富士フイルム X-H1「エテルナ」で空気公団のミュージックビデオを撮る


5月11日、ミュージックビデオを完成版に差し替えました。

制作:オフィスフワリ(空気公団) 出演:上村海成(フラッシュアップ)/戸畑心(SHREW) 演出:まるやまもえる 撮影:栁下隆之 協力:湘南モノレール株式会社/富士フイルム株式会社

過去2作品のミュージックビデオ(以下MV)撮影している空気公団が新作アルバム発売に合わせて、MV制作をするというお話をいただいた。今回は役者2人を起用した短編映画のような作品を、という要望だったので、真っ先に頭に浮かんだのはX-H1と新フィルムシミュレーション「エテルナ」、そしてCP+で登場したXマウント版のMKレンズだ。

筆者はX-T2でいくつかの作品を撮り、写真用フィルムのシミュレーションにはとても好感触を得ていた。今回X-H1で加わったエテルナは同社の映画フィルムをシミューレートしたものだが、フィルムで動画作品を撮ったことがない身としては、他の映画フィルムと違いがわかるわけではない。しかしエテルナの色再現を見た瞬間に純粋に「映画っぽいな」と感じた。

そこに作品の味付けとして、ホワイトバランスのケルビン設定でややブルー系にするとともに、グリーンを少し足して独特な色調にしてみた。またシャドウとハイライトを−2、またはシャドウ−1でハイライトを−2と、シーンよって使い分け、ネガフィルムをプリントするかの如く使い分けてみた。編集時にトーンの調整は必要になるはずだが、作品そのもののルックをある程度カメラ内部で決めてしまうことで8bit収録でも高品質な仕上がりになるというわけだ。

MKXレンズのことに触れておきたい。 Eマウント版MKレンズが先行して発売され、ご存知の方も多いと思うが、常用画角を18-55㎜と50-135㎜の2本でカバーする開放T2.9通しのズームレンズだ。その定評ある画質=光学系をそのままに、カメラとの通信接点を有することでカメラ側でレンズステータスの確認と各収差の補正が効くようになったことがEマウント版との大きな違い。今回の撮影の主たる舞台となった湘南モノレール。その車内での撮影は18-55㎜のワイド端を使ったカットもいくつかあったが、カメラ内部での歪み補正のお陰で、垂直線もキッチリ描写されて、ポスト処理が不要だった。今回、スタビライザー撮影では2本の単焦点レンズXF35㎜F1.4とXF56㎜F1.2を用いた。これはXマウントレンズでは定評のある2本だが、XFズームはこれらに匹敵する以上の描写を持っていることを確認できた。モノレール車内の限られた時間と揺れる車内の中でも必要なカットを撮り切ることができたのは、MKXズームレンズがあってこそだと思う。

 

ミュージックビデオのフルバージョンを公開

5月23日(水)に発売される空気公団ニューアルバム『僕の心に街ができて』に収録される「うつろいゆく街で」のミュージック・ビデオのフルバージョンが完成。 山崎ゆかりトータルプロデュース作品。

制作:オフィスフワリ(空気公団) 出演:上村海成(フラッシュアップ)/戸畑心(SHREW) 演出:まるやまもえる 撮影:栁下隆之 協力:湘南モノレール株式会社/富士フイルム株式会社

【リリース情報 / Release Information】 空気公団 『僕の心に街ができて』 発売日:2018年5月23日(水) 品番:DDCZ-2197 価格:3,056円+税 発売元:fuwari studio/SPACE SHOWER MUSIC 販売元:SPACE SHOWER NETWORKS INC.

 

ミュージックビデオのメイキング

ローアングルでの撮影。

カメラ横から。バッテリーはVマウント、もしくは2連のインフォリチウムLから供給。

試作段階の富士フイルムのMKXズームレンズ2本をメインで使用。可変式NDフィルターを前玉に装着。

ローアングルでの移動撮影はステディカムにDJIのRONIN-Mを下に装着してダブルスタビライザーで行なった。

シネマズームレンズMKX18-55㎜T2.9

MKX18-55mm T2.9

このカットはレンズとカメラの協調がよく出ている。光学特性的に広角端で4%の歪みを持つ18-55㎜は、この構図で撮影した場合本来なら人物や窓枠で大きな歪みを感じるはずだが、カメラ本体での補正のお陰で、優秀な単焦点レンズのような描写となっている。

このカットを想定して、可能な限り被写体との距離を稼ぐためにEVFを自在アームで取り付けた。

 モノレール車内のカット全てに注目するならば、通常の電車に比べて大小の揺れが混在するモノレール車内でもカメラ内部のセンサーシフト式ブレ補正のお陰で、まるでアイソレーターを用いたかのようにブレを最小限に抑え込んでいる。また、振動入力で発生するであろう動体歪みが少なく、所謂コンニャク歪みをほぼ感じない点は他社機との性能差を大きく感じたところ。想定した以上にカメラ性能に助けられた撮影だった。  

MKX18-55mm T2.9

MKX18-55mm T2.9

中間の35㎜付近や望遠側の55㎜でも均一な画質を得られた。ズームレンズは各カットでルックの違いを合わせ込む必要がないということのもメリット。手前の座席を前ボケに生かしたカットでは、そのボケが自然だったということもあるが、曇天とはいえ窓の抜けが綺麗に描写されていて、カメラのダイナミックレンジの広さを実感できた。レンズのクリーミーなボケと、「エテルナ」の落ち着いたトーンがよくマッチしたカットだ。

