REPORT◉編集部 一柳
名古屋に「株式会社みんなと」という会社がある。初めて訪問したのは、REDの代理店であるRAIDの名古屋地区での展示イベントがあったとき。もともと工場だったという社内は大改装され、天井の高い1階部分は、機材倉庫かつ機材チェックスペースになっている。しかも、その機材リストが半端ではない。ARRI ALEXA 35から、RED V-RAPTOR、ソニーVENICEはじめ、ハイエンドのシネマカメラから中級クラスまでのカメラ、シネレンズ各種、配信関連まで、ありとあらゆる機材が揃い、東海地区最大の機材数だという。自分たちで使用するだけでなく、レンタルも行なっている。驚くことにこの会社、農業も手がけていて、帰り際には、運営しているベーグル屋の米粉ベーグルまでいただいた。一体この会社は何なのか? あらためて代表の西田哲士さんに取材した。
西田さんは宮崎県の都城出身。キャリアのスタートは宮崎で、テレビ関連の仕事を始めた。しばらく仕事をするうちに、誰も知り合いがいないところに行って映像撮影の仕事がしたくなり、それがたまたま名古屋だったという。フリーでカメラマンの仕事をしながら、2011年には映像技術会社「株式会社 映像畑」として創業。2018年には、映像編集等を手掛ける「株式会社 藁屋」を設立するなど、映像制作分野において着実に事業領域を拡大してきた。
転機になったのはコロナ。もともとドローン撮影も手掛けていたが、2022年に農業ドローン部門を新設。ここで米作りに関わるようになる。米の生産、その米を使った米粉パン販売、さらには米販売まで手がけるようになり、2023年6月に社名を「株式会社みんなと」に変更した。
会社のメッセージには
こんな時代だからこそ、
生きていくことが楽しくなる種をまき、
仲間や地域のみんなとたいせつに育てていきます。
とある。ますます不思議な会社だ。
この流れからすると、コロナを機に映像の会社から農業の会社にシフトしたように思われるかもしれないが、まったくそれは当たらない。ここはVIDEO SALONなので、本社の機材や編集室などを見せてもらう。
まず1階の機材庫がすごい。もともと工場だったこともあり、天井高があるだけでなく、機材車を入れる入り口が2箇所ある。
機材チェックのスペースも充分。レールを敷いて検証することまでできる。
こちらの入り口はスロープがあり、天井高に余裕があるので、ハイエースも楽勝で入る。
自社にカメラがあるので自分たちで検証できる強み
機材量だけでなく撮影部のスタッフも精鋭が揃っていて、1日に何クールも出すことができる。
みんなとの特徴は撮影スタッフがみんな機材が大好きで、とにかく詳しいこと。しかも自分の会社にあらゆるメーカーのカメラがあるので、常にそれを触ることができる環境にある。スタッフは40代から20代まで年代も幅広く、20代で経験もなく入ってきたスタッフは、いきなり現場には投入せず、機材についてここでしっかり勉強させる。だから、どのスタッフも全機種のメニュー、機能を把握しているので、カメラマンの要望にすぐに応えることができる。
詳しいだけでなく、機材が好きなので、新しい機材については導入検討のためにどんどん検証したり、スタッフからの提案もあったりするそうだ。機材導入するかどうかの検討会も開催される。
今では名古屋だけでなく、東京や大阪の仕事を受けることもある。実は名古屋には大企業も多く、その仕事があるにもかかわらず、東京の技術会社に流れてしまうことに、西田さんは忸怩たる思いがあったのだそうだ。みんなとの機材とスタッフであれば、充分対応できるし、実際に、名古屋の大企業の仕事も多いのだそうだ。現在は、堤幸彦監督にその仕事を認められて、映画撮影にも参加するようになっている。
東京にも大阪にもすぐに行ける距離で、むしろ名古屋に位置することがメリットになっている。しかも名古屋であればわりと都心に近いところでありながら、これだけ広大な場所を借りることができるからだ。
さて、2Fに上がってみよう。ここも広大なスペースがあり、オフィスだけでなく、編集・グレーディングルームが設けられていた。
さらに奥に行くと打ち合わせスペース。ここは西田さんご自身でテーブルを作った。以前の社屋からこちらに持ってきたもの。
インパクトがあるのが、キッチンとダイニングスペース。
本格的なキッチンがあり、炊飯器がふたつ、巨大な冷凍庫があり、西田さん自らが作った弁当がぎっしり詰め込まれていた。社員は一食300円でいつでも解凍して食べることができる(無料にしてしまうと給与とみなされてしまうため)。
ますますこの会社がわからなくなってきた。
社内では業務とはまったく別に社員向けに専門家を呼んで資産形成セミナーも開催したという。各個人が自分の人生を考えて、将来の資産のことも考えてほしいという思いから。
優秀なスタッフを育てているが、社員が独立して自分の会社を作ることも厭わない。それどころか、むしろ推奨しているそうだ。まだまだ映像の仕事は多いのに、特に名古屋では選択肢が少ない。選択肢が増えれば、名古屋の会社に撮影が依頼されるようになり、地域の業界も盛り上がるからだ
映像撮影技術と農業、まったく繋がらないイメージのものが、社内に存在し、それがなんとなく繋がっている。あと数年たったら、さらに違う事業が加わっている気がする。
最初は不思議な映像技術会社だと思ったが、こういう会社こそがこれからの日本において地に足がついた本当の活気を生み出していくのかもしれない。
◉農薬や肥料を散布する農業用ドローン
◉米粉ベーグル専門店「ツキノニジ」https://tsukinoniji.com/
◉2023年秋は滋賀県の米「みずかがみ」の新米を販売。2024年には米のセレクトショップも始めるという。
株式会社みんなと https://minnato.co.jp/