一人でも実践できる! 映像ライティング講座


著者:榊原亮太 Ryota Sakakibara
TV・CM・映画・企業VP・イベント・美術館の設営等の幅広いジャンルの照明を手がける。代表作は・TV:タモリ倶楽部、ぷっすま他・CM:ユーキャン、クロレッツ他・映画:かたりべ、空の境界他・イベント:youtube むすめん。live、minmi live他・美術館:愛媛県立歴史文化博物館 【空海展】 照明設置施工他

 

今回、照明技師の榊原さんに企業PRビデオのインタビューを一人で撮る場合のシチュエーションを想定して手軽に実践できるライティング術を教えてもらった。


少ない機材でも戦える

あなたの身の回りにはどんな照明機材がありますか? 「照明機材」というとTVなどで使っているプロ機材のLEDやHMIライトを思い浮かべる人が多いと思います。本当にそれだけでしょうか?  照明器具という視点で見ると、少し出てくるかもしれません。例えば室内では「リビングにあるシーリングライト」「懐中電灯」「TVの明かり」「携帯電話のライト」「勉強机に置いてあるZライト」「看板を照らしているクリップライト」「寝室にあるオレンジ色の読書用ライト」一例を挙げるだけでもこれだけのものがあります。

それでは室外ではどうでしょうか?「太陽」「街灯」「お店の明かり」「車やバイクや自転車のライト」「マンションの廊下の蛍光灯」などです。明るいところは明るくて当たり前。暗いところは暗くて当たり前。そう判断をしてしまっているかもしれませんが、周りを改めて見渡すと照明器具はたくさんあります。

今回はインタビュー撮影のライティングを作ってみました。まず私が気にしたことは、この部屋の室内の照明環境です。照明環境がない(真っ暗)な部屋はないと思います。部屋の照明環境を活かしたセッティングを行えば、コストも削減できます。

被写体の場所は背景との兼ね合いもあると思うので自由に決めてください。次に、室内の照明がどう被写体に影響しているのかを確認します。部屋の電気を全部消して右ページの1番の状態にします。そして1度カメラで録画し、この工程を2番の状態、3番の状態、2番と3番を同時につけた状態と繰り返します。そうして現状を把握してから作業を始めると効率が良いかもしれません。

最初の例では顔には影を落とさずフラットな状態にしたかったのですが、1+2+3番をONにした明かりの状態で白いテーブルの反射もあり、カメラを通して被写体を見てみると、顔は明るくフラットになっています。もし光量が足りないと思った場合はカメラ側でISOなどを触り明るくしてください。これだけでは被写体の左肩と背景の絵の色のトーンやスーツと椅子の背もたれのそれが似ています。そこでLEDライトの出番です。向かって右後方から被写体の左耳に当てる気持ちでセッティングすると、今言った部分の色がハッキリと分離して、被写体の立体感が引き立ちます。このように撮影用に準備した照明機材はメインで使用するだけでなく補助光としても役に立ちます。

◉元々の明かりが被写体にどう作用しているのか見極める

【部屋の照明配置】
部屋には窓が1つ。天井に蛍光灯が2系統。被写体の背景には白熱灯が配置されている。撮影当日は曇りだったため昼間でもやや暗めの明かりだった。すべての明かりをつけてみると、テーブルが白いこともあり、天井の光が反射して被写体に光が回っていて、これはこれで成立はしている。

(左)1:窓明かりのみ (右)1+2:窓明かり+天井真上の明かり

(左)1+3:窓明かり+天井外側の明かり (右)1+2+3:窓明かり+天井真上+天井外側の明かり

◆◆ もうひと工夫!◆◆
小型のLEDライトを被写体右側に追加

室内の電気にさらにもうひと工夫加えてみた。被写体右側に小型のLEDライトを配置。
被写体髪の毛にツヤが出る。被写体左肩とイスや背景の色のトーンがくっきりし、立体感も出た。

◉仮にテーブルが黒かったとしたら?

