映像編集者のリアル 第9回 『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』編集・伊藤潤一[前編]


映像編集者のリアル
〜クリエイティブの “余白” で演出する編集者たち〜

第9回
『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』編集
伊藤潤一[前編]

この連載では、作品のクオリティを左右する重要なポジションであるにも関わらず、普段なかなか紹介されることのない映像編集者たちの"リアル"に着目し、制作過程や制作秘話、編集にかける思いなどを前後編の2回に分けて聞く。今回は2005年以降、鬼才・園子温監督の作品の編集を手掛けてきた、ジェイ・フィルム所属の伊藤潤一さん。編集におけるセオリーや固定観念を疑い、打破しているオリジナルな編集術について語ってくれた。

写真=中村彰男 取材・構成=山崎ヒロト

プロフィール
伊藤潤一・いとうじゅんいち/1974年生まれ、名古屋市出身。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、編集を専門に行うポストプロダクション、ジェイ・フィルムに入社。代表の掛須秀一ほか、編集者の下で助手を経験し、2005年に園子温監督の『夢の中へ』で実写映画デビュー。以降、現在までほぼすべての園監督作品で編集を手がけている。

凶暴な編集ということは
自分では意識していません

—— まず、伊藤さんの編集フローについてお聞かせください。

基本的に流れは、撮影中から編集を始めて、すべてつなぎ終わったところで監督やプロデューサーに見せます。そこで「このシーンはこういう思いで撮ったから、こういう風に使ってくれ」とか、「このシーン、もっとこうしたほうがいいんじゃない?」と意見をもらって、監督と一緒に冒頭から再度編集していく感じですね。それができ上がったらもっといろんな人に見てもらって、意見を聞いて、最終的な調整をしていくんです。園子温監督の場合は、脚本も撮影現場も知らない監督の友人に見せて、その感想を持ってきたりしますね。反映したりしなかったりですけど。

—— 伊藤さんはさまざまな作品の編集に携わっていますが、監督によって作業フローに変化はありますか?

ありますね。園監督は音も含めて作品を作り込んでいくタイプなので、編集のときにイメージするために環境音やSEを付けていくんですよ。キャラクターの感情を音で表現する…というか。普通は画がフィックスしてから効果さんと一緒に作り込んでいくんですけど、それを先にやるイメージ。もちろん最終的な音は効果さんがきれいに作って貼り直してくれます。でも、画と音の編集を同時並行でやっていかなきゃいけないから、画や音の数が多い作品になるとかなり大変です(笑)。三木孝浩監督や高橋栄樹監督はMV出身で、ご自身でも編集されるのでちょっと流れが違います。例えば、三木監督の場合は、僕が1回つないだものを投げて、それを三木監督が再編集して戻してくる…というやりとりを何回かするんですけど、”見せたいものを見せる”という段取りっぽくなる編集マンのロジックとは違う、”感覚的な編集”になりますね。いつもカットのつなぎ方が独特だなって思います。

▲基本はAvidだが、使いやすいのはFinal Cut Pro 7だったそう。4Kの映像作品はPremiereで編集する。
▲フィルムにあった年代物のキーボード。Final Cut Pro 7専用のショートカットキー。

—— 独特なつなぎといえば、以前、同僚の今井大介さんにお話を伺ったときに、伊藤さんはカットを急に速く割るなど、かなり”凶暴な編集"をすると仰っていたんですが…。ご自身ではどう思いますか?

そうですか? あんまり意識してないですけどね(笑)。僕は園監督の映画でデビューして、ずっと園監督に育ててもらった感覚があるので、たぶん園監督の傾向にどんどん寄ってるのかも…(笑)。園監督はかなり特殊で、作品全体のテンポを上げたいときは編集で「もうそのシーンは要らない」って切っていきますからね。

—— 現場で撮ってきた画に思い入れがあって、長めに使いたくなってしまうのが普通だと思うんですが、園監督はどんどん切るんですね。伊藤さんが園監督に見せる前に編集するときもそれを意識しますか?

そうですね。「たぶんこんなイメージで撮ってるんだろうな…」と想像しながらつないでいく、というか。最近はもう、余分に撮ってきた芝居が何となく分かるので、その芝居はつながなくなってます。つなげてみて、もっとテンション上げていきたいと思うシーンなら、テンポや熱量、勢いを一番大切にしますね。俳優の皆さんには申し訳ないけど、たとえどれだけ良い芝居でも切っちゃうことはあります。

—— 『愛のむきだし』もテンポが速くて勢いのある作品でしたね。

あの映画は、3時間57分と尺が長くて素材も大量にあったので、やってもやっても終わらなかった印象があります(笑)。実はテンポが速くなったのは、尺を縮めなきゃいけないというのっぴきならない事情があって。そもそも園監督に脚本を渡されたときは、「これ、5時間になるから」って言われたんですよ(笑)。その後、制作サイドから2時間39分の『紀子の食卓』ぐらいでお願いします、と言われて。まあ、それでも長いんですけどね(笑)。そのせめぎ合いのなかで、仕方がないから映画を観ている人がひと息入れるようなシーンやカットをどんどん切っていった。もう全部のカットを短くしていく感じでつなぎましたね。でも、あの映画はそれが良い方向に行ったと思うんですよ。あのテンポでも観ている人が付いてきてくれると分かったので、次の『冷たい熱帯魚』は最初からその方向で編集しましたね。

—— 総尺が4時間半ほどある『愛のむきだし 最長版 ザ・テレビショー』は、もともと園監督が考えていた形にかなり近いんですか?

