航空カメラマン・野口克也の 前略、空からお邪魔します vol.5 「空撮のオキテ~後編」


vol.5「空撮のオキテ〜後編」
文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/


 前回は空撮ならではの「オキテ」として、構成要素を絞って単純なカメラワークにすることの重要性について話しましたが、具体的にはどうでしょう。

空撮ではパンの動きは
映像酔いの原因になる

 空撮の映像酔いの一番の原因が、パンの動作による回転する視界です。パンをできるだけ排除することは、酔わない映像を撮るための近道となります。
 私がドローンでの空撮を始めた頃にも、既存のシングルローターラジコンを使って映像を撮影されている方々がいました。しかし、カメラオペレートをしているのはカメラマンではなく、シングルローターのラジコンパイロットがそのまま撮影も担当することがほとんどでした。そして当時のそういった映像は、押しなべてパンが多用されていました。
 実はドローン登場以前のシングルローターラジコンヘリの操縦には現在のドローン操縦に比べ、はるかに高い操縦技量が必要です。そうした事情も手伝ってか撮影映像には、その操縦技量をアピールするようなパンの動作が多かったように思われるのです。しかし、パンを多用すると人は視線を定めることができず、どうしても映像を目で追おうとします。だから酔いやすくなるのです。
 現在のドローンでの飛行は安定性が高まってきたものの、速度のついた状態で移動しながらパン動作を繰り返す映像も多く見られます。これが映像酔いの一番の原因になっていると思っています。どうしてもパンが必要な時はドローン自体はホバリングで停止状態にして行う。もしくはパンが必要ないところまで引いたFIXの映像等で代替することを心がけましょう。

消失点を意識した画作り

 前後移動の映像では、画角の中に消失点を意識して入れるようにしましょう。前に進む映像を見ていて、進む方向がはっきりすると、そこを見ますよね? ディズニーランドのスターツアーズのワープ画面を思い出してみてください。星々がまたたく画面の真ん中に集まっていき、ブラックホールのような消失点があって、映像を観る人が酔いにくいように工夫されています。
 画角の外に見せたい何かがある場合には、パンをするのではなく、見せたい何かを中心にして回りこむのも一つの方法です。画面全体が動くなかで、止まって見えるものが映像の中にあることで、視線をそこに集中させることができます。
 私が空撮を担当している番組『空から日本を見てみよう+』でも、可能な限り、水平線のガイドを入れて撮影しています。この番組は前進する空撮映像で構成されていますが、水平線と消失点を意識して入れることによって、動きが少ない場所を必ず作っています。そこで視線を休ませることができるので、長く見続けても疲れない映像になっているのです。

センタリングと黄金比をキープ

 地上での撮影者にとっては基本中の基本ですが、空撮となると、なぜか蔑ろにされてしまいがちなのがセンタリングと黄金比です。
 オーソドックスなドローン空撮をする時、カメラが回っている間は常にセンタリングや黄金比を意識して、きっちりとした構図になるように心がけましょう。キメカット(移動撮影の最後)でセンタリングや黄金比に沿った被写体の配置でしっかりとドローンを留める操縦技術を身につけることは映像全体の見栄えのレベルアップにもつながります。

松山城空撮のカメラワーク


 参考例として私がドローンで撮影した動画をご覧ください。松山城には二の丸史跡庭園という二の丸御殿の間取りを再現した庭園があります。真俯瞰から見た時の幾何学的な美しさを効果的に見せるため、センターをきちんと出した後に真上に上昇するカットを撮影しました。
 次のカットでは二の丸史跡庭園から、山の高いところに天守があることを説明するために前進+上昇のドローン操作に加えてチルト操作で画角を微調整しながら撮影しました。天守閣と同高度になったらセンタリングを意識してキメ。
 そして、車で山の途中まで上がり、連立式天守を説明するやや俯瞰のカットを組み込みます。次に山頂の広い場所のセンターに撮影場所を陣取り、縦長でだだっ広い山頂の敷地を前進ドリー、そして天守を比較的ヨリ気味で上昇→旋回→回り込みカットと続きます。
 また、松山城は高い石垣が有名ですが、石垣は麓からはほぼ見えず、山頂まで登りきるとまた見えなくなってしまいます。空撮でなければ撮れないカットとして、石垣を見せつつ、天守を3分割黄金比に位置させて、消失点を意識しながら城に前進・接近していきます。最後にはセンタリングでキメ。
 山頂に天守閣があることを意識させるために、低めの高度で少し引いて、水平旋回。ヌケが比較的良い日だったので、天守と背景が逆に動くような効果を意識しました。この時、注意したのがプロポからの電波遮断(フェイルセーフ)によるゴーホーム※です。ドローンが天守に隠れないように、モニター内で自分の位置と天守を確認しながら旋回しました。

※操縦者(プロポ)とドローンが建物等で遮られた状態になると「フェイルセーフ」という離陸地点への自動帰還機能が働く。自動帰還の際の高度設定を低く設定していたために、建物に衝突してしまったという事故の事例もあるので、充分に注意したい。
 そして最後に、街に囲まれた山頂に松山城があるのを見せる目的で、背景に市街地が広がる方向で天守を越えるようなショットを2パターン撮影。
 重要なのは1ショットでいろいろ撮ろうと欲張らず、そのショットでは「ここを撮る」という目的をはっきりとさせることでしょう。それが明確になっていない段階で飛ばしてしまうとあちこちにカメラを振り回して見づらい映像になってしまうのです。迷い箸ならぬ迷い撮影は禁物です。

●ビデオSALON2016年6月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1578.html
●連載をまとめて読む
http://www.genkosha.com/vs/rensai/sorakara/

___________________________
★○ 改正航空法概要ポスター
http://www.mlit.go.jp/common/001110369.pdf
★ 「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」国交省HP
http://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html
___________________________