のスイッチャーATEM(エイテム)シリーズは、リーズナブルさが話題となっている製品である。今まで、この特徴ある3モデルを一度に比較して紹介されることが少なく、モデル選びにおいて迷う場面もあると思われる。今回は、ATEMそれぞれのモデルをテストし、比較してみた結果を、スイッチャーに馴染みのないユーザーにもわかりやすく、スイッチャーの基礎知識の解説と合わせてレポートしたい。
Report◎櫻井雅裕


スイッチャーの基本を知る


ATEM Television Studio

ATEM 1M/E Production Switcher

ATEM 2M/E Production Switcher

▲3モデルの本体の裏面端子部
ATEMには、1M/Eタイプのスイッチャーとして、Television Studioと、1M/E Production Switcherの2モデルがある。さらに2M/Eモデルとして2M/E Production Switcherがラインナップされている。
このM/Eとは、ミックス・イフェクト列の略で、例えば、映像Aと映像Bをワイプしたりディゾルブしたりといったトランジション効果を付けることができる単位で、「列」と呼んでいる【図1】。
【図1】

AとBとなる映像を選択する列がバスと呼ばれ、Aバス・Bバス(それぞれプログラム列・プリセット列とも呼ばれることがある)がセットで1つのM/E列となる。このバスへの入力が一般的にプライマリー入力と呼ばれ、このプライマリー入力数とM/E列の数が概ねのスイッチャーの規模と能力を指す。
ただ、このM/E列1つでも、トランジションの1つとしてキー合成をするスイッチャーもあれば、高級機ともなるとキーヤーが別についている場合も多くあり、M/E列1つの能力も、製品によって千差万別である【図2】。
【図2】

ATEMの3モデルは、以下の比較表を見てもらえるとわかるが、単純な規模の大小や有無ではなく、規模の差に応じて、想定される用途に応じた機能や入出力などが吟味されて装備されている。
 各モデルで共通するポイントを見てみると、各M/Eには独立したキー合成を行うキーヤーがあり、Television Studioでは1つ、1M/Eでは4つ、2M/Eでは各M/Eに2つずつ計4つ装備されている。さらに、スーパーやテロップなどに使われるダウンストリームキーヤーも最終段に全モデル2つ搭載され、その後にFTB(フェード・トゥー・ブラック=黒フェード)機能が各M/Eに装備されている。カラージェネレーターは2つ装備され、これとは別にブラックとカラーバーが搭載されている。画面の切り替えを行うTバーはバス間トランジションと同期してキーヤーもセットで操作できるので、1M/Eで2M/Eに相当するような演出を行うことができる。
各モデルのM/E列の機能を見てみると、クラスからすると想像ができないぐらい機能が充実しており、プライマリー入力数の差やM/E段が1つということこそあれ、数百万~数千万クラスのスイッチャーのM/E列を抜き出したような充実した機能を持っている。

価格からは想像できない2.5DのDVE機能


 DVEとは、映像の拡大縮小や回転、スライドなどの映像の変形を伴う効果を実現するイフェクト機能である。DVEは拡大縮小や移動が行える2D、これに画面平面内での回転が可能となる2.5D、さらに、奥行き方向の回転などが行える3D、ページめくりなどの曲線変形(非線形)効果を備えた、ノンリニアイフェクト付き3Dの順にグレードがアップする。一部のスイッチャーでは、決まった動きに限定した3Dやノンリニアイフェクトが搭載されることもあるが、HDでは、DVE機能は外付けの専用のDVEを使うか、2Dクラスまでの内蔵が標準的である。それに対して、ATEMでは、Television Studioを除いたモデルに、2.5DのDVEをM/Eに1chずつ装備している。
また、安価なスイッチャーでは、DVEは決まったパターンのトランジション専用だったり、使えてもPinP程度までの機能に限られているが、ATEMでは、これに加えて、キーヤーに用いたり、2点間移動を指定したり、ボーダーやベベル、ライティング、ドロップシャドゥを設定したり、マスクで切り抜きをしたりすることができる。
 このほかにも、通常はDVEトランジションというと、スライドなどのトランジションのみだが、ATEMでは背景のディゾルブやワイプとともに、そのボーダー(境目)などとして他の映像を用いたりする機能がある。
 そして、2M/Eモデルでは、さらにスーパーソースという特別なDVE機能を持っている。これは最大4つの映像と背景を組み合わせた画面を作るための専用のDVE機能である。DVE機能はトランジション以外にはPinPで使われることが多いが、よくテレビでも見かける中継でのかけあいなどのような映像でDVEのチャンネル数を使い切ってしまうことがよくあり、そういった用途専用に備えられた機能である。よく使いたい効果である割に、こういったことを既存のスイッチャーでやろうとすると、低価格なスイッチャーでは1台では無理だったり、数千万クラスのスイッチャーでもM/E列を1段丸々つぶさないと実現できなかったりするので、極めて実用性の高い機能である。
 2.5DまでのDVE機能に限って見た場合、これらの点は、数百万~数千万クラスのスイッチャーに迫る機能を持っており、このクラスの製品でこれらの機能を実現したことは驚きといえるだろう。

