アップルが著名なクリエイターとコラボをし、iPhoneによる撮影で作品を送り出すという恒例のイベント。今年も例に漏れることなく新しい作品が発表されました。今回は『万引き家族』、『怪物』の是枝裕和監督による、監督初のタイムトラベル映画、『ラストシーン』。全編iPhone 16 Proシリーズで撮影されています。

過去に本国のアメリカでは『ジョーカー』の撮影監督のローレンス・シャーとiPhone 11 Pro。『デューン』、『ザ・バットマン』の撮影監督のグリーグ・フレイザーとiPhone 13 Pro。そして日本では去年の三池崇史監督とiPhone 15 Proと、今までiPhoneは名だたるクリエイターとコラボをしてきました。

今回は是枝監督にiPhone 16 Proシリーズによる映画撮影の現場についてインタビューを敢行。また、普段クライアントワークにおいてiPhoneを使用するiPhoneographerと勝手に名乗っている筆者が、メイキング写真から筆者なりに今作品のiPhone撮影の分析もしてみました。

全編iPhone 16 Proで撮影 「ラストシーン」 プレミア試写会

是枝裕和監督 インタビュー

――監督は『万引き家族』では35mmフィルム、『怪物』ではデジタルシネマカメラを使われるなど、作品ごとにカメラを使い分けている印象があります。今回のiPhoneによる撮影は監督の現場にどのような影響を与えましたか?

是枝裕和監督(以下、是枝):何のカメラで撮影するかは、私よりもカメラマンとの関係で決まるんですよね。iPhoneだからといってスタッフの数も少なくなかったです。でもおそらく、例えば学生さんが撮影するときは、少人数でも十分鑑賞に耐える作品は撮れると思います。

――iPhoneによる撮影で印象に残ったことはありますか?

是枝:逆光とロングショット、そして移動ショットにどこまでiPhoneが耐えられるかなというのは試していました。逆光は特に(カメラの)弱さが出る部分なので。写真ならまだしも、動画になった時はどうなのかなと思っていました。でもそこは今回クリアされていましたね。

海辺のふたりが並んでいるやや逆光気味のバックショットとかが一番(画として)成立しにくいんですが、デジタルのいやらしさはなかったですね。

――一番画期的だなと思ったiPhone 16 Proシリーズの機能はなんでしょうか?

アクションモードです。手ぶれ補正というのは結局、画質に影響してしまうんですが、このアクションモードは手ブレを抑えましたねというのが分からないんですよね。スタビライザーを使った時よりも安定していて「マジで?」という感じでした。移動車を引いて撮影してもここまで滑らかにならない気がします。

――iPhoneの映像の進化は、今後の映画業界にどのような影響を与えると思いますか?

僕がデビューした時はフィルムでしたからね。編集もアナログでしていたのがFinal Cut Proになって、明らかに仕上げの時間も変わってきますよね。それは明らかに予算や時間の節約になりますが、同時に無くなる仕事も出てきます。その事実をどう使って作品のクオリティに繋げていくか、ある程度の哲学は必要だと思います。

『ラストシーン』のビハインド・ザ・シーン

ここからはメイキング写真から撮影現場の様子を筆者が分析していきます。

メイキング写真を見る限り、iPhone 16 Proシリーズが持っているポテンシャルの高さにより、アクセサリーを付けず撮影することができています。また、監督自身が1人で撮影しやすいのもiPhoneの特徴でしょう。もし、シネマカメラのパーツやフィルターをiPhoneにマウントしたいという時は、iPhone用のリグやアクセサリーが数多くあるので、そこから選んで使用することも可能です。このアクセサリーパーツの豊富さは、他のスマートフォンにはないiPhoneの強みとも言えます。

こちらのメイキング写真内では、SmallRigのケージである「SmallRig x Brandon Li モバイル軽量ビデオキット iPhone 16 Pro/Pro Max 共同デザイン版」とSSDの「Samsung T7 Shield」、モニター出力用に「DJI SDR Transmisson」、撮影アプリは「Blackmagic Camera」が使用されていることが分かります。

iPhone 16 Proシリーズの撮影機能は、筆者のiPhoneographerとしての活動の経験からもかなり優れていると言えますが、もし、iPhoneのカメラ機能をより自由に、撮影の目的に最適化したい際にはこういったアクセサリーが役立ちます。iPhone撮影におけるBlackmagic CameraやFinal Cut Cameraなどのサードパーティーアプリの使用や、アクセサリーの種類に関して興味がある場合は、筆者も制作に携わった「スマートフォン・フィルムメイキング」(編:ビデオサロン編集部)を読んでいただくとよいかもしれません。

そして意外とiPhone撮影において触れられないのが、iPhoneのディスプレイの明るさと大きさです。もちろん、カメラやマイク機能において、iPhone 16 Proシリーズはスマートフォンとは一見思えない性能を発揮します。しかし、こういった撮影現場において、上の写真のように撮影した素材をクルーに太陽光下でも簡単に見せたいという時に、iPhone 16 Proシリーズの屋外におけるピーク輝度が2000ニトもある大きなSuper Retina XDRディスプレイが役に立ちます。

シネマカメラ付属のモニターではもちろん、現在販売されている外付けモニターと比較してもiPhone 16 Proシリーズのディスプレイの性能はかなり優秀と言えるでしょう。

また、上のメイキング写真が示している、是枝監督とタッグを長年組まれている撮影監督の瀧本幹也氏が持っているiPhoneの後ろに、リグやアクセサリーが装着された別のiPhoneを持っている人がいます。

これもiPhoneによる撮影の良いところで、仮にiPhoneをレンタルをして撮影するにしても、低予算で複数のiPhoneを揃えることにより、マルチカムでの撮影がしやすくなります。故に、特に自主制作の映画において、現場での撮影時間がかなり限られているという時には、iPhoneによる撮影はかなり役立ちます。また、1人でもiPhoneのカメラと設置の適切なセッティングが分かる人が撮影現場にいれば、あとはそのセッティングのまま、現場のどのクルーでもiPhoneを持ってもらうことが可能なのも便利な点でしょう。

iPhoneの登場はスマートフォン業界だけではなく、カメラ業界にも革命をもたらしてきました。アクションモードやApple Logの登場などによってさらに進化を続けているiPhone。今回のような映画撮影プロジェクトが自主制作のみならず、プロフェッショナルの撮影現場においてどのような影響を与えるのか、今後もiPhoneographerとして注目していきたいと思います。

作品詳細

是枝裕和監督作品「ラストシーン」

■本編

■舞台裏映像