◎この記事は、書籍『ネット時代の動画活用講座』(玄光社、2015年刊)からの転載です。
ネット時代の動画活用講座 3-5 ─ 制作講座
内製か、外注か? 「発注力」を高める
本書では、映像のプロ以外が動画を内製するノウハウをいろいろとご紹介しているが、「動画の活用」を目的としてニュートラルに考えてみると、「内製」というのは必ずしも絶対条件ではない。最終的な目的が果たせて、コスト的なバランスが良いと判断するのなら、むしろ積極的にプロ(外注)に任せたほうが効率がよく、しかも良い結果が出る場合は少なくない。
そこで今回は、内製・外注を判断するポイントなど、「発注力」を高めるためのコツをご紹介していこう。実はこういったことは、通常の動画編集講座などでは絶対に語られない内容だと言ってよいかもしれない。
他人に依頼したものに自分の意図を充分に反映させるのは、直接手を下せない分、自分自身で作るよりもずっと難しい部分も多い。特に動画の作成はひじょうに様々な要素が絡むので、「すべてを丸投げ」ではなく、例えば「夕食のメニューを、自分で作った料理と、買ってきた惣菜で組み立てる」というようなハイブリッド的なスタイルが一番オススメだ。
内製か、外注かを決める3つのポイント
動画に関する様々な要素を、内製するか外注に出すか…? 判断が難しい場合は、下記の3つのポイントに絞って考えると的確な答えを導きやすい。この項ではこれらのキーワードを軸に、外注する際のポイントを解説する。
《スピード》
いくら作業の速いプロに依頼しても、やりとりのタイムラグや、スケジュールの都合などで即座に対応できない場合が必ず発生する。ニュース性などの観点から必ずその日のうちに公開の必要があるものなどは、内製の良さが最も発揮されると言えるだろう。
《クオリティ》
専門家が行えば、大抵のケースで間違いなくパッと見た目のクオリティは向上する。しかし、特にWebではハイエンドな画質などは差が分からないことも多く、PR内容など一番の目的におけるクオリティを確保できるなら内製が魅力的となる。
《コスト》
内製は一見「安上がり」に見えるが、作業時間に加え、スキルの習得、設備の維持など隠れたコストは数多い。単純にコンテンツあたりの単価で推し量るのではなく、数カ月、数年単位の長期的な視点に立ってコストを見通すことが必要だ。
外注が有効なことが多い例 ①──ロゴアニメーション・サウンドロゴ
動画の最初や最後に表示されるロゴアニメーション・サウンドロゴは、SNSでの共有などで「誰が作ったか曖昧になる」傾向の強いネット動画において、ブランドの印象をつけるのに大きな効果がある。数秒間に凝縮された表現は職人芸的な部分も多いので、質の高いものを作りたい場合は専門家に任せるのがベターだ。
●ブランドやシリーズの「印象付け」に最適
ロゴマークは静止画や単なるフェードで表示させるだけでなく、アニメーションやサウンドと組み合わせることでブランドの「印象付け」に大きな役割を発揮する。一度作れば様々な動画に共通して使えるので、実はコスト的にもかなり優れている。
●「音を先に決める」のもアリ
CGの制作者が、同時にサウンドの作成にまで通じている例は少ない。すでに静止画のロゴマークがある状態においては、映像より先に「音」の部分を、ミュージシャンへの発注や素材からの選定で決めておくと、そのテンポにあった的確な映像を作りやすくなる。
外注が有効なことが多い例 ②──動きや不確定要素の多いイベント等の撮影
大きな会場でのイベントの撮影においては、人の動きが多かったり、会場内での不確定要素の多さなどから、常に「トラブルとの闘い」になる。こうした修羅場での確実な撮影を求めるなら、プロに依頼するのがベターだ。
●プロ機やテクニックの利点が最大限に発揮される
充分に光が当たる近場であまり動かないモノを撮影する場合、現在では素人が家庭用カメラで撮影してもかなりの高画質が得られる。しかし、常に人やモノが飛び交うイベント現場で安定した映像を得たい場合、業務用カメラの性能や、プロのノウハウがここぞとばかりに効力を発揮する。
●「専任」の存在が重要
依頼したプロはもとより、内部の人間が行う場合でも、撮影は「専任者」の存在が大きな意味を持つ。様々な項目が影響する撮影は、他の業務との兼任が困難なので、その意味でも外部に発注する意義はあるだろう。
外注が有効なことが多い例 ③──シナリオの作成とインタビュアー
