「死ぬまでに1本でいいから、長編の商業映画を撮りたい」。その信念の下、「日本ホラー映画大賞」の大賞を獲ったことで誕生した映画『みなに幸あれ』。海外の映画祭で高い評価を得た本作で下津優太監督が実践した、ホラー映画としてのセオリーをふまえつつ、オリジナリティを込める監督術を解説します。
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映画『みなに幸あれ』

監督・原案・編集:下津優太
総合プロデュース:清水 崇/脚本:角田ルミ/音楽:香田悠真/製作:菊池 剛、五十嵐淳之/企画:工藤大丈/プロデューサー:小林 剛、中林千賀子、下田桃子/助監督:毛利安孝、川松尚良/統括:古賀芳彦/撮影:岩渕隆斗/照明:中嶋裕人/録音:紙谷英司/美術:松本慎太朗/スタイリスト:上野圭助/ヘアメイク:木戸友子/CG:橘 剛史
配給:KADOKAWA/制作プロダクション:ブースタープロジェクト/製作:KADOKAWA、ムービーウォーカー、PEEK A BOO

講師 下津優太 Yuta Shimotsu
1990年 福岡県北九州市生まれ。佐賀大学に在学時よりTVCMをやMVの企画・演出を手がけ始める。2016年、東京にオフィスをかまえ、福岡との2拠点での活動を開始。2021年、KADOKAWA主催「日本ホラー映画大賞」にて大賞を受賞。2024年に公開された映画『みなに幸あれ』で、商業映画監督デビューを果たす。現在は、長編映画2作目を制作中(2026年公開予定)。
WEB ● https://www.yutashimotsu.com/
大学の選択授業で映画制作を選んだことが全ての始まり
広告系ディレクターとしての活動を続けながらチャンスを探し続けた
監督の下津です。1990年生まれ、福岡県出身です。高校卒業後、佐賀大学理工学部機械システム工学科(現・機械エネルギー工学コース、メカニカルデザインコース)というゴリゴリの理系へ進学しましたが、選択授業に映画制作を学ぶものがあって、その授業をきっかけに友達とEOS 7Dなどを使って自主制作を始めました。それが全てのはじまりでした。
大学在学中に佐賀テレビでアルバイトをするようになり、カメラアシスタントや台本の原稿を書いたりしていくなかで、地方CMの監督するチャンスがめぐってきました。予算30万ぐらいで、監督業に加えて撮影や編集なども自分でやりました。映像制作にのめり込むあまり、2年ほど留年しました(苦笑)。大学卒業後は、フリーの映像ディレクターとして本格的に活動し始めて、26歳のとき(2016年)に東京へやってきました。
僕はずっとフリーランスで活動を続けていますが、九州に住んでいたことが良かったのかもしれません。地方は東京に比べると情報やネットワークは限られていますが、プレイヤーが少ない分、こうしたチャンスがわりとあると思うので。
CMやMVなどの監督を続けながら、「死ぬまでに1本でいいから、長編の商業映画を撮りたい」という思いを抱き続けていました。そうしたなか、2020年にコロナ禍になって「僕はこのままでいいのだろうか…」と、改めて自分が本当にやりたいことを考えて、やっぱり映画が撮りたいと強く思いました。そこで、様々な映画祭やコンテストに応募し始めたところ、東宝とALPHABOATが主催した「GEMSTONE 第5回:ショートホラーフィルムチャレンジ」で大賞を獲ったことで「自分の作風は、ホラー映画と相性が良いのかもしれない」と思うようになりました。
ホラー路線に舵を切ってからしばらくした2021年の夏、第1回「日本ホラー映画大賞」が作品募集中だと知りました。このコンペは大賞受賞者に商業映画デビューを確約していたので、千載一遇のチャンスが来たと思いました。
さっそく、学生時代からの映像制作仲間である古賀(芳彦氏、シネマトグラファー)とふたりで、どうすれば大賞を獲ることができるのか戦略を練ることにしました。


大賞は商業映画デビュー!ホラー映画のコンペに挑む
「どうすれば大賞が獲れるのか?」徹底的に考えぬき、実践する
大賞を獲る戦略として、最初に思いついたのは「めちゃめちゃ怖い or めちゃめちゃ斬新な作品」を作ることでした。ですが、言うのは簡単だけど、具体化するのは至難の業です(苦笑)。そこで「この監督の長編も観たい。一緒に仕事をしてみたい」と思ってもらえる作品を作ることへと作戦を変えました。そのほうが自分のカラーが出せるとも思ったからです。
募集対象は実写の場合、「3分〜90分程度の未発表・完全オリジナル新作」でした。ホラーのジャンルについては不問でしたが、目新しい題材にしたいと思い、色々な資料を漁っていくなかで「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」という都市伝説を見つけました。そこで、この「地球上感情保存の法則」をテーマに15分以内の短編を撮ることに決めました。短編に決めた理由は、選考委員の方々にくり返し観てもらえるようにするための配慮です。そして、短編なら映像クオリティを効率的に高めることもできるからでもありました。
地球上感情保存の法則というテーマ自体はそれほど目新しいものではないと思います。だからこそ作品のクオリティをできるだけ高めることに全力で力を注ぎました。具体的には、ロケ地は地の利がある福岡で。さらに「たがわフィルムコミッション」さんに協力してもらい、絶好の古い一軒家を見つけることができたので、都会で働く孫娘がひさしぶりに田舎の祖父母を訪ねてきて、恐ろしい体験をするという大枠が決まりました。そこへテーマを組み合わせ、なつかしいこの田舎では、実は生贄を捧げることで自分たちの幸せを手にしていたというストーリーに仕立てていきました。
演出では、ジャンプスケア(jump scare)などの王道の恐怖演出ではなく、日常に潜む不自然さから感じる恐怖を丁寧に描くようにしました。撮影は2日間で行いました。企画から手伝ってくれた古賀に撮影を頼み、カメラは彼の私物のパナソニックEVA1を使いました。その一方では、ふたりで50万ずつ出し合って制作費は100万円用意しました。単なる自主制作であれば40万ぐらいでに収められたと思いますが、古賀と僕の覚悟の証として協力してくれたキャストと自分たち以外のスタッフに正規に近いギャランティをお支払いすることによって、プロとしてのパフォーマンスをしっかりと発揮していただくことができました。
撮影の翌日から編集作業を始めました。その時点で、応募期日まで3日かしかありませんでしたが、事前にカット割りをしっかり決め込んでいたのでスムーズに作業を進めることができました。応募フォームから完成したムービーをアップロードし終えたのは、期日だった2022年11月30日(水)23時59分の10分前ぐらいだったと思います。
下津監督が採った作戦
「この監督と仕事がしたい」と思わせる
演出力と映像クオリティを最大限高める。
地の利を活かす
全編福岡ロケ、キャスティングも福岡。
15分以内の短編に仕上げる
選考委員に何度も観てもらうために&費用対効果
いかにもな台詞を全てカット
自然な演技につなげる、リテイクを回避
予算100万円を用意
正規に近いギャランティを支払い、プロのクオリティに仕上げる










