前回は、Tiny Whoopと呼ばれる
マイクロドローンを使用したPV撮影の模様をレポートした。
撮影とは違ったドローンレースの世界でも
Tiny Whoopが注目されており、人気を集めているという。
今回はドローンレースのトップクラスのレーサーでもあり、
Tiny Whoopによるドローンレースを主催している
日本ドローンレース協会(JDRA)の横田 淳さんにレースにおける
Tiny Whoopの現状とその魅力についてお話を伺った。

取材・文●青山祐介/構成●編集部

 

◉日本ドローンレース協会(JDRA)の横田さんを取材

▲ 今回取材に協力してくれたのは日本ドローンレース協会(JDRA)理事の横田 淳さん。ドローンレースの普及に努め、関連セミナーを多数開催。ラジコン・電子工作未経験からドローンをはじめたが、今ではトップクラスのドローンレーサーとして活躍。WEB●https://www.jdra.or.jp/

 

 

の平に乗るほど小さなドローン「Tiny Whoop(タイニーフープ)」はアメリカで生まれた。元々大型のレーシングドローンを楽しんでいた人々が、余興としてトイドローンにカメラとVTX(映像の送信機)を搭載し、レーシングドローンのようにFPV(一人称視点)で飛ばせるようにしたのが始まり。名前の由来はレーシングドローンのチーム名「Team BIG Whoop」をもじったものだという。その起源は米ホライゾンホビー社の「Blade Inductrix」だと言われる。プロペラガード一体のフレームにフライトコントローラーと操縦電波の受信機が組み込まれた基板、そして4つのモーター、バッテリーというわずか4つの要素で構成される。Tiny WhoopはここにFPVカメラとVTXを搭載したもので同社からも「Blade Inductrix FPV」というモデルが発売されている。

トイドローンとの違い

同じようなサイズのトイドローンとの違いは、やはりFPVで操縦を楽しむことに尽きる。Tiny Whoopから送られてきたカメラ映像をモニターやゴーグルで見ながら操縦するためドローンを目視できない物陰にも飛んでいける。ただし、カメラ映像を伝送するのにアマチュア無線の周波数帯を利用するため、FPVで飛行するにはアマチュア無線技士の資格とアマチュア無線局としての開局手続きが必要となる。

とにかく小型・軽量

Tiny Whoopの特徴は何と言っても小型・軽量であることこと。プロペラガードが付いても10cm四方にも満たないサイズで、その重さもわずか50g前後とひじょうに軽い。例えば前号で紹介した『オンナノコズ』PVの撮影に使われた「Nano Vespa 80 HDDVR Drone」は約68g。横田さんが理事を務めているJDRA主催の「マイクロドローン」レースで使用する機体は、なんと30g以下とさらに軽い。

 

「マイクロドローンのこの小ささと軽さ、そして必ずプロペラガードが付いているということで、安全に楽しめるというのが最大の魅力です。これだけ軽ければ、たとえ人にぶつかったとしても、まずケガをすることはありません。だから誰にでも簡単に始められて、狭い部屋でも飛ばせるんです」(横田さん)

 

◉狭い空間でも飛ばせるTiny Whoop、全国各地さまざまな場所でレースが開催されている

渋谷ヒカリエで開催されたTiny Whoopドローンレースの模様。JDRAではTiny Whoopドローンレースの全国開催を目指し、各都道府県で開催者を募集している。昨年は7ヵ所で開催され、2018年は20ヵ所での開催が決定。コースは5mまたは10m四方のスペースさえあれば設置可能で過去にはハンバーガーショップで開催したこともある。従来までの5インチの機体を使ったドローンレースでは男性の参加者が中心だったが、Tiny Whoopでは小中学生や女性の参加者も多い。レース中のカメラ映像はリアルタイムに会場に映し出され、観客は映像とともにレースを楽める。

 

◉JDRAのレース用マイクロドーンの規定JDRAが開催するレースにはいくつか種目があり、レースに参加できる機体のレギュレーションが設定されている。プロペラガードを必須としており、人にぶつかっても怪我をしない機体であることが参加の条件となっている。

 

