基礎講座撮影講座制作講座

◎この記事は、書籍『ネット時代の動画活用講座』(玄光社、2015年刊)からの転載です。

ネット時代の動画活用講座1 ─ 基礎講座

かつては敷居が高かった動画制作。 今やツールが低コストになり、誰もが取り組める環境が整っている。 どんな観点でカメラや編集ソフトを選んだらいいのかアドバイスする。

動画は今やかつての「ワープロ」と同じように万人が使えるツールに!

▲動画とワープロの比較

現在40歳以上の方であれば、小学校時代に学校でもらうプリント類の多くが「先生の手書き文字」だった時代を経験されているだろう。1980年代初頭まで、いわゆる「活字」を一般の人が手軽に打てる手段はほとんどなかった。筆者(1975年生まれ)は小学校の頃、作文コンクールで入選した自分の文が、印刷物の上で活字になっているのに感激したのを覚えている。しかし、その後のワープロやパソコンといったデジタル機器の爆発的な普及で、今ではむしろ手書きの文字のほうが「特別なもの」として珍重されるほどの状況になった。

現在、動画もそれとまったく同じような状況になりつつある。以前は、ホームビデオであっても「自分の姿が動いて画面に映る」ことに「特別」感があったが、今やどんな瞬間でもスマートフォン(スマホ)で高画質な動画を撮ることができ、クルマを運転すれば走行中すべての時間をドライブレコーダーが記録している。完全に「誰でも使える道具」となったのだ。

タイプした文字はきれいなだけではなく「テキストデータ」として通信や情報の管理に大きなパラダイムシフトを起こした。同じように、動画制作が一般化することで、視覚的・聴覚的情報がこれまでとは違うレベルで社会活動に使われる可能性を秘めている。動画の活用は一過性のブームではなく、文明の進化上においても重要な意味を持つ現象だと言えるだろう。

「動画で伝える」5つのメリット

動画を「伝えるための手段」として使うことの利点は多数挙げられるが、本質的な要素を整理・分類してみると、主に次の5つに分類できると言えるだろう。

●ライバルが少ない
少なくとも2015年の時点で、自分のビジネスや活動と完全に競合し、しかも質・量ともに優れた動画発信者が他にいるという状況はまだまだ少ない。たとえば「◯◯市の美容院」といったようにエリアを絞った状態では、ライバルが皆無ということも多いはずだ。注目のメディアでありながら、比較的簡単に先行者となれる今の状況を活かすことができる。

●直感的な理解に強い
いくら言葉を駆使してもなかなか表現しづらいニュアンスや雰囲気を伝えるには、映像と音声は大きな武器となる。これは逆に「直感的にはわかりにくい」事柄を使えるには文章のほうが向いている場合もあり、使い分けにより効果は大きく変わってくる。

●様々なカタチに応用が可能
たとば紙のチラシとWebサイトの場合、いくらデザインに共通項を多くしても、それぞれ「まったく別物」として作る必要がある。しかし動画の場合、ネット上と店頭などでほとんど同じものを流してプロモーションに使うことも可能だ。

●「親近感・信頼感」の促進
人間は「接触頻度」の高い相手に対してより大きな信頼感を持つ傾向がある。そして、同じ接触頻度でも、表情や声も含めた動画によるコミュニケーションは「馴染み」的な関係性を築くのに大きな力を発揮する。

●スピーディ&簡単に作ることも可能
「動画は文章や写真に比べて面倒&難しい」という一般の認識は、特にネット動画においては「誤解」と言って差し支えないだろう。作り方によっては、もっとも手軽に一定量の情報を発信する手段にできる。

一方で動画にはデメリットもある。どうしても視聴時間を拘束してしまうこと、そして分かりにくい映像や展開、聞き取りにくい音声などは逆に視聴者にストレスを与えてしまうことだ。いかにデメリットの要素をなくし、メリットの部分をアピールできるか。そこにノウハウがあると言えるだろう。

動画の企画は「6W→1H」で立てる

動画は、様々な種類のパーツが複雑に組み立てられた機械や建築にも似た構造を持っている。自動車や住宅がそうであるように、動画の構築にもしっかりした「設計」(企画)が必要だ。一見面倒そうだが、事前にしっかり企画を構築したほうが収録や編集もスムーズに進むので、結果的にはトラブルなく楽に仕上げることができるのだ。

