五感に訴える刺激的な映像で、全米公開されるや映像革命と話題になった全編FPSアクション・ムービー『ハードコア』。

本作は身体の一部をマシンにされた主人公が、謎の超能力者に戦いを挑むSFアクション。全編を主人公の一人称視点で描いたPOV作品で、激しい銃撃戦からカーアクション、高所からの落下や街中を疾走する様が体感的に描かれる。ワイヤーや特殊効果を駆使した大がかりなスペクタクル、全編ワンカット構成など、アイデアと工夫によってまだまだ“新しい映画”が作れることを教えてくれる作品だ。

今回はその監督・脚本・プロデュースを担当したイリヤ・ナイシュラー監督の、本誌(4月20日発売、5月号)に載らなかったインタビュー全文を掲載。

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配給:クロックワークス  提供:クロックワークス/パルコ

4月1日から全国公開中!! http://hardcore-eiga.com/

映画情報

出演:シャールト・コプリー、ダニーラ・コズロフスキー、ヘイリー・ベネット、ティム・ロス

監督・脚本・撮影・Pr:イリヤ・ナイシュラー

(スタッフ)●Pr:エカテリーナ・コノネンコ、インガ・ワインシテイン・スミス、ティムール・ベクマンベトフ ●撮影監督:セーヴァ・カプター、ヒョードル・リアス、パーシャ・カピノス ●撮影(ヘンリー視点):セルゲイ・ヴァルヤエフ、アンドレイ・デメンティエフ ●編集:スティーヴン・ミルコヴィッチA.C.E.、ウラド ・カプター ●音楽:ダーシャ・チャルーシャ ●プロダクション・デザイン:マルガリータ・アブレヴァ ●特殊効果:ペーター・ゴルシェニン FXDG ●スタント振付:アレクサンドル・ステチェンコ、オレーク・ポドゥブニー ●衣装デザイン:アンナ・クデヴィッチ

STORY

研究所で目を醒ましたヘンリーは、自分が何かの事故により手足を失ったことを知る。科学者の妻エステルにマシンの手足を取り付けてもらった直後、武装した一団と共に超能力者エイカンが現れ、エステルを連れ去ってしまう。妻を取り戻すため、ヘンリーはその行方を追った。

イリヤ監督インタビュー

スタビライズ機能は原始的な仕組みだよ!

ーー非常に激しい画面の映画でしたが、画角を一定に保ちながら激しいアクションをするコツとは?

ナイシュラー監督:基本的には全編、ヘルメットにGoProをつけて撮っているんだが、そこに一定のスタビライズ機能、ブレ防止機能をつけた。自分たちなりにどんどん改良を重ねて、なるべく画面がブレないようなヘッドギアを作ったんだ。プラス、それをかぶっているときはなるべく走らないこと、というのを気をつけたね。走るととにかくどうやってもブレてしまうから……。恥ずかしい話、僕自身がものすごく乗り物酔いをしやすいんだ。なので、自分自身も含めて観客が気持ち悪くならないことを、常に気をつけながら撮ったよ。映画全体のペース配分も、いきなり走り出すようなスピード全開シーンからじゃなくて、徐々に観客を導入していく、慣らしていくという展開。わりとスローなペースから始まって、どんどん後半に向かってスピードがエスカレートしていくという流れも含めて構成を考えた。

ーースタビライズ機能について具体的に教えてください。

ナイシュラー監督:実に原始的な仕組みだよ!  まず3Dプリンタでプラスチックのヘルメットを作り、そこにイヤモニ、ヘッドホンをつける。ヘルメットの前方にメタル製のマグネットでかちゃっとつける装置がついていて、そこにGoProをつけるだけ。

基本的に走ったり飛んだりっていうアクションでは横揺れはないから、横ぶれ防止の機能はついていない。縦だけ。縦に揺れるときにある程度振れる範囲を抑えるため、マグネットでフレキシブルに融通がきくように抑えるという、単純に説明するとそんな仕掛けだよ。

プロトタイプから始まって5バージョンくらい改良を重ねて……もっと時間があればもっといいものが完成したかもしれないけど。

ーーカメラが2台ついていたのはなぜ?

ナイシュラー監督:いわゆるAカメBカメのような感じだね。左がメインのAカメで、ヘンリー役としてヘルメットをつけている人の視界。最終的にスクリーンにおさまるものを撮っている。右のBカメはバックアップ用で、ヘルメットの後ろにあるWi-Fiで自分のモニタに画像を飛ばして、それをバックアップとして自分で見ながら録画しておく。もしAカメの画像が気に入らなかったり、あまりに激しいスタントやアクションでヒートアップしてしまって撮れてなかったときにバックアップを使うとか、そういう形で2台用意していたよ。

⇧プラスチックのヘルメットにテレデックのトランスミッターとズームマイクを取り付け、メタル製マグネットでGoPro HERO 3 Black Editionを固定。

 

ーーヘンリーは実際に何人いたのですか?

