テレビ番組や劇場映画のドキュメンタリーという枠を超え、よりリアルな人物像や事柄を見せるコンテンツとして「広義の意味でのドキュメンタリー」が増えつつある昨今。本記事では、様々なドキュメンタリーコンテンツに携わりながら、YouTubeなどでもドキュメンタリーを発信し続ける映像ディレクター伊納達也さんを講師に迎え、WEBコンテンツとして成立するドキュメンタリーの在り方について解説してもらった。
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講師 伊納達也 Tatsuya Ino
1988年生まれ。東映シーエム株式会社にて制作進行として勤務後、株式会社adoir(現・株式会社Vook)の立ち上げに参画。2014年から株式会社umariにて様々なソーシャルプロジェクトのクリエイティブディレクションを担当。2017年から株式会社inahoを設立し、栃木県鹿沼市を拠点に活動中。映像ディレクターとしてドキュメンタリー広告の制作を行いながら、ドキュメンタリー作家として作品を発表。またライフワークとして世の中の映像コンテンツを分析し、より良い映像作りのための制作メソッドを開発、XやYouTubeで発信している。
ドキュメンタリーをコンテンツとして成り立たせるにはどうすればいいのか?
映像ディレクター、ノンフィクション映像作家として活動をしている伊納達也と申します。普段はランアンドガンスタイルで自分でカメラを回しつつ、いろんなところへ行きながらディレクターとして仕事も作品作りもやっています。クライアントワークとしては、企業のウェブチャンネルなどに載せるドキュメンタリーのコンテンツビジネスや、プロジェクトをドキュメンタリーで追いかけるようなプロモーション映像の依頼を受けて制作することが多いです。また、それとは別に短編映画祭に出すようなショートドキュメンタリーの制作をしたり、YouTuberがやっているチャンネルのドキュメンタリーコンテンツの構成作家として携わるなど、いろいろな方面からドキュメンタリー作りの仕事をさせてもらっています。
元々、高校の頃から自主制作映画を作ってきたんですが、大学のときにドキュメンタリー系の教授に師事をし、ドキュメンタリー映像の制作を始めました。ただ、新卒でテレビCM業界に入り制作進行を務めた後は、企画会社のようなところでソーシャルプロジェクトの映像発信ディレクターを務めるなど、映像業界ど真ん中というよりは企画を作る会社で主に働いてきました。その後、株式会社inahoを設立し、現在に至るという形です。
少しだけドキュメンタリーについての経験談をお話すると、2016年に『TEZUTSU』というドキュメンタリー映画を初めて撮影したんです。個人的には、ようやくドキュメンタリーのショートフィルムが1本でき、Short Shorts Film Festivalなどでも流してもらえて一定の達成感はあったのですが、その際にドキュメンタリーを専門とする方々から、「ただ綺麗なだけ」「インタビューに画を載せただけ」「これはドキュメンタリーではない」といった意見を結構いただいてしまいまして…。今考えると確かにそうだなと思えるんですが、それをきっかけにドキュメンタリーをコンテンツとして成り立たせるためにはどうすればいいのかを考えるようになりました。
広告系やビデオグラファースタイルからカメラを持ってディレクターをやり始めた方がいざドキュメンタリーコンテンツを作り始めると、似たようなことに陥ってしまう例を僕自身何度も見てきたので、今回の記事ではそこからどう脱却し、ドキュメンタリーを制作すればいいのか、WEBコンテンツとして最低限成立するドキュメンタリーをどう作るのか、といった話をメインに解説していければと考えています。
inaho Film
inaho Filmはプロジェクトの背景の物語を語る「プロジェクト・ドキュメンタリー」の制作チーム。企業のCSV・CSRの映像や、ソーシャルプロジェクトの映像制作などを行なっている。

WEBコンテンツとしてのドキュメンタリーとは?
WEBでのドキュメンタリーとは「広義の意味でのドキュメンタリー」
公開される場所やメディアによっていいとされる映像のカタチは変わってくる
一般的にイメージされるドキュメンタリーで最も思い浮かべやすいのは、テレビ番組や劇場映画などのドキュメンタリーかと思います。テレビ放送であれば30分〜60分、劇場映画であれば90分〜120分程度といったドキュメンタリーとしてのフォーマットがありますが、そんな中YouTubeなど決まりのないWEBコンテンツとしてのドキュメンタリーがここ10年ほどで流行しています。
こういった時代になって強く思うのは、公開される場所やメディアによって、いいとされる映像のカタチは変わってくるということです。特に、YouTubeやWEBメディアでの最適な映像の形は未だ発展途上で、日々進化しているように感じます。つまり、WEBコンテンツとしてのドキュメンタリーとは、テレビや映画用のフォーマットには合っていないけれど、実際の事柄や人物を記録した「広義の意味でのドキュメンタリー」であると考えています。
ドキュメンタリーコンテンツの種類と特徴
種類 | 特徴 |
プラットフォーム | フォーマット |
テレビ放送 | 30分や60分 |
劇場映画 | 90分〜120分(短編なら30分以下も) |
YouTube | 決まりはない |



YouTubeでの広義の意味でのドキュメンタリー映像の一例
シネマティック・エッセイ系 | Life Of Rizaなど |
Vlog系 | 野球選手 トレバー・バウアーのチャンネルなど |
記録系 | プロセスX、黙飯、フードスターなど |
WEBメディア系 | CNBC、CNBC Make it、NYT Cookingなど |
解説系 | Daniel Steiner、Archeitectural Digestなど |
企業チャンネル系 | HuckberryのDIRTシリーズなど |
陥りがちな失敗ポイント
視聴者はドキュメンタリーを見たいのではなくテーマや被写体を見たい
WEBコンテンツとして最低限成立するドキュメンタリーを作る際に陥りがちな失敗というのが、「視聴者はドキュメンタリーを見たいのではなく、テーマや被写体を見たい」ということ自体を忘れてしまうことです。
例えば、僕は現在鹿沼という場所に住んでいるんですが、「鹿沼秋祭り」という地元の祭りが有名なんですね。そこで、この祭りのドキュメンタリーを撮影し、YouTubeのタイトルを『鹿沼秋祭り2024 ドキュメンタリー』としてWEB公開したとします。テレビ番組であれば問題ないかもしれませんが、WEBでこのタイトルのまま公開してしまうと、よほどその祭りが好きな方だったとしても、祭りの何が見られるのかが分からないため、そもそも視聴されないんですよね。
中身がどうこう以前に、本来、表現方法のひとつである「ドキュメンタリーであること」を全面に押し出すタイトルにしてしまうのは望ましくないという前提がWEBコンテンツの基本にあります。
動画を見るかどうかを視聴者は何で判断するのか?
「欲求」「興味ジャンル」「テイストの好みと経験則」を満たせるかどうか
では、視聴者は何を持って動画を見るかどうかを判断しているのかというと、「欲求」「興味ジャンル」「テイストの好みと経験則」といった3つの要素を判断基準としているのではないかと考えています。
「欲求」とは、単純に「見たい」「知りたい」と思えるかどうか。「興味ジャンル」とは、自分が興味のあるジャンルなのかどうか。「テイストの好みと経験則」とは、「画が格好いい」「前に見た面白かった動画と雰囲気が似ている」など視聴者の経験則に基づいたもの。この3つの要素をどう満たしていくかが、WEBコンテンツとしてのドキュメンタリーを作る上で重要なポイントだと思います。

例
