映像編集者のリアル 第3回 ─ 今井大介[前編]


 

映像編集者のリアル
〜クリエイティブの “余白” で演出する編集者たち〜

第3回
『ラブライブ!』『武曲 MUKOKU』編集
今井大介[前編]

この連載では、作品のクオリティを左右する重要なポジションであるにも関わらず、普段なかなか紹介されることのない映像編集者たちの"リアル"に着目し、制作過程や制作秘話、編集にかける思いなどを前後編の2回に分けて聞く。今回は、編集を専門に行うポストプロダクション"ジェイ・フィルム"に所属し、これまでにアニメ、ドラマ、ドキュメンタリー、映画など、ジャンルを横断して多くの作品の編集を手掛けてきた今井大介さん。

写真=中村彰男 取材・構成=トライワークス

 

プロフィール
今井大介・いまいだいすけ/1973年生まれ、静岡県伊豆長岡町出身。1998に東京工芸大学芸術学部映像学科を卒業。その後、ニューシネマワークショップで出会った編集者・掛須秀一が代表を務めるジェイ・フィルムに入社し、アニメ作品をメインに担当。近年は松江哲明監督、山下敦弘監督の作品の編集も手掛けている。

 

「ラブライブ!」の時に編集の手ごたえを感じた

―― TVアニメや実写映画など、いろんなジャンルの作品の編集を手掛けられていますが、年間でどれくらいの作品に携わっているんですか?

アニメは3~4本、実写作品は1~2本ぐらいですね。どうしても作業が重なってしまうので、届いた素材はなるべく早く取り掛かって溜めないようにしています。どんなに忙しくても、提出する映像は「こういうつもりでいます」と僕の方針が分かってもらえるように、気持ちを入れた編集にしてからでないと見せない、という自分の中でのルールはある気がしますね。

―― 今井さんが所属しているジェイ・フィルムは映像編集専門のポストプロダクションですが、仕事が重なった場合は社内でお互いに助け合ったりするのでしょうか?

そうですね。アシスタントもいるし、手が空いている人を呼んでくることもあります。ジェイ・フィルムの中でもいろんな作品が同時進行しているので、情報や意見の交換、もちろん技術的なアドバイスや、トラブルにどう対処するかという相談もできるので、忙しい時でも安心感があるというか、プロダクションであることの強みだなと思いますね。

―― そういった ”ヨコの繋がり” は、フリーランスの編集者にはあまりない環境だと思います。

これも組織でやっているメリットだと思うんですが、業界的に希薄になっている助手制度がちゃんと残っているんですよ。僕のアシスタント時代は、掛須(秀一)が編集している部屋で作業を見せてくれたんです。「ほら、このつなぎ方をしたら、映像の印象が変わるだろ」と、たまに手を止めて技術を見せてくれたので、すごく勉強になりましたね。今でも「ヒマなら他の人の作業でも見れば?」という感じで、みんな社内でそれぞれの部屋を行き来していますよ。

―― お互い編集者同士、どんな会話をするんでしょうか?

園子温監督の作品などを担当している伊藤(潤一)は僕の先輩なんですけど、「どうして、ああいうつなぎになったの?」ってよく聞いてますね。伊藤は温和な人柄なんですけど、編集になると急にカットを速く割ったり、逆に全然割らなかったり、かなり”凶暴な編集”をするので、興味があって(笑)。

―― 逆に今井さんが手掛けた中でよく聞かれる作品……同業者の目も含めて手応えを感じた作品は何ですか?

アニメだとやっぱり「ラブライブ!」かな。スタートしたばかりの頃の「ラブライブ!」は、実はかなり暗中模索状態で、まだ新人だった京極(尚彦)監督と一緒に、キャラクターたちをどう描いていくか、というところから一緒に考えて編集をしていたので。そんな初期の状態から、完成して世に出て、どんどん受け入れられていく……という過程をすべて体感できたのがすごく思い出に残っているんです。

―― 現場ではどのあたりで「いける!」と感じたんでしょうか?

うーん……どうですかね。音楽が入って、映像をミックスした完成版を見たときに、初めて「うまくいった!」と思ったかな。編集者としてはそのタイミングでは遅くて、編集しながら「いける!」と思ってないとダメなんですけどね(笑)。人気コンテンツをアニメ化したという以上に、素直に「ちゃんとドラマになってる」と思えたんです。

―― 「ラブライブ!」の編集で大切していたことはありましたか?

この作品に限らず、僕が編集で一番大切にしているのは ”監督と一緒に作る” ということ。監督とコミュニケーションを取りながら、少しずつ自分の編集のリズムを作っていくやり方が気持ちいいですし、編集していて楽しいですから。監督と意見交換が本当に満足できる形で実現できたのが「ラブライブ!」だったんです。

 

 

お茶の間のことを考える。これも編集の仕事なんだ

―― アニメにおける編集の役割を教えてください。実写と違ってアニメには明確な絵コンテがあるので、それに基づいて作画していくわけですから、あとは順番どおり素材をつなぐだけでは…と、思われるのではないでしょうか?

そうですね。監督が描いたコンテのカットを作画さんたちが仕上げてくれて、それが集まってきたら編集に入るんですけど、それぞれの作画スタッフが1カットごとに作ってきたものをタイムラインに並べてみると、カット単体としては良いアニメーションでも、つなげるとうまくいってないこともあるんです。編集作業に入らないと全体の流れが見られないので当然ではありますが、そこに編集者の ”目” を入れつつ、音楽や台詞の間合いやリズム感を調整していくのがアニメの編集ですかね。

―― 編集はカットを切るだけではなく、足すこともあると伺ったんですが、それはどういったケースですか?

