【連載 ふるいちやすし 映画作家主義】第7回 黒を制するものが色の印象を制すると言っても過言ではない 


プロフィール
脚本、監督、撮影、編集、音楽を一人でこなす映画作家。モナコ国際映画祭:最優秀撮影監督、脚本、音楽、アートフィルム賞。ロンドンフィルムメーカー国際映画祭:最優秀監督賞。アジア国際映画祭:最優秀監督賞。最新作『千年の糸姫/1000 Year Princess 』はアメリカSMGグループから世界配信中。

第7回
黒を制するものが
色の印象を制すると言っても過言ではない

[カメラ]JVC LS300、[女優]:松岡恵里香(左)・藍かんな(右)

 

作品のトーンを作る上で色彩の調節が重要なのは言うまでもない。そこでまず真っ先に思い浮かぶのが彩度(カラーレベル)の調整だろう。これには特に注意が必要だ。特に民生機のデフォルト(ノーマル)というのは少なからず彩度が上がった状態にあるのが常だ。その理由は簡単で、パッと見、綺麗だからだ。量販店にビデオカメラが並んでいるところを想像してみてほしい。そりゃ色鮮やかな物が目を引くだろう。これはテレビやパソコンに関しても同じことで、スイッチを入れた途端にパッと鮮やかセッティングになってるものだ。試しにシネマモードのようなものがあれば切り替えてみよう。彩度がガクッと落ちるのが分かる。

だが前にも言ったように映画という作品性を考えた時、パッと見で判断してはいけない。ましてや最終的にテレビやパソコンで見られることを想定した場合、彩度が上げられた状態で見られる可能性も覚悟しておかなくてはならない。こういったことから、ディテールほど極端ではないが、私は彩度を少し落とした状態からトーンを作り始める。

ただ、色のコントロールは彩度という色の強さだけでできるものではない。色の印象という目で見れば、彩度、コントラスト、明度という3軸で考えなければならない。ここでキーになるのは“黒の黒さ”だ。つまり暗部が締まっていれば他の色の印象はより深くなる。何となく明度をピクチャープロファイルや絞りやNDで上げてやったほうが色も鮮やかになりそうな気がするだろうが、明度というのは暗部も持ち上げてしまうので、結果として色も浅くなってしまうことが多い。

◉色の見え方は暗部や露出によって変わってくる

▲ 極端な例だが、どれが正しいということではない。それぞれに色の印象が違うだろう。明るいから色が出るというわけではなく、画面全体の中でどういう印象かという見方をしてほしい。

そこでコントラスト(トーンカーブ、ガンマカーブ)の強弱が重要なポイントになる。コントラストとは明暗の差をコントロールするものなので上手く使えば暗部の黒さを保ったまま明部を上げることも可能だ。ただし、極端に強いコントラストは階調を失うことになってしまい、酷い時には変な縞模様が現れることもある。これはカメラの性能限界だと言える。同じく性能限界として暗い場所で不用意に感度(ISO、+dB)を上げてしまうとノイズが発生して暗部の黒さを損なってしまう。そういう面では大判センサーになって暗部のノイズは劇的に減り、つまり黒がちゃんと黒くなったし、業務機のパラメータには暗部だけのコントロールを可能にするブラックレベルやブラックガンマといったものを搭載した機種もあるので、これらを使いこなせば変にギトギトしない形で色の印象を高める(深める)ことができるはずだ。色のコントロールとなるとついつい赤や青に目を奪われてしまうが、それらを単純に彩度だけで上げ下げするだけでは理想のトーンは作れないのだ。黒を制する者が色の印象を制すると言っても過言ではないだろう。

前回からここまで、ピクチャープロファイルによるトーンの作り方について話してきたが、とにかくやってみることだ。やっていくうちにその小さな変化が見えるようになるだろうし、自身の美意識が磨かれていくことになるだろう。扱うカメラやそのパラメーターはもちろんエンジニア的な用語だが、それを受け止めるのはあくまで文系、あるいいは感覚的なものだ。作品のテーマやパーソナルな美意識に従って理想のトーンを妥協なく突き詰めていってほしい。きっとカメラがもっと好きになる。

 

◉お知らせ
ふるいちやすし氏の最新長編映画、『千年の糸姫』が劇場公開となる。ヨーロッパ、アジアの各国で多くの賞を受賞している作品なので、ぜひ観ていただきたい。もちろん、ふるいちトーンで満たされている。

【横浜】シネマ・ノヴェチェント
日時:10/6(土)〜12(金)
問い合わせ:045-548-8712
*期間中、「ふるいちやすし・中短編集」上映あり(入れ替え制)火曜日休館。

【伊勢崎】シネマ・プレビ劇場
日時:10/12(金)〜18(木)
問い合わせ:0270-63-8787

ビデオSALON2018年10月号より転載