取材◉岡本俊太郎(Vook)/構成◉編集部

今回、取材に協力いただいた写真左から株式会社サイバーエージェント・インターネット広告事業本部 オンラインビデオ・ソリューション局 局長の新敬太(あたらし・けいた)さん。同社 オンライン総研 所長の酒井英典(さかい・ひでのり)さん。インタビュアーは本誌連載「Videographer’s File」でもお馴染みのVookの岡本俊太郎(おかもと・しゅんたろう)さん。

 

WEB広告事業の最大手・サイバーエージェントが設立した研究機関「オンラインビデオ総研」のデータによればスマートフォンやSNSの普及によりWEB動画広告市場が急激に伸びており、その勢いは今後も加速していくという。その分野を主戦場として活動するビデオグラファーにとってもその動向は見逃せないところ。今回は市場のトレンドや今後求められるクリエイター像などについてお話を伺った。

岡本(敬称略)お二人は総研として専門に研究をされているんですか?

新:僕はソリューション局で動画を活用したプロモーションのプランニングや実際の配信・運用をやる部署で、酒井が責任者を務める総研は動画広告市場の分析をはじめ、健全な発展や啓蒙していくということも含めて立ち上げました。

どんな経緯で設立したんですか?

酒井:総研を設立した2015年10月時点ではBuzz動画として話題になるものはチラホラありましたが、動画広告がバンバン配信されている状況ではありませんでした。ただ、これから間違いなくこの分野が伸びて、ルールを持って大きく広がるフェーズに入っていくだろうということで、各媒体や代理店が自分にとって有利なことばかり言っている中で、データを揃えて業界を健全に発展させていくような第三者機関…というとサイバーエージェントに属してるので言いすぎかもしれないですけど(笑)。そうした組織が必要だと考え、設立に至りました。

何人くらいで運営してるんですか?

酒井:専属スタッフはいなくて。僕もいろいろな業務と並行しながら7〜8人程で運営しています。

新:動画広告には配信する媒体の話やクリエイティブの話、広告の計測の話もあります。その各パートと繋がりが強そうなメンバーを兼任で集めて、プロジェクトのような形で進めています。

データの調査方法について

市場データはどのように計測していますか?

酒井:デジタルインファクトという調査会社と調べています。YouTube や Facebook、Twitter など主要媒体に加えミドル級の媒体にもヒアリングして、その数字を元に我々の売上データとも答え合わせしながら予測しています。未来予測なので、ある程度外れてしまうかもしれませんが、きっとこれくらいにはなるよねという数値を出しています。

岡本:伸び率としてどうですか?

新:弊社の売上でも前年比300%程で推移しています。昨年くらいから本格的に広告主もプロモーションに動画を活用しようという意向が高まってきたというのが肌感としてありますね。

WEB動画広告の市場規模予測と利用状況 (2016年11月調べ)

動画広告市場規模推計・予測(デバイス別)

2016年の動画広告市場は、前年対比157%の842億円に達する見通し。スマートフォン動画広告需要は前年対比2倍の成長を遂げ、動画広告市場全体の約7割に到達。2022年には2,918億円に達し、うちスマートフォン比率は約84%を占めると予測。

動画広告市場規模推計・予測(広告商品別)

2016年もインストリーム広告(YouTube等動画中の広告)が市場全体の半分以上を占め439億円に成長し、主流は変わらないものの、成長著しいインフィード広告(SNSのタイムラインに表示される広告)は197億円、前年比約2.5倍に急増。2022年には5倍超成長の1,018億円に達する見込み。

企業の動画広告の利用状況 (2015年10月調べ)

大手広告主企業の動画広告出稿率

WEB動画広告を利用する大手企業の比率は2012年以降、昨年対比167%、211%と高い成長率を維持しており、2015年は昨年対比189%となる出稿率37.8%。このままのペースで2016年も推移すると、全体の出稿率が50%を越え、大手広告主企業にとって動画広告は、より身近な存在となるだろう。

2015年動画広告予算の予定

「増やす」「同等」の回答は、全体の57.9%を占め、約6割が前年出稿額以上の出稿を予定。

動画広告のクリエイティブ素材

動画広告出稿時のクリエイティブはTVCM素材をそのまま流用するケースは
少なく、全体の約75%が、WEB独自にクリエイティブ制作を行なっている。

WEBでは広告フォーマットが多様

岡本:御社として今、動画広告に関して注力しているのはどんな部分ですか?

新:一つはクリエイティブです。例えばTVCMだとフォーマットは一つだけで番組と番組の間に15秒で挟まるというのが基本構造です。効果測定ができるわけではないので、クリエイターの過去の経験則から勘で広告効果がいいと思われるものを作っていくのが一般的だと思います。一方、WEB動画広告ではフォーマットが多様化していて Facebook 上に流れてくる広告と YouTube 上の広告では視聴者の印象や広告効果は変わってきます。また、男女や年代別でクリエイティブを作り分けたりというターゲティングができるのもWEBの強みでもあります。ひとつの良いクリエイティブを作って全媒体で流すというよりは、各媒体やターゲットに最適化していくほうが結果として広告効果が上がると思っています。「安かろう悪かろう」ではなく、質の高いクリエイティブをどれだけ各媒体に最適化してたくさん作れるかというのが、市場においてポイントになると考えていて、そこに注力しています。

最近、SNSではスクエア動画が増えましたね。

酒井:スマホでは縦スクロールが基本なので、そもそも16:9のアスペクト比だと全然入らない。スクエアや縦型動画にしたほうが画面上の専有率も高くなりますし、アルゴリズム的にも全部のフォーマットに対応したほうがいい。クリエイターの方々にも制作の機会は増えてくると思いますし、うちとしても作れるような体制が整ってきた状況です。

WEB動画広告で求められるクリエイター

岡本:本誌には若手クリエイターや学生の読者もいます。今までテレビと映画しかなかった映像業界にWEB動画が出てきて、若手クリエイターにとっても新興市場なので、今後進むべきキャリアとして今いち見えていないというのがここ1、2年の状況だと思います。今、この領域の人材が求められていたり、足りていないという感覚はありますか?