リテイクですね。新たに画を描いてもらって編集し直すんです。ちょっとした風景カットとか台詞と台詞の間、ブレス、会話の間合いなんかを足すことはよくあります。動きが複雑な芝居部分を増やすことはあまりやらないですね。例えば、人の会話って、まくし立てて喋っていても急にゆっくりになる、という ”流れ” が絶対にあるんですよ。それは作画の時には気付かなくて、編集でシーンをつなげて初めて気付くもの。切る、足すはそこでしか判断できない。TVシリーズだとCMを入れるタイミングとか、物理的に尺と合わない場合もありますね。

―― 足すも引くもコストに直結するので、その決断は実写の編集よりアニメの方がシビアだと思います。

もちろんコストの問題もあります。でも、アニメはずっとフィルムで作ってきたので、その時代は「フィルムを扱える人」という意味で編集者は重要なポジションだったと思います。ラッシュで編集して、リテイクも差し替えつつ、最後はネガで原盤を組むという技師としての存在。さらに言えば、TVアニメだと尺やタイミング以上のことも考えないといけません。僕がアシスタント時代に感心したエピソードですが、シーンの終わりをフェードさせて黒コマを2秒入れる編集について、師匠の辺見(俊夫)が「黒が2秒映っちゃうと、画面に自分の顔が映っちゃうからやめよう」と。家でアニメを観て楽しんでいた子どもでも、暗くなった画面に自分の顔がぽかーんと映ったら、急に現実に引き戻された気分になる。その提案を聞いて、「これも編集の仕事なんだ」と思いましたね。視聴者がいるお茶の間のことまで考えて映像を作る――。この時にアニメの編集って面白いなと初めて思ったので、すごく鮮明に覚えているんです。

▲エレファントカシマシのドキュメンタリー映画を編集した際に、映像の流れをすべて書き出した。

▲多数の作品の編集を担うジェイ・フィルム。保管庫には大量のLaCie製ハードディスクが並んでいた。

▲社内のスケジュール表には担当作品、作業工程、来客予定などがびっしりと書き込まれていた。

”撮られてしまったもの” を優先して映像に使いたい

―― 今井さんは自分の編集スタイルがどういうものだと思いますか?

一般的に編集は、映像を客観的に見る立場だと思われているかもしれないですけど、僕は客観的にはなれないと思うんです。まず精一杯の主観で映像をつないでいくというか、思い込みありきでつなげていって、そこに監督やプロデューサーから出た意見を反映させる。作品はいろんな人の手にまみれてできるものなので、編集が主観的でもそれはあくまでひとつの主観。他にもスタッフの主観や製作側の主観があって、すべての主観が集まった結果、より客観的なものができあがる、というスタンスで編集していますね。

―― 主観で編集……かなり意外ですね。では、主観で編集している時には、どんなことを意識して映像をつないでいくのでしょうか?

実写の場合は、台本や構成の外側にある ”撮られてしまった画” がすごく気になるというか、意識的に映像に取り入れようとしますね。僕が映像の中に見つけた役者のちょっとした仕草や、ほんの少し笑った顔、一瞬だけ伏せた目……とか、編集では効果的に使えるんです。

―― 台本というルールを超えていることでも、面白いと思えば優先するんですか?

それこそがおそらく作品を台本以上に面白くする要素なんじゃないかな、と。特にドキュメンタリーはそういう見方を強めますね。物語を追うのはもちろんですけど、映像をチェックしていてすごく気に入ったカットがあったら、何としてでも使うようにしています。その偶然撮れたカットを他のカットと組み合わせると、シーンがまた違った印象になることもある。

―― 逆に優先的に切っていくのはどんなカットですか?

例えば、インタビューの映像だったら質問の部分。対象者の答えだけをつないで、何を質問されているか分かるように工夫しますね。順番通りに並んだ映像だと観客も流して観てしまいがちですが、「この人は何を聞かれているんだろう……?」と考えながら観てもらうと、もう一段階、映像に没頭すると思うんです。このご時世、説明がほしいという需要がすごく高まっているからこそ、そういう考えになったのかもしれないですね。だったらその説明を見せずに伝えられたらもっと面白いんじゃん、と。

―― ただ、今井さんが使いたいカットに監督が反対する場合もあるのではないでしょうか……?

その時は、僕が選んだカットがよく見えるように前後のカットを編集しちゃいます(笑)。もちろん、監督の意見は優先しますけど、一旦やってみる、監督に見せてみるという感じ。それでダメならしょうがないですから。

―― 今の映画やテレビ業界で、そのような編集者に与えられた ”余白” は少なくなっていると感じませんか?

いろんな要因があって、監督が自分で編集することが増えてきたのも確かです。でも、自分の実感としては「やっぱり編集者が必要だよね」と言ってくれる人は、まだまだ多い。だから、危機感はあまりないですね。予算が削られたことで素材そのものが昔より少なくなっているかもしれませんけど、「別の選択肢があればいいのに」とは思わなくて、ある素材でどう精一杯やるか、と思いますし。編集作業中に、この映像、もう1台カメラが回っていたら……とふと考えますが、だからといって作品全体の質は変わらないと思うし、結局は来たものをどううまく見せるかの勝負。編集者が本当に考えるべきは、その勝負だけなんです。

●この記事はビデオSALON2017年11月号より転載