自在に煙や霧をコントロールができるPMI Gear社が手がける人気スモークマシン・Smoke NINJAシリーズの新製品 SmokeNINJA-PRO。1回最大3分間の発煙が可能で、手軽に誰でも作品制作に適した煙を生み出すことができる注目の製品だ。今回は、数多くのアーティストのミュージックビデオを制作する映像ディレクターの加藤マニさんに実際にMVの制作現場で使っていただき、その使用感をレビューいただいた。
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加藤マニ
映像ディレクター。1985年東京都青梅市に生まれる。東京・渋谷を本拠に、インディーズ、メジャーを問わずミュージックビデオ等の映像制作(キュウソネコカミ、Da-iCE、Superfly、NMB48、Cody・Lee(李)、ねぐせ。、八十八ヶ所巡礼、ビッケブランカ他多数)を手がける。MV制作は2015年より毎年年間50本以上に上る。
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スモークマシーンを使った表現方法
映像におけるスモークマシンというのは、一般的に「粘度の高い液体を霧状に噴出させることで、照明機材の光源やレーザーの光のラインを見えやすくし、照明効果を高めるための機械」とされているらしく、煙自体を見せるというよりは、空気に馴染ませた霧を生み出すものなんですよね。ゆえに「スモークマシン」よりも「フォグマシン」と呼ばれることが多いのだとも思いつつ、わたしはですね、空気中に馴染んだスモークより、ちょっとダマになっていて、煙として認識できるくらいの粒子感のあるスモークが好きなんですよね。
現実的なドラマなどにおいては、そうした煙は「誰かがタバコ吸ってるの?」「火事でも起きてるの?」といった違和感を生んでしまいがちなのですが、そうしたリアルなシーンとは異なる、幻想的な演出だったり、ミュージックビデオにおける演奏シーンで画にさらなる勢いが欲しい場合など、そうした「緩やかに漂う煙」や「噴出する煙」は、被写体を引き立てる強い味方になると考えています。
わたしはかつて、いわゆるステージ演出機材としての箱型スモークマシンでそうした演出を行なっていましたが、どうしても煙の量の調整が難しく、カメラの近くで使用すると煙が出過ぎて画面の中が真っ白に、被写体も何も見えなくなった! みたいなことがしばしば起きてしまうんですよね。屋内のシチュエーションでテイクごとに繰り返してスモークを噴出させると、次のテイクを撮る前に、ある程度そのスモークが空気中から抜けていくのを待たないと、撮影環境がどんどん変わってしまい、テイクごとに明るさが異なってしまいがちになる問題もありました。
SmokeNINJA-PROは「幻想的な煙」を生み出すことができる
その辺りに関して、今回ご紹介いただいたSmokeNINJA-PROは、上述した「幻想的な煙を見せるための演出」に非常に特化しておりまして、煙の量が多すぎて被写体が見えなくなってしまうことはなく、かといって濃度が薄すぎるわけでもなく、しっかりとした煙感はあり、求めている通りのスモークの演出が行えます。従来通りのフォグマシン的な使用も可能で、それに加え「スモークをちょっとだけ足す」みたいな演出が気軽にできてしまいます。

本体の先端に小型のファンもついていて、それを回すことでスモークが噴射されるベクトルを複数方向に散らせるので、画面内に入ってくるスモークの出どころをバレづらくできるのも気に入っています。ステージ機材系のスモークマシンだと、馴染ませないままの煙を見せようとするとどうしても「ここからスモーク出てます!」という噴射感が画面の中で目立ってしまうんですよね。
ご貸与いただいたタイミングで撮影したmajikoさんの「Q」のMVでは、倉庫内や廃墟内のシーンで、画面内に人物以外の動きを少しつけたく、画面の下手側からスモークを撮影中にリアルタイムで入れていますが、お湯の沸いたケトルの口から出る湯気のような勢いのある感じではなく、あくまでも煙が入ってきている程度の見え方になっていると思います。

もちろんこれまでの機材でも、噴出させた煙をサーキュレーターなどに通せば、ある程度の粒子感を持たせながら拡散されるのですが、風量の調整が意外と難しかったりします。そしてそれらを屋外で使用する場合はスモークマシンとファンそれぞれの電源を用意しないといけないのですが!SmokeNINJA-PROは内蔵バッテリーで駆動するので、電源が不要なのです。はっきり言ってめちゃくちゃ便利です。USB-Cで給電しながら使用も可能なので、モバイルバッテリーと繋いでしまえば屋外での小規模撮影などにも安心です。先端にファンがついているため、カメラ近くでの使用であれば、風向きもある程度は無視できるのもありがたいところです。
先日ご貸与いただいた際に、ビレッジマンズストアの「PINK」という楽曲のミュージックビデオの中でも使用しているのですが、ライブハウスやリハーサルスタジオのシーンにおいて、スモークがあるのとないので、だいぶ画の中のレイヤー数が変わるといいますか、画力がひとつ上がる感じがあって、嬉しいです。(貸与いただく期間の前後にも撮影があったため、幸か不幸か、同一のビデオの中にSmokeNINJA-PRO使用カットと不使用カットがあり、比べやすくなってしまっています。でも本機材の資料としてはいいのでは!とも思っています)




ちなみにこの撮影では、右手でSmokeNINJA-PROを持ちながら親指はその噴射スイッチに置き、それ以外の指で三脚のパン棒を操作し、左手ではズームリングを操作するという「1人でスモークを出しながらズームインアウトを含む撮影」を行なっています。忙しすぎるだろ!という気もしなくもないものの、意外とそうしたスモークの量だったりタイミングのコントロールって、カメラマンが撮影しながらできた方が感覚的にちょうどよくできるのではないでしょうか。とも思っています。ジンバルの横につけて、リモコン操作しても便利かもしれません。

モードは4種類あり、まだそこまで使いこなせてはないのですが、見える煙タイプの「霧」のほか、おそらくやや重ための冷たく見せるための「ドライアイス」と、その逆に上部に上がっていくタイプの熱く見せるための「スチーム」と、いわゆる最初に申し上げた光のラインを見せやすくするフォグマシン的な「ヘイズ」がモード切り替えで選べるようになりました。「ドライアイスモード」で煙を送れば、常温のスタジオで寒さが表現できるし、キッチンに置かれた鍋の中に本体を入れて、スチームモードにしてリモコンで操作したら、ちょうどいいタイミングでお湯が沸いたような演出もできそうですよね。バブルノイズを使ったシャボン玉機能(シャボン玉の中にスモークを閉じ込めて飛ばすこともできるらしいです!)でも色々遊んでみたいと思っています。

とにかく画の中に煙を入れることを好むわたしとしては、割と革命的な機材で、とっても嬉しいです。ついつい何にでも煙を足してしまいそうなので、自制しなくてはいけなそうです。(使ってみて感じたこととして、使用しない時は立てて置いておきたくなるフォルムなのですが、本体上部のファンの部分の比重が大きく、やや倒れやすい印象があり、そこだけは注意された方が良いかもしれません) いずれにせよ一度使ってしまうと、それまでの生活には戻れない、魔性の機材だと感じました。