Report◉丁 龍海(R&Y Factory)

(この記事は、ビデオサロン2017年3月号に掲載されたレポートを転載したものです)

2014年末に発売されたスーパー35mmの4Kセンサーを搭載した業務用のEマウントレンズ交換式カメラ PXW-FS7が、2016年末に新たな進化を遂げてPXW-FS7Ⅱとして発表された。IIというとおりモデルチェンジというよりマイナーチェンジされたようだ。一見、どのように進化したのかはわかりにくいかもしれない。ユーザーにとって気になるのは前モデルと比べた場合の価格差。FS7のレンズ付きが1,280,000円に対し、FS7Ⅱは1,580,000円で、その差は300,000円。その差が機能にどれだけの進化を遂げているか、各ポイントを紹介しよう。今回は実際の撮影現場で使用していかに使いやすくなったかを実感してみた。

使用機材はPXW-FS7+SHOGUN FLAME、PXW-FS7Ⅱ+SHOGUN INFERNOとその時代に合った機材を用意。レンズは各純正レンズに加えて、Loxiaシリーズで検証を行なった。撮影は雪山で行われ、夜間は-20度の寒冷地であったので、XDCA-FS7+Vバッテリー(IDX DUO150)から本体、さらにDタップでSHOGUNの電源を供給。取扱説明書のカメラ動作温度は0度〜40度と記載されているが、経験上準備さえしっかりすれば問題ない。白金カイロとレスキューシートで保温を行い撮影を行なった。

たまたまFS7で撮るミュージックビデオの仕事があったため、FS7 IIも加えて撮り比べてみた。ぱっと見た目ではわからない2台だが改良点は多く、同行した田淵和春カメラマンも同じ意見だった。

 

 

●ポイントその1「液晶モニター」

液晶モニターの位置調整が容易になった。とくに角パイプを使用することによって、使用中に傾いてしまう現象がなくなった。また、屋外でも液晶パネルを見やすくするため、折りたたみ式の液晶フードが付属された。フードはCLM-FHD5と同じ構造で、収納時の液晶保護としても使用できる。また今回からはビューファインダーの脱着が容易になった。今まで上下の金具で止めていたものが、上は引っ掛け、下の金具で止めるという方法に変わっている。細かな部分ではあるが、常に情報を得る窓口である液晶モニターにおける改善は素晴らしい。

液晶モニターのフード(EVF部)は脱着しやすくなった。モニターの角度が傾かないようにフレームパイプが丸型から角型に変更された。

 

●ポイントその2「フレキシブルグリップアーム」

FS7で特徴的なフレキシブルアーム。ショルダー、ハンディー、三脚など様々なスタイルで使いやすいものであったが、その長さを調整するのに工具が必要であった。今回は工具なしで伸縮できるので、各スタイルでのポジション設定が容易になった。また、ウエストポジション対応のネジ穴も用意されている。これは多くのユーザーの意見を取り込んだ改善点であろう。さらに使いやすくなった。

⇧FS7Ⅱをショルダータイプで運用するには「SELP18110G」のレンズがとても扱いやすい。また、工具なしでフレキシブルグリップアームの長さを調節できるようになった。

 

●ポイントその3「XQDカードスロット」

XQDカードの飛び出し部分が長くなっており、以前より取りやすくなった。また、開閉時の静音化もなされているようた。

⇧記録メディアはXQDカード(2スロット)。スロット部はメディアが取り出しやすいよう微妙に改良されている。

●ポイントその4「電子式可変NDフィルター」

今回の大きなポイントとなっているのが、電子式可変NDフィルター。今までのような4段階でNDフィルターを使い分けるメカニカルなものではなく、シームレスに明るさの調整ができる電子式のNDフィルター。PXW-FS5で好評を得た機能がFS7Ⅱにも搭載された。この電子式可変NDフィルターは被写界深度を固定しながら様々なシチュエーションで撮影することができるので、屋内から屋外への撮影など明るさが異なる環境で、特にその効果は現れる。これによって、屋外になると絞りすぎで、映像の雰囲気が変わってしまうことがなくなる。照明技師が入っている現場や、スタジオワークでは使用することは少ないと思われるが、明暗差がある外ロケなどでは便利な機能であろう。特に夕焼けから太陽が沈むシーンなどでは重宝しそうだ。全体的にENG的な用途向けにマイナーチェンジされたこれらの機能によって、様々な現場でも使えるカメラに仕上がってきた。

