文=長谷川修(大和映像サロン会長)
タイトル=岩崎光明

脚本のない映画はありません。でも私の場合は脚本なしで作ることがほとんどです。そもそも脚本の書き方を知りませんし、専門的に勉強したこともありません。もちろん制作にあたり、ただやみくもに撮影に入ることはしませんけどネ。

でも大勢で作るドラマ(正確にはドラマもどき?)の場合は、スタッフとキャストに事前に最低限の脚本らしきものを渡します。これは共同作業となる映画づくりとして不可欠なことで、セリフやストーリーの展開、小道具等々、参加者全員に作品の全容を把握してもらうためです。

ところで一般的に、私たちアマチュアの作品で脚本を書いて制作に入る人がどのくらいいますかね~? 大多数の人はテーマをどのように構成したら作品として上手に仕上げることができるかを考えるはずです。その過程において、人によっては“ナレーション原稿”を先に作成させ、ナレーションに合わせた画作りをすることはよくあるパターンですね。この構成、厳密に言うと構成表となるプロットの集積を脚本と呼ぶならば、逆に全員が脚本を書いていることになります。

作品を作るにあたり、そのテーマが作品となり得るかどうかを考えることが何よりも大事だと思います。失敗作の多くは、この部分をおろそかにした結果であると言っても過言ではありません。思いつきだけでは上手くいきません。

それでは、私の場合はどんな手順で制作しているのか、もちろん作品のジャンルによって手法や手順は違います。でも一応基本的な手順と申しますかスタイルを、第7回でご紹介した拙作『百日紅(さるすべり)の咲く頃』を例にお話を致しましょう。

作品の内容はシジュウカラの子育てと我が家の日常を、さり気なく描いたホームドラマです。この作品は、我が家の散歩道の途中にある大きな百日紅の洞にシジュウカラが巣づくりをしているのを見つけ、巣作りから巣立ちまでを記録しようと撮影に入ったのがそもそもの始まりでした。

過去にも野鳥の生態を森の四季を絡めて制作した『野鳥の季節』や、冬の鳥(ジョウビタキ)との出会いと別れを描いた『春の序曲』など、野鳥の撮影には慣れていたつもりでスタートしました。ところが春の長雨で肝心の巣立ちの場面が撮れず、作品化を諦めかけました。

そんなある時、孫娘の成長とシジュウカラの巣立ちを絡ませてホームドラマができないだろうかと考え、ラストは百日紅が満開に咲くシーンで終わらせようと決めました。始めに終わりありき、ここが我々アマチュア映像制作のポイントなのです。最初にエンディングが決まりますと、そこへ向って様々なプロットを積み上げていく作業ははかどりますし、音楽だってエンディングに相応しいメロディーが、つまりはその作品のテーマミュージックが決まるのです。

この作品はメインタイトルが入る前、つまりプロローグで妻が脚に障害を抱え、リハビリを兼ねて毎朝近くの川沿いの道を散歩していると説明します。メインタイトルの後、妻と私がいつもの散歩道を歩き、小さな公園で柔軟体操をしていると、救急車とピーポー音、4年前に家内が脳梗塞で倒れる回想シーン(モノクロ)を入れて障害の原因を説明し、再び現在に戻します。前半はシジュウカラの子育てと、それを見守る私と妻の姿を描きます。

そして話の展開に必要な箱書きに相当する部分に、病弱な妻に代わって食事の用意をする私、今日のメニューが書かれた白板、しゃべる電子レンジ、といった小道具を活かして日常をコミカルに描きます。もう一つの箱書きとして孫娘(小学校1年生)を登場させます。夏休みに我が家へ遊びに来たという設定です。勉強は苦手だが遊びの天才? の孫とポーカーで勝負(見事に負けた)! 場面は一転して川で遊ぶ孫と私と妻、ラストは満開の百日紅の樹のある散歩道を歩く3人の姿で終わります。

脚本というにはお粗末ですが、ラストを決めてから箱書きを積み重ねていく手法、これが私の作品づくりのスタイル、手順と言えましょう。

この手法によって撮影が終わり、粗編集ができた段階でナレーション原稿の作成に入ります。画面を流しながらナレーションの長さの調整を行うと共に、ワンカットの長さの微調整も同時に行います。“ワンカットの長さ”はとても重要な部分ですが、単純に3秒がいいとか5秒がいいとか、数字で表せません。感性が大切です。それを判断するために繰り返し再生し、観た感じで長からず短かからずという必要なワンカットの長さを決めます。

この作業をワンカットごとに行いますと、結構無駄な撮り方をしていたことに気がつきますし、場合によっては数カットもバッサリ切ることもできます。そうすることで作品がダレるのを防ぎます。

最後に音楽ですが、「Whispering Hope(邦題「希望のささやき」)という曲を選び、「Grass Dew」という友人のバンドにお願いして演奏してもらいました。良き相談相手を持つことが、趣味を続けていく秘訣でもあると言われております。ビデオ撮影が縁でブルーグラスというカントリーミュジックの類の定期コンサートの司会を長いこと務めさせて頂いている関係で音楽の輪も広がり、私の作品に協力を申し出るバンドも多く、嬉しい限りですネ!

*作品はYouTubeでご覧ください。

制作:長谷川 修  第48回全国ビデオ映像コンテスト入選作品

 

月刊「ビデオサロン」2015年9月号に掲載