企画の最初に考えるのは「6W」。一般的な「5W」(What、Who、Why、When、Where)に、一番の重要項目である「Whom(誰に)」を加えたものだ。各項目を羅列していくことで、弱かった要素、一番伝えたい要素が明確になってくる。項目が多くなる場合は無理に一つの動画にせず、プロジェクトを分割しよう。

それらをふまえた上で初めて、「HOW」(どのような)動画を作るかが導き出せる。特にネット動画の場合、ここで動画の長さをあらかじめ決めてしまおう。時間の制約ができることで、いかにまとめてわかりやすく伝えるかに注力でき、見せ方のアイデアも出やすくなる。ここまで絞り込めば、自然に必要な機材や環境、人員などが明確になってくる。動画を(特に複数人で)作ることが決まった際は、いきなり物品の購入などを行わず、まずは一度このプロセスを行うことをオススメする。これは地味ながら、どんなカメラテクニックよりも重要かつ有効なノウハウだ。

 

動画を【撮る】ための主なデバイス ─ 操作していて面倒と感じないことが重要

ビデオカメラなど映像収録機器の性能向上は著しく、もはや余程大きな理由がない限りは、専門家以外が業務用の機器を買うメリットはなくなってきている。難しいオペレーションの習得は本来の目的から外れてしまうし、万一の故障時は、業務機の修理代で家庭用の新品を買えてしまうようなケースも少なくない。

各機器の特徴は下の表にまとめた通りだが、その大前提となる条件は「面倒と感じないこと」。動画を頻繁に作ると、予想以上にこの面倒さがモチベーション低下の引き金となる。そもそも機械操作が好きでない人はスマホのカメラでどんどん撮影したほうが良いし、元々機械操作の好きな人は「追求し甲斐」のある機種を選んだほうが楽しみながら続けることができる。機材のコストパフォーマンスは、販売価格ではなく「どれだけ使うか」が一番のキーポイントとなる。

  • ビデオカメラ
    ビデオ撮影専用に設計されたカメラ。家庭用のものも著しく画質が向上しており、的確に撮影しておけば見劣りすることなくコンテンツに使えるケースも多い。プロ用・家庭用ともに記録媒体はテープからメモリーに移行し、メディアの入れ替えなしで長時間の記録が可能になった。
  • 写真用カメラ
    レンズ交換式の一眼カメラを中心とする、写真向けカメラの動画撮影機能。レンズや撮像素子の性能から、高価な映画用カメラに匹敵するような映像が撮れるケースもある。もちろん高画質な写真も撮れるので、一台で幅広い作業がカバーできる点も価値が高い。動画用にはキヤノンやパナソニックの機種が特に人気がある。
  • ウェアラブルカメラ
    小型軽量のボディと、耐衝撃性、防水性などのタフな仕様を備えたカメラ。様々な所に取り付けが可能で、アングルの自由度が大きく広がる。超広角のレンズを備えた機種が多く、室内などを幅広くとらえるのにも向いている。「GoPro」を代表格にいくつもの機種がリリースされている。
  • スマートフォン・タブレット
    年々画質が向上し、低価格なカメラの市場を大きく侵食するほど広く使われている。「いつでも持っている」気軽さから補助用、非常用の収録手段としても有効で、さらに本体内で編集やアップロードなども行える強みも大きい。現在、世界中で撮られる動画の総量はスマホのカメラによるものが最も多いと考えられる。
  • Webカメラ
    パソコンに接続もしくは内蔵されているカメラ。特にノートパソコンにはもはや「常識」と言えるレベルで内蔵されている。ビデオチャットやライブ配信に使われるケースが大半だが、それ程高画質を必要としないレクチャー等の動画であれば、充分なクオリティで収録できる。スマホ同様、すぐ編集にかけられるのも魅力の一つ。
  • パソコン画面のキャプチャ
    プレゼンソフトのスライドやアプリケーションの操作など画面内の動きを直接録画する方法。動画を撮る場合は、メインの人物やモノ以外に「場所」も必要だが、画面上であれば、音声さえ静かに収録できる状況下であればどこでも手軽に行うことができる。
カメラ選びの基礎知識① ─ ビデオカメラには家庭用と業務用(プロ用)がある

