レポート◉坂口正臣
目次
■ SAMYANG AF 35-105mm F2-2.8L の概要
■ レンズの詳細をみる
■可変絞りながらもズームレンズの常識を超えた開放F2-2.8
■最短撮影
■ フォーカスブリージング
■ 歪曲収差と周辺減光
■ Lマウントアライアンス3社のカメラボディと組み合わせた時のバランス
■ランドスケープ撮影
■ まとめ
SAMYANGとAF 35-150mm F2-2.8Lの概要
SAMYANG(サムヤン)は、韓国発のレンズメーカーとして、近年急速にその存在感を高めているブランドで、実は歴史も長く、1980年代に創立したメーカーである。現在はプロフェッショナルからアマチュアまで、幅広いユーザー層に支持されている。特に描写力とコストパフォーマンスの高さが特徴で、高い光学性能を持ちながらも、手の届きやすい価格帯で販売されている製品群が魅力である。
SAMYANGと言えばMFレンズというイメージがあるが、実は古くからAFレンズも存在していた。近年もAF対応レンズを次々とリリースし、その技術力をさらに進化させている。最新のAFレンズシリーズでは、高速で静かなオートフォーカス性能に加え、コンパクトでありながら安心して使える信頼性を持っている。
SAMYANGの製品作りは、革新性とユーザーフレンドリーの融合にある。ある意味「痒いところに手が届く」ような感じのラインナップを次々と発表していて、目が離せないブランドの一つである。今回のAF 35-150mm F2-2.8 L も同様にユーザーの「欲しかった」を上手く製品化した印象である。
このレンズは高倍率で便利なズームであるにも関わらず、開放絞りはF2-2.8と非常に明るい。絞りは可変するが、ワイド端の35mmではF2、テレ端150mmでF2.8と実に驚くべき性能である。次世代ズームレンズは各社F2.8の壁を突破する製品が発表されてきているが、このレンズもその中の一つである。それでは、このレンズのディテールをもう少しみてみようと思う。
レンズの詳細をみる:デザインとビルドクオリティ
SAMYANG AF 35-150mm F2-2.8Lの筐体サイズは、広いズーム域と浅い絞りにも関わらずコンパクトな印象を受ける。それもそのはず、最大径92.8mm長さ155.4mmと過剰には大きくない。もちろん24-70mmF2.8などの標準ズームレンズと比較するといささか大きいが、ズーム比や開放F値やレンズ構成を考えると、むしろ小さいと感じる。もちろん驚くようなサイズ感ではないので、主観ではあるがハンドヘルド撮影を想定しても、充分に許容範囲内だと感じた。このレンズを手に取った多くの人がそう感じると思う。
筐体はとても堅牢に仕上げられている。操作中の不快なガタ付きや組み付け精度の荒さも感じない。実にしっかりとした印象で安心感がある。シンプルなマットブラック塗装も、質感がよく現代的である。レンズ先端付近に、さりげなくあしらわれた赤いリングが特徴的だ。このデザインは、SAMYANGのブランドアイデンティティを表すHidden red ringと呼ばれている。ブランドのコンセプトやストーリーが、象徴としてデザインに落とし込まれているのは、所有欲を満たすことにも繋がる。
それでは操作系を見てみよう。手前がズームリング、先端がフォーカスリングの配置。右回転でズーム、左回転でフォーカスは無限遠側となる。
ズームリングは幅広で、自然に指が当たる。ズームリングの動きはソリッドな印象で、特に滑らかさはないが、シンプルに操作がしやすい。このレンズの特筆すべき点のもう一つが、フォーカスリングにある。なんとフォローフォーカスのギアが、ゴムリングなしで使えるように、ピッチやサイズが合わせてある。これはとても気が利いている。できれば他メーカーも実現してほしいぐらいである。フォーカスリングの操作感は、少し軽めで素直に動く印象。指での操作はもちろんだが、フォローフォーカスでも使いやすい。動画での使用をしっかりと考慮した素晴らしい仕様である。
しかし気になる点もある。これはSAMYANGに限ったことではないのだが、ハイアングルや俯瞰撮影時に、自重でズームが動いてしまうのである。仕方なくパーマセルなどを貼って一時的に動きを止めるしかない。俯瞰で同ポジ撮影をすることは少なくないので、レンズ側で解決できれば、さらに利便性がアップするだろう。
撮影で操作するスイッチは左側にまとめられている。2つあるボタンは、AF時のフォーカスホールドボタンとして機能し、AF時のカスタムモード2はフォーカスリングを使って絞りを操作することができる。
MF時には2つのモードを切り替えて使うことができる。モード1・2は、拡大・縮小時にピントを維持するPear-Focal機能。動画撮影でズームインアウトを演出として収録する場合に便利な機能である。モード3はこのレンズ独自の機能で、擬似的なドリーショットを撮影できる機能も搭載する。
フィルター径は82mm、フードは花形で適度な大きさ。
【レンズ構成】
18郡21枚
絞り羽枚数 9枚
絞り F2.0~F16(35mm)、F2.8~F22(150mm)
最短撮影距離 Lマウント用:0.32m(35mm)~0.85m(150mm)
最大撮影倍率 Lマウント用:0.184倍(35mm)~0.18倍(150mm)
フィルターサイズ 82mm
【オートフォーカス】
