ミラーレス一眼カメラで動画撮影できるようになり、今や多くのビデオユーザーが動画用途でパナソニックGHやソニーαなどのミラーレス一眼を使うようになった。動画ユーザーはそれほど馴染みがないかもしれないが、実はライカSLシステムというミラーレス一眼が2015年から出ている。センサーはフルサイズの2400万画素CMOSで、動画時はAPS-Cでないと4K撮影ができないが、HDMIからは4:2:2 10bitを出力することができる。そこから想像するとエンジンとしては、おそらく他社と協業していると思われるが、カメラ、レンズのベースはオリジナルである。このライカSLシステムは、発表時には24-90mm、90-280mmの2本のズームと50mmの単焦点が用意されていた。ただボディは80万円、レンズはそれぞれ60万円以上ということもあり、スタジオでライカで広告写真を撮影しているようなプロのカメラマンやライカファン以外は、なかなか手を出しにくかったのは事実だ。価格の面もあり、これまでビデオサロンでもまったく扱ったことはなかった。今回、そのライカSLの75mmと90mmの単焦点レンズが発売されるのに合わせ、プロダクトマネージャーがドイツから来日。お話を訊くことができた。 (編集部)

▲ライカSLのプロダクトマネージャーのステフェン・スコップ(Steffen Skopp:右)さんとプロ用カメラシステムの全体を統括しているステファン・シュルツ(Stephan Schulz)さん。

なぜライカもミラーレス一眼の動画カメラ

ライカというと高級スチルカメラというイメージが強い。あえて動画市場を狙う必要もないと思うが、どうして動画なのだろう? ライカのデジタル一眼というとライカSシステムというプロフェッショナル仕様のカメラシステムがある。2008年に発表されたライカSシステムの初代機であるライカS2というカメラは45×30mmという35mmフルサイズより大きい中判カメラシステムだったが、そのユーザーの声として、動画も撮れるようにしてほしいというリクエストがあったのだという。スタジオでスチル撮影をすると、同じライティングと同じセットで、動画を撮ってほしいと言われることが多かったのだそうだ。

2015年登場の35mmフルサイズのライカSLシステムでは動画機能も搭載。技術的にAFのミラーレスカメラを目指すとなると、フィルムの一眼カメラのテクノロジーというよりは、ビデオカメラに近いテクノロジーを使うことになる。ユーザーからのニーズ、そして技術の進化の必然からして、動画を強化するのは当然の流れだった。ライカSLでは静止画をベースに動画でも高いレベルを目指した。

 

映像業界でも使われているライカレンズ

それとは別に、ライカレンズは映画業界ですでに使われている。ライカでは、光学性能技術をいかして、2008年にシネマレンズの開発もスタートした。別会社ではあるが、ズミルックスCとズミクロンCという2つのプライムレンズのシリーズが商品化され、成功をおさめている。このシネレンズで2015年にはアカデミー賞の技術賞を受賞。ハリウッドを中心にかなりの数の映画がライカシネレンズで撮られているという。記憶に新しいのは、THALIA《ライカ・タリア》というスーパー35よりも大きいセンサーサイズをカバーするレンズの登場だ。映画業界でもライカレンズは定着しつつあるのだ。

急速に浸透した背景として、もともとハリウッドの映画監督、撮影監督にライカファンが多いということもあるようだ。ライカはアメリカが大きいマーケットということもあり、子供の頃からライカに憧れているという人が多い。ライカのレンズで映画を撮れたら、というニーズがあったということも普及を早めた要因ではないかという。それ以外にも、密かにライカレンズが使われていたこともあった。ライカの一眼レフ、Rシステムは1970年代に多くのレンズがラインナップされたが、そういったレンズを使って映画を撮るというのは多くやられていたようだ。

▲ライカの一眼レフシステム用のRレンズをライカSLに装着。

▲左はライカのシネレンズ、右はMマウントレンズをシネ仕様に変更したもの。

ライカレンズのシネマラインナップを整理すると、そのRレンズは除外して、新しいズミルックスC、ズミクロンC、タリア、そして定番のMマウントレンズをシネマ用に改造したタイプの4シリーズということになる。ちなみにシネマ用Mマウントレンズだが、サードパーティではなく、自社でクリックを外し(デクリック)、フォーカスリングをギア化しているという本格的なもの。ライカが映像業界にかける意気込みが本物だということがわかる。

▲Mマウントレンズのシネ仕様。フォーカス、絞りともに気持ちのよい操作感。

 

ライカSLレンズとは?

今回のSLレンズは、スチルも動画もというシステムであるが、シネマレンズということではない。では、シネレンズとSLレンズの違いはハウジング以外の部分でどういったことなのだろうか?

