vol.3「ドローン空撮、 その黎明期とこれから」
文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

なにこの、ペラいっぱいのヘリコプター⁉

 私が最初にドローンに出会ったのは2009年の終わり頃。まだ「ドローン」ではなく、「マルチコプター」という呼び名だった頃です。インターネットでふと見かけた動画にはそれまで見たことのない、プロペラをたくさんつけたラジコンヘリが写っていました。
 それを頼りに調べるとドイツのAscending Technologies(アセンディング・テクノロジーズ)社の、ハの字に開いた形状のオクトコプター※1に行き当たり、そしてその撮影映像を見た時の衝撃! それまでの空撮の概念を覆す低空からの撮影。けれど明らかに地上からではない浮遊感と安定した映像。今でもそのワクワクした感動をはっきりと覚えています。
※1)複数のプロペラを持つマルチコプターの中でもプロペラが4つの物をクアッドコプター、6つの物をヘキサコプター、8つの物をオクトコプターと言う。
 当時、その機体の値段は300万円前後。会社で所有していた実機ヘリコプターに比べたら買えない値段ではありません。しかし、当時設立直後だった航空会社の経営安定を優先し、マルチコプター空撮を「いつかやる!」と頭の片隅に置きつつも、手を出せない期間が2年ほど続きました。

“その時” がやってきた!

 そして2011年末。自身が設立した航空会社から離れ、フリーの航空写真家に戻った時、その「いつか」がやってきました。実機ヘリコプターよりも大幅に安価な機体で飛行も安定し、低空で撮影ができるマルチコプターの技術を、真っ先に取り入れる決断したのは、自然の流れだったと思います。
 翌2012年にニュージーランドのDroidworx(ドロイドワークス)社の14インチオクトコプターにドイツのMIKROKOPTER(ミクロコプター社)のフライトコントローラーを搭載した機体『AD8』と、その練習機の『Gaul 300』を導入。
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▲筆者が最初に導入したドローン・AD8。
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▲ドイツのMIKROKOPTERのフライトコントローラー
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▲Gaul 300
 AD8は今時のドローンと同じく、GPSホバリング技術や自動運航能力のついた機体でしたが、一方のGaul 300は「4枚の羽がついていて飛ぶ」だけのもので、他に楽に飛ばせるようなステキな機能は全く付いていません(笑)。今時の機体では当たり前な、GPSに頼ることが一切できないということは、逆に飛行技術を磨く練習機としては格好の機体でした。
 マルチコプター空撮商業化の成功のみが生きていく糧になると信じ、暑い日も寒い日も昼も夜も練習場所を探しては飛ばしました。ある時は不注意で想定外の動きをした機体を素手で押さえつけ、腕、指、下顎をざっくりと切ってしまったこともあります。
 血の滴る顎をタオルで押さえてコンビニに駆け込み、ガーゼとテープ売って!と言った時の店員さんの引きつった顔といったら…(苦笑)。おかげで実機ヘリの事故の怖さの上に、小さなプロペラの威力、怖さも身に染みて知っています。
 撮影をしては編集し、動画サイト※2で発表していきました。今の映像に比べればだいぶ揺れの多い映像でしたが、それまでにはない浮遊感のある低高度の空撮動画は、見る人に新鮮に映ったと思います。
※2)野口さんが代表を務めるヘキサメディアのYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/user/Hexamediabiz)。
 その後、本格的な空撮業務へ投入したのはDJI社の『S800』と、それに装着された『Zenmuse Z15』というブラシレスジンバルの技術でした。この機体に搭載されたのは、揺れを感知するセンサーからの信号により、前もって機体の振動や揺れをキャンセルするシステム。ラジコンヘリに搭載できるような低価格の撮影システムとしては、かなり画期的でした。
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▲DJI S800。Zenmuse Z15というジンバルを備え、ミラーレス一眼を搭載できた。
 折しもこの頃、番組『空から日本を見てみよう』がBSで復活。新シリーズが開始されて間もなく、マルチコプター空撮映像も差し込まれることになり、現在に至るまで、実機ヘリコプター空撮+マルチコプター空撮という、空撮漬けの日々です。

小型ドローン・空撮の時代が到来

 さて、同じ頃。世の中では、DJI社から小型のホビー機『Phantom』が発売され、簡単に飛ばせるというのが謳い文句のマルチコプターが知られるようになりました。
 続く『Phantom2』の 発売からは、趣味としての空撮が流行し始め、エスカレートして繁華街での飛行などの危険行為も問題になってきました。あまりにも簡単に飛ぶため、空を飛ぶ物体を扱うということの基礎知識が足りなくても、安易に業務として空撮を取り入れて売り出そうとする向きも出てきました。その無法状態は、航空法を知る空撮カメラマン兼ヘリパイロットとしては、決して好ましいものではありませんでした。
 それまで軍用無人飛行機に向けに使われてきた「ドローン」という呼び名が一般化したのもこの頃です。特に首相官邸に機体が落下した事件からは、爆発的に認知されましたね。
 業務用空撮機はそれまで大型化の一途をたどっていましたが、DJI社から小型高性能の『Inspire 1』が発売され、その後『Phantom 3』などの空撮専用の小型機も発売されました。小型でも空撮に特化した設計がなされ、効率的に大型機に迫る撮影が可能になってきました。まさに現在進行中、日進月歩の勢いです。

ドローン空撮のこれから

 前述の首相官邸などの事件を受けて、無規制無秩序の状態を問題視した国は、2015年末にドローン空撮を対象とした改正航空法※3を施行しました。改正航空法は、決して甘いものではありません。まず申請するにも、受理されるにも手間と知識と時間が必要で、都市部では特に趣味として個人が気軽に飛ばしてもいい環境は、もう過去のものとなったと言ってもいいでしょう。
※3)国土交通省航空局は改正航空法のガイドラインをWEBに掲載している(http://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html)。
 でも私が初めてドローン空撮を見てワクワクした気持ちを覚えているように、趣味でも空撮をしてみたいと思った人たちの気持ちは、よくわかります。新しい業務として取り組んでみよう、と思う人たちがいることも…。だからこそ、きちんと申請をして通るだけの、知識と覚悟を持ってくれたらと願います。避けられる事故を、起こさないために。
●ビデオSALON2016年4月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1557.html
●連載をまとめて読む
http://www.genkosha.com/vs/rensai/sorakara/

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★○ 改正航空法概要ポスター
http://www.mlit.go.jp/common/001110369.pdf
★ 「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」国交省HP
http://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html
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