ハイエンド機に劣らないキーイング性能


 スイッチャーの能力を見る1つのポイントにキーヤーの機能や性能が挙げられる。キー合成を行うキーヤーの機能としては、まず、映像の輝度を用いるルミナンスキー、色を用いるクロマキーがあるが、安価なスイッチャーでは、M/E列のAバスとBバスを前景・背景として合成するように作られているため、キー合成を行うのにM/E列を1段つぶしてしまう。しかし、ハイエンドのスイッチャーとなると、キーヤーのキー信号(キーソース)とフォアグラウンド(キーフィル)がA・Bバスとは独立して設定できる。そのため、トランジションとは独立してキー合成を行うことができる。キーヤーでは、このほかトランジションとは別にワイプパターンを用いて合成するパターンキーや、DVEを用いたキーイングも可能である。この機能面だけ見ても、これまた数百万~数千万クラスのスイッチャーに並ぶ機能の充実だが、合成のクオリティもそれにふさわしい。クロマキーなどは、合成の抜け具合がスイッチャー性能の指標の一つだが、この点でも、先に挙げたようなハイエンドスイッチャーに引けを取らないクオリティを備えていることが確認できた。
<エフェクト系のパレット画面>

ソフトウェアコントロールパネルで広がる自由度


 ATEMシリーズでは、従来のハードウェア型コントロールパネルの他に、ソフトウェアコントロールパネルという選択肢を用意している。しかし、従来のハードウェアコントロールパネルのスイッチャーを使った経験のあるユーザーは操作性に不満を覚えるかも知れないので、この部分も実際にテストしてみた。
PCで操作する場合、キーボードの数字キーでプライマリー入力の選択を行い、リターンキーやスペースキーでトランジションやカットのテイクを行うことができるので、それでもある程度のハードウェアコントロールパネルのようなオペレーションが可能である。コントロールキーを組み合わせることで、ダイレクトスイッチングも可能である。しかし、PCのキーボードでの操作には抵抗感のあるユーザーも多いかもしれない。そこで3つの方法をテストしてみた。

▲Television Studioのソフトウェアパネル

▲2M/E Production Switcherのソフトウェアパネル
まず1つは、ウィンドウズのリモートデスクトップ(Mac OSならばVNC)機能を用いて、タブレット端末からタッチパネルで遠隔操作する方法。
もう1つが、最近増えているマルチタッチ対応のPCディスプレイを使って指やペンでタッチ操作する方法である。いずれも、キーボードでの操作に比べると、劇的に直感的な操作が可能であった。確かに、ハードウェアコントロールパネルならではの、触感がないことによるもどかしさは残るものの、従来のハードウェアコントロールパネル同様のその場テンポでのスイッチングは可能なので、ハードウェアコントロールパネルの価格を考えると、充分満足がいくのではないかと考えられる。
そして3つめが、キーの割り当てが自由にできる、PC用の数万円のプログラマブルキーボードを用いる方法である。キーの割り付けが自由にできるので操作感としては、各種のツマミやTバーがないことを除けば、ハードウェアコントロールパネルと同様の操作感が得られる。ATEMシリーズは本体があまりにリーズナブルなので、ハードウェアコントロールパネルの購入に迷うユーザーも多いかも知れないが、このような方法を使うことで、予算に合う形でハードウェアコントロールパネルに迫る操作性を実現することができる。
 また、ATEMシリーズの面白さとして、ソフトウェアコントロールパネルとハードウェアコントロールパネルを混在したり、複数つないだりできることが挙げられる。全モデルに対して、1M/Eタイプ・2M/Eタイプコントロールパネルは相互に接続できる。また、ソフトウェアコントロールパネルも混在して同時に使うことができる。2M/Eパネルで2台のスイッチャーをコントロールすることも、1台のスイッチャーを複数のパネルで操作することも可能で、例えば、2M/EモデルのM/E列1段目を、イベント映像用のプロジェクターやバラエティ番組的な収録のMC横スクリーン出しに使い、M/E2段目を収録用に使うといった場面を想定してみる。
このような用途では、1台のスイッチャーの2段のM/E列を2つのパネルでそれぞれ別々のオペレーターが操作することができる。リアルタイムでのDVEのサイズ調整などが求められる用途ではジョイスティックやツマミがある方が確かに便利だが、本体は2M/Eでも、2M/Eのコントロールパネルには手が届かない、といったユーザーには1M/E分はハードで、もう1M/E分はソフトで、といった使い方が可能なのである。また、ソフトウェアコントロールパネルを2つ使い、片方はスイッチャーオペレーション画面とし、もう1つはオーディオミキサー画面とすることで、パネルを切り替えずにスイッチングと音量調整や監視を行うことができる。