脚本に忠実にという構想だったので近いと思います。ただ、テレビ版は当初、”間”がちゃんとある作品にしようとしていたんですけど、改めて映画を見返してみると、やはりこの作品はスピード感が大事なんだなと思ったんです。すでにでき上がった映画のイメージをさらに膨らませて、カットしたシーンやセリフを入れ込んでいった感じですね。まあ、技術的なことをいうと、イチから作り直すよりそっちの方がラクだったというのもあるんですけど(笑)。

—— 伊藤さんはAKB48のドキュメンタリー映画の編集も手掛けられています。このシリーズは公開の直前まで編集していると聞いたことがあるんですが…。

最初に編集したドキュメンタリー第2弾は1月末の公開だったんですけど、画がフィックスしたのはその半月前だったと思います。そのぐらいのタイミングで僕の手から離れました。本編には元日に撮影した映像も使われていますし、年末の紅白の映像が映画の最後にくるので…。大晦日までは、紅白の映像を差し込む部分だけ空けておいて、他のシーンをどんどん進めて固めていたんですけど、紅白の会場で撮影している高橋監督から「NGが出た」と急に連絡が入りまして…。固めていたシーンもまた編集し直すという、通常の作品ではちょっと考えられない編集スケジュールになりました。実は第1弾にも少し関わっていたんですけど、カメラの多さ、素材の多さが尋常ではないので、このシリーズは大変ですね。

—— ひとつのイベントだけでも何台もカメラが回っていて、映像をチェックするだけで大変だったと思います。

確かに気が遠くなりますけど、映像を見なければ始まらないので…。第2弾の西武ドームコンサートで、AKB48のメンバーがバタバタ倒れていくシーンがあるんですけど、あの日はメイキングカメラだけで10台くらい回っていました。各カメラが朝から晩まで6時間分ぐらい撮影していて、コンサートが3日間ありましたから、それを全部チェックしなきゃいけなかったときはさすがに疲れましたね(笑)。すぐ直前まで倒れていた前田敦子が、そんなことを微塵も感じさせずに「フライングゲット」で舞台に立つところはメインで使いたいと監督との間で決めていたと思います。時間が限られているなか、そのシーンだけは最優先で全部チェックしましたね。

かわいい表情をどうやって
活かそうかずっと考えてる

—— 伊藤さんが編集されるとき、何を第一に考えていますか?

編集の前にひと通り素材を見ていくんですけど、そのときは”良い表情”があるか確認しています。僕の場合、その表情をどうやって見せるか、前後のシーンも含めて考えるところから編集が始まるかもしれないですね。作業していくうちにどんどんのめり込んでいって、だんだん登場人物が好きになる…(笑)。例えば、『愛のむきだし』は西島隆弘さん、安藤サクラさんももちろんですが、満島ひかりさんの表情がとにかく良かったので、「このかわいい表情をどうやって活かそうか」とずっと考えていましたね。ストーリーよりも、そっちを考えてる時間の方が長かったかもしれない(笑)。園監督の映画は強烈なキャラクターの力で物語を引っ張っていくので、その魅力が観客に伝わればストーリーに引き込みやすいというか、感情移入してもらいやすくなると思うんですよ。

—— キャラクターありきなんですね。伊藤さんが携わった作品の若手女優は、他の作品よりかわいさが増しているように感じます。人物を魅力的に見せるテクニックもあるんでしょうか?

表情をいかに活かすか、ですね。若い女優さんは特にそうなんですが、そのキャラクターがしゃべっているカットよりも、相手のしゃべりを受けているカットの表情が良いことのほうが多いんですよ。そういう良いカットを入れてあげれば、自然と観た後の印象が良くなるはずで、それがキャラクターのカッコ良さやかわいさにつながるんじゃないかと思います。僕自身、もともとアイドル好きなので、できるだけ女の子のかわいいところを見せてあげたいっていう気持ちがあるのかもしれないですけど。

—— どの作品でも守っている"編集の鉄則"はありますか?

基本的に編集は何をやってもいいと思うんですよ。日本の映画やドラマでは、よく無難なツーショットを長めに使うことも多いんですけど、あれがいまいち好きじゃなくて。意図的に寄ったり引いたりして強調させる編集が僕は好きなんですよね。ちょっと引っかかりを持たせて、凸凹している感じをそのまま出す、というか。でも、最近は自分の編集がパターン化してきてるんじゃないかと思うこともあって。『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』のスタイルで編集することはあまりやらないようにしようと思っていますね。他の編集者も同じようなスタイルで編集をしているのを見てしまって、じゃあ僕はもうやんなくてもいいかな、と(笑)。あんまり手癖で編集しないようにしているんです。

—— 伊藤さんにとって良い編集、悪い編集とはどういうものですか?

良いか悪いかっていうのは、結局、観た人がその映画の世界観に入れたか入れなかったかだと思います。その作品の世界観に違和感なくずっと浸れたら、編集的に良い組み立てをしたんじゃないかって。「編集を感じさせない編集」が理想だとよく言われますけど、僕はそう思っていなくて。たとえ編集されている映像だと頭で気付いたとしても、その映画に気持ちが付いていければ気にならない。映像と一緒に時間や空間を”飛ぶ”感覚というか、ワープできることが映画の良さなので。だから、「編集を感じさせる編集」でもいいんじゃないかなって思います。

▲編集を感じさせない編集が理想だとは思っていない。この言葉が伊藤さんならではの編集を物語っている。

 

●この記事はビデオSALON 2018年5月号 より転載