人気シリーズの伝統を継承しつつ、新たな挑戦が数多く盛り込まれている本作。撮影処理では、作画(2D)と3DCG、そして背景美術といった各種素材をひとつの作品世界の空気感に一体化させるという方針の下、細やかなコンポジットワークが施された。撮影監督を務めた、千葉洋之氏がその具体的な画づくりを解説する。
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講師 千葉洋之 Hiroyuki Chiba
有限会社アニメフイルム 荻窪スタジオ所属。撮影監督として、TVシリーズから劇場長編まで多くの話題作を手がる。リアル系の画づくりを得意としつつ、作品の世界観に合わせて多彩なルックを創り出す。
【撮影監督として、参加した近作(抜粋)】
『コードギアス 奪還のロゼ』、『Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。』、『アストロノオト』、『LUPIN ZERO』、『コードギアス 復活のルルーシュ』、『魔入りました入間くん』、『クラシカロイド』、『セイクリッドセブン』
『コードギアス 奪還のロゼ』
「コードギアス Next 10years Project」で発表された『コードギアス』シリーズの新作アニメーション。監督は大橋誉志光、シリーズ構成を木村 暢が務め、キャラクターデザイン原案のCLAMP、キャラクターデザインに木村貴宏、島村秀一と、シリーズお馴染みの豪華制作陣が集結。新たな主人公、ロゼとアッシュ、2人の兄弟が繰り広げる”奪還”の物語を描いていく。
原作・企画:サンライズ
ストーリー原案:大河内一楼、谷口悟朗
監督:大橋誉志光
シリーズ構成:木村 暢
キャラクターデザイン原案:CLAMP
キャラクターデザイン:木村貴宏、島村秀一
ナイトメアフレームデザイン:阿久津潤一
メカニックデザイン:重田 智
メインアニメーター:木村貴宏、島村秀一、中谷誠一、重田 智、橋本敬史
美術監督:小幡和寛
色彩設計:忽那亜実、久保木裕一
3DCG:武右ェ門
CGI監督:篠田周二
音響監督:明田川 仁
撮影監督:千葉洋之
編集:坂本久美子
音楽:川井憲次
約20年にわたり、アニメの撮影ひと筋
「実写撮影だったら?」を手がかりに作品の世界観に合った撮影処理を施す
千葉洋之と申します。主に撮影監督として、様々なアニメ作品の撮影を手がけています。現在は、アニメフィルム 荻窪スタジオに所属していますが、アニメ業界に入った当初は別のプロダクションで制作職をしていました。もう20年近く前の話になりますが、撮影に魅力を感じて純粋に専念したいと思ったことからアニメフィルムへ移籍しました。
自分の撮影スタイルとして、その作品の世界観に合わせてルックを創り出すことを心がけています。そのため特定のジャンルなどに偏らず様々な作品を担当させていただいています。撮影処理のアプローチとしては、キャラクターや背景、メカなど様々な要素を、実写撮影の原理やその中で培われたセオリーを取り入れながら、作業を行なっていくのが基本です。キャラなど特定のセルを際立たせるスタイルではなく、セルとBGをなじませていく(一体感を高めていく)ように撮影するのが自分の基本的な方針です。現実の世界で実写カメラで撮ったら、このような見え方になるはずだといったことを手がかりに、作品ごとの個性に合わせて様々な撮影処理を施していく感じです。
実写撮影の原理や画づくりを参考にしているし、カメラが趣味でDaVinci Resolveを使ってLUTを用いた画づくりをすることもあります。ですが、アニメとしての醍醐味を込めることもかかせません。画としての説得力を高める上で実写のノウハウを利用しますが、それだけでは画として迫力に欠ける、つまらないものになったりもするのでカットの特性に応じて、「現実世界ではこのような光り方はしないけど、ケレン味が増して格好良いから光らせよう」といった処理も日常的に行っています。今回は、撮影監督として参加させていただいた『コードギアス 奪還のロゼ』(以下、奪還のロゼ)を作例に、具体的な取り組みを紹介していきます。
作業環境
PC/型番 | Dell Precision 3660 |
CPU | 12th Gen Intel Core i7-12700 2.10 GHz、12コア、20スレッド |
GPU | NVIDIA RTX A4000 16GB |
ストレージ | (システム)SSD 512GB、(2nd)SSD 512GB、(3rd)HDD 6TB |
メモリ | 32GB |
モニター | HUAWEI MateView 28.2インチ (HSN-CBA) x2 |
タブレット | WACOM Cintiq 13HD (DTK-1301/K0) |
マウス | Logicool MX Vertical |
キーボード | Keychron K4 Version2 |
その他 | TourBox NEO |
ソフトウェア | After Effects、Photoshop、Illustrator、DaVinci Resolve、Cinema 4D |


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撮影ワークフロー

タイムシートに基づく撮影処理
資料や素材に込められた意図を汲み取る
実際のカットを例に、具体的な撮影処理の手順を解説します。まずは、タイムシートを用いたカットの例です。アニメの撮影では通常「タイムシート」という設計図に沿って処理を行います。タイムシートには、どの素材に対して、どのタイミングから、どのような効果を加えるのかといった指示が書き込まれています。3DCGが主となるカットの場合は、タイムシートを作らない場合もあります(後述)。
図は、第1章のCUT29です。素材は、レイアウト、BG(背景美術)、Aセル、Bセルの4種類です。レイアウトは、キャラクターの配置や素材の構成の図解、美術さんの原図などの役割を担っています。BGとA、Bセルは実際にAfter Effects上で撮影処理(コンポジット作業)を行う素材です。
先ほど「実写カメラで撮ったら、このような見え方になるはず」といったことを拠りどころにしていると話しましたが、このカットではレイアウトに記載された「マドの外、白とばし」からキーライトの位置を最初に考えました。その上で、強い陽の光が窓から入り込んでいるということは屋内は暗めになるはずと考えました。この指示は撮影部に向けたものではなく、美術部向けのものだと思います。ですが、こうした情報を拾い集めつつ、カット全体としてのルックを考えて、それを成り立たせるためにはどのような処理を加えるのが効果的かといったことを考えながら作業を進めます。
Before/After


カットを構成する要素