新:ニーズは非常にあります。各社、動画を作れるクリエイターの採用を強化しています。

岡本:求めている人材像はありますか?

新:我々はあくまでWEBに特化したエージェンシーなので広告の文脈になってしまいますが、WEB動画広告はリアルタイムにデジタルで数字がはね返ってきて効果の良し悪しが見えるので、例えば媒体のアルゴリズムを理解して「Facebook ならこういう動画が広告効果がいい、Twitter ならこういうほうがいい」というところに興味を持って理解をして、それらに適した動画にマイナーチェンジするスキルを持ったクリエイターはすごく価値があると思います。

媒体ごとの最適化のための組織作り

岡本:先日、御社内でもインフィード広告(※)の動画制作に特化したムービーモンスターという子会社を立ち上げたというリリースがありましたが、自社内での制作にも注力しているんですか?

酒井:3DCGに特化したCGチェンジャーやWEB動画広告制作を専門に手がけるサイバーブルなど制作系の子会社はグループ内に既にいくつかあります。グループ各社ともある程度自社で内製できる体制で、一点ものを作るのではなく、マスターのような形があって、それを修正し続けるスタイルになってくる。

新:媒体の特性を理解したうえでクリエイティブを作るのが非常に重要なので、単に動画を作れる部門というよりは、「インフィードだったらこういう動画がいい」という風に専門分野を突き詰めて考える必要があります。そうした意図でサイバーブルやムービーモンスターもあるし、また別軸で YouTuber とのタイアップを専門に行う子会社も立ち上げています。特性ごとに何がベストなのかを深掘りしつつクオリティの高いものを作れる体制をいま順次整えています。

酒井:デバイスの進化や回線の高速化で動画視聴は今後益々スマホにシフトしていきますし、その中でもインフィード広告(特に Facebook、Twitter、LINE)が明らかに伸びてきているので、そこへの対応をしっかりしていきたいと考えています。媒体ごとに全然フォーマットが違って、音ひとつ取ってみても常時OFFのものもあるし、数秒でスッと流れてしまうものもあったり、その数秒で何をすべきかを考えていかないといけません。なので、それぞれ「最適化って一体どんなことすればいいのか」、「一番効果が出るのはどんな見せ方なのか」など深掘りしています。

※SNSのタイムライン上に表示される広告。

WEB動画ならではの作り方や見せ方

岡本:動画広告の中で最近注目していることはありますか?

新:直近だと360度動画です。スマホが普及している中で「ならでは」の視聴体験だと思います。YouTube や Facebook も対応してきていますし、ユーザー体験としても新しいものだし、そういう事例も増えてきています。同じようにスマホだと縦型の動画もフォーマットとしては新しい。「スマホならでは」というのが最近では印象に残っています。

井:YouTube を見ていると、たまにアンケートが流れてきます。これを元に広告に当たってない人と当たった人とでどれだけ認知が上がったかという「ブランドリフトレポート」というものが出てきます。YouTube に関してはこれで広告の良し悪しを決めている部分があります。これをやり続けてデータベース化してスコアをつけて、動画の要素と結果の点数を掛け算して、何が良かったのかということを統計処理して、作った動画に対して点数をつけられるようになりました。

 過去データを元にして、今のコンテに関して「何点です」という指標を出せる。それで「たぶんこのほうが効果がいい」とか、A・B・C・Dとプランがあったとして、どれが一番効果的なのか統計に基づいてデータで見られるようになりました。とはいえ、まだみんな経験と勘が少ないし、それも正しいかどうか分からないという状況なので、それをより確実なものにしていけたらと思っています。

評価の指標がなかったですからね。

酒井:YouTube に関しては指標が出てきていますが、「広告をスキップされる5秒までに何を言うかがすごく大事」というのはどの会社も言うと思いますが、そこは絶対ですね。Facebook や Twitter で言えば、スクロールで流れていくまでに何を言うかがいちばん大事。TVCMとの違いは、TVCMだとロゴが一番最後に出てきますが、それを YouTube でやると一番知らせたい情報を見てもらえません。シンプルに言うのは、「最初に持ってくる」ということ。それだけでもずいぶん違ってきます。

岡本:先日、ドキュメンタリー専門のWEBメディアである VICE の話を聞きました。VICE は自社のなかでクリエイティブの基準を明文化していて、それにはまらないと絶対に動画を公開できないそうです。ターゲットや媒体に最適化したクリエイティブを作ることもそうだし、そういう形でフォーマット化していくことも品質を担保する上では大切なんだなと感じました。

酒井:「フォーマット化しすぎると全部一緒になるじゃないか」議論というのはありますけどね(笑)。

新:そこは人の経験則とクリエイティビティになると思うので。

最後に作るのは今のところ人間なんで。

岡本:まだまだ過渡期ですが映像クリエイターにとっても表現やキャリアなど様々な部分で可能性のある分野だと思っています。ありがとうございました。

●この記事は2017年8月号より転載したものです。

http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1729.html