ドキュメンタリーにおいて、人物を魅力的に映し出すキーワードとなる「ビジュアル」と「サウンド」。本記事では、グローバル企業・国連機関など国内外の映像制作に携わる映像クリエイター 石田裕一さんを講師に招き、言葉を用いずに画で伝えるビジュアルストーリーの作り方、人の感情を伝えるサウンドデザインの考え方について、実際に制作したドキュメンタリー映像を作例に、実践的なテクニックを解説してもらった。
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講師 石田裕一 Yuichi Ishida
映像クリエイター。グローバル企業・国連機関など国内・海外の映像制作に携わる。また、カメラメーカーでの動画講師・大学や大学院・企業で動画制作講習なども行う。ライフワークとして日本や世界の文化・人々についての映像作品を制作し国内・海外の映画祭で受賞・選出されている。また、自身のYouTubeチャンネルでは映像制作について発信しており69,000人以上の登録者がいる。映像制作の株式会社setueの代表取締役。
YouTube ● https://www.youtube.com/@yuichiishida
HP ● https://yuichiishida.com/
ドキュメンタリーにのめり込んだ理由
「物語性」を映像に取り入れて構成していくドキュメンタリーの制作方法が面白いと感じた
映像クリエイターの石田裕一と申します。現在は映像制作会社setueの代表取締役を務めており、カメラメーカーでの動画講師や、大学・大学院、企業で動画制作講習なども行なっています。映像を人に教えるときの、遊び仲間が増えていく感覚が好きなので、そういった機会があれば積極的に引き受けるようにしています。また、ライフワークとして、日本や世界の文化・人々についての映像作品制作や、自身のYouTubeチャンネルにて映像制作についての発信などもしています。
独立して映像制作を始める前までは、国連機関に8年ほど勤めていた関係で東ティモールに住んでいました。その際に、人物を撮る機会やインタビューを行う機会が多くあったため、ドキュメンタリー撮影やインタビュー撮影について自然と学ぶようになりました。少しずつ勉強していくうちに、特に「物語性」を映像に取り入れて構成していく制作方法が面白いと感じるようになり、そこからドキュメンタリーの制作にのめり込んでいきました。
今回の記事では、映像制作における物語性について重要となるビジュアルストーリーの作り方や、サウンドデザインについて、実際に制作したドキュメンタリー映像を作例として交えながら詳しく解説していきます。
ビジュアルストーリーとは?
感情に訴えるビジュアルストーリーテリング
物語を伝えるための仕掛けやテクニックを画の中に落とし込むことが重要な要素
ビジュアルストーリーテリングという言葉がありますが、これは要するに視覚的な要素を使って物語やメッセージを伝えるということを指しています。ドキュメンタリーを撮る場合、インタビューの言葉やボイスオーバーが入るなど、聴覚によってナラティブに物語が進んでいきがちですが、画で物語をしっかりと伝えていくことが大事です。
では、なぜ映像においてビジュアルストーリーが大事なのかというと、人の感情に直接訴えかけられるからです。例えば、「あの方は今とても感動しています」といったナレーションが入ってしまうと、聞いている人は少し興ざめしてしまいますよね。逆に、そういったメッセージをビジュアルから感じ取ることができると、「なんかいいな」と感じてしまうんです。 つまり、物語を伝えるための仕掛けやテクニックを画の中に落とし込むことが、映像制作において重要な要素になります。そうすることで、映像内の人物の気持ちの揺れ動きを発見でき、視聴者の興味も「もっと見たい」に変化していくため、ビジュアルを通して物語を伝えることはとても大切なことだと僕は考えています。
また、ビジュアルストーリーを作れるようになると、言葉の壁を越えることができます。僕は海外で仕事をする期間が長かったので、ひとつの国だけではなく、様々な国に映像を届ける必要がありました。人によっては英語が理解できない国の方もいたため、「見てストーリーがわかる」ということがドキュメンタリーにおいて大切なのかなと実感しましたね。なので、ドキュメンタリーを作る上では、画でどのように物語を伝えるかということを常に意識するようにしています。
ストーリーの構成を考える
ビジュアルストーリーにおいては「シーンを考える」ことが特に大切
ビジュアルで物語を伝えるにあたり、まずはストーリーの全体的な構成を漠然と考える必要があります。物語とは、簡単に言えば「変化」です。始まりがあって、終わりがあり、その間に山や谷があり、と構成していくとドキュメンタリー映像として成立しやすくなります。
そこでよく使われる手法として有名なのが「ヒーローズ・ジャーニー」です。ヒーローズ・ジャーニーとは、とある主人公が無難に生活していたら、あるとき逆境に陥る事件が起き、そこから這い上がって何かを達成していくといった物語の流れのことです。基本的にはそれと同じように何らかの変化を入れることを考えながら構成を練ると物語としては面白くなりやすいです。やはり人が何かに苦しんだりもがいたりしながら、それでも進んでいく姿は美しいし、そういうストーリーをみんな見たいんですよね。
反対に、主人公の実家が大金持ちで、 一切勉強せず有名な大学に入り、大手企業に就職して、そのままハッピーエンドだったら、物語としては面白くないですよね。何かしら落ちる部分があるほうが物語は面白いので、ドキュメンタリーを撮影をする場合、その方の人生において「どこに挫折があったのか?」を聞き、そういったシーンを抑えることで物語として成立するようにしています。
