LONESOME VIDEOの流儀 第15回(全文公開版)


三脚や一脚などカメラワークに関わる製品は
自分の体の一部になるまでトレーニングする


レポート:ふるいちやすし
モデル・写真撮影:山下ミカ
どちらの方向へ向いて旅をしても、いずれ海に出るこの国では当然、海を撮ることが多いのだが、どういう訳か私は太平洋が苦手だ。おそらく観念的なものではあるのだが、大き過ぎて、抜け過ぎて、どこへカメラを向けたらいいのか分からなくなってしまう。風の色なのか、波の形なのか、はたまた自分の心持ちなのか、いずれにしても私にとっては何かが違う。この旅で広島の瀬戸内海、島根の日本海と回って、それを確信した。何か惹きつけられるものがそこにはあった。
 動画はいろんな意味で「変化」を捉えるものだ。いくら美しい景色を見つけても三脚で固定してじっと撮っているだけでは意味がない。もちろん一つの作品の中にはそういうカットが幾つかあってもいいのだが、できれば何か動く物がそこにあってほしい。では海にカメラを向けた時、動く物と言えば? カモメ、船、波…。そう、意外に変化に乏しい被写体なのだ。まずは数少ない変化を見つけ、しっかり捉えておきたいが、まぁ、どこで撮ってもよく似たものになることがほとんどで、構図の違いで頑張ろうにも限界があるだろう。


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 そういう退屈な被写体に向かった時にはカメラを動かすことだ。できるだけ荷物を軽くしたいような旅でも、私が三脚に妥協しないのはそのためだが、正確には雲台に妥協しないということ。この際、脚にはあまり拘らない。止まることより動くことのほうが私にとって重要で、パンとチルトだけではなく、斜めにも滑らかに動くかどうかが肝だ。
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▲脚は強風でも吹かない限り立っていればいい。とは言っても限度はあるが、最近はカーボン三脚の普及で、小型軽量の物でもしっかり立つ物が増えた。それよりも拘るべきは雲台の動き。これもまた、小型=アマチュア用ということではなく、動きに拘った物が多くなってきた。これはありがたいことだ。カメラはJVCのLS300CH、音声レコーダーはタスカムのDR-701D。
雲台の大きさはカメラの耐荷重に依るものだが、その動きの滑らかさにも大きな差があように思う。しかしここ最近、小型の雲台でもかなり動きが上質なモデルが発売されているのは本当に嬉しい。さすがにカウンターバランスは諦めるとしても、長いプレートさえ用意しておけばそこそこ大きなカメラやレンズでもバランスはとれる。あとはどれだけ自由に動かせるかだ。これは機材の良し悪し半分、身体の鍛錬半分なのでトレーニングを怠ってはならない。
「自由な動き」という意味では究極のカメラワークは手持ちにあると私は考えていて、映画の作品の中でも随分多用している。やはり感情と一体となったカメラワークを求めた時、我慢できずに三脚から外して一気に手持ちに変えてしまうということがよくあるが、もちろんブレや安定性においてリスクは多い。その自由な動きをサポートしてくれる様々な機材をここでも色々と紹介してきたが、それらを飛び越して手持ちをやりたくなってしまうのは、それぞれの機材に対する鍛錬が足りていないからだと思っている。事実、前にも紹介したマンフロットのフルードビデオ一脚MVM500A なんかに関しては、トレーニングを重ねた分、ずいぶん使用頻度が増えて来た。一脚の根元に滑らかな動きをする小型三脚が付いただけで、こんなにも違うものかと驚いてしまうほど、自由と安定と動きのイマジネーションを与えてくれる物になる。
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▲どんな機材であっても使いこなすことが大事。それは機材の挙動に慣れるだけではなく、その機材を身体の一部のようにするための身体そのものの使い方、スタンス、呼吸の仕方までトレーニングを重ねておくべきだ。やればやるほどその機材の可能性は拡がり、カメラワークのイマジネーション、アイデアも豊富になる。
 本当の意味でそう感じるのはトレーニングを重ねた結果であって、機材の特徴と自分の身体が一体になるまではそうはいかない。新しい製品に飛びついて試してみることも大切なことだが、特にカメラワークに関わる物はその後、自分の身体の一部になるまで使いこなすことが一番大切なのだ。
 事実、私のスタジオにも、飛びついてはみたもののトレーニングができてなくて眠っている機材が少なからずある。あぁ、もったいない! そうこうしている内にもっと良さそうな機材が発売されることはプラスでしかないはずだが、断言する、買っただけでカメラワークが良くなる機材などない! むしろ買った直後はその機能に溺れて、心情を置き忘れたつまらないテスト映像のような画になることのほうが多い。根気よく、身体の一部になるまで、指先、腕、足さばき、そして身体全体の動きを鍛える。これがロンサムビデオの流儀だ。

モデル・写真撮影:山下ミカ
●この動画はビデオSALON2016年6月号の記事連動動画です。この動画に関する記事は本誌をご覧ください。
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1578.html