染瀬直人の 360°VR VIDEO WORLD Vol.2 90 年代後半の伝説のVRプロジェクト・ソニーFourthVIEW Project前編


第2回「90 年代後半の全天球カメラ開発秘話
伝説のVR プロジェクト・ ソニー Fourth VIEW(前編)」

写真・文●染瀬直人

写真家、映像作家、360度VRコンテンツ・クリエイター。日本大学芸術学部写真学科卒。360度作品や、シネマグラフ、タイムラプス、ギガピクセルイメージ作品を発表。VR未来塾を主宰し、360度動画の制作ワークショップなどを開催。Kolor GoPro社認定エキスパート・Autopano Video Pro公認トレーナーYouTube Space Tokyo 360度VR動画インストラクター。http://www.naotosomese.com/

※この連載はビデオSALON2016年12月号より転載



 今から遡ることおよそ16年前に世界で初めて商用のVR(バーチャルリアリティ)コンテンツを作ったのはソニーでした。その名も「Fourth View(フォース・ビュー)」。今回は98年から2004年まで継続したこの伝説のプロジェクトの指揮を執っていた吉村 司さん(現ソニーコンピューターサイエンス研究所チーフ・プロデューサー)にお話を伺うことができました。
 2016年10月13日、ソニー・インタラクティブエンタテインメントより、満を持してPlayStation VR(以下、PSVR)が発売されました。筆者も予約抽選販売の厳しい競争に勝ち抜いて、池袋の量販店で発売当日に無事ゲットできました。Oculus Rift CV1(製品版)からニコンのKeyMission 360まで、様々な製品が発売されVR元年もいよいよ役者が揃ってきたというわけです。
 PSVRは2014年発表の「Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)」を製品化したものでPlayStation 4のプラットフォームでヘッドマウント・ディスプレイとPlayStation Cameraを組み合わせて使用し、3D空間と3Dオーディオを楽しむVRシステムです。VRゲームはもとより仮想の大画面(最大226型相当)で映像コンテンツを楽しめるシネマティックモードを搭載。また全天球VRカメラで撮影された360度動画や写真も視聴できます。

VR元年の試みを先取りしたプロジェクト

 この連載ではVR、特に360度の実写コンテンツにフォーカスしている訳ですが、冒頭の吉村さん率いる当時のFourth Viewチームも徹底して、実写にこだわっていました。吉村さんによれば、Fourth Viewとは「四次元」、また「四人称」といった意味が込められていると言います。カメラの進化の方向性として2K、4K、8Kと映像の解像度を高めていくだけではなく、時間を止めて自由に空間を眺められるような”空間再生”といったVR的な表現もできないだろうか? と考えたというわけです。
 Fourth Viewでは360度VR動画のみならず、映画『マトリックス』で有名なバレットタイム(人物の周りを時間を輪切りにしたようにカメラが移動する)の動画版”オブジェクトVRビデオ”や、ユーザーによる多視点映像の任意編集機能など、様々な革新的なアイデアが実装されていました。
 360度VR動画に関しては、実に8台ものVRカメラが試作されていました。6〜12台のカメラを使用しての多眼カメラ、パララックス(視差)の軽減への挑戦、鏡を用いての結像、それぞれのカメラから出力した映像をモニターでライブビュー化、ステッチング・ソフトウェアの自社開発、音にもこだわり映像の位置に音がついてくる空間音声(Forth View Sound)を実現。視聴者が好みによって、蝶々や花びら、雪などを擬似的に付加できるAR的な表現と、まさにVR元年の現在の試みを先取りしていた偉大なプロジェクトだったことが判ります。
 来月号では引き続き、この”早すぎた”先駆的プロジェクトFourth ViewのVRカメラの開発の歴史と、コンテンツの商品化にまつわるエピソードなどを掘り下げていこうと思います。

Fourth Viewプロジェクトで試作されていた歴代の全天球VRカメラ


【1998年】

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▲12面体構造のFourth VIEW CAM。底面は三脚への取り付け用アタッチメントがあり、カメラは11台、マイクも11本配す。下は三脚に取り付けて浅草での初めての撮影風景。

【1998-1999年】

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▲改良形。上下に3台、周囲に6台のカメラ。それぞれのカメラにマイクが取り付けられている他、さらにカメラ下にも8本。立体音声の試みも。レコーダーは同期はされていないがDVデッキを使用。パララックス(視差)の影響が大きかったため、これを使って商用のコンテンツを撮ることはなかったという。

【1999年】

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▲10台のカメラを搭載し、小型化することで視差が8cmと大幅に削減することに成功した試作機V10と呼ばれるモデル。ゲンロックなどそれぞれのカメラの同期機能はないので、動画撮影時は拍手をしたり、カメラに輪っかを通して、それを目印にして編集で手動で同期を合わせていた。

【2000年】

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▲魚眼レンズによる全天球カメラの試作機。撮像面を近づけて視差を減らした。魚眼なので歪みが大きいのが弱点。

【2001-2002年】

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▲8台のカメラで水平方向 解像度を稼ぎ、パララックス をゼロにするミラー方式の試作機。天頂のカメラを加え全 天球撮影を実現した。水平方向に比べて天頂カメラは一台 しかないため、解像度不足はあったが、全体が超小型になったため、全天球撮影におけるパララックスほぼゼロを実現した。

【2003年】

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▲ミラーを使用せずに視差ゼロを実現した最終試作機。12台のカメラの結像を一点に集中させる特許を取得している。 右は 12 台のカメラを円周状に配置してある状態。左は撮影時は水晶状のカバーを取 り付けて使用する

◆この記事はビデオSALON2016年12月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1602.html