SNS向けショートドラマの作り方
企画・脚本の考え方
クライアントが訴求したいことをベースにバズる要素や面白いストーリーを考えていく
SNS向けのショートドラマを作るにあたっては、そこにスポンサーがいるかどうかによって、企画・脚本の考え方もだいぶ変わってきます。極端な話、スポンサーがいなければ、それがどんな下品な内容や表現であっても、単純にバズる内容をやってしまえばいいんですよね。
ただし、スポンサーがいる場合はそうはいきません。その場合、クライアントの言いたいことや、訴求したいポイントを細かくヒアリングする必要があります。
ただ、最近のショートドラマはスポンサーがいるものであっても、「その商品が出てきさえすれば、ストーリーラインに関係していなくてもいいよね」という考え方のものが非常に多いです。でも、僕らの場合はせっかく広告として制作するならば、クライアントが訴求したいことをベースにした上で、そこにバズる要素を取り入れていき、それを基に面白いストーリーを考えていくといった作り方を軸にしています。バンダイさんの「ガシャポン」を題材としたショートドラマ『#ガシャ恋』では、クライアントからヒアリングした内容を青春ショートドラマとして落とし込み、上記の内容を踏まえて制作させていただきました。



NUTS FILMが手がけたSNSショートドラマの事例
『#ガシャ恋』
「ガシャポン」を題材として制作された初の青春ショートドラマ。電通とタッグを組み制作された本作は、広告訴求をベースとしたショートドラマにおいて異例の再生数、いいね数、コメント数などを記録した。

撮影におけるポイント
“驚き・鮮やかさ・面白さ・感情をよりわかりやすく伝える”
SNSでショートドラマを見ている人は登場人物の感情を見たい
SNS向けショートドラマの撮影においては、「驚き」「鮮やかさ」「面白さ」「感情」といった要素を、より視聴者にわかりやすく伝わるように意識しています。
例えば、本作では1話冒頭に階段からガシャポンを落とすシーンがあるんですが、「物が落ちる」という要素はついつい本能的に見てしまうものなので、驚きの要素として狙って入れています。
また、ガシャポンの玉にはさまざまな色があるので、それをものすごい数階段から一度に落とすことで、鮮やかさが伝わるようにしています。
次に、面白さの要素については、人間の動きやリアクションで表現しています。ショートドラマの場合、1話ごとの終わりは人間のリアクションで終わることが多いんですよ。「嫉妬して手をぎゅっと握りしめながら終わる」「親指を齧りながら終わる」など、面白いポイントを加えるような演出を意識していました。
そして、その際に出てくる感情をより色濃く出すようにしています。SNSでショートドラマを見ている人は感情を見たいんです。怒鳴り声が聞こえたらすぐに見てしまうような、感情に対して敏感な方が多いので、そこを意識して入れていくようにしています。

編集におけるポイント




ストーリーがしっかりと伝わる構成になっているかどうかが後の満足感に繋がる
一方、編集する際に意識しているのは、「テンポ」「SE」「表情」「満足感」といった要素です。
テンポ感とSEについては、とにかく視聴者を飽きさせないよう、タイミングを意識しています。具体的には、動画を見る人は音に反応しやすいため、どのタイミングでSEを入れるのが効果的かを考えて入れるようにしています。例えば、頭から1秒以内にSEを入れるのか、3秒ずつSEを入れていくのