映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第6回『遠すぎた橋』


中・高・大と映画に明け暮れた日々。
あの頃、作り手ではなかった自分が
なぜそこまで映画に夢中になれたのか?
作り手になった今、その視点から
忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に
改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイ・ミーツ・プサン』にて監督デビュー。最新作『百円の恋』では、第27回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門作品賞をはじめ、国内外で数々の映画賞を受賞。

第6回『遠すぎた橋』
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イラスト●死後くん
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ノルマンディー上陸作戦から3ヵ月後の1944年9月に行われた連合軍の空挺作戦である「マーケットガーデン作戦」を題材にしている。イギリス陸軍元帥のバーナード・モントゴメリー最大の失策を豪華キャストで映画化。
製作年    1977年
製作国    イギリス、アメリカ
上映時間   175分
アスペクト比  シネマスコープ
監督     リチャード・アッテンボロー
脚本     ウィリアム・ゴールドマン
撮影     ジェフリー・アンスワース
編集     アントニー・ギブス
音楽     ジョン・アディソン
出演     ロバート・レッドフォード
       ジーン・ハックマン
       マイケル・ケイン
       ショーン・コネリー
       アンソニー・ホプキンス他
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※この連載は2015年10月号に掲載した内容を転載しています。
 先の大戦終結から70年を迎えた今夏、様々な戦争映画が上映されている。僕は数多くの戦争映画を観て育った。戦争映画は悲劇と反省を描くべきものだと思っている。そのなかでも今なお、繰り返し見続けている戦争映画が『遠すぎた橋』だ。1944年9月17日からの10日間に亘る連合軍の史上空前の空陸大共同作戦「マーケットガーデン作戦」がすべて失敗に終わるまでを描いた大作。僕は未だにスクリーンで観られていない。
 『史上最大の作戦』、『パリは燃えているか』に続く世界の豪華オールスター共演の『遠すぎた橋』を、僕は小学校5年生の10月11日と18日の2週に亘ってテレビの水曜ロードショーで観てしまった。水野晴郎さんが解説で何を話したかは記憶にない。
 ベルギー、オランダの5つの橋を35,000人の大空挺パラシュート部隊が降下占領して(マーケット作戦)、機甲戦車軍団が駆け抜けて(ガーデン作戦)一気にドイツ、ベルリンに侵攻して、クリスマスまでに戦争を終わらせようと企てる。
 イギリスのモントゴメリー元帥の無謀な作戦の悪夢をプロデューサーのジョゼフ・E・レヴィンが自腹で再現した。史上空前の戦争映画は実際のオランダ、ベルギーで撮影が行われた。CGなしの実際の戦車、航空機、戦闘機が登場しまくる最後の戦争映画と言える。小学5年生の僕は、連合軍がこれ程までにナチスドイツ軍に大敗北する映画に唖然としてしまっていた。

史実を巧みに積み重ね
スター達に見せ場を提供

 サー・リチャード・アッテンボロー監督は第一次世界大戦を描いた前作『素晴らしき戦争』同様に、戦争が一部の老人達の思わくによって計画され、始められ、大勢の人々によって遂行されていく不気味さと、戦場がいかに愚かな場所であるかを教えてくれた。
 『ジェームズ・ボンド』のショーン・ コネリーをはじめ『ザ・ドライバー』のライアン・オニール、『フレンチ・コネクション』のポパイ刑事ことジーン・ハックマンらヒーロー俳優達が苦悩の空挺部隊の敗軍の将を見事に演じている。
 『羊たちの沈黙』で後にレクター博士役でオスカーをゲットする前の若きアンソニー・ホプキンスがナチス親衛隊最強装甲軍団相手に孤軍奮闘するジョン・フロスト中佐を好演している。オランダのアーネムの橋を巡ってフロスト部隊と、アーネムの街が壊滅してゆく悲劇が胸を打つ。
 ナチス親衛隊将軍役にはドイツの名優マクシミリアン・シェル。降伏を勧めるドイツ軍と拒否するフロスト部隊のやり取りが秀逸だ。「ドイツ軍の捕虜を収用する場所がない」と使者を追い返し、ドイツ戦車に町ごと壊滅させられるフロスト部隊。
 降伏したアンソニー・ホプキンスにマクシミリャン・シェルがイギリスのチョコレートを渡す場面が僕は好きだ。シナリオライターのウィリアム・ゴールドマンが細かな史実を巧みに積み重ね、スター達に見せ場を提供している。