ナイシュラー監督:基本的に僕も含めて13人のヘンリー役がいたね。メインは今回撮影としてクレジットされているセルゲイ・ヴァルヤエフとアンドレイ・デメンティエフ。僕はあまり激しいアクションシーンではなく、静かな比較的動きのないシーンを演じているんだけど。特に特殊なスタントが必要になる場合、たとえば馬に乗ろうとして逃げられるところは馬の調教師をやっているスタントマンが、ヘリコプターからロープでぶらさがって落下するところはスカイダイビング専門のスタントマンが演じている。高層ビルから飛び降りるとか、とりわけ危険なシーンはスタント・コーディネーター自らが動きを考えてやっているね。ひとつひとつの危険性とかシーンに合わせて、特殊なスタントマンが演じているという感じだ。

すべてのシーンにおいて、カメラマンは2人用意していた。ヘンリーの左側は全部サイボーグ化されていて、義手やタトゥーのメイクに時間がかかるので、それをきちんと入れた2人が常にヘンリー役としてスタンバイしていたね。振り向いたときにカットを入れて次の人に入れ替わるというかたちで、一連の長回しに見えるシーンでも2人の違う人がヘンリーを演じているというシーンもあるよ。やっぱり生身の人間なのでスタミナというのもあるし、長丁場で体力的にも気力的にも切れないよう、常に全開でいけるようにね。

 

画コンテやプリビズのようなものは一切作ってないよ(笑)

ーー画コンテやプリビズなどを見せてください。

ナイシュラー監督:予算的な問題もあって画コンテやプリビズのようなものは一切作ってないよ(笑)。最初のうちは画コンテを描いてみたんだけど、撮り始めると全編アドリブというか即興みたいな実験的な撮り方なので、200回くらいシーンが変わるんだ。なので、意味ないな、ということになった。プロデューサーも別にいらないよと言ってくれたので、自分とスタント・コーディネーターと撮影監督とみんなで、その場その瞬間でいろいろ変えながら、試行錯誤で撮っていったようなスタイルだね。(画コンテやプリビズなど)そういったものは無駄、というか、必要なかった。

唯一、一応、画コンテ的なものを作ったのはバイクチェイスのシーンで、それも単に追跡する車とカメラを積む車でバンが何台いるか、どのくらい車間をおいて走らせればいいのかという、その感覚を見るためだけに作ったざっとしたもの。あと、オープニングシーンだけはプリビズ的なものを作ったけど、その時は冒頭ということもあって時間もたっぷりあったので、大事なところだし、それだけだね。

ーーカーチェイスのシーンの撮影について

ナイシュラー監督:バンの中に飛び込むシーンはまず、車の中に入っていく、車内を駆け抜ける、そして粉々に飛び散りながら割くように飛び出していく、というのを3パートに分けて撮っている。最終的に車を割るというのもやっているが、周りの煙とか飛び散る破片とかはかなりCGで加えている部分もあるよ。あのシーンだけで6日間くらいかかっているね。1日雨に振られたということもあって実質5日間、結構大変だった。

バイクはロシア製の第二次世界大戦中のモデルで、かなり貴重なものだった。1台しか用意していなかったから、スタントマンが慎重に3回ほど繰り返して無償で無事帰還したが、バンは用意したのが8台だったので少なくとも6台は壊していると思う。

ーーロシアには映画のカースタント専門チームがあるのでしょうか? ロシアのスタント事情について教えてください。

ナイシュラー監督:他の国と規模も数もさほど変わらないと思うよ。今回は非常にラッキーなことに優秀なスタントマンとスタントチームを雇うことができたんだが、中でもアレクサンドル・ステチェンコは、ありとあらゆる種類のスタントを自分でもできるしスーパーバイズもできるという立場。そういう人がひとりいるとものすごく助かる。火だるまになるシーンや爆破などもできるし、ワイヤー・アクションの操演もできる。普通の飛んだり走ったりなどのスタントも自分でこなせるし、彼自身がすべてこなせるチームを持っているんだ。

⇧アレクサンドル・ステチェンコによるワイヤーアクションが全編で使われている。 

ーー画コンテをまったく使っていないということですが、主人公の視点というのがすごく計算されているように見えました。

ナイシュラー監督:偉そうな言い方だけど、僕にとっては直感を信じるということが一番だったんだ。画コンテどおりに撮ったところで、そのシーンや映画全体が正しい方向に向かうかといえば、そうはならないものだし。撮りながら「いい感じ」とか「なんか気持ち悪い」っていうのは自分で感じるものなので、そういう意味では直感を頼りに撮った結果だね。

ーー「一人称で映画を撮る」というのにこだわる理由を教えてください。

ナイシュラー監督:ひとりのアーティストとして、誰も今まで試みたことのないことに挑戦するというのはすごく魅力的なこと。それが一番大きな理由だよ。あとはやはり自分が楽しめるか。観客の立場になったとき、僕が友達と一緒にこの映画を見に行って楽しめるかどうか、ということを常に考えながら作品を作りたいと思うし、そういった理由も根底にあったね。

