第11回 枯れ木に花を咲かせましょう~ナレーションで大切なこと


文=長谷川修(大和映像サロン会長)
タイトル=岩崎光明

アマチュアの映像制作に付いて回るのがナレーションの問題です。皆さんも大なり小なり悩んだことがおありでしょう? え、悩んだことがない? いや~恐れ入りました。え? ナレーションは入れないことにしているから悩まない? う~ん! ナレーションというと、多くの人が「自分の声が嫌いだから」「話し方が下手だから」というような理由で身構える節があります。では自分の声が好きだといえる人は、どのくらいいるのでしょう?

皆様は初めて自分の声を聞いた時の印象はどうだったのでしょうか? 私が初めて自分の声を聴いたのは、大学3年生の時でした。放送研究会にあった東通工(東京通信工業・ソニーの前身)のテープレコーダーに吹き込んだ自分の声を聴いて「これが俺の声なのか!」とショックを受けたのを覚えています。自分の声はもっといい声だと思っていたのですネ! 時代はテープレコーダーが日本で開発されたばかりの1957年頃の話です。

「見てわかることを説明するな!」とは、よく言われますネ。要は画像で説明しきれない部分を補完するのがナレーションです。上手なナレーションは〝花咲爺〟のように枯れ木に花を咲かせるようなものです。さりげなく撒いた灰が枯れ木に花を咲かせ、観ている人が「ま~、きれいね」となれば大成功です。満開の花に余計な灰をかけて花を枯らしてしまっては何にもなりません。

綺麗に咲いている沈丁花(ジンチョウゲ)の映像に対し、沈丁花の説明を加えるよりも「沈丁花が辺り一面に春の香りを届けています」てな具合に、画面に映っていないものを語ったほうが、お洒落でしょう?

時々、プロもしくはセミプロにナレーションを頼んで制作した作品を見かけます。聴けばすぐにプロだとわかります。プロですから上手なのはあたり前田のクラッカー。でも、どことなく冷めた語り…というか、よそよそしい感じがすると思いません?

私は、〝ナレーターはその作品の最大の理解者であるべき〟だと常々思っています。最大の理解者は制作者本人のはずです。あなたの口で語ることは、声の良し悪しを超えて観る人の胸に届くものです。

また最近では機械が喋る時代になりました。原稿を入力しますと男女の声を自在に喋るのにはびっくりです。初期の製品はイントネーションが不自然で、これを実際に使うのは無理だと思いました。ところが改良された製品の見事なこと。それでも機械の原稿読み装置は、下手でも肉声、しかもその作品の最大の理解者であるあなたの語りには敵わないのですョ!

私の尊敬する先輩のYさんは数年前に肺がんで肺の三分の一を摘出して、息が続かず声もかすれて来たので最新のその装置でナレーションを入れました。失礼を省みず「やはりYさん自身の語りのほうが絶対にいいけど~」と言ったところ、本人も再度トライして見事なドキュメンタリー作品に仕上げました。

また、ビデオ仲間に強烈な津軽弁の人がいます。毎年その津軽弁を楽しみに上映会に行くのですが、その年は他人の語りだったので見事に肩透かし。反省会で多くの人たちに「なんであんたが喋らなかったの?」と、指摘されていました。お国訛りを気にしてナレーションが嫌いなあなた、お国訛りも立派な武器なのですぞ!

作品の最大の理解者は作者本人と申しましたが、奥様もその一人です。ご主人よりも声が良く、語りも上手で、中にはプロも顔負けという奥様が結構いらっしゃいます。ましてや奥様は年金プロダクションの財務大臣も兼ねた実質プロデューサーですから、ここは奥様を立てて、ナレーションをやってもらうのも手ですぞ!

それでも気を付けたいのが〝感情移入過多〟です。画面に先んじて感動の表現をオーバーに語る傾向があるのですね。語り上手と評判の人でも、程度の差こそあれ、不思議と感情移入過多が見られます。奥様に頼んでおいてこの点を指摘するのは無理かもしれません。その時はこの記事をさり気なく見せるのも手です。そいつができれば苦労はない? ごもっとも!

「ナレーションの原稿を書くのが苦手で、ついつい億劫になるんだよね~」という話を聞きます。私だってナレーションン原稿を書くのに、歌の文句じゃないけれど♪書いてまた消す湖畔の便り…ですョ。それだけナレーションには苦労します。苦労するということは考えているからです。考えなければ苦労もしません。それでも映像の補完以上のことを話そうとしないと決めれば、肩の荷も降りますョ!

有名なコンテストの上位に入賞した作品を観て、ある疑問を感じたことがありました。格調高い語りと名文で観る人を唸らせての入賞なのでしょう。でも美文調の語りの分量が多く、画面を観なくても作品の内容がわかるのです。ラジオ番組ならばともかく映像作品なのです。よくBGMの全編流しっぱなしが問題になりますが、全編喋りっぱなしもいかがなものでしょうか。

私が8㎜映画を始めた頃、あるクラブの例会にお邪魔した時のことでした。私の作品を観たそのクラブの長老から「あんたはナレーションが上手だね。だけど自分の喋りに酔っているんだな。ナレーションの分量を半分にしな! そうすればスッキリしていい作品になるよ」…なるほど、言われてみればその通りだと思いました。以後今日まで、その教えを大切に守っています。

まあいろいろと書きましたが、しょせん私達はアマチュアです。プロに敵うべくもありませんが、上記のことに気を配れば、アナウンサー顔負けのナレーターになれるかもしれませんヨ!?

月刊「ビデオサロン」2015年11月号に掲載