【天井の明かりの反射が少なくなる】
先程と同じ照明。テーブルが黒かったとしたら、天井光の反射がなくなり、顎の下と眉間の辺りに影が落ちてくる。

【窓側にLEDを置いて、差し込んでくる明かりを演出する】
目に光が入り、生き生きとした。窓側からの明かりなので違和感なく明るくできる。
サイド光になり、目・鼻・顎のあたりの陰影がくっきりして、男性の場合は渋さを演出できる。

今回使用したLEDライトはLightdow PC-K128Cというもの。
アマゾンで3,253円で購入した。

 

ライティングの組み立て方

自論ですが、照明技術に正解も不正解もありません。これは照明に限らず、カメラも音声も編集でもなんでもそうだと思います。誰しも何も分からない専門外のことは多いと思いますが、見様見真似で撮影・編集すると、なんとなくできてしまうこともあります。ただ、その「なんとなく」が曲者だったりします。完成した物に自分自身が納得していても、それが「視聴者にどう伝わるか。どう受け止めてもらえるのか」というところまで意識することが重要です。

自分自身がその映像を通じて、視聴者にどんなイメージを伝えたいのか、そうするためにはどんなライティングにすればいいのか、日頃テレビやWEBを通じて様々な動画を目にする機会が増えています。既に世に出て評価されている映像や視聴者が注目している番組等に隠れた演出意図を見極め、その時どんなライティングをしているのかという部分にも着目してみると、参考になる部分も多いのではないかと思います。

◉証言ビデオ的なイメージに振ったライティング

【窓明かりと窓側からLEDライト一灯】
室内の電気はすべて落とし、窓明かりとLEDライトを一灯立てた状態。「深刻な内容の証言ビデオ」という
シチュエーションであれば、こうしたライティングも表現の1つとしてありえる。

◆◆ もうひと工夫!◆◆
被写体右後にLEDライトを追加

前の例と比べて、被写体の輪郭が浮き立ち、背景との境界がはっきりする。髪の毛にもやや艶が出る。
ただ、このままでは窓にLEDライトが写り込んでしまうため、ライトを当てていることがバレバレ。

黒い厚めのボール紙で窓に写り込んだLEDライトの明かりを切った。撮影者が一人で手が足りない場合は、
下のようなアイテムをライトスタンドに取り付けて使うのもいいだろう。

(右)「コネクティングクランプ」NCLG-30CL(2,940円):プロ機材ドットコム取扱
(左)「レンズシェード」ホーガンフレックスSL01(4,298円):エツミ取扱


ディフューズしたり、レフで光を起こす
意味と効果について解説

雲ひとつない快晴の空、こんな時の太陽光によってできる影は、凄くシャープに出てきます。これは明かりが「硬い」と言います。では、今にも雨が降りそうな時の曇り空はどうですか? 真っ暗ではないですが、晴天の時よりは暗いと思います。また、この時にできる影は晴天の時とは違って影の輪郭がにじんでボケています。これは明かりが「柔らかい」と言います。

理論的には雲(ディフューズ)が被写体に近ければ近いほど被写体の影が柔らかくなります。これをインタビュー撮影にも反映してみましょう。まずは照明はディフューズせず、直接LEDライトの明かりを当てるようにセッティングしておきます。被写体がインタビューを受けている時に、この写真のように体の前に人形など出すと、影が被写体に落ちてしまいます。

この影が嫌だなと思われた方は、ディフューズでよく使うトレーシングレーパーを雲のように被写体に近づければ、影はにじんでボケるため、影が出てても分かりにくくなります。また、乳白のものであればディフューズ効果があるため「ビニール傘」「ゴミ袋」「レースのカーテン」「クッキングシート」も同様の効果が表れます。LEDライトでは心配はありませんが、発熱する照明で火災の危険性があるものはやめてください。

照明器具がなくても、受ける光によってはほぼ同様の光量を発揮できるものがレフです。照明器具で補っていたところがレフで充分補えるのが利点です。そうして1台余ったライトは背景や被写体の輪郭用やキャッチライト等いろんな可能性が増えます。また白レフを近づけるというのは、雲を近づけるのと一緒なので明かりは柔らかく暗部を明るくしてくれる効果があります。