⇧FS5で採用された電子式可変NDフィルター。可変NDの操作がアイリスダイヤルと同じように使える。大幅に改良されたユーザーインターフェイス。アサイナブルユーザーボタンも10個用意され、使いやすさがアップした。

●ポイントその5「新しいEマウント電動ズームレンズ」

レンズ付きの前モデルには「SELP28135G」のレンズが付属されたが、今回のモデルには「SELP18110G」が付属されている。倍率は前モデルの4.8倍から6.1倍に上がった。しかし、今回のレンズはスーパー35mm(APS-C)対応でフルサイズには対応していない。αシリーズでフルサイズにも兼用したい方には残念だ。性能は、ブリージングやフォーカスシフトをしっかり抑えて、「SELP28135G」より大きく改善されたのが実感できる。とくにメカニカルズーム機構に変更されたことによって、一般的なレンズのようにタイムラグのないダイレクトに操作ができるようになった。また、光学手ブレ補正、ズーム回転方向切換などの機能も搭載されている。ズーム回転方向切換は特殊な工具は必要なく、カメラに装着したまま変更できる。レンズにあるスイッチ(白い・のついた)で切り替え、ズームレンズをぐるっと回すと、反対側にある目盛がビューファー側に向き、逆回転仕様になるというギミック的な機構で、よく考えられている。また、レンズフードも一体型の開閉式となり、レンズ台座が台座そのものでクイックシューのように外れるようになった。その他、AF、MF切換やクリックレスといったものは前モデルのまま。大きく進化した今回のレンズ。現在はセット販売しかないようで、単品での販売を期待したい。(2017年4月に単品で発売されます)

キットレンズのSELP18110Gは前モデルのキットレンズSELP28135Gより、精度が格段と上がった。メカニカルなズームは中央のスイッチを使い、回転させることによって、ズーム方向を変更できる。FS7ユーザーも欲しがるレンズだろう。

●ポイントその6「レバーロックタイプEマウント」

FS7Ⅱから新しく装備された、レバーロックタイプEマウント。PLマウントやB4マウントと同様に、マウント側リングを回してレンズを固定する構造で、リグなどを装着した場合に脱着が有効だという。しかし、これには「慣れ」が必要である。まずは、今までのように片手にカメラを持っての脱着が難しい。三脚に固定するか床などにおいて安定した場所で作業を行わないと、レンズの脱着が難しい。また、自動ロック機構が付いているが、「カチッ」と言ったからといって、安心してはならない。とくに重いレンズは水平に差し込まなければならないし、Zeiss Loxiaシリーズに限っては、防塵ゴムパッキンが厄介だ。実際現場で交換する際には、三脚に据え置きしても不安定な状態で、2人での作業となった。このマウントはコツを掴むには「慣れ」が必要であろう。Eマウントで手頃で高画質なレンズで定評のあるZeiss Loxiaシリーズが使いにくいのは、Loxiaユーザーにとっては辛いところだ。Eマウントはフランジバックの浅さからは難しいとは思うが、PLマウントのようにもう少し遊びを持たせ、回転幅を大きくしてでもしっかり固定できるような構造が望ましいと感じた。

ロック付きのEマウント。誤操作による脱落防止のロック機構も付いている。レンズを回転させるのではなく、◯印を合わせてレバーをカチッと音がするところまで回転させる。

●ポイントその7「アサイナブルユーザーボタン」

FS7では6つしかなかったアサイナブルユーザーボタンが10個に増えている。メニュー構成の多いFSシリーズでは、この10個が大いに役に立つ。カメラマンが使いやすいようにアレンジして、現場でのレスポンスを良くする。これも「できるカメラマン」の必須アイテムではないだろうか。

●ポイントその8「オーディオパネル」

ソニーの様々なカメラを使ってきたが、思い出せばPMW-200、PXW-X200以外、見たことがなかったFS7の横開きパネル。今回FS7Ⅱでは、オーディオパネルのカバーが横開きから縦開きになったようだ。個人的にはそんなに気にならなかった。

⇧縦開きになったオーディオ設定部の蓋。

●ポイントその9「マイクホルダー」

以前のマイクホルダーは、パイプと一体式であったが、今回から脱着が可能。なんてことないことではあるが、ハンドルマウントのシューを使用したい時、邪魔になったら下に向けることができる。

⇧脱着可能になった改良されたマイクホルダー。

その他の変更点はあると思うが、以上が私が使用した2日間で感じたことである。細かな改良から大きな改良まで、多くの変更改善点を見ることができた。

 

画質はFS7から向上したのか?

