中・高・大と映画に明け暮れた日々。
あの頃、作り手ではなかった自分が
なぜそこまで映画に夢中になれたのか?
作り手になった今、その視点から
忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に
改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイ・ミーツ・プサン』にて監督デビュー。最新作『百円の恋』では、第27回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門作品賞をはじめ、国内外で数々の映画賞を受賞。

 

第21回『華麗なるヒコーキ野郎』


イラスト●死後くん
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第1次世界大戦後のアメリカ。元空軍飛行士ウォルド・ペッパーは曲乗り飛行を生業としていた。不運な事故で身の置き場のなくなった彼は偽名でハリウッドに渡り、現場で崇拝するドイツ空軍の英雄ケスラーと出会う。

原題 The Great Waldo Pepper
製作年 1975年
製作国 アメリカ
上映時間 108分
アスペクト比 スタンダード
監督 ジョージ・ロイ・ヒル
脚本 ウィリアム・ゴールドマン
撮影 ロバート・サーティース
編集 ウィリアム・H・レイノルズ
音楽 ヘンリー・マンシーニ
出演 ロバート・レッドフォード、ボー・スヴェンソン、スーザン・サランドン、マーゴット・キダー他
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※この連載は2017年1月号に掲載した内容を転載しています。

11月16日にロバート・レッドフォードが、現在進行している2作品を最後に俳優業からの引退を発表した。偶然にも、今僕が準備している陰謀スリラー作品の参考に『コンドル』を、詐欺師バディー作品の参考に『スティング』を観ていたところだった。80歳のレッドフォードは監督業や若い頃から好きだった絵画に専念したいようだ。86歳のクリント・イーストウッドや81歳のウディ・アレンといい、俳優としての彼らが観られなくなったのは寂しい限りだが、飽くなき創作活動への貪欲さは恐るべしである。

 

劇場で見た初めてのレッドフォード主演映画

最初にレッドフォードに出くわしたのは『明日に向かって撃て!』の泳ぎの苦手なサウスポーのクールなガンマン”サンダンス・キッド”。続けざまに『スティング』の詐欺師“ジョニー・フッカー“をテレビの洋画劇場で観た。僕は兄貴分のポール・ニューマンより弟分のレッドフォードを贔屓にしていた。

最初に映画館でロバート・レッドフォード主演作品を観たのは小学4年生の時。『華麗なるヒコーキ野郎』原題「ザ・グレート ウォルド・ペッパー」は、前年に『華麗なるギャツビー』に出演したレッドフォードが『明日に向かって撃て!』、『スティング』のジョージ・ロイ・ヒル監督と3度目のコンビを組んで、実在の航空パイロット、ウォルド・ペッパーを演じたもので、彼自身が熱望し出演したのだ。

僕は父親に連れられて劇場へと向かった。映画の舞台は、ギャツビーと同時代の“狂乱の20年代”と呼ばれた1920年代。航空史上では“勇敢なる20年代”と呼ばれるそうだ。第1次世界大戦の終わった後で従軍したパイロット達がアクロバット飛行を見せ、観客を沸かせていた、“バーンストーマー”と呼ばれたドサ回り飛行機乗りの「空のカウボーイ達の物語」だ。

僕の父は飛行機乗りに憧れていたらしく、航空機映画が上映、放映される度に僕を誘った。『レッド・バロン』や『ブルー・マックス』等の作品で第1次世界大戦の複葉機の活躍と哀しみはスクリーンで既に承知していた。

 

CGでは描ききれない実写航空スタントの迫力

レッドフォード演じるペッパーは戦争時、教官をしていて実戦の経験がないにもかかわらず、ドイツ空軍の撃墜王エルンスト・ケスラーと空中戦を交えたと大嘘をついては行く先々で関心を引いていた。ジョージ・ロイ・ヒル監督の映画に登場する主人公達は大抵嘘つきなのがとてもよいキャラクターで僕は好きだ。商売敵の元空軍大尉オルソン(ボー・スヴェンソン)の登場で嘘はバレるが、酒場で知り合ったスーザン・サランドン演じるメリー・ベスとオルソンと組んでエアーサーカスの曲芸飛行に挑む。