また外で使用する場合は、レフを傘のように構えて太陽光を遮る使い方もできます。女性の場合、ある程度、顔はフラットにして大丈夫なことも多いと思いますが、男性は顔半分を少し暗くして、グラデーションを作ることで顔が締まってカッコよく見える効果があります。

◉製品紹介を手前にかざすと被写体の顔に影が落ちてしまう

【被写体正面にLEDライト・ディフューズ(拡散)なし】
例えばLEDライトが正面にあって、製品説明のために顔の前に製品をかざしたとする。今回のLEDライトは元々、
乳白色のディフューザーが備えられており光が拡散されてはいるものの、それでも顔に影がかかってくる。

【ライト前にトレーシングペーパーを一枚挟んでディフューズ】
トレーシングペーパーをライトの前にかざしてみた。
ライトとの距離がまだ近いのか、顔の影には先程とさほど変化は見られない。

【画角に写り込まないようになるべく近づける】
トレーシングペーパーをくしゃくしゃにしてから、大きく膨らむようにテープで貼り付けた。
カメラの画角に写り込まないようになるべく被写体に近づけると影はほぼ気にならなくなった。

【乳白色のビニール傘もディフューザーとして使える】
コンビニでも手に入る乳白色のビニール傘をディフューザーとして使うこともできる。
その他、クッキングシートやゴミ袋なども同様の効果を出すことができる。

【別のシチュエーションでディフューザーの効果を見てみる】
ディフューズの効果をわかりやすくするために窓明かりとLEDライトのみで人形をライティング。
左からディフューズなし、ライトの近くにトレーシングペーパーをかざした状態では、若干影は
和らぐが大きな違いはない。画角に写り込まないようになるべく被写体にトレーシングペーパーを
近づけた状態。全体的に光量は落ちるが、影が和らいで馴染んで見える。

◉レフで起こすパターン

窓明りと窓付近にLEDライトを1灯。その反対側に白レフを置いて、影を起こした。
背後の白熱灯を点灯させて背景を暖かみのある色にしてみた。ISO400の設定では
全体的に暗かったため、ISOを1600にあげた状態でも撮影した。

 

少ない照明機材でも戦える

「メインライト」「メインライトの影を補うライト(抑え)」「輪郭出すためのライト(逆)」という、プロの現場でよく基本とされている「三点照明」という言葉があります。まずは基本とされている三点照明を勉強しようという方も多いと思います。「この方向から照明を当てたらこういう効果が出る」ということを理解するのは、とても大事ですが、毎回この手法が活躍するとは限りません。

私自身、もし照明器具がなかったらどうやって撮影するんだろうと考えた時に、やはり部屋明かり(地明かり)を上手にコントロールできるようになると色々なパターンの照明を作れようになりました。また、セッティングを開始するのも見切り発車では結論がわからず、いつまでもセッティングが終わらない可能性もあります。「今回の撮影ではこうしたい」という参考資料を予め準備しておき、それに近づけるようにセッティングを行えば、まず間違いなく迷わないと思います。

◉外でインタビューをする場合のライティング

【アイキャッチで目に光を入れる】

撮影日は曇りだったこともあり、太陽光が雲によってディフューズされている状態。LEDライト(光量は微量でも効く)を追加すると、目に光(キャッチライト)が入り、目が生き生きとして見えるようになる。ここにさらに白レフを追加すると、目に入るキャッチライトも大きくなる。光が回って全体にフラットな明かりになり、肌の凹凸なども目立ちづらくなるので、女性を撮影する時など肌を美しく見せたいようなシチュエーションに向いている。

ちなみにLEDライトを左から当てたのはモデルさんの髪型。右からライトを当てると髪の毛の影が出てしまう。こうした部分にも目を向けるのが大事。

【あえて陰影をつける方法も】

斜めにしてかざすと顔に程よく陰影がついて、立体感が出てくる。レフを真上にかざすと影が全体に落ちてしまい、どんよりした印象の映像になる。良し悪しというよりは、「こうすることで光がどう変化するのか」をしっかりと観察し、映像の演出意図によってこうした効果を使い分ける。