テレビドラマ制作事例『拝啓、民泊様。』 Premiereだから純粋に「編集」に没頭できた


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MBS制作によりTBS系列で2016年秋放映のドラマ『拝啓、民泊様。』の編集ではAdobe Premiere Pro CCが活用された。テレビドラマ制作事情やドラマ制作に込めたプロフェッショナル達の思い、Premiere Pro CCでの編集について、写真右から監督の谷内田彰久(やちだ・あきひさ)さん、編集を担当したIMAGICAの密岡 譲(みつおか・じょう)さん、佐川正弘(さがわ・まさひろ)さんにお話を伺った。
ドラマ「拝啓、民泊様。」
MBS制作によりTBS系列で2016年秋放映
キャスト
W主演 黒木メイサ 新井浩文
中野裕太 鈴木正幸 与座重理久 今野杏南 韓英恵 村上 淳
http://minpakusama.com/

Premiereだけで完パケしたい
しかし、ポスプロからは何度も断られた…

密岡(以下・敬称略) ドラマ制作の現場では、複雑なワークフローで編集する人、合成する人、カラコレする人という風に分かれていて、最終的にはまた編集に戻って完パケという流れが普通じゃないですか。だけど、今回は制作スタイルをできるだけコンパクトにして、「Premiereだけで編集からグレーディングまですべて完パケする」という提案を監督から受けて。
谷内田 っていうかやれって。
一同 笑
密岡 僕らは、普段からPremiereを使っていて、Premiereで完パケすることは当たり前になっているんで、「全然大丈夫ですよ」と。そういう形でお話をいただきました。
谷内田 実は最初にポスプロから死ぬほど断られまくったんですよ。プロデューサーはみんな映画の関係者なので、Premiereだけで仕上げていくというのを提案しても、ちんぷんかんぷんで。元々、前にやった映画はジェイ・フィルムというところでPremiereで作ったんですけど、テレビの速度に合わないってことで断られ…。テレビは制作の速度感が重視されるんです。あと実はFinal Cut Pro 7(以下FCP7)が未だに使われているポスプロが多くて…。
密岡 FCP7でSD画質でオフラインしてて、DV25とかが使われてます。
佐川 でもFCP7だと『民泊様』の編集は厳しかったと思います。撮影データを変換かけないと読み込めないから。
谷内田 ソニーFS7を2台使って撮影したんですけど、XAVCでそのまま走らないんですよね。別の番組作った時にXAVCで普通に撮ってるじゃないですか。「オフラインするのに変換費がかかる」とか言われて「はぁ?」って。
佐川 4Kネイティブでサクサク編集できる環境ってまだまだ限られてますもんね。
谷内田 「そんなことあるの?」ってすごい衝撃受けたんですよ。変換費で3万円取られるって…。そういうこともあって、僕の大学の先輩だった人に相談したら、密岡さんを紹介してもらって、そしたらようやく受けてもらえたっていう。Premiereだけでやってほしい。他のソフトに出さないでほしい。コンバートしないでほしいとオーダーして、やっていただきました。

____作業はどのように進めていきましたか?
谷内田 9月6日から撮影を始めて、素材は毎日渡してたんですよね?
密岡 ほぼ毎日来てて、本当は「毎日、監督にオフライン送ってました」とか言いたいんですけど、忙しくて(笑)。「あぁ…来てるー…」みたいな。
佐川 ただデータだけが溜まっていく、ヤバイ(笑)
谷内田 いや、お2人とも本当に忙しいんですよ。
密岡 まだ撮影中の段階で最初に15秒告知を作ってくださいと言われて。届いた編集素材でなんとなく構成聞いて、つないでカラコレして送ったら、「いい感じじゃないですか?」って返ってきて、ほっとしました。
谷内田 爆速ですよ。密岡さん本当に速いんです。
密岡 褒め上手(笑)
谷内田 こんなに速い人見たことないってくらい。動画に撮って、みんなに見せたいくらい。速弾きの人みたいな感じで(笑)
密岡 速さで言ったら、褒めあっても仕方ないんですけど、佐川も速いですね。
谷内田 佐川さんは構成力がすごい。テレビのバラエティとかを構成する能力の高さは半端なく高い。
佐川 お褒めに預かり光栄です(笑)。告知を作っている段階ではまだ密岡が1人で作業していて、僕は関わってなかったんですよ。隣で別案件をやっていて、「うわぁ、大変そう…」っていう。
密岡 何が大変ってやる時間がないんですよ。他の案件も抱えていたので。監督からメッセージが来るんですけど、「やべえ、おれ何もやってねえ」って状況がずっと続いてて…。佐川くんが隣にいたんで「ちょっとこれ、1人じゃ無理だ。一緒にやろ?」って誘いました。結果、2人でやってね。
佐川 うん、よかったと思う。
密岡 宣伝用の0話も含めて、全部で7話作ったんですけど、編集は1話につき2日かかりました。監督に見せるまでのオフラインが1日で、もう1日は修正と監督立会い。これで品質の担保ができればと考えていました。どうしてもテレビ番組なんでいっぱい納品物が増えちゃったりとか、いろいろな直しが出ちゃったりとかで、ちょっとオーバーはしましたけど。
佐川 オンラインのほうは1日で2話分やりました。