▲家庭用ビデオカメラ

▲家庭用ビデオカメラをベースに音声周りの機能とハンドルを追加したプロ用

▲カメラマンが操作しやすくなっている手持ちタイプのプロ用カメラ

家電量販店で10万円程度で購入できる家庭用ビデオカメラに対し、専門店でしか扱っていないプロ用のカメラが存在する。ビデオの世界では、これを「業務用」と呼ぶ。価格は手持ちタイプで10万円代後半から50〜60万円。家庭用との大きな違いは画質ではなく、機能と操作性だ。実は画質は家庭用もプロ用もそれほど大きな違いはない。家庭用ハイエンドカメラであれば画質的には充分。機能の違いは、主に音声入力にXLR端子を装備しているかどうか、マニュアル機能が充実しているかどうか、になる。三脚に据えて長時間プロのカメラマンがオペレートするような場合は、プロ用機のほうがストレスが少ない。音声の入力端子だけであれば、家庭用をベースに着脱式ハンドルとXLR端子を追加できるプロ用カメラも存在する。

カメラ選びの基礎知識② ─ デジタル一眼かそれともビデオカメラか?

▲定番のEOS系は連続記録は30分未満。

▲パナソニックGH4は連続記録可能。

▲プロ用ビデオカメラは2枚のカードへの同時記録が可能など信頼性が高い。

低予算の映画などは、デジタル一眼カメラの動画機能で撮られている。映画フィルムなみのセンサーでフルHD解像度の動画が撮れて、レンズ交換ができるメリットをいかし、被写界深度の浅い印象的な映像が撮れるので、すでに映画やテレビの現場では当たり前のように使われている。しかし注意したいのは、使いこなしにはある程度のスキルが必要なこと。レンズは電動ズームも実用化されていないので、ビデオカメラと同じ感覚で使うことは難しい。また大半のデジタル一眼カメラは30分以上の連続記録ができない。ボディの発熱で録画が途中で止まってしまうモデルもあることは知っておきたい。

カメラ選びの基礎知識③ ─ はやりのウェアラブルカメラは使えるのか?

▲オプション類が充実しているGoPro

▲手ブレ補正を内蔵するソニーのアクションカム

Go Proをはじめとしたウェアラブルカメラが大流行りだ。しかも4K対応になるなど進化も著しい。ウェアラブルカメラというと、デモ映像からスキーやスノーボードなどのウィンタースポーツや、サーフィンなどのマリンスポーツのイメージが強いが、それ以外でも使いどころは多い。テレビ番組でもアクションだけでなく、そのサイズを活かして仕掛けカメラやテーブル上のカメラとして数多く使われ、しかも画質的にもまったく遜色はない。ほとんどのカメラは超広角の単焦点レンズを搭載しており、被写体に近づくとインパクトのあるカットが撮れる。特徴を理解して積極的に使いたい。

動画を【編集する】ための主なツール ─ プロ向けの編集ソフトのほうが効率が良い

映像編集に限らず、パソコンでおこなう様々な作業は無料、または廉価なソフトで可能になっている。しかし、仕事や活動に関する動画を頻繁に作成するなら、Premiere ProやFinalcut Proといった業務向けと位置づけられるソフトを使うことを強くオススメする。その理由は、機能ではなく「効率性」だ。業務用ソフトは限られた時間で効率よく作業できるよう設計が練られており、時間短縮を考えるとむしろコストは安いくらいだ。

「業務向けは操作が難しいのでは?」と思われがちだが、自分にとって必要な部分だけを覚えればよく、書籍などの資料も数多く用意されている。それをふまえた上で、フリーウェアなど手軽なツールの便利な機能も「いいとこどり」で使おう。

  • Adobe Premiere Pro
    Adobe製のビデオ編集ソフト。すべてのソフトが月額で使える「Creative Cloud」の実施で、PhotoshopやIllustratorなど幅広く使われているソフトのユーザーは「自動的に」Premiere Proも使えるようになったので、潜在的な普及率は最も高い。先述のPhotoshop等との親和性の高さも魅力の一つ。
  • Apple Final Cut Pro
    Apple製のビデオ編集ソフト。以前は業務分野でのシェアが高かったが、外観や機能が大幅に変わったバージョンXで離れたユーザーも多かった。しかし、月額ではなく3万円以下の買い切りで使えることと、Macのシェア拡大も手伝って、今後また違った存在感を示す可能性もある。
  • その他のビデオ編集ソフト
    EDIUS、VEGASといったプロ仕様レベルのソフトは、一定のファンを確保し続けている。一方「家庭用」レベルの編集ソフトは、さらに手軽なスマホアプリと、リーズナブルになった高機能ソフトの間にはさまれて存在感が薄くなりつつある。
  • iMovieやムービーメーカー(パソコンに付属)
    Mac、WindowsといったOSに、購入時に付属、または追加ダウンロードで入れることのできる編集ソフト。不要箇所のカットや文字の挿入といった標準的な機能は必要充分なものがあり、初めての動画作成に使われるケースも多い。その一方、数多くの動画を定期的・効率的に作ろうとすると不便な部分もあり、そこが上位のソフトに移るかの分岐点となる。
  • スマートフォン・タブレット
    iOS向けのiMovieをはじめとし、様々な編集ソフトがリリースされている。ビデオにエフェクトなどを適用できる高性能なものも多い。場所を選ばずに編集して、即座に公開サイトやSNSなどにアップロードできる機動性が最大の魅力。
  • YouTube上での編集
    最大のシェアを持つ動画公開サイトYouTubeは、アップロードした動画をブラウザ上で編集できる「動画エディタ」の機能を持っている。パソコンなどのアプリケーションには及ばないものの、アップロードさえできれば借り物のパソコンからログインしての編集さえ行える衝撃的な手軽さを持っている。

