【ソニープロフェッショナルムービーアワード】 審査員インタビュー~カツヲ氏 「その人の得意分野の表現の拡張版を見てみたい」


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ウェブやSNSで数分のプロモーション映像が使われることが多くなってきた。映像クリエイターの活躍の場が増えるとともに、新しい才能も求められている。しかし映画祭は数あれど、プロフェッショナル向けの登竜門的な映像コンテストはほとんどない。今回開催されるソニープロフェッショナルムービーアワードはぜひそういう位置付けになってほしいと思う。審査員の方に現在の映像をめぐる状況や応募者へのアドバイスをいただいているが、江夏由洋さんの回に続き、今回はカツヲさんにお話を伺った。
(聞き手=ビデオサロン編集長/一柳)

どうやって映像の仕事を始めたのか?

―フォトグラファーを経て現在は映像の仕事を増やされているカツヲさんですが、映像系ではそれほどプロへの登竜門的なコンテストは多くないですね。
「映像業界ではどういう賞をとったら仕事が来るかというのが分からないという状況があります。何を獲ればクライアントがつくのかが見えない。写真であれば写真新世紀とか獲れば繋がっていったりはするんですけど、映像になるとそれが分かりづらいという気がします」
――今回のソニープロフェッショナルムービーアワードにおいて登竜門的に挑戦しようと思っている人たちは多いと思いますが、カツヲさんご自身はどのようにステップアップされていったんでしょうか? 大学ではグラフィックデザインを専攻されていたんですね。
「グラフィックデザイン学科の中に写真の授業があったんです。そこに暗室もあったので、実は写真ばかりやっていました。そのときはフィルムからデジタルに切り替わる時期で、幸いにも両方経験することができました。
大学を出てからは、カメラマンがアシスタントが欲しいときに頼む会社があるんですが、そこに登録しまして、ロケのアシストタントからスタートしました。そこでいろんなカメラマンのライティングを見ながら勉強させてもらうことができ、1、2年後にフォトグラファーになりました。最初は、映画のスチルなど、細かい仕事を始めていたのですが、映画の現場は人が集まるので、いろんな方と出会い、そこから徐々に仕事が回転し始めたという感じですね」
――映像のほうにシフトするきっかけというのはあったのですか?
「実は子供の頃から、映画監督になりたいという夢はあったので、漠然と映像という方向性は考えていました。ただ映像制作って人とのコミュニケーションも必要じゃないですか? 人と一緒に何かやるというのは自分にはあまり向いていないのではないかと思っていました。特に昔は共同作業がそれほど得意じゃなかったので。それと、一番好きなことをやるのが怖かったということもありました」
――ということは、写真をやりながらも、映像の仕事があったら積極的にやりたいというお気持ちはあったんですね。
「そうですね。キヤノンのEOS 5D Mark IIが出てきたときが一つの転機でした。スチルの人って仕事もしながら自分の作品を撮っていたりするじゃないですか? EOS 5D Mark IIが出てきたことで、個人的に映像作品も作れるようになりました。知り合いの役者にお願いして音楽のPVを作ったりなど、そういうのを何本かやりました。スチルで関わっているクライアントに、最近映像もやっているんだけど、という話をしながら少しずつムービーの仕事を拡大してきたという感じです」
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――今のお仕事の割合は?
「ムービーはディレクターもやっているので、企画から編集までと考えると、ムービーとスチルは8:2とか9:1くらいの割合で、圧倒的にムービーが多くなりました」
――では、着実にご自分が望む方向に来たという感じですね。お作りになったムービーが評価されて仕事を拡大してきたという感じですか?
「とにかく時間をかけて丁寧な仕事をしてきましたので、自分の勝手な印象ですけど、そこそこきれいな画を撮ってくれるという評価はされたんだと思います」