印象的なシーンの数々

 『ゴッド・ファーザー』の長男、ジェームズ・カーンのジープによる敵中突破シーンや『ジャッカルの日』のエドワード・フォックスが運転するジープ上でのマイケル・ケインとの会話の背景の戦車と兵士達の配置等の驚くべき撮影が続く。
 撮影は名匠ジェフリー・アンスワース。圧巻なのは実際のオランダ軍の協力による大空挺バラシュート部隊の投下シーンだ。アンスワース率いる26台のカメラによる史上空前絶後の撮影は2度とできないであろう。撮影を仕切った助監督のデビッド・トンブリン率いる演出部のアカデミー助監督賞ものの仕事ぶりに驚愕してしまう。
 『ロング・グッドバイ』のエリオット・グルードが爆破されて渡れなくなった河に浮き橋を大勢の兵隊達と昼夜設置作業する場面が美しく、終始不機嫌なグルードがユーモラスで大好きな場面だ。どんな悲劇でも映画にはユーモアが必要なのだ。
 小学5年生の僕にとって最も印象的だったシーンは、大好きなロバート・レッドフォードのクック少佐率いる手漕ぎボートによる白昼渡河作戦の場面だ。わずか11分に充たないこのシーンを何度繰り返し僕は観たことか。
 機関銃掃射と迫撃砲の中、対岸の橋を占拠すべく、決死の渡河シーンは壮絶だ。レッドフォードも後にも先にもこんな過酷な撮影は2度とないだろうと興奮して語っている。撮影スタッフ、スタントマン、キャストの奮闘ぶりをぜひ観てもらいたい。
 占拠した橋に連合軍機甲戦車部隊が通過してゆく、それを橋ごと爆破しようと企むドイツ親衛隊隊長のバーディー・クリューガーの登場も『バルジ大作戦』のドイツ戦車隊長役と重なり、嬉しいかぎりだった。

兵士として参加した
スタッフによるテーマ曲

 音楽のジョン・アディソンは映画音楽史に残るテーマ曲を遺してくれた。彼は驚くべきことに、ノルマンディー上陸作戦とこのマーケットガーデン作戦に実際に兵士として参加している。無謀な作戦のなか勇敢に闘い抜いた兵士達に捧げられたマーチは一度聞いたら忘れられない。
 戦争により命を絶たれたすべての人々と傷ついたすべての人々に捧げられた鎮魂曲(レクイエム)が破壊された街のショットに用意されている。聴いて欲しい。10日間の戦闘で8000名の兵士が生還できなかった。5つの橋を巡っての戦闘で多くのオランダ、ベルギーの人々が犠牲になり、街も壊滅した。
 オランダ人医師役にイギリスの至宝、サー・ローレンス・オリヴィエが出演している。傷ついた兵士達のために自分の家を解放して看護した主婦に北欧の至宝、リブ・ウルマンが起用されている。映画のラストをこの2人が締め括るのも、リチャード・アッテンボロー監督の敬意の表れであろう。
 イギリス、アメリカ、ドイツ等の大スター達の献身的な名場面で構成されている大作映画ではあるが、本当の主役は、26週に亘る撮影に出演し続けた無名の兵士役の俳優達であろう。傷つき撤退もできずにドイツ軍の捕虜になるのを待っている負傷兵達の哀しみの名場面をリチャード・アッテンボロー監督は用意し、彼らに与えた。この映画が未だに世界中の人々に評価され続けている理由はここにある。
 昨年、オランダ、ベルギーの各地でマーケットガーデン作戦70周年ということで『遠すぎた橋』の上映が行われていた。悪夢の大敗北は悲劇であり、反省として未来に警鐘を鳴らす。いつかこの映画をオランダ、ベルギーでスクリーンで観ることを僕は夢みている。
 71年目の9月17日を迎え恐らくオランダ、ベルギーでは上映があることだろう。今は「ジョン・フロスト橋」と名称がついた、アーネム橋にもいつか訪れてみたい。「戦争映画は悲劇と反省を描くのだ」…ともう一度つぶやいてみた。



 

●この記事はビデオSALON2015年10月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1503.html