航空カメラマン・野口克也の 前略、空からお邪魔します vol.10 「Mavic Proを見て 改めて空撮カメラワーク について考えてみた」


vol.10「Mavic Proを見て改めて空撮カメラワークについて考えてみた」
文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/


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 DJIの折り畳みドローンMavic Proが発表されました。現時点(2016年10月初旬)では、私はまだ触ることができていませんが、原稿が本誌に掲載される頃には入手していることでしょう。今回はあちこちで報じられるMavicのニュースを眺めながらドローン空撮のカメラワークについて改めて考えてみました。

ドローン操縦とカメラ操作

 日本でドローン空撮が本格的に使われ始めたのは、DJIのZ15というブラシレスジンバルが普及してきた頃から。これはソニーNEX7やBMPCC、パナソニックGH4等の小さくて、軽く、コストパフォーマンスの高いミラーレス一眼を搭載できるジンバルでした。

 そして、この頃からLightBridgeなど撮影中の映像を無線伝送して、リアルタイムにHD画質で手元のモニターで観られるシステム(FPV)も発達してきました。これはドローンの操縦と別にパン・チルトや録画等を別系統のプロポで2人体制で操作する仕組み。プロが使用する大型機ではこの仕組みを採用する機体が多く、通称「2オペ※1」と言います。そして、おのずと「ドローン操作に詳しい人が機体の操縦」「カメラに詳しい人がジンバルの操作」という役回りになっていきました。

 2オペは機体とカメラおのおのの操作に集中できる利点がある反面、映像の主体的演出を誰が担当するか予め決めておかないと画作りに演出意図が反映されにくくなります。ドローン空撮ではカメラを向ける方向も大事ですが、その位置(つまりドローンの位置)と動かし方も重要なので、まさにチームプレイになるわけです。

1オペと2オペ

  
 現在、プロの現場でのドローン空撮の主力機はInspire1 ProやRAWが多いと思われます。Phantomクラスの軽快性を持ちながらもカメラ一体型のジンバルユニットを交換することで4KRAW動画の撮影な機体で本格的な2オペにも対応できます。

 しかし、予算の少ない番組制作などではPhantomクラスの機体が使われることがほとんど。Phantomクラスで撮影するということは、2オペでなく1オペ※2。つまりドローンを飛ばすパイロット自体が映像のことを理解し、作画意図を汲み取ってドローンとカメラの操作の両方をこなさなければいけなくなります。

※1.2オペ=2人オペレーター。 ※2.1オペ=1人オペレーター。

 これまで空撮ドローンパイロットはドローンを飛ばすだけで、撮影はカメラマンがやってくれるという意識でも成り立ったわけですが、1オペの機体が増えてくると、パイロットでもあり、同時にカメラマンでもある必要が出てくるのです。これはラジコン操作の経験が長い人が中心だったドローン空撮の現場で、1オペで空撮慣れした若い世代のオペレーターが実力を発揮できるチャンスになってくるはずです。

コンパクトさに主眼を置いた空撮用ドローン

 さて、前述のMavic Proですが、「FPVレーサーなのでは?」などという事前の噂を吹き飛ばし、かなり本格的な空撮ができるコンパクトさに主眼をおいた空撮用ドローンとして発表されました。

 カメラやセンサーの内容はPhantom4と同程度だと思われますが、何よりもその可搬性と重量の軽さは特筆モノ。牛乳パックより小さい機体に、スマートフォンを装着して使う小さなプロポ。軽い機体なのでバッテリーは3セル設計ですが、実フライトで20分程度は飛ぶとのこと。小さくて軽いからといって、おもちゃのようなではなく、実際の現場でちゃんと使える機体に仕上がっているのが驚きです。

空撮の幅を広げる可搬性

 従来までドローン空撮というと比較的予算のつく、大掛かりなものが多かったのですが、それがPhantomクラスのドローンの登場によって、日本中、世界中どこでも飛ばせるようになってきました。しかし、小型になったとは言っても、Phantomクラスで機体+送信機+バッテリー他一式をまとめると小型のボストンバッグ程度の大きさになり、安全に運ぼうとすれば適当にバックパックに放り込んで…というわけにはいきません。

 しかし、これがMavic Proのようにバックパックに放り込んで、歩いていった先で簡単に、それなりに空撮できる機材となると俄然、空撮の幅が広がります。先日、NHKの番組の撮影で3時間ほどの山行の末、開けた山のとある部分を空撮しましたが、そんな使い方が今までよりも飛躍的にやりやすくなるのです。この可搬性は前線の兵士の哨戒用など、軍事利用を主眼とした開発なのではないかとも思います。

空撮では4次元の画作りが必要になる

 Mavic Pro発表から、SNS等でユーザーの反応を見ていると、これまでのプロフェッショナルなドローンオペレーターは、この革新的な機体に懐疑的なフシが見られます。その理由は簡単です。「一人で空撮の画作りをしないといけないから」なのでしょう。

 1オペの機体のカメラはチルト操作しかできません。その他の画作りはドローンを操縦し、ドローンを動かすことで行います。つまり、2オペ体制でこれまで操縦だけでよかったパイロットが、いきなり前後移動・左右移動・上下移動・時間軸という4次元の画作りを行われければなりません。

 例えば50mの高度へ移動する場合、10秒でシュッと上がるのか、50秒かけてじっくり上がるのかで、その映像が観る人に与える印象や作品の中での使い方が変わってきます。作品の演出意図を意識したカメラワークを一人でもできることが求められてくるのです。

 一人でも4次元の画作りのできないドローンオペレーターは今後、次第に淘汰されていくことになるでしょう。また逆に、若い頃からドローンでの空撮に慣れ親しんだ、1オペ世代のパイロットが育っていくと、ベテランの名人芸で支えられてきた現在のドローン空撮の現場にも充分割り込んでいけるでしょう。そんなワクワク感を持ったこのMavic Proという機体、操縦してみるのが楽しみです。

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◆この記事はビデオSALON2016年11月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1599.html
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http://www.genkosha.com/vs/rensai/sorakara/