ハイスピードが撮れるFS7はウェブCMの定番の機材になりつつある

――ムービーでお使いの機材は?
「大半がソニーFS7でして、毎回レンタルしています。もう買ったほうがよかったなというくらいに使っています(笑)。この価格帯で美しいハイスピードが撮れるというのが最大のポイントだと思います。ハイスピードであれば、ちょっとした動きのカットでもレールを敷かなくても撮れますし、ある程度手持ちでも撮影できます。今やウェブCM業界のスタンダードかもしれないですね。
レンズはその時々で選択肢が変わり、予算があるときはシネレンズ、予算がなければ自分で持っているツァイスのスチルレンズを変換して使うことが多いですね。
イベントとかインタビューなど、それほど複雑な操作が必要でないようなケースでは、一眼で済ませることが多いです」
―フォトグラファーから映像の仕事をやり始めて苦労した点はありますか?
「当初はスタッフとして広告のカメラマン、照明マンを入れたりすると、そのスタッフ間のやりとりが分からないということもありました。最近はもうありませんが。それから、ライティングの考え方が違うと感じました。スチルの場合、そのカットがキレイであればいいという感覚がありますが、映像の場合、リアリティを求めたり、時間軸でのつながりを考えたり、イマジナリーラインを考えますので、そのあたりが分かりにくいというのは当初はありましたね」
――映像制作で大切にされていることは?
「映像のビジュアル面のクオリティを上げようという意識は強くて、それは常に考えています。そこは大事な要素だと思っています。今、企業がどんどんYouTubeに映像コンテンツを上げていますが、Webではそもそもそんなに予算はないんですね。一方でテレビCMは何千万とお金をかけて作る最高峰のクオリティがあります。予算が小さくなれば、そこからどんどんクオリティは落ちていきます。企画によっては、その落ち方が正しい場合もありますが、普通の構成の映像作品の場合、ウェアラブルカメラや小型ビデオカメラでは、ただのクオリティの低い作品になってしまいます。企画が特殊じゃないかぎり、テレビCMのクオリティに近づけようという考えはありますね」

その人がこだわったポイントがはっきり表れたほうがいい

――今回のコンテストで応募する方へのアドバイスをお願いします。
「2分という短さでストーリーを作って人を感動させるのは相当難しいと思うんです。テーマが『感動』だから無理やり感動モノを作るのではなく、その人の得意分野の表現の拡張版を見てみたいと思います。2分の映像を見たときに、その人がこだわったポイントみたいなものがはっきり表れたほうがいいのではないでしょうか? 内容だけではなくて、映像の美しさでもいいですし、笑いの中からの落としとかでもいいですし。とにかく、あまり似たようなものは見たくないですね。
それから今回は広告とか仕事ではないので、必ずしも100人のうちの95人に伝える必要はないと思います。それこそ一人の心を掴むような作品のほうがインパクトあるのではないでしょうか?」
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――たしかにカツヲさんの映像のお仕事を拝見すると、依頼されたお仕事であっても、ダークファンタジーを目指したいというその個性が垣間見えるものがありますね。カツヲさんご自身が見てみたい作品はありますか?
「そうですね。私が簡単に引き込まれやすいのは映像美があるもの、それとロケーションの工夫があるものですね。自分があまり見たことがない場所だったりすると、それだけで惹かれてしまいますね。たとえば学生で自主映画を撮ると6畳のワンルームみたいなところになって、ああいうところはライティングもしにくいんですよね。光が回ってしまうから印象的な画になりづらいですし…。ロケーションは考えたほうがいいと思います」

――カツヲさんでしたら、このテーマを与えられたらどう考えますか?
「機材の選定から考えたりするかもしれないですね。もちろん撮りたいものにもよりますが、今これを使ったら面白いんじゃないの?という発想から入るかもしれません。正攻法ではなくて、何か逆手にとるようなことを考えないと…。実験をしたほうがおもしろいですから。
たとえばFS7だったらS-Logで撮れるわけですよね。広告でしたら、商品ということもあって、多少はコントラストが欲しいということになるから簡単にはできませんが、もともとコントラストの強いEOS 5D Mark IIで撮っていた身としては、FS7やαのああいったS-Logの眠いトーンというのはそれはそれで魅力的だったりします。とんでもないローコントラストなまま作ってしまうというのも、個人的にはありかなと思います」

圧倒的なビジュアルの世界を作り上げたい

――カツヲさんご自身、映画を目指したいと明言されていますね。
「ようやくモチベーション的に自分で撮れそうな感覚はありますので、ここ数年で目指したいです。今、どういうアプローチするかを考えています。映画自体は衰退してきているので、映画という枠組に無理に囚われることなく、YouTubeをうまく生かして話題になって資金を集めるという方向もあるかもしれませんし。一方でウェブCMも映画のようなものが増えてきましたから、映像表現の場はシームレスになりつつあります。
私は内容やストーリーを伝えたいというタイプの人間ではなくて、とにかく圧倒的なビジュアルの世界を作り上げたいという思いが強いんです。フェデリコ・フェリーニの『サテリコン』という映画があったんですが、その美術が圧倒的すぎるんです。最近で言うと『マッドマックス』(MadMax怒りのデスロード)も独特な世界観を作り出していました。自分でもそういったダークファンタジーの映像世界を作り上げたいと思っています。将来は、漫画版、風の谷のナウシカを実写映画化するのが夢です」
――これまでの映画監督のタイプとはちょっと違いますね。今の時代はWebという場も加わり映像を表現する場が多彩になってきました。カツヲさんのこれからに期待していますし、ソニープロフェッショナルムービーアワードも、新しいタイプの映像が出現する場になれば最高ですね。本日はお忙しいところありがとうございました。
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