 

僕は「美しい映像を撮ろう」というのは二の次なんだ

ーー影響を受けた映画、コミック、ゲームなどがあれば教えてください。

ナイシュラー監督:一番あからさまなのはポール・バーホーベン、特に『ロボコップ』(1988)の影響はかなり受けているね。あとはジョン・カーペンターとかジェームズ・キャメロン。それといわゆるFPSものと言われる、一人称視点のシューティングゲーム。『Left 4 Dead』とか『Call of Duty』とか、そういったゲームに影響を受けているとは言えるけど、このシーンにこの作品のオマージュを入れてやろうとか、このシーンはこれを意識して、というのは決めていない。逆にあとから見た人に指摘されて「そういえば」という感じだったね。僕自身がゲーマーで映画も大好きなので、子供のころから見てきたそういうものが積み重なって影響して、無意識に今回の映画に集大成として詰め込まれたんじゃないかなと思う。

もうひとつ、シャールト・コプリー演じるジミーが次々人格が変わるということに関しては、人生で一番好きな映画トップ3に入るスタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』(1964)のピーター・セラーズがひとりで何役も演じるというのに敬愛を込めてオマージュしている。アレック・ギネスがひとりで何役も演じる『カインド・ハート』(1949)など、ひとりの役者が様々なまったく異なる役柄を演じるのが好きなんだ。シャールトは素晴らしい俳優だし、今回思いっきりクレイジーで幅の広いジミーを演じてもらったよ。

ーー今回の撮影で一番大変だった、もしくは興奮したシーンは?

ナイシュラー監督:やはりクライマックスの屋上でのバトルシーン。ものすごい寒い冬の時期に、サウンドステージの中で撮影したんだが、あれだけで3週間くらいかかっているし、動きとか殺陣も非常に複雑でひどく苦労した。ちょっとでもドアを開けるとぶわーっと風が吹いてくるので、閉め切った暗い中に火を焚いて3週間、毎日毎日こもっていたので精神的に追い詰められたね。常に血みどろで、降雨量でいえば70mmくらいの血のりが溜まっているんだよ。血に浸りながら真っ暗なサウンドステージで、ドアを開ければ寒いという……そういう中で3週間というのはかなりきつくて、唯一記憶にあるのはお昼休みになるとみんなぐったりしていたこと。平均年齢24~5才という若いクルーだったのでみんな元気で、やる気まんまんだったけどあれだけは結構きつかった。技術的なところで一番複雑で大掛かりだったのは、バイクチェイスのシーンだね。

よく社交辞令のように「スタッフは家族」とみんな言うけど、今回ばかりは本当にみんな家族のように固い絆で結ばれていた。1年半かけて、毎日その日に撮ったラッシュを一緒に見て……。まったく参考にするものがない、前例のないスタイルで撮った映画なので、いろいろと即興で、その場でたくさんのことがコロコロ変わり、瞬時の選択や決断を迫られる。非常にインテンスな、緊迫する撮影状況ではあったんだけど、その分絆も深まって楽しい体験になった。

ーー映画づくりの美学として常に心がけていることはありますか?

ナイシュラー監督:僕は「美しい映像を撮ろう」というのは二の次なんだ。やっぱり感じたことのない興奮を体感できるもの撮りたい、この映画がまさにそれなんだけど。テレンス・マリックじゃあるまいし、みんながうっとりするような美しい映像を撮ろうという気はさらさらないんだ。例えばすごくきれいに撮れたショットよりも、ぐらぐらして映像としては大したことがないけど見ている人が楽しい、気持ちいいもの。殴るとか殴られるというのを、自分がヘンリーになって本当に楽しめるという新しい体験みたいなものを観客に向けて提供する、というのが自分の美学だと思う。

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『ハードコア』メイキング映像、本編と同じぐらいワクワクすること間違い無し!実はイリヤ監督のパンクバンド、Biting Elbowsの楽曲 ‘For The Kill’ のオフィシャルMV。

 

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まだまだある! 一度見たら忘れられない、イリヤ・ナイシュラーの名MV集

「Bad Motherfucker」(Biting Elbows)

全編一人称MV。世界中で話題となり、ここから映画『ハードコア』は生まれた。

 

「Кольщик」(Ленинград)

ロシアのスカ系パンクバンド「レニングラード」のMV、「コリシク(彫師)」。サーカス劇場を舞台に、火だるまで落下する空中ブランコ乗り、血まみれのトラ、ロシアマフィアなどが登場。衝撃的なダーク・ファンタジー。

 

「Кольщик . В ХРОНОЛОГИЧЕСКОМ ПОРЯДКЕ」(Ленинград)

「Кольщик」を普通に回転させた種明かしバージョン。