ユーザーの傾向

横田さん曰く、従来のレースドローンはラジコン経験者やガジェットに興味のある男性ユーザーが多く、その年齢層も高い。しかし、Tiny Whoopは若い人や女性など今までドローンに馴染みのなかった人が始めるケースが多く、その人口も着実に増えているという。大型レーシングドローンに比べて価格が安く、また、壊れることが少ない。壊れても被害が小さいことからランニングコストが安く、スピードが出ないため初心者でも安心して飛ばせることが理由だそう。

 

操縦は難しい

とはいえ、そのフライトは決して簡単ではない。DJIの空撮用ドローンのようなGPSやセンサーによる機体の位置や姿勢の制御はほぼなく、その高度や位置は常にコントローラーのスティックを操作して調整しなければならない。さらに、操作に対する機体姿勢の反応具合をはじめ、フライトコントローラーの設定を調整する必要もある。

 

「本来、ドローンを組み立てて調整し、操縦の技術を磨くというのが趣味としてのドローンの楽しみです。空撮から入った人にとっては煩わしいかもしれませんが、これができればどんなドローンも自在に扱えるようになります」(横田さん)

 

 

▲ FPVゴーグルはFAT SHARK HD3を使用。

 

▲ プロポはフタバT14SG。

ドローンのカメラ映像を見られるFPVゴーグルは5.8GHz帯の電波を使用するため、ホビーユースの場合はアマチュア無線4級、業務ユースでは第三級陸上特殊無線技士の資格が必要。なおかつ、総務省への無線局開局申請が必要になる。こちらの具体的な手続きについては別の機会に解説していきたい。

 

 

カスタマイズする愉しみも

趣味としてTiny Whoopを楽しむ人の多くは、ただ出来合いの機体を飛ばすだけでなく、スピードを求めてモーターを交換したり、高画質なカメラに交換するなど、カスタマイズを楽しむ人も多い。そういったノウハウはFacebookなどのSNSや、ドローン飛行スペースといった場で、ユーザー同士の情報交換が盛んに行われている。

 

「マイクロドローンのFPVフライトができるようになると、レースや空撮だけでなく、例えば災害現場で倒壊した家屋の中や、煙の向こう側にいる要救助者をドローンで見つけるといった飛行もできるようになります。そういったドローンオペレーターの育成にも、マイクロドローンは一役買っていると僕は思っています」(横田さん)

 

◉横田さんが自作したレース用マイクロドローン

▲ プロペラガードが一体となったフレームにフライトコントローラー、モーター、プロペラ、カメラ、FPVの送信機、操縦電波の受信機、バッテリーが組み込まれている。バッテリーは250mAhの1セルで約4分の飛行が可能。左の機体はHD撮影に対応するカメラユニットを搭載。両方とも30gの重さに収まるように各パーツを選定している。

 

◉横田さんがおすすめする入門者向けモデル

Indctrix FPVにはBNF(ドローン単体)とRTF(プロポとモニターのフルセット)がある。RTFには4.3型のモニターがついてくる。注意したいのはカメラはあくまでFPV用で機体には録画機能はない。レースや操縦、飛行練習を楽しむための入門機という位置づけ。日本では福岡のAir Craftが代理店になっている。写真に写っているFPVゴーグルは別売。人気のメーカーFAT SHARKの入門機・Recon Goggles(2万円前後)。

 

◉7月から麻布十番にTiny Whoop専用の練習場がオープン!

今回、取材した場所は7月1日にオープンした「SORAJIN DRONE FIELD」。麻布十番駅近くの高立地でTiny Whoopを気軽に練習できる。取材のタイミングで、毎週水曜日の都内のあらゆるところでTiny Whoopを楽しんでいる「WTW(WEDNESDAY TOKYO WHOOPERS)」のみなさんと遭遇。おのおの自作のTiny Whoopを持ち寄り、練習を楽しんでいた。

 

SORAJIN DRONE FIELD
https://dronerace.sorajin.work/

WTWのWEBサイト
https://www.wtw.tokyo/

 ※この記事はビデオSALON 2018年8月号に掲載した内容を転載しています。