▲ハードウェアのコントロールパネル。左が1M/E、右が2M/E。

かなり便利なメディアプレーヤー機能


 ATEMでは静止画や動画、音声ファイルをソフトウェアコントロールパネルから送り込んで素材として用いるメディアプレーヤー機能が備わっている(動画はTelevision Studioはなし)。メディアプレーヤーは2系統あり、PNG、TGA、BMP、GIF、JPEG、TIFFなどの静止画を読み込むことができ、連番ファイルを転送することで動画として用いることができる。内蔵メモリーはTelevision Studioでは20枚、他は32枚となっており、動画は長い尺のものを入れることはできないので、あくまでモーションロゴなどに限られるが、プライマリー入力で選択したり、画像ファイルのαチャンネルを使って合成したりできる。
さらに、動画は、ATEMオリジナルのトランジションイフェクト「Stinger」で用いることができる。これは、AからBに映像が変わる瞬間に、ロゴなどのアニメーションをトランジションと同時にスタートしてキー合成してくれる機能である。日本ではあまり馴染みがないかも知れないが、海外では、スポーツ中継の得点が入った瞬間や、バラエティ番組の場面転換などでよく用いられている効果で、一度使って見ると、かなりやみつきになるだろう。
 このほか、音声ファイルは、WAVやMP3、AIFFなどのファイルを扱うことができるので、ちょっとしたものなら、わざわざ別にポン出し用のCDプレーヤーなど用意しなくても済むのが魅力的である。このような機能は逆にハイエンドのスイッチャーには備えられていない機能なので、ATEMでしか得られない利便性と言えるだろう。

キャプチャー機能を内蔵


 ATEMシリーズでは全モデルにキャプチャー機能が備えられている。ソフトウェアコントロールパネルのほか、DeckLinkシリーズ同様のMedia Expressというキャプチャーソフトでキャプチャーすることができる。Television Studioでは、Mac・WindowsからUSB2.0経由で映像はH.264圧縮、音声はAAC圧縮のMP4形式でのキャプチャーが行える。1M/Eと2M/EモデルではUSB3.0経由でWindowsから非圧縮ないしは、MotionJPEGなどAVI標準のファイル形式でキャプチャーすることができる。
 Television Studioでは、HDキャプチャー時に解像度が1080か720が選択でき、ビットレートは約2~25Mbps(実測)の間で設定できる。iPhone・iPadやYouTubeなど想定される用途に合わせたプリセットも用意されている。
 ちなみにキャプチャー自体はATEM単体でも行うことができ、ソフトウェアコントロールパネルでは録画ボタンが備えられており、録画スタート・ストップごとに連番が付与されて簡単にキャプチャーを行うことができる。Television Studioではプログラムアウトがキャプチャーされる。1M/Eと2M/EモデルではAUX出力の1番がキャプチャーされる仕組みになっており、プログラムアウトに縛られることなく、自由な系統の映像を録画することができるようになっている。限られた時間で実際にテストまでできなかったが、1M/Eや2M/EモデルのUSB3.0経由の非圧縮キャプチャーでは、キャプチャー用ドライバーの構造的には、フレームレートや画面サイズは限定されるものの、各種ストリーミングエンコーダーソフトを介して、直接ストリーミング配信などに用いることができるはずである。

波形モニター・ベクトルスコープ機能まで搭載


 ATEM Production Switcherシリーズ(1M/Eおよび2M/E)では、付属のUltra ScopeソフトウェアでUSB3.0接続を経由してWindows PCで波形モニター、ベクトルスコープ、オーディオレベルメーター、ステレオリサージュモニター、ヒストグラム、ピクチャー表示が可能となっている。特にマルチカメラの色合わせでは必須の機能である。HD-SDI対応の波形モニターだけでも単体で数十万円することを考えると、かなりお得と言えるだろう。