この曲芸飛行の撮影が凄い。撮影は『ベン・ハー』の名匠ロバート・サーティース。『東京上空三十秒』という傑作航空映画をやっているのも納得だ。にしても高所恐怖症の僕は曲芸シーンで複葉機から複葉機にペッパーが乗り移る場面では肝やいろんなものが縮んだ。命懸けのスタント撮影の水準は他の空中アクションを凌駕している。

実際の俳優を飛行機に乗せての様々なカットや逆宙返りの映像はCG全盛の今では考えられない。CGでは描ききれない迫力だ。スクリーンで是非とも再見したい。20世紀とはまさに映画の時代であったことを証明してくれる映画だ。古き良きヒコーキ野郎達の映画であるが、古き良き撮影隊達の映画でもある。

 

空の上での騎士道精神

ペッパーが憧れるドイツの撃墜王エルンスト・ケスラーには実在の人物がモデルにいる。『レッド・バロン』でも描かれているリヒトホーフェン・サーカス部隊の撃墜王エルンスト・ウーデッドだ。実際に曲芸飛行士としてアメリカで活躍し、航空映画にも出演した撃墜王の人生は悲運の45年だった。第二次世界大戦でナチスドイツ空軍の航空省に戻り、自死している。

航空ショーでメリー・ベスや友人を事故で失ったペッパーは空で飛ぶ資格を剥奪されるが、活躍の場をハリウッド撮影所の航空スタントに求める。ケスラーの伝記映画の撮影現場で憧れのケスラーと出会う。

本人からフランス軍エースとの一騎打ちの伝説を聞かされるペッパー。空にだけまだ騎士道精神が残っていた時代の話だ。映画撮影でペッパーは憧れのケスラーとの空中戦が実現する。酒浸りの日々を送っていたケスラーがペッパーという好敵手と出会えたのだ。パラシュートをつけずに複葉機に乗り込む両者共に空でしか生きられないのか。ペッパーは自分の全てを賭けてケスラーの栄光に挑戦する。

ケスラーとペッパーが渾身の空中戦を繰り広げる。ペッパーの操るニューボール28複葉戦闘機とケスラーのフォッカーDrI三葉戦闘機のぶつかり合い。大空の最後の騎士道を観てほしい。もはや言葉は要らない。レッドフォードの笑顔が満足そうで嬉しかった。

僕は子供ながら複葉機がヘンリー・マンシーニの音楽にのって雲の彼方に消えて行くラストシーンに哀愁とロマンを感じたことを忘れない。今の僕にとっても大きな映画だ。“バーンストーマー”達の生き方に憧れる。

ジョージ・ロイ・ヒル監督は、失われゆく古き良き“野郎”達を描き続けた。列車、銀行強盗のブッチ・キャシディとサンダンス・キッド、“ワイルドバンチ“達。詐欺師のヘンリー・ゴンドーフとその仲間達。時代から取り残され、滅び去ったものに光をあてスクリーンの上で蘇らせる事に力を尽くした監督だ。その眼差しはいつも優しい。そしてその主人公達がいつも映画好きなのが素敵だ。

 

フィルムメーカーレッドフォードの第一歩

レッドフォードは、若手映画人の育成を目的として出世作の役名から命名した「サンダンス・インスティテュート」を設立。さらにサンダンス映画祭を主催し、インディペンデント映画の若手作家の登竜門的映画祭として確立している。自身も初監督作品で全く普通ではない特別な『普通の人々』で監督、作品のオスカーをゲットしている。

『華麗なるヒコーキ野郎』はレッドフォードの持ち込んだ企画だったそうだ。フィルムメーカーレッドフォードの第一歩がこの作品だったのだ。実存したウォルド・ペッパーの生涯を映画にどうしてもしたかったのだ。40年ぶりにDVDで『華麗なるヒコーキ野郎』を再見して、36歳の短いペッパーの人生について僕はもっと知りたくなった。もしいつの日かレッドフォードに会えたなら僕はそのことを伝えたいと考えていた。

 

●この記事はビデオSALON2017年1月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1607.html