2人体制で編集を分担

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▲株式会社IMAGICA テレビ制作事業部品川EDグループ エディター 密岡 譲さん

_____編集はお2人でどんな形で分担したんですか?
密岡 オフラインの段階から谷内田さんは任させてくださったんで、まず台本があって全部素材が届いてる状況で。別日にそれぞれ作業することもあったんですけど、一緒の日にやるときは「シーン1〜15、おれがやるね」。
佐川 「じゃあ、後半僕がやるね」とか。余裕がある時は1話ずつ頭から2人でやっていって、同じくらいに終わったところで、一本化して交代したりとか。
谷内田 このワークフローは「こんな速度感で4Kでできるんだ」って驚きました。あと、素材の整理の仕方がすごくうまかったです。

______素材は撮ったものを全部まるっとお渡しするんですか?
谷内田 ドラマだと記録表っていうのがあって、「カットAならテイク3とかカットBならテイク4を使おう」と記録されてるんです。結局それ通りにはあんまり作らないんですけど、まず素材がどこにあるのか把握しなきゃいけないじゃないですか。その見分けをものすごく細かく整理してくれて、一発で素材を探し当てることができる状態にしてくれてて。
密岡 理想はもっと高かったですよね? 全部にタグ付けして、検索一発でこのシーンのこのテイクを指先一本でボーンって感じで表示させるとか。
佐川 「銭湯」って打ったら、銭湯のシーンだけが全部出てくるとか本当はやりたかったんですけど…。
密岡 これがFinal Cut Pro XとかDaVinci Resolveとかだとタグ付け機能が進んでるんですけど、Premiereはそこはまだまだで。そういう検索機能とかタグ付け、メタデータとか。実際そういうことはDaVinci Resolveとかでやったことがあるんですけど、「子供の笑顔」とかタグつけて、パッと出てきて。
谷内田 Premiereだと結構探さなきゃいけなくて「銭湯外観」ってタグを打ったんですけど、何回も迷子になって。
佐川 銭湯とかいっぱい撮ってますしね(笑)
密岡 で、素材を整理したら、PremiereのツールでMedia Browserっていうプロジェクトを共有できるものがあるんですけど、そこで佐川くんが作った編集結果を読み込んで、あと「ここだけちょっとお願いね」っていう部分の編集データを渡したり、でボッコンボッコン合体させて。
谷内田 それがすごい効率良かったと思いますね。「こういうやり方があったんだ」って。でも、まぁ編集マンも人だなって思うところがあって、マシンなんて正直なんでもいいと思ってて、ドラマって人が形成するものなんで。ノウハウやテクニックがこの2人にはたくさんあって、テレビ番組としての正解ラインを常に担保してくれる…それがやりやすかったなと思いますね。それがなかったら、正直、僕が監督っていうか構成する人間の一人として、どんどん崩してたかなと思うんですよね。後半に行けば行くほど、実は僕がやることあんまりなくて(笑)。6話なんて全然違う話してたもんね。
密岡 まぁ、打ち解けたのもあるんですけど、だんだん編集の話題以外の話をしてましたね。
谷内田 3話4話が終わったら、後はおまかせ状態…ビデオサロンなんで、もう少し技術的な話したほうがいいですよね?
密岡 打ち解けたとかどうでもいいですよね(笑)