便利な内蔵オーディオミキサー


 ATEMでは、全モデルでオーディオミキサー機能が内蔵されている。内蔵のオーディオミキサーは、常時ONやトランジション連動機能が備わっているので、現場オペレーションの省力化に役立つだろう。また、外部オーディオ入力機能も全モデルに備わっているので、効果やBGMなどの音源もスイッチャー側でミキシング可能である。Production Switcherの2モデルでは音声のアナログ入力の他に、アナログ音声出力も備わっているので、モニタリング用に外部オーディオ機器にも直結できる。Television Studioでは音声入力がAES/EBU入力となっているので注意が必要だが、アナログ入力が必要な場合には、わざわざ別途A/Dコンバーターを購入せずとも、接続されているカメラなどの音声入力をA/Dコンバーターとして使うのが安上がりだろう。
 限られた時間で今回は実際にテストまで至れなかったが、このオーディオミキサーのオペレーションは、ソフトウェアコントロールパネルの他に、PCに接続したMackieControl対応のUSBコントロールサーフェース(デスクトップミュージック用のオーディオフェーダーユニット)を使用することもできる。これを用いることで、スイッチャー内部のミキサーを単体のオーディオミキサーのように扱うことができる。まさに至れり尽くせりの機能の充実である。

▲ソフトウェアのオーディオミキサー機能

充実した入出力


 ATEMは内部の機能もさることながら、映像信号出力も充実している。全モデルでM/E段ごとにマルチ画面モニター出力機能が備わっており、ハーフHDサイズのプレビュー・プログラム出力に加え、クオーターHDサイズで8つのソース入力を1つの画面にして確認できる。Television Studioではレイアウトは固定だが、Production Switcherでは、各M/E段ごとに、レイアウトのパターンや、ソース映像の表示位置の割り付けを設定することができる。
 このほか、1M/EモデルではSD-SDIのダウンコンバート出力とコンポジット出力に加えて3系統のAUX出力が、2M/Eモデルでは6系統のAUX出力が備えられている。このAUX出力の有無や規模もスイッチャーの能力を見る大きな指標だが、このAUX出力の一般的な使い方としては、マルチカメラ収録時の各カメラ個別映像を同時録画(パラ録り)用に取ったり、スタジオ内のフロアモニターへの返しやカメラへのリターン映像を取ったり、カメラの色調整などを行うビデオエンジニア用のモニターなどへの送りに使ったりする。この機能が備えられていると、例えば各カメラの映像を独立してモニターに出したい場合でも、分配器などを使わずにモニターに送ることができ、そのアサインも自由になるので、フレキシブルなシステムを構築することができる。特に2M/Eモデルの6系統のAUX出力というのは、これまた数百万~数千万級のスイッチャーに迫る出力数で、これがこの価格で付いているのはひじょうに便利で嬉しい限りである。
 一方、入力だが、特に3モデルでコンセプトの違いがはっきりと出ている。Television StudioではHDMI4つとSD/HD-SDI4つの中から合計6つを選んで、プライマリー入力に用いることができる。1M/E Productions Switcherでは、HDMI4つとSD/HD-SDI4つに加えて、アナログ入力1つを備えている。アナログ入力はコンポーネントとコンポジットが選択できる(HDとSDは混在できない)。この中から合計8つの入力を選択し、プライマリー入力に用いることができる。2M/EモデルではHDMI1つ、SD/HD-SDIは16入力の中から合計16入力を選んでプライマリー入力に用いる。これを見ると、3モデルの価格帯に応じて、使われるであろう入力が重点的に多めに確保されていることがわかる。
 この外部入力に加え、通常のスイッチャーでは外部の機器から入力するであろう、メディアプレーヤー、スーパーソースなどがATEMではプライマリー入力として扱われるので、これらを合計した入力数で見ると、Television Studioでは8入力、1M/E Production Switcherでは10入力、2M/E Productions Switcherでは19入力となる。この数字を見ても、このような価格帯でこんな大きな入力数を備えているスイッチャーはないことに気づくはずである。
 今回、ATEMシリーズをテストしてみての印象だが、今まで数十万の簡易スイッチャーから数千万のハイエンドスイッチャーまで20年以上使ってきた経験の中で、こんなにリーズナブルでありながら、こんなに充実したスイッチャーは初めて見た、というのが正直な感想である。気になったハードウェアコントロールパネルなしでの操作性も、知恵で充分カバーできるし、欲を言えば欲しい3D-DVEも、機能の充実した2Dや2.5Dには実際の運用ではかなわないことを今までの経験で知っている。そういった意味では、割り切るところはドラスティックに割り切り、徹底して実用的な機能にフォーカスを図ったATEMシリーズは、低予算化が進む映像制作の現場で、新たな切り札として充分に役に立ってくれるだろう。

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