様々な機材を比較検証していく中で、比較検証するときは必ず同じレンズを使用することが、カメラの性能を見るポイントとなると実感している。今回も同じレンズ(Loxia 50mm)を使用した。レンズの影響は受けない条件で、比較検証してみたが、センサーやチップなど、FS7から変更はないので画質に関しては変化は感じられなかった。裏切らない10bitの画質はグラデーションも綺麗に表現される。バンディング(トーンジャンプ)が8bitに比べて大きく改善するので、このカメラを使うと8bitの映像の限界を感じるであろう。FS5やαシリーズとFS7シリーズとは、ここに大きな差があることが実感できる。とくにS-Log収録を行いグレーディングする際には、表現力の幅が増えてより良い色表現ができるようになる。また、今回から「BT.2020」のカラースペースが追加され表現可能な色域がさらに大きくなった。

⇧逆光に近い状態での映像。10bitならではグラデーションが表現できている。(ただし掲載画像は8bitのJPEG画像にしているので、その段階でバンディングが起きている)

 

おすすめしたい周辺機器

オプションではあるが、XDCA-FS7をおすすめしたい。この拡張ユニットを使用することで、Vマウントバッテリーが装着できるので長時間の使用に有利になる。また、TC IN/OUT、GENLOCKなどのマルチカムにも対応し、FS RAWの出力が追加される。HXR-IFR5(インターフェイス)、AXS-R5(RAWレコーダー)を追加すればRAW記録が可能になり、SHOGUNシリーズではRAW映像をProResで収録できる。このユニットはハード的なアップグレードと合わせて、内部収録において「ProRes422」に対応するようになる。この拡張ユニットはおすすめできるオプションパーツだ。

XDCA-FS7にIDXのVバッテリー(Duoシリーズ)を使えばD-Tapから様々な外部機器にも給電することができる。手前がSHOGUN INFERNO。

今回の撮影は基本24pの収録であったが、監督の希望により240fpsスローモーションを取り入れた。今までは、HXR-IFR5+AXS-R5を使って、FS RAWでしか収録できなかったものが、SHOGUN INFERNOでも収録できるようになった。収録にはXDCA-FS7が必要ではあるが、手軽に、240fpsを連続、無制限(SSDの容量がなくならない限り)収録できるのは素晴らしい。FS7シリーズでは内部収録において、XAVC-Iで180fpsが撮影できるのだが、60fpsの差は大きい。機会があれば、ぜひチャレンジしてほしい。

 

大判センサーの万能カメラ

一見変わっていないように見えたFS7Ⅱだが細かなところで数多くの変更がなされている。ひとつ言えるのは、今回の改良はソニーがユーザーの意見をしっかり取り入れてきたと思われるところ。とくにビューファインダーやフレキシブルアームなどのユーザーインタフェイスは使用時のストレスがなくなった。FS7はENG向けなのか、制作向けなのか区別のつかないカメラではあったが、今回はさらにその壁がなくなった。一部使いにくくなった部分もあるが、それはFS7シリーズのコンセプトに準じている。カメラマンからすれば、扱いにくいというのは、「今まで…」の変化に対応していないだけで、手にすればその良さがわかるだろう。様々なシーンで大判センサーのカメラを手軽に扱えるFS7Ⅱは、マイナーチェンジというカタチで発売されたのだが、14ストップのラチチュードをもつFS7シリーズはカメラマンのイメージを具現化するカメラに間違いない。αシリーズやFS5などの8bitカメラ使っている人には、もうワンステップ上がったFS7シリーズをぜひ使ってほしい。その違いはすべて映像に現れるであろう。また、ハンドヘルドのPXWシリーズを扱うカメラマンにとっても、扱いやすくなったFS7Ⅱは大判センサーの表現力を得る一歩として相応しい。すべての用途に適したカメラを作るのは難しいが、FS7Ⅱはそれに一歩近づいたカメラに感じた。

ソニーFS7 IIの情報はこちらから

 

FS7とFS7 IIで撮影したミュージックビデオ