レポート◉栁下隆之

モニターレコーダーで名を馳せたATOMOSが、なぜレコーダーレスのモニターを作ったのか


最近ではカメラの進化とともに、ニコンZ9やZ8、LUMIX S5M2XやGH6、GH7などカメラ内部でPro ResやRAWの収録が可能なカメラが発売されたことで、モニターレコーダーの需要が減速する状況になってきています。本線収録としてはHDMIケーブルの断線などのリスクを考えた場合、カメラ内部収録での安全性には変えがたいものがあります。ただ、クライアントワークでは、常に現場で再生確認(プレイバック)が求められることもあり、モニターレコーダーを使うことでカメラ側での操作の負担を減らせるメリットはあります。

モニタリングとしては、4Kオーバー解像度でのRAWやLog収録には、正確なピントの確認と同時にLUT(Look Up Table)の適用や露出管理など、モニターに求められる機能のハードルが上がってきたと感じています。筆者自身もフォーカスアシスト機能とLUT運用の柔軟さを主にモニターを選ぶようにしていますが、これに加え「カメラコンロール」できる製品が数社から発売されており、より利便性が高まっています。

モニタリング+カメラコントールの新製品「SHINOBI Ⅱ」が登場

Portkeysなどの海外メーカーからカメラコントロール機能の付いたモニターが発売され始め、現在では複数のメーカーから類似した機能のモニターが発売されていますが、ここで注目したいのがATOMOS製品の安心感です。ProRes RAW収録機能で培われたカメラメーカーとの連携が、コントロール機能にも生かされて行くと筆者は考えています。

各社各機種ごとに異なるRAW信号を受け取るためには開発段階から密接な関係がなければ成立しないもので、カメラコントールについても同様のことが言えるはずだからです。モニターという汎用製品だからこそ、多くのカメラで正しく動作してほしいと思うのがユーザーの心理でしょう。加えて対応機種が多くなればなる程、SHINOBI Ⅱ操作画面からWB、ISO、シャッター速度、アイリス(絞り)値など、撮影時に必要な設定を迷わず操作できるようになります。

何社もカメラを所有している方や、使い慣れないカメラをレンタルした時には、モニター上でカメラコントールができればダイヤルやファンクションボタンのアサインに戸惑うことなく撮影が進められます。

カメラとの接続について

接続は、HDMIケーブル以外に、付属のUSB-Cケーブルでカメラと接続します。

本体背面にHDMI入力端子とカメラコントロール用のUSB-C端子がある。カメラコントロールに加えてSHINOBI Ⅱのバッテリーからカメラに給電が可能。逆にモニター機能だけであればHDMIだけ接続して、モバイルバッテリーなどからSHINOBIⅡに給電が可能。付属のケーブルプロテクタは上下のネジで固定する。
別売りの純正ケーブルを使用すれば抜け落ち防止のロックが掛かる仕様。カメラ側は社外品のリグパーツなどで対応できるので併用をお勧めしたい。

カメラコントロールに対応したカメラであれば、このようにホワイトバランス、シャッタスピード、絞り、ISOが画面下に表示されます。対応カメラ一覧はこちらから。https://www.atomos.com/camera-control/

ちなみにカメラ本体と通信していないレンズを装着した場合は、F0と表示されます。

AFレンズを装着した際にカメラコントロール画面表示。モニターコントロールと画面左下のマークをタップで切り替える。
ホワイトバランス、シャッタースピード、絞り、ISOの各操作は、数字と左右にある〈  〉の間の余白(黒)部分を タップすると操作できる。〈  〉を直接タップしても反応しないので注意しておきたい。


フォーカスピーキング機能の充実

カメラコントール機能と併せて注目すべきはモニタリング機能の充実です。初代SHOGUNから同社の製品を使っている筆者ですが、製品のアップデート毎にメニューが一新されていると言って良いほど機能が盛り沢山になっています。

特に最新のATOM OS(ファームウェア)では、フォーカスピーキング機能やガイドマーカー表示の充実が挙げられます。フォーカスピーキングはカメラ内での表示機能とは比較にならない程の充実と容易な設定で、特にマニュアルフォーカスでもオールドレンズなど柔らかい描写でピントのピークが掴みにくい時には大変助かります。