僕はビジュアルストーリーにおいて、「シーンを考える」ことを特に大切にしています。シーンとは、映像における一連の流れを指し、ひとつのカットだけでなく連続したカットが集まって意味を作るもののことです。シーンを考えることで映像としても見応えのある物語に仕上がります。逆の考え方に「モンタージュ」という手法があり、これは連続性のないショットを組み合わせて新たな意味や感情を生み出すものになります。この手法で映像を作ってしまうと、どうしても関連性が見えづらくなってしまい物語性が欠如しやすくなるため、映像を始めたばかりの方であれば、まずはシーンを考えることから始めてみましょう。
ストーリー構成の考え方
・ 全体の構成を考える:何についての映像か
・ 物語=変化 どんな変化を入れられるか
・ 場面(シーン>モンタージュ)を考える
シーン
モンタージュ
ストーリーの全体像をシーンごとに組み立てる
連続する一連のショットの塊に意味を持たせていくことでシーンを作る
映像とは、シーンがいくつか集まって最終的に全体の物語になるため、まずはどこからでもいいのでシーンを作ることを意識すると全体の骨組みがしっかりします。
例えば、1日のルーティン映像を作る場合、「私の1日」という全体のテーマがあったとして、その中に朝のシーン、昼のシーン、夜のシーンといった3つのシーンをそれぞれ作っていきます。朝のシーンであれば、歯磨きをするショットや、口をゆすぐショットなど、連続する一連のショットで成り立っていますよね。動画を始めたばかりの方に多いのが、ひとつのショットから次のショットへ移るとき、いきなりどこかに飛んでしまうケースです。すると、話もいきなり飛んでしまい、時間軸がわからなくなってしまいがちです。基本的に連続する一連のショットとは、近い時間軸のものと考えてもらえればわかりやすいかと思います。
例えば、僕がお茶を手に取って、蓋を開ける、そして飲むといった一連の流れがひとつのシーンなんです。この塊に意味を持たせていくと考えればいいと思います。自分がシーンを作れているかを判断する方法としては、何かひとつのショットを撮ったとき、同じ場所や空間で別のショットをいくつか撮れているかで判断するといいですね。当たり前のことなんですが、それが意外と難しいことで、僕もいまだに連続するショットを撮りきれていないことがあったりします。
機材の選び方
被写体の撮影チャンスが何回あるかで使う機材を判断する
ドキュメンタリー撮影の場合、何を自分が最優先するかによって、使う機材を決めています。
僕はジンバルを使うか、手持ちで行くかでいつも迷います。ジンバルを使う場合、ショットが綺麗に決まれば滑らかになってとてもいいんですが、ジンバルが誤作動したり不具合を起こしてしまうことも多々あるんです。ドキュメンタリーの撮影となるとどうしても一発勝負の部分があるため、リスクを考えて手持ちで行く判断をすることも多いです。そういった理由から最も安全な機材を選ぶなら超広角を手持ちで撮影するのが無難なんですが、反面つまらなさも出てきてしまうのがネックです。なので、撮りたいものの撮影チャンスが何回あるのかで使う機材を判断してもいいのかなと思います。どこまで自分がそのリスクを取れるかみたいなところは自分との戦いですね。
僕の場合は、大体1発目は広角で抑えておくというのを、戦法としてよくやっています。それさえ撮れていれば、最悪普通のドキュメンタリーとしては成立するはずなので。その上で、勝負どころで単焦点のボケたショットなどを狙っていくようにしています。
3つの距離感でシーンを作る
人物を撮るときは心や感情をどう撮るかが大事
シーンを簡単に説明すると、異なる距離感のショットで撮るということになり、ひとつのシーンにつき「ロングショット」「ミディアムショット」「クローズアップショット」といった3つの距離感のショットを入れてあげると綺麗にまとまりやすくなると考えています。
ロングショットは、全体の風景がわかるようなもので、非常に情報量の多いショットです。下図の場合、夕方の時間帯で真ん中が少し黄色っぽく、場所は海、女性らしき人物がいて、天気は落ち着いているといった具合に大体の情報がわかりますよね。そういうロングショットをひとつ入れてあげるといいのかなと思います。
人物撮影の場合、ミディアムショットは大抵バストアップショットになります。ロングショットに比べると、泣いている、怒っている、笑っているなど人物の感情や表情が見えてきますよね。
作例のクローズアップショットでは、目元しか映っていないため情報は多くありませんが、与える印象が強くなり、より感情が出ているように捉えてもらいやすいです。人を撮るとはそもそもどういうことなのかを考えたとき、人には物と違って心があります。なので、人物を撮るときは、心や感情をどう撮っていくかが大事だと考えています。
シーンを考える際には、まず上記3つの距離感のショットを最低限押さえておくと、シーンが作りやすくなるかと思います。
距離感
情報量
レンズ・焦点距離による表現の違い
超広角レンズは風景に適しており標準から中望遠レンズは人物に適している
少しテクニカルな話になりますが、ロングショットを超広角レンズなどで撮ると風景がダイナミックに撮影できます。よりジャーナリズム的というか、事実として何が起こっているかがわかりやすい。それに比べて、標準から中望遠レンズは人物を撮るのに非常に適しており、情報量は少ないですが立体的になり、シネマティックでより感情的な表現が可能になります。なので、僕はそれぞれのレンズを大体1本ずつは揃えてあります。ドキュメンタリー撮影に行くときは、ズームレンズ1本と単焦点のレンズを1〜2本は最低限持っていくようにしています。特に、標準から中望遠域のショットではぼかした画を撮りたいので、そういうときは単焦点で綺麗なショットを狙いに行くようにしています。