Premiereでの編集にこだわる理由

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__________谷内田監督は前作の映画『ママは日本にお嫁に行っちゃダメだと言うけれど』でもPremiereを使用されたということですが、Premiereでの編集にこだわる理由はなぜでしょうか?
谷内田 その映画の時にカメラマンにDaVinci Resolve使ってカラコレもする人がいたんですけど、岩井俊二さんの映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』はPremiereでカラコレしたと聞いて、「じゃあ、絶対できるじゃん」って思ったんです。それでPremiereができるカラリストを探したんです。でも、なかなか見つからずに共同テレビの岡本 広さんだけが唯一やれるっていうのを知って。
密岡 結構、隠れユーザーっていると思うんですけどね
谷内田 いるとは思うんですけど、なかなか表立っては見つからなかったんですよね。それで主演の中野裕太くんが元々ファッションの分野で目利きが鋭かったんで、中野くんが自分でPremiereのカラコレもイチから勉強して、カラコレの教則本も買ってやって「おれは勉強すんのやだから。中野くんが読んで勉強して」って(笑)。「えぇ?? おれが???」ってなってました。カラコレの基礎原則を彼が覚えて、Premiereの使い方も自分で覚えて、そして、中野くんちに4KのモニターからマシンからHDDも全部持っていって。
密岡 すごい仲いいですよね。中野さんも『民泊様』に出演されてるんで、編集室にも遊びに来てくれたんですけど「色、色」ってずっと言ってました。
谷内田 色マニアなんでね。彼にカラコレのこと聞いたほうがものすごい技術的なこと言いますよ。本当に細かくてそれこそ、主演の女の子、ジエン・マンシューがコンビニの前で泥酔しているシーンがあるんですけど、恋愛した瞬間の人の肌って僕はピンク色になるんじゃないかってのが感覚的にあるんだけど、それをどうやったらいいかわかんないんですよ。けど、彼はそれをちゃんと叶えて、ピンク色のフィルターをマスク切ってちゃんと作ってくれたんです。すごくドラマに深みを与えてくれました。
密岡 主演が(笑)
谷内田 それをプロとして技術的に合ってるかどうかを共同テレビの岡本さんが最後にチェックしてくれたんだけど、お互い2人でまた話し合ってイチからまた作っていったんです。その時ってPremiereだからこういうことができたと思うんです。
密岡 Premiereでやってよかったのは監督とつなぎの話をしながら、編集していくなかで撮影に関わった方々も編集室に来るんですね。それで画や色を見たいってなった時に「じゃあ、監督一回交代しますか?」って席だけ替わって、カラーパネルを開いたら、もうカラコレ始められるじゃないですか。 元々カラコレしてあるんですけど、微調整して。監督に対して「カラコレ終わったらもう画は触れませんよ」ってそういう環境じゃないですから。
佐川 編集はエディター、カラコレはカラリスト、合成はコンポジターがやるというようなそれぞれのスペシャリストが集まってクオリティを保証するっていうワークフローも素晴らしいんですが、今回のような作業時間が限られている案件ではなかなか難しい。そこを今回アドビ製品だけで完結させる事で少ない時間の中でも最高のクオリティを実現できたかなと思います。
密岡 あとはそのドラマという枠で言うと、谷内田さんはテレビ番組も経験されているとは思うんですけど、僕らも同じで時間厳守なんですよ。逆算の鬼と呼ばれてて「今日は10時間なんで今から逆算すると、これに1時間、あれに1時間…もたついて30分、ごはん食べてしゃべっちゃって1時間ってレンダリングにかかるのはこれくらいだから…あと2時間でつなぎ終わりましょう」って。その時間厳守の感覚を持っていたからこそできたと思うんです。
谷内田 本当はデータ納品したかったんですけど、させてもらえなくて。納品にはHDCAMっていう最大の壁があってやっぱりデッキに落とさなきゃならないとなると、実時間にかかってきちゃうんで。何もしてない時間4時間くらいできたりとかして…。
密岡 そこはまだ壁としてありますよね。

オフラインではそれを観た人の反応を見る

谷内田 オフラインが送られてきても、実は僕が見てるんじゃなくて、中野くんとか脚本の野村とかに見せてその人の反応だけ見てる。正直、オフラインを人に見せるって、僕の中ですごい恥ずかしいことで…。
佐川 人の反応がどうなのか不安ですよね(笑)。
密岡 恐る恐る中野さんに、「どうでした?」って聞くと「あ、よかったっすよ」って。
谷内田 まぁ、オフラインの場合はまだ次があるから。どちらかというとわーっと組んだら、頭から直していったほうが実時間で終わるから好きなんですよ。ノンリニアでリニアの作業やってるってことですもんね。
密岡 確かに。このシーンを先にやりたいとかなかったですよね。「よーい、ドン」で頭からみたいな。
谷内田 それやったら、絶対時間内に終わるっていうのがあるからですね。