意外に思われる方も多いかもしれないが、筆者はこれが一番効果的と考えている。「設計図」がしっかりしていれば、映像自体のクオリティにかかわらず充分な内容を持つものに仕上げやすい。プロのライターに協力をあおぐのは有効なケースが多い。
●シナリオ作成に第三者が関わるメリット
・内部の「一人よがり」を防ぐ
社内では共通して認識されていることでも、外部からみると分かりにくいという事柄は案外多いもの。内製することで「一人よがり」になりそうな部分をあらかじめ洗い出すことができる。
・気づきにくい利点などを洗い出す
マイナスの項目だけでなく、商品や会社などが持つ「魅力」も、当人の認識と第三者の感じ方が異なる場合が多い。ディスカッションを行うことで、新たなPRポイントの発見にもつながる。
・構成を客観的に見られる
自分自身で作ったものより、他人の作ったもののほうが、構成の良し悪しを的確に判断しやすい。作成を依頼したシナリオに指摘や要望などを出すスタイルのほうが、クオリティを上げやすい。
●インタビュアーも外部の人物がお勧め
インタビューの収録時も、常に顔を合わせている社内の人物がインタビュアーだと今ひとつ締まらない雰囲気になりやすい。外部からインタビュアーを迎えることで、より「外に向けた言葉」になり、適切な空気が醸しだされる。
内製が有効なことが多い例 ①──毎回同じシチュエーションで撮るもの
毎回異なるシチュエーションで最適なセッティングを行うのはハードルが高く、それがプロの有用なスキルの一つでもある。逆に考えると、毎回完全に同じシチュエーションで撮影できるものは、プロ以外でも安定した撮影を行いやすいのだ。
●太陽光の影響がない場所はラク!
社内で動画撮影用のスペースを考える場合、窓の近くなど太陽光の影響がある場所は時刻や天候の影響を受けやすい。そうなると映像の雰囲気がばらつくだけでなく、それを直すためにセッティングの手間もかかってしまう。なるべく太陽光の影響が少ない場所で、カメラ等を置いたままにできれば、動画は毎回安定する。
●同じ会場を使うとセッティングが安定
外部のスペースを借りたイベントやセミナー等も、一度セッティングを固めれば、毎回同じ会場を使うことで安定した収録が可能になる。いくら機材が向上しても「咄嗟の事態」にプロ並みに対応するのは難しい。そうした要素を極力減らすことで質の安定と手間の軽減を両立できる。
内製が有効なことが多い例 ②──撮り直しやタイミング待ちが必要なもの
外部に撮影を依頼すると来訪や拘束時間に応じた料金が発生するので、その時間内に撮影を終えねばならない。しかし、後から追加になる要素が多かったり、撮影時の天候が重要になるものは、内部で撮影できたほうが最適な素材を得られる場合も多い。
●使い方やテクニックなどの解説映像
商品の使い方やテクニックなどの解説映像は、一度完成した後も「ここがわかりにくい」「ここがもっと知りたい」という要望が発生しやすい。内部で撮影できると、そうしたフォローをすぐ行うことが可能になり、結果として動画の内容もアップできる。
●店舗、施設、物件などの外観
建物の外観など屋外の撮影は晴天の日がベターだが、天候ばかりはコントロールできない。可能な範囲で最も良い天候との組み合わせを撮影できる可能性は、現地に常駐している人が一番高い。
公開までにスピードが要求される際に便利なツール
特にSNSと連携して動画を使う場合などは、投稿までのスピードが重要になるケースは多い。ある程度の画質を確保しつつスピードを実現するには、便利な機能を持ったデバイスの使用が効果的だ。
●パソコンやサービスに直接録画
カメラ内やSDカードに動画を記録した場合、読み込みやエンコードの手間が発生する。「SKNET MonsterX Live」はHDMI経由でビデオカメラをパソコンに直結し、Webカメラのように使うことが可能。パソコン内での録画の他、YouTubeではサービス上に直接録画することも可能だ。
●高画質と軽量ファイルの同時記録を利用する
キヤノンiVIS HF R52のように、高画質なAVCHDと、ファイル容量の軽いMP4を同時に録画できるビデオカメラは増えている。後の編集用に高画質なファイルを残しつつ、パソコンでのエンコードなどを行わずにモバイル環境用に軽いファイルのアップロードが可能となる。
発注においては「あいまい語」に注意!
