東北関東大震災では、かつて取材させていただいた多くの町の方々が被災されました。心よりお見舞いを申し上げます。また復興した町を取材できる日を心待ちにしています。
前回はホワイトバランス(以下WB)の基本について解説しました。今回は鉄道ムービーでのWBの決め方です。一般的に人物の撮影など、できるだけ忠実に色を再現したい場合はマニュアルホワイトバランス(以下MWB)をとり、風景などの場合は太陽光に固定して色合いを強調することが多いです。
列車主体か風景主体か
鉄道ムービーでは列車を主体とした走行映像の場合はMWBをとって車両の色を再現し、風景の中を走る情景映像の場合は太陽光固定するのが基本的な考え方です。ただ、列車主体でも朝日を浴びて赤く染まる列車を太陽光固定で強調したり、雪が降る日に青みを残して寒さを表現することも考えられます。逆に風景でも曇りで青すぎるのをMWBで抑えるなど目的に合わせて決める必要があります。
カメラをセットする時に、MWB設定をしても、太陽光モードにいったん切り替えてモニター上で色の比較をして、どちらが撮影意図に合っているか再確認するのがお薦めの撮影方法です。
雰囲気重視のWB設定
1-A~Bは雪の日本海を走る五能線です。太陽光に設定すると車両は青くなってしまいますが(A)、むしろ寒さを強調した映像になります。MWBをとって撮影すると(B)、車両の色は忠実に再現しますが、寒さはあまり感じません。
1-A プリセット「太陽光」に設定。 五能線 深浦-広戸
1-B MWBで補正
2-A~Bは夕日に照らされるシーンです。太陽光に設定することで夕日らしい赤さが出ます(A)。
2-A 「太陽光」に設定。 中央本線 木曽平沢-贄川
MWBをとって赤みを抑えると(B)、夕日の雰囲気は減少します。やはりこんなシーンでは、赤みを残して撮影したいものです。
2-B MWBで補正。
3-A~Bは激しく降る雪の中を行く寝台特急「日本海」です。太陽光設定ではやはり青みが強く出ます(A)。
3-A 「太陽光」に設定。 奥羽本線 大釈迦-鶴ヶ坂
MWBをとると雪も白く、機関車の色も忠実に出ます(B)。
3-B MNBで補正。
このようなアップでなおかつ雪の様子を出したいときに、どちらの色で撮影するか悩むところです。現場で決めきれない場合は、MWBで撮影しておいて編集時に調整するほうが、太陽光で撮影して調整するよりも簡単にできるのでお薦めです。
目的や印象で決める
4-A~Cは夜の駅を撮影したものです。太陽光モードで撮影すると、実際の見た目とは大きく異なり人工光のような色合いになります(A)。
4-A 太陽光モードで撮影。 鹿島鉄道 石岡駅(2007年廃止)
次にオート(AWB)で撮影しました。メーカーやカメラによっても異なりますが、AWBでは少し色がずれることが多いようです(B)。
4-B AWBで撮影。
光源の近くでMWBをとると、被写体の色に忠実に撮影できます(C)。
4-C 光源の近くでMWBをとって撮影。
このようなシーンではどれが正しいというより、撮影する目的や印象で決めることになります。カメラのセットに時間がある時は、いろいろな設定でモニターを確認して決定しましょう。
今月のお薦め路線 高山本線
高山本線は岐阜と富山を結ぶ山岳路線です。岐阜県側では主に飛騨川に沿って走り、渓谷の美しさを堪能することができます。特に4月下旬から5月にかけては新緑が美しく、淡い色で芽吹いた木々が毎日のように色を変えて、徐々に濃くなってゆきます。映像は下呂駅の焼石側にある飛騨川を渡る鉄橋です。ステンレスのボディーを輝かせて走る列車はディーゼル特急ひだ。年によって新緑の状態や見頃は変わりますが、高山に向かうと標高が高くなり、新緑の様子も変わってきます。沿線を眺めていろいろな状態の新緑を狙いたい路線です。
焼石~下呂
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【筆者プロフィール】佐々倉 実
鉄道映像作家。小学生の頃から鉄道写真を始め、大学生の頃、当時鉄道員をしていた今井洋氏と出会って以来、製作活動をともにする。現在は、佐々倉氏が撮影、今井氏が編集を担当し、雑誌やDVDパッケージを中心に鉄道ビデオを製作している。DVDに『魅惑の蒸気機関車 四季SL紀行』、『日本の鉄道 新幹線・特急編/蒸気機関車ローカル線編』などがある。2010年7月に『感動の美景鉄道』(MAXAM)が発売された。
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