フォーカスモーターはSAMYANG独自のリニアSTMを搭載している。リニアモーターを採用しているので、精度が高く駆動スピードが速い。静粛性も高く、同録(音声収録時)に、AFの駆動音を心配することなく安心して使用できる。
可変絞りながらもズームレンズの常識を超えた開放F2-2.8
高倍率レンズでありながらもF2-2.8と絞りが開く明るいレンズ。被写界深度の浅い表現が魅力である。150mm開放F2.8で撮影、柔らかいボケ味が素晴らしい。
最短撮影
35mmと150mmの最短撮影距離で撮影、最短撮影距離 Lマウント用:0.32m(35mm)~0.85m(150mm)
撮影倍率は0.184倍(35mm)~0.18倍(150mm)決して倍率が高いわけではないが、必要十分である。これぐらい寄れたら、大半の撮影シーンで困ることはないだろう。画質は全体的にソフトで、扱いやすい印象を受けた。色収差もよく抑えられている。
フォーカスブリージング
フォーカスブリージング(フォーカス移動による画角変化)のチェックをしたが、これも驚くほどよく抑えられている。高倍率なズームレンズなので、フォーカスブリージングは気になるだろうと思い込んでいたが、正直これほど補正されているとは思わなかった。これならフォーカス送りも躊躇なく撮影できる。このことからも動画撮影をしっかりと考慮していることが伝わる。
歪曲収差と周辺減光
建物などを撮影する場合に、歪曲収差が気になることは多い。今回訪れた公園の展望デッキを試しに撮影してみた。結論から言えば、歪曲収差は実によく抑えられていた。少々意地悪なテストだが、歪曲収差補正をOFFにして現像し、素の状態をチェックしてみる。
想定通りで広角端で樽型、テレ端では糸巻き状に歪曲収差が出るが、いずれもよく補正されていて、複雑に歪むこともない。カメラや現像ソフトの補正がなくても、被写体によっては気にならないレベルまで光学的に補正されている。この辺りSAMYANGの技術力の高さがわかる。周辺の画質もわずかに収差が見られるが、気になるほどではない。広角端の周辺減光も少ない。この画質なら、自信を持って仕事でも使える。
Lマウントアライアンス3社のカメラボディと組み合わせた時のバランス
ソニーEマウントとLマウントで発売されるこのレンズ、筆者は現在Lマウントユーザーである。
Lマウントは、アライアンスに参加したメーカーが共通のマウントを使用しているので、レンズとボディの様々な組み合わせが可能である。SIGMA・Panasonic・Leica・DJI に加え、新たにBlackmagic Designが加わったことで、さらに選択肢が広がった。筆者の手持ち機材から3台のカメラにセットしてみた。購入前の参考になるように、サイズ感やバランスを見てもらえたらと思う。使用したボディーは、SIGMA fp ・LUMIX S5M2x・ Blackmagic Design BMCC6K の3台。リグは組んでないが、動画撮影を想定してすべてケージに入れた状態にレンズをセットしてみた。
ランドスケープ撮影
35-105mm F2-2.8 Lで何気ない日常の風景を撮影してみる。1206g(Lマウント)という質量は決して軽くはないが、35-150mmでのスナップは楽しい。開放絞りで得られる被写界深度の浅い写りは、素直なボケ味で素晴らしい。(写真1)
次はf5.6まで絞って撮影、解像感のあるシャープな描写で、わずかにボケた遠景との分離もよく立体感を感じる。(写真2)
逆光耐性も良好、あえてゴーストがでやすい位置に太陽を入れてみたが、目立ったフレアやゴーストも見当たらないので安心して使える。(写真3)
テレ端150mmでf8まで絞って撮影、圧縮効果を引き出しつつも自然で違和感のない描写。解像感のある合焦部分はシャープで、コントラストが高い。テレ端でこの画質はとても頑張っていると感じる。(写真4)
まとめ
SAMYANG AF 35-150mm F2-2.8 Lは、広角35mmから望遠150mmまでをカバーする、大変使い勝手の良いレンズ。それに加えてF2-2.8という明るいF値、さらに高速なオートフォーカス性能が魅力的なレンズである。この部分だけでも充分魅力的だが、それだけではない。極めて良好なフォーカスブリージング補正、そして後付けのギアリングなしでフォローフォーカスが使える点も動画撮影において大変使いやすい。多用途なレンズとして、ドキュメンタリーやポートレートやイベント記録など、さまざまなジャンルに対応できる理想的な1本である。
そして何よりも、コストパフォーマンスが素晴らしい。原材料費の高騰や円安の影響で値上げが続く中、この性能で実売20万円を下回る価格で販売されている(2024年10月時点)。これは、趣味や業務に関わらずカメラユーザーにとって本当に嬉しいことである。浮いた予算で、その他の機材に投資ができる恩恵は計り知れない。今後もSAMYANGの新しい製品が楽しみである。
筆者
SPO 坂口写真事務所
坂口正臣
広告写真やTV-CMから、プロモーション映像やドキュメンタリーなど幅広いジャンルで活動、撮影だけではなく演出もこなす。YouTubeチャンネル SPO を運営、レンズやボディーの作例や、その他機材レビュー動画も公開している。
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