ナレーションやテロップのコトバについて解説した際、人により受け取り方の異なる「あいまい語」の濫用を避ける旨をご紹介した。これは発注においてもまったく同じで、あいまい語による混乱により、発注側、受注側の双方が無意味に消耗することになる。発注におけるあいまい語は、可能な限り少なくなるよう努めよう。
●注文・指示で使ってしまいがちな「あいまい言葉」の例
▲こうした言葉は、受け取られ方に「属人性」 (人によるバラツキ)が大きい。特に最初の注文時などで相手の感覚がよくわからない場合は、極力こうした表現を使わず参考資料や数値などを用いたほうがイメージの齟齬を軽減できる。
発注先を探すのに活用できるサービス
外注先は、個々の会社のWebサイトなどから問い合わせる他に、仕事依頼系のサイトで募集をかけたり、マッチしそうな外注先を検索するのも有効だ。ここではポピュラーなものと、面白く使えそうなものを紹介しよう。
●Lancers
仕事を依頼したい側、受注したい側の双方をマッチングする「クラウドソーシング」サイト。案件は、複数の提案を募れる「コンペ方式」と、見積もり等から1社に発注する「プロジェクト方式」を選んで登録できる。
●@SOHO
主に在宅などで業務を行う「SOHO」(Small Office Home Office)の事業者を募ることのできるサイト。映像制作はもちろん、かなり幅広い分野がカバーされており、成約するまでの連絡のやりとりはサイトのシステム上で行える。
●Yahoo!オークション
お馴染み日本最大のオークションサイトだが、実は「スキル、知識」というカテゴリがあり、映像制作をはじめ様々な能力を持つ人々が自分のスキルを出品している。まだイメージがかたまらないものの「この分野で面白そうな人を探したい」という場合には、ユニークな使い方が可能だ。
【コラム】
ネット時代の資金調達法
「クラウドファンディング」とは?
ビジネスから非営利の活動まで、様々なプロジェクトにおいて最大の悩みどころと言えるのが「資金の調達」だ。
銀行などからの融資はハードルが高く、また大口のスポンサーが見つかったとしても、事業や活動内容への理解が不充分だと、思わぬ形で足かせになる不安もある。そんな中で急速に広がっているのが、主にネットを使って多数の出資者から数百円〜数万円といった少額ずつの出資を募る「クラウドファンディング」という手法だ。
クラウドファンディングでは一般的に、出資額に応じた「リターン」が定められており、プロジェクトの成立後に「製品」や「作品の鑑賞」または「お礼の言葉」など柔軟なカタチで受け取ることができる。海外では「Kickstarter」、日本では「CAMPFIRE」といったクラウドファンディングサービスを介在させる場合が多く、それらのシステムでは「目標額に届かずプロジェクト不成立の場合には引き落としが行われない」など集金管理もきちんとしているので、投資者側も不安が少なく利用できる。
成否のカギを握る一番のポイントは、募集側の立てたコンセプトにどれだけ「共感」してもらえるか、であろう。募集側の考えを伝える手段として動画は大変重要なツールで、凝った映像でなくとも「顔を出して話す」ことで信頼感を高めることができる。そして、メッセージを伝える際は、コンセプトを短く端的な言葉にまとめた上で、特に集めた資金を「どのように使うか」をきちんと述べるのがポイントだ。
たとえば自主制作映画であれば単なる製作費と言わず「スタッフ・キャスト◯名による、◯◯での何日間のロケ撮影費用」などと明示すると、額の正当性や投資する対象を想像してもらいやすい。プロジェクトの実行時は、折に触れて途中経過の模様も動画でアップすると、より作り手と投資者が一体となった「お祭り感」を楽しむことができるだろう。
▲筆者が監督したドキュメント映画『ナニワのシンセ界』の製作では、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」上での募集において、目標額の約1.6倍にも及ぶ支援が集まった。
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