LONESOME VIDEOの流儀 第16回


人の営みを撮るのに礼儀は必要
活き活きとした空気感や表情を撮ることに徹しよう


日本には各地に様々な文化がある。その中には文化財に指定されて柵で囲われたり美術館や博物館に並べられて保全を計られているものだけではなく、今も生活や産業として息づいているものも多く、そういったものには必ず地域の人の思いや手技、つまり営みがある。
例えば農作物の育て方、道具の作り方、その材料と加工など、何かの文化財にでも指定されていなければ、仰々しく飾られていることもなく、ましてや都会の美術館で簡単に見ることもできない。また、いくら現地まで足を運んだからと言って、そういった慎ましやかな営みにフラッと通りがかった旅人が出会い、触れることは至難の技だと言える。それだけにそういうチャンスを逃してはもったいない。ぜひ撮影したいものだ。
私がお邪魔したのは島根県の石州和紙の工房と石見神楽のお面の工房。石州和紙の方はユネスコ世界遺産にも登録された立派なもので、紙すき体験などもできる施設もあると聞くが、見せていただいたのは畑の中にある小さな工房で決して見学用の施設ではない。今回の旅では幸運にして地元で映像制作をしている友人が話を付けてくれたのだが、そうでなければ見つけることも中に入ることもできなかっただろう。
もしそのような友人がいなくても、とにかく地元の人と言葉を交わすことが大切だ。
しっかり礼儀を守れば思いもよらない所や人に出会うことができるかもしれない。そしてカメラを回す前に必ず撮影目的を丁寧に告げ、そこにある物や作業一つ一つについて撮影しても良いかを確認することが大事だ。
なぜならそこにある物も作業も人も、撮影のための物ではなく、実際に営まれている生活だからだ。たとえ公開されない個人的な作品であっても、撮ってはいけないものもある。手元はいいが、顔はダメという場合もある。取材の仕事でもないのに取材と同じようなことをするのだから決して自分本位にはならず、相手の身になって丁寧に接することが大事だ。コソコソ隠し撮りのようなことをするのではなく、丁寧に許可をもらってしっかり撮る。
この姿勢は例え人がいない時でも守りたい。特に私有地や信仰の対象になるようなものを撮影する時には、自己判断を謙虚に行わなければならない。そういう礼儀を守れば、作品が深みを増すようなカットを撮る機会に恵まれるだろう。もし誰かにお話しを聞ける機会に恵まれたら、ぜひそれも撮っておこう。
ただし、この場合はニュース番組のインタビューのようにガチガチに構えるのではなく、テレビや音楽が鳴っていない場所をさり気なく選び、できるだけ相手に意識をさせないような所にカメラをセットし、インタビューマイクを向けるのではなく、ガンマイクで口元を狙っておき、撮影者も積極的に話に加わるようにするのがコツだ。
相手を活かすという事を第一に考えた時、喋りのプロではない人には緊張させないことが一番なのだ。あくまで会話を重視し、世間話を録るくらいのつもりでいい。活きた言葉と声と表情こそ美しい。 その分、こちらは手際よく準備をするテクニックが必要になる。普段から腕を磨いておこう。
いつも書いていることだが、これは決して報道・記録のためのものではない。あくまで美しいものを美しく捉える為の方法なのだ。その第一歩として美しいものに出会うこと、見つけることが何よりも大切で、それがなくては始まらない。せっかく旅をしたのなら観光名所だけではつまらない。そこに息づく人や生活、文化。まずは出会い、その美しさを自分の心で捉え、それが一番活きる形で収録する。つまりカメラの技術だけを磨いてもいい画は撮れないということだ。人、生活、文化の美しさというものは表面にはなかなか現れない。それに出会いたいのであれば歩き回っているだけではダメ。語り、礼を尽くす。これもロンサムビデオの流儀だ。

ムービーの前半は本石州紙・西田和紙工房:西田 誠吉さん www.nishida-washi.com
ドキュメンタリー番組やプロモーションビデオを甘く見てはいけない。もしそれを作るのであればしっかりとした機材や考えられたプランが必要だ。お仕事中に少しだけお邪魔するような小さな機会であれば、そんな事は求めず、その代わりできるだけ活き活きした空気感や表情を撮ることに徹しよう。ピンマイクや三脚の準備に手間をかけるより、自分もできるだけその場の空気に馴染むことを心がけ、相手が一番楽しそうに話されることに興味を持って積極的に楽しくお喋りする方がいい。
後半は石見神楽舞面・小林工房:小林 泰三さん http://www.kobayashi-kobo.jp/index.html
行ってみなければどんな所か分からない時に、大袈裟な機材を持ち込むのは禁物だ。この時は前回お話ししたマンフロットの一脚に事前にカメラを載せた状態でお邪魔した。この工房には撮ってはいけない物がたくさんあった。それを初めに丁寧に聞いておくことの重要性を痛感した。その場の空気感と事情等に集中する事は撮影に対する集中力を失うことに繋がるが、そんな状態でどこまでいい画を撮れるかが腕の見せ所だ。