シネマズームレンズMKX50-135㎜T2.9

寄りのカットの多くはこのレンズで撮影した。ボケ味の良さに加えて、解像感はより高く感じた。キレとボケ味を両立した画質は撮影してワクワクすると同時に、ドキッとするような美しい描写を見せる瞬間があり、カメラとレンズの味が相乗効果を出していた。

MKX50-135mm T2.9 

MKX5-135mm T2.9

 

スタビライザーでの撮影は35㎜と56㎜の単焦点レンズ

MKX以外に今回使用したレンズは、XF35㎜F1.4㎜とXF56㎜F1.2の2本。スタビライザー撮影ではあるが、あえてワイドすぎるレンズは使わずに、パース感などをMXFズームに揃える方向で選択した。 海岸での撮影では、引きのなさを考慮してXF35㎜F1.4㎜を選択したが、写真で愛用するユーザーが多いこともうなずける描写力を見せた。画角の変化を考えると、コンティニュアスモードAFではフォーカスが逃げる可能性を考慮し、PD-MOVIE社製のワイヤレスフォローフォーカスを併用した。この時にはフォーカス回転角をリニアモードに設定し、背面液晶の距離指標を見ながらマニュアルモードでフォーカスキャリブレーションをとった。ピントリングの回転角が大きくなることで、フォローフォーカス使用時により精密にフォーカス送りが可能だった。一見するとレンズに距離指標がなくて不安を感じるが、液晶上のレンズステータスと併用することで快適な撮影が行えた。 

XF35mm F1.4

もう一本のXF56㎜F1.2を見てみよう。こちらは河川敷の広場を使ったカットだが、背景の圧縮効果を狙うための長めのレンズとして選択した。撮影距離を長めにとって人物のサイズに考慮しつつ、背景の良い所を切り取ったわけだが、APS-Cで56㎜というと得てしてポートレートのバストアップくらいの寄りに強いレンズの印象だったが、無限遠に使い領域でも良好な解像感を発揮してくれた。ここではやや絞り込んで撮影することで、背景のボケをマイルドにして、MKXズームのボケ量と合わせることに配慮した。

今回のスタビライザーはDJIのRONIN-Mをステディカムに取り付けて、ダブルスタビライザーで運用したわけだが、これは海岸線の強風での揺れ対策と、ローアングル重視の画角に対応するためだった。この運用には積載カメラ重量に制限があるので、写真用単焦点レンズを使用したい。それぞれMKXシネマズームに近しい描写で、作品の統一感が生まれた。 

XF56mm F1.2

 

小型スライダーとボディ内手ブレ補正の相性が良い

小型スライダーを用いた撮影は、MKXズームにボディを組み合わせ、カメラケージやフォローフォーカスを使わないシンプルセッティングで行なった。カメラ+レンズの総重量は2kg程度となり、本来であれば小型スライダーには荷が重い撮影だが、スライドさせる動き出しは演出上使わない想定だったので、動き出しで遅れが出るボディ内手ブレ補正をONにし、スライド中の微振動を吸収させた。

MKX50-135mm T2.9

8bitとは思えない「エテルナ」の階調表現性

本作品のディレクターまるやまもえる氏によるグレーディング。作品の本編集前にこの記事を執筆している関係で、最終ではないが、海岸でのカットは背景の白トビに配慮しすぎてアンダー目に撮影したのが、シャドウ側の豊富なディテールのお陰で違和感なく調整できている。雨の中のカットでは暗部を少し締めることで、前後のカットとの整合性を取っているのだが、このカットでは中間調からハイエストまでの階調の豊富さに驚かされた。これらの画が8bitから調整されたということに驚きを隠せない。

撮影オリジナル

 グレーディング後

X-H1を使ってみて

今回、X-H1を使った体験から、お勧めポイントをいくつか上げるとすれば、まずは4K/30pでの内部200Mbps記録が一つ。これにより外部レコーダーを用いずとも本作品のように豊富なディテールを確保することができた。HDMIケーブルの接触不良などによるトラブルを気にすることなく撮影でき現場のストレスを大幅に軽減できた。2つ目は撮影中のフォーカス拡大で、REC中でも拡大表示ができること。4K収録のシビアなピント合わせを、RECしたまま拡大表示でピントの合わせ直しができると、芝居を途切れさせることなく撮影できる。少し地味な機能かもしれないが、筆者的にはX-T2を使っていた時から欲していた部分だったのでこの上なく有り難かった。

最後に上げるとしたら、レンズシステムの豊富さだ。手頃な値段のズームレンズから、ハイエンドのシネマズームレンズまでをラインナップしている。ここ一番で大胆なボケが欲しければ、解放1.4や1.2の単焦点レンズが選択できるし、軽快に撮影したければ18-135mmといった高倍率ズームレンズも用意されている。画質重視か機動性重視か、用途によって豊富なラインナップから自身の用途にあったレンズを選択できること。それは定評あるFUJINONレンズだからこそと言えるだろう。

今回は3分弱という短い作品だったが、もう少し長い、できれば短編映画でも撮ってみたくなるような、そんな印象のカメラであった。