シネマレンズは、フィルムで撮影されるということもあり得るので、設計は保守的な部分にならざるを得ない部分があるという。たとえば歪みや周辺光量落ちなどがないよう設計しないとならない。そうなると設計もバランスをとらなければならない。一方でこういったSLレンズは、もちろんライカレンズの伝統に則って、歪み、解像感、周辺光量落ちなどに気を配って設計されるが、カメラとのセットで設計できるので、たとえばやや歪んでもいいから、ひたすら高い解像度を目指すという考え方を採用している。またシネマレンズと違って、軽量化も考えなければならない。SLレンズは新しい時代に合わせて、若い精鋭部隊が担当しているのだという。ちなみにSLレンズには外観写真を見てもらえればわかるとおり、絞りリングはなく、ボディから絞りを変更するシステムなので、絞りをデクリックして絞りバネをシームレスに動かすことはできない。またSLレンズはカメラとのセットで考えられているので、このレンズを例えば他社の機種で使うということはできない。逆にライカSLのボディ側は、純正でMマウント、Rマウント用のマウントアダプターがあり、サードパーティからはキヤノン、ニコンレンズ用のアダプターが用意されているので、多種多様なレンズを使うことができる。もっともライカの場合は、ライカのレンズを使いたいという人が大半だろうが。

▲2018年春に登場する広角ズームと秋に登場する単焦点レンズ2本。

ライカのレンズはどうして高いのか?

それにしてもライカのレンズは高い。それはどうしてなのだろう。そもそも価格帯を意識してものづくりをしていないのだという。たとえば75mmでF2のレンズだったら、だいたいこれくらいだろうというところから出発していない。そして、お金のかけかたが違う。鏡筒は樹脂の部分はなく、全部金属。そしてレンズの材料も贅沢なものを使っている。また最近は非球面レンズが安くできるようなったが、これは金型を作ってプレスして作っていく技術ができたから。しかしこのプレスでの製作だと熱が発生するために使えないレンズ材料というものがある。そのレンズ材料でも想定した性能がでればいいが、ライカSLではその材料では満足がいかないということで、削り出して非球面レンズを作っている。必然的に価格は上がっていく。

また、高い解像度、立体感、質感はもちろんだが、それがどの焦点距離、どの絞りでも一様に実現されていなければならない。それが描写の安定性につながる。

製品としてばらつきが少ないのも特徴で、どのレンズも厳しく全数検査をしている。こだわりが全然違うのである。

GH5SとLEICA12-60mmはライカSLムービーのファーストステップか?

プロダクトマネージャーに答えにくい質問をしてみた。ライカSLムービーは、見たことがないのだが、GH5Sとの組み合わせで使われるLEICA 12-60mmはライカの認証を受けてパナソニックが開発製造しているレンズだが、この組み合わせは、きちんとライカの思想は体現されていて、ライカSLムービーの第1歩と考えていいのだろうか? それともライカSLとGH5Sムービーは別物なのだろうか?

もちろん、GH5SとライカSLではセンサーサイズが違うので単純比較ではできない。フルサイズはMFTの4倍もあるわけだから(4KのときはAPS-Cになるが)、性能基準が別物といってもいいだろう。とはいえ、パナソニック製のライカレンズであっても、設計段階、プロトタイプ、さらに量産の各ステップで確認しているックしているので、ライカの考える性能が出ているという。したがってGH5やGH5SとLEICA8-18やLEICA12-60がライカムービーのファーストステップと考えてもらってもまったく問題ないという。

最終的にはスチルもムービーも、どれくらいの大きさで再生することを想定しているか、ということになる。たとえばスチルであれば手札サイズでいいのか、ポスターサイズなのかによってレンズに求められる性能基準は変わってくる。動画で言えばYouTubeでいいのか、映画館やイベント会場の大スクリーンなのかということだろうか。

ライカSLシステムをどうやって評価するか?

お話を伺っているいるうちに、ライカSLシステムを試してみたくなった。ただ、そのときにきちんと真価が評価できるのかが問題になってくる。たしかに大画面になればなるほど見るポイントが違ってくることは我々も日々体験していること。ブリージングが云々されるのもそういった大画面での環境である。コストの兼ね合いもあるし、映画制作でないのにレンズのニュアンスをそこまで求める必要があるのかということもあるだろう。

いやいや、もしかしたら画面サイズだけでなく、Retinaディスプレイのような高精細パネルや有機ELのようなダイナミックレンジの広いパネルで見ることによって、レンズのニュアンスが否応なしに伝わってくるのかもしれない。

いずれにしても、動画においてもレンズのクオリティやニュアンスが相当効いてくる時代に突入しようとしていることは間違いないようだ。

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