ドラマの編集などで要求される画面に映したくない文字や看板を映像から消す作業が「バレ消し」。ロケーション撮影が多い作品では、相当な数を短時間で、しかもそれと分からないように消すことが求められる地道な作業だが生成AIやAIの技術を取り入れることで、より効率的に行えるようになるという。ここではアドビの3つのアプリを連携させながら、AI技術を利用することで無駄な労力をかけない時短バレ消し作業法を紹介する。

講師 永田裕之 Hiroyuki Nagata​

1993年生まれ。株式会社EOT0代表取締役。専門学校を卒業後、大手ポストプロダクションへ入社。主に音楽番組の編集・MAを担当。独立後、YouTubeコンテンツ、ドラマ、番組CGを中心に活動。専門学校講師も務める。オンライン編集:NHK「ワタシってサバサバしてるから」、テレビ東京「しょせん他人事ですから 〜とある弁護士の本音の仕事〜」、CG:MBS「教祖のムスメ」、音響効果・MA・カラーグレーディング:中田敦彦のYouTube大学「XENO」シリーズ

HP ● https://eoto2022.com/







バレ消しのワークフロー

現時点でのAI技術の使いどころは2カ所!


駅の入口を案内する文字だけを消したいと依頼された場合のワークフロー。AIを使わなくても可能な作業だが、使用することで効率化できるのがポイント。



壁の模様はそのままに文字だけを消す。







重ねたクリーンプレートで隠れてしまう通行人をマスクしてその上に重ねて完成。










現時点で私が知り得る最も効率的な方法

池袋駅の駅前でiPhoneを使って手持ちで撮ってきた素材を使い、「池袋駅 東口」の文字を消します。このページに結果を掲載していますが、綺麗に消えていると思います。これはPhotoshopに搭載されている生成AIを使って消している状態です。昔なら生成AIを使わずに、「コンテンツに応じた塗りつぶし」であったり、コピースタンプツールで似たようなところから選んで塗っていく方法が主流でしたが、どうしても明るさが変わったり、塗った感が出てしまい、それをまた馴染ませる作業が必要でした。生成AIを使うようになってからは、ポチっとやるだけで消え、全部馴染ませてくれるので、非常に楽になっています。

この作業ではもうひとつ、AI技術を使用しています。この作例では、動画の途中で「池袋駅 東口」の文字の前を歩行者が横切っていますが、文字は消えたままです。ここではAfter Effectsに新しく搭載された「ロトブラシ 3.0」を使っています。これにもAIが搭載されていて、形を勝手に認識してくれる機能になり、それを使ってマスクを作っています。手動でマスクを切って追いかけているのではなく、ピュッと塗るだけでその形になってくれるので、あとは再生してマスクが生成されるのを待つだけというお手軽機能です。AIを使えば、消し作業がここまでできてしまうという内容を説明していきます。



2種類あるアドビ製品の生成AI

❶ テキストから画像を生成

出力したい画像のイメージをテキスト(プロンプト)を使って入力し、新しい画像を生成する方法。写真のようなリアルな質感からイラスト調のものまで細かく指定することができる。


❷ すでにある画像の一部を生成

すでに存在する画像の一部を指定して、削除や追加ができる。β版ではリファレンス画像などを用いて追加の生成をすることが可能に。バレ消しで使用するのはこちらの機能。



After Effectsのレイヤー構造

文字を消したクリーンプレートを元の動画でサンド!

消したい文字の手前を歩行者が横切るため、元動画をコピーして最上位レイヤーに移動。クリーンプレートにかかる頭部を重点的に綺麗に切り抜いて重ねている。クリップはプレートにかかる部分だけトリミングし、レンダリングの負荷を軽くしている。



Photoshopで作成したクリーンプレートに対し、元動画をトラッキングして手持ち撮影によるカメラの揺れた動きを適用。文字の背後の壁の部分だけ切り抜いて重ねる。



三脚で固定して撮影されていたり、消す対象物を人物などが横切らない動画であればバレ消しも容易だが、これは手持ち撮影で微妙な揺れがあり、横切る歩行者が消したい対称に被るためやっかいだ。



同じ2本の動画クリップのレイヤーの間にクリーンプレートの静止画を挟み、サンドしている。




ドラマの編集ではバレ消し作業はとても多く、お店の名前や、一番多いのは電信柱の住所です。その他には、歩いてくる被写体の抜けにある病院の看板だけを消してくれと依頼されることもあったりします。そんな時にここでご紹介するワークフローで作業すれば簡単に消せすことができるので、ワンカットにそこまで時間をかけずに大量の消し物をこなしたい場合に有効です。私が今知り得る中で一番効率の良いやり方です。

作業手順はとてもシンプルで、Premiereでフレームを書き出して、Photoshopの生成塗りつぶしでクリーンプレートを作り、Premiereのタイムラインで重ねたものをDynamic LinkでAfter Effectsに飛ばし、最終的にはAfter Effectsで合体させます。

今後、動画の生成AI機能がバレ消しにも対応し、今回紹介する方法が、来月にはもう古くなっている可能性もあります。しかし、AIが完全ではなかったときにどう対処するかは、まだまだ人間の手が必要な段階なので、完全にボタンをポチッでどうにかなるような時代ではありません。微調整して、最終的に品質を高めるような技術を持っていれば、私たちのこの職もAIに取られないと思います。要は、どこをAIにやらせるのかは知っおいたほうがよいということです。文字を消したり、看板を消す作業は人がわざわざやるようなことでもないので、それを簡単にAIが作業してくれるのであれば、どんどん使っていったほうがよいかと思います。