動画を【観る】ための主なデバイス ─ 見られるデバイスやシチュエーションに合わせて制作する

送り手側のツールであるカメラと同様に、受け手側が動画を受け取って消費するツールも高性能かつ廉価なものが幅広く普及している。このリストにも、撮影(送り手側の道具)と同じスマートフォンが入っている点は、もはや誰もが送り手にも受け手にもなるという「ネット時代」の象徴的な姿と言える。

受け手側の機器が高画質化したら動画もそれに合わせる必要があるかといえば、必ずしもそうとは言えない。むしろ「ブラウザ上の小窓」「スマートフォンの画面」など小さい領域で再生されるケースが多く、画質の善し悪しよりは、文字の大きさや、見られるシチュエーション(通行人にアテンションするサイネージは特に!)に気を配るのがベターだ。

  • パソコン
    デスクトップ、ノートともにフルHD前後の高精細なモニターが標準的に使われているが、むしろそこで全画面表示されるケースは少なく、Webの閲覧や作業を行いつつ、小さいウィンドウで「ながら見」される状況のほうが多い傾向にある。
  • スマートフォン・タブレット
    場所も時間も選ばないので、Web動画に関しては、近いうちに「メイン」の存在になる勢いで利用が増えている。スマホでの視聴は、画面の大きさとマルチタスクの制約から、他の操作と並行せず(できず)に全画面で動画のみに集中した視聴が行われる場合が多い。
  • テレビ
    映像機器の王道だが、個々人がパソコンやスマホといったパーソナルな機器を持つにつれ、利用される時間は相対的に減っている。将来的に4K解像度が普及すると、映像の綺麗さとはまた別に、大量の情報を表示するための用途で利用が拡大する可能性がある。
  • ゲーム専用機
    画面を内蔵した携帯機種はほとんどがネット動画の閲覧が行えるが、主力の機能であるゲーム同様、スマートフォンに立場を奪われ、あまり存在感を示せない状況となっている。
  • プロジェクター
    手軽に持ち運べるモバイルプロジェクターや、狭い部屋で至近距離からでも大きな画面を投影できるモデルなど、バラエティ豊かな状況になっている。価格の低下もあって、会社や学校など映像を大人数が一度に観る必要のある場所には必須のツールとなっている。
  • デジタルサイネージ
    大きめの駅などには動画対応のデジタルサイネージ機器がかなり広く普及している。個々の店舗などは専用機の普及はそれほど進んでいないが、普通のテレビなどをサイネージとして利用した動画の上映は数多く行われている。

動画を【届ける】ための主な手段 ─ YouTubeをメインにSNSで拡散させるのが主流に

特にネット向けの動画はなにかと一括りにされてしまうケースが多いが、公開するサイトや手段により最適な作り方は異なってくる。これは先述の「6W」の中に入れておくべき項目で、最初は敷居が高いかもしれないが、たとえば「YouTubeに安定して公開する流れができたので他にも」といったような時期になったら、ぜひとも意識してみるとよい。ユーザーに届ける手段を絞り込むには、何よりも「トライ&エラーの繰り返し」となってくる。最初から手段を固定してしまわず、いろいろな方法を試して、その効果を比較してみよう。また、ネット全盛の時代とはいえ、(あえてBlu-rayではなく!)DVDなどの物理メディアも、見る側のユーザー層を想定した場合、まだまだ需要がある。

 

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