フィールドで使ってみて感じたこと

今回は使い勝手の実写テストとして、近所に桜を撮りに出掛けてみました。お散歩カメラには少し大きいですが、マニュアルレンズのマスターレンズとも言えるZEISSのOtusをZ9の組み合わせました。N-RAWであれば8K/60p撮影が可能ですが、正直カメラの背面液晶だけではピントの山が掴み難く、外付けモニターが必須です。今回この組み合わせを使ってみて大変便利だと感じたのは、カメラのメディアの残量をSHINOBI Ⅱの画面上で確認できたことで、8K/60pであっという間に消費して行くメディア残量を確認しながら撮影できることで、集中が途切れることもなく好感触でした。

また、外しがちなフォーカスの山も、ピーキングの機能を使いこなせば8K撮影でも安心感があります。バッテリー交換のタイミングも、モニターとカメラ双方を一つの画面上で管理できた点も◎です。今回はZ9でしたが、バリアングルモニター搭載機であれば、撮影中は液晶面を閉じておくことで画面に保護になります。

カメラコントールができるモニターはいくつかあるが、カメラステータスが確認できるものは筆者が知る限り他にはない。8K/60pでは325GBのメディアでも12分15秒しか撮影できないので、残量を確認しながら収録できるのは精神衛生上ありがたい。

USB-PD給電機能があるので、カメラ側でUSB給電をON/OFFにするなど、使用するカメラの電源事情に併せて切り替えて置くと良い。因みにZ9でUSB給電をONにした場合、カメラ本体の大容量バッテリーの充電に吸い取られてSHINONI Ⅱのバッテリーがあっという間になくなってしまった。

SHINOBI Ⅱの駆動に必要なバッテリーを除けば、本体はとても軽量(210g)で持ち歩きにストレスがないということに加えて、1500nitながらバッテリーの持ちが良く、純正のNP-F互換バッテリー1本で2時間以上動作しました。仮にカメラコントールを使用しない場合は、USB-PD入力に対応しているので、モバイルバッテリーからカメラやモニターに給電するといったことも可能ですので、バッテリーを使い切ってしまった緊急時にも安心です。

唯一と言える不満点を挙げるならば、HDMIのスルーアウトがないことで、ワイヤレス映像トランスミッターを併用する場合はカメラ→トランスミッター→SHINOBI Ⅱと接続する必要があるので、トランスミッターのバッテリー切れでモニターが消えてしまうなどのトラブルが起きる可能性がありますので、使い方によっては不便と感じる場合もあるでしょう。


LUTファイルを登録して表示する

SDカードを使って.CUBE形式のLUTが読み込めますので、RAWやLog収録の際には現場で確認がしやいですし、これと併せて波形モニターやゼブラ表示と併せれば、露出やWBの管理なども容易です。

8個の.cubeファイルを読み込んでおくことができる。LUT名は画面上部に表示されるが、ファイル名を17文字以内にリネームしておくと識別に便利。画面左上にはカメラステータス表示、325GBのCFexpressカードで12分15秒撮影できるという表示。


ただしSDカード使用時は注意が必要で、カメラで「exFAT」でフォーマットされたメディアは認識されないので、必ず「FAT32(又はNTFS)」でフォーマットし直してからLUTファイルをコピーする必要があります。マニュアルで見落としがちな部分かと思いますが、4GBで収録ファイルが分割されないカメラ=exFATでフォーマットされるカメラの場合は要注意で、カメラとメディアを共有している場合、パソコンでLUTファイルコピーして、いざ現場でSHINOMI Ⅱに読み込もうとしたらSDカードが認識しないということにならないように注意してください。

メディアを使い回す場合は、カメラのメディアフォーマット形式に要注意。現場で慌てないように事前に読み込んでおくほうが良いだろう。

まとめ

不満点がゼロではないのですが、実売で7万円弱で入手できるモニターとしてはとても優秀で、広い視野角と充分な輝度に加えて、同価格帯のモニターに比べて充分過ぎるほどの機能が詰まっていて、操作が直感的で理解しやすい点も好印象です。また、本年3月にカメラコントロール機能を省いたSHINOBI GOも発表になったので、モニタリング機能だけがほしい方はそちらを選択すればよりコストを抑えられます。このサイズのモニターの導入を検討している方であれば、候補の上位にしておいて間違いないでしょう。