怒涛の準備期間と撮影

____企画から実際の撮影まではどれくらいかかったんですか?
谷内田 だいたい企画して脚本書いて、はい撮りましょうとなるまでに準備に1ヵ月以上は必要なんです。実は今回、ものすごく準備の時間がなかったんですよ。企画が通ってから8月13日に主演の新井浩文さんのところに行くんですけど、実はエレベーターの8Fのボタンを押した瞬間にプロデューサーが僕に「今から口説くぞ」って…いやいや、口説けてないの?
一同 笑
谷内田 なんとか「やります」と言っていただけて、『銀魂』やられてたんで、それが終わった後に衣装合わせ9月3日くらいにして、その後3日後にクランクインしました。6日に撮影に入る前に「監督、これ大変だよ? 押しちゃうんじゃない?」みたいなこと言われて。実は全部の総スケジュールって一番最初に出すんですけど、あえて出さなかったんですよ。出すと12日間で6本分撮るってバレちゃうから。
一同 ・・・。
谷内田 出さずに初日を迎えて、その初日2時間巻いて終わったんです。「あ、撮るのは早い監督だな」ってわかってもらえたんで
、そこで総スケを出して、結局12日間で6話全部撮り終えました。もちろんのこと毎日1、2時間巻いて終わってるんで、その苦労をみなさんに知ってもらいたいなって。
一同 笑
谷内田 そんな感じでドタバタだったんで、ショート(尺が足りない)しまくって帰ってきて「やべえ、素材がねえ! なぜ黒木メイサが、ここにいねえんだ…」みたいな。
密岡 テレビ番組だと尺が決まっているんで、必ずそれに合わせて作らないといけないんです。常套手段として前回のあらすじとか予告で調整することもあるんですが、それも限界があって…。足りない尺をiPhoneで撮影した動画で埋めたりもしましたよね?
谷内田 脚本の野村に「今から東京駅行って、弁当とか新幹線撮ってきて」って(笑)
密岡 登場人物が青森から上京してくるシーンがあるんですけど、撮れてるのが蒲田駅の到着シーンしかなかったんですよ。
佐川 オンラインの日だったもんね、あの日。そんな時に野村さんに無茶なことをお願いして…。
谷内田 届いたら佐川くんにiPhone渡して「つないで」って。連帯保証人のハンコを押すシーンがあるんですけど、それも編集室でiPhoneで撮りましたもん(笑)。印鑑買ってきて。

今回の仕事では、編集の原点に帰れた

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▲株式会社IMAGICA テレビ制作事業部品川EDグループ エディター 佐川正弘さん
谷内田 2人は監督に編集しちゃダメだって言うんですよ。1人で監督・脚本・編集・撮影とかって人が結構いるじゃないですか? 結局、1人よがりになっちゃうんで、ドラマや映画を作る場合はいい作品には絶対できないと思う。
密岡 イギリスにいて、エディターをやってた時は、今回の『民泊様』のようにエディターが素材を整理して、編集するのは当たり前にやってたんで。でも、実は今のエディターってオフラインから編集に携われる人って少ないんですよ。

____えっ、そうなんですか?
佐川 みんな監督達がオフラインでしっかりやってきたのをキレイにするみたいな作業から担当することが今のエディターって多いんです。
密岡 こうやってオフラインの話からいただいて、全部やりましょうってのは珍しいですね。
谷内田  僕は最初のキャリアのスタートからそういうスタイルでしか仕事してきたことがなかったんですよ。一番最初はAvidで一人で部屋に閉じ込められてやったんですけど、8時間で音を上げてしまって…。「ダメだ、誰かに相談しないとできない」と言って、やっぱり予算のないドラマだったので、編集マンをつけることができなかったんですけど、テープ庫にアルバイトで来てた男の人がいて、「じゃあ、あの人でいいです」ってその人を編集マンにつけたんですよ。後でわかったんですけど、その人、実は河瀨直美さんの映画の編集をしていた人だったんです。
佐川 ちゃんとした人だったんですね。
谷内田  そうそう。ちゃんとフィルムから編集やってて。オペレーターだけでもいいやって思ってたくらいなんですけど、その人がドラマとか映画を組み立ててくれて。だから自分で完璧に編集したことって、CMでも1回もないです。
密岡 日本だけの話で言うとオフラインから仕上げまで通しでできるエディターって絶滅危惧種なんですよ。少なくともオフライン編集については、要は監督は演出も知ってるし、観客の目線で見てるし、手も動かせるし、「おれがやったほうが早いわ」って。
佐川 使ってる物が一緒だからね。
密岡 そういうなかで、僕とか佐川ってそれこそ必死に、だったら技術上げるしかないってところで、ここ10年間ずっとがんばってきて。いろんなソフトも覚えるしPremiereもいち早く飛びついたし、合成もAfterEffectsでやるし、Photoshop、Illustrator全部駆使してやる。
佐川 そうやって、僕らがPremiereを触り出した頃、当時はCS6でしたが、その時は今ほど安定してなくて、試行錯誤の連続でしたね。
密岡 それでも頑張って、新しいこと覚えていって、やっぱり時代の波は変わるわけですよね。
佐川 よかったよね。 Premiereの時代が来て。
密岡 まぁ、当たりのほうに乗ったなとは思いますね。こうやって谷内田さんと仕事して、そもそもつなぎの話…原点に帰れたのがすごいうれしくて。すごくいい出会いだったなと思います。

◆InterBEEレポートをまとめて読む
http://www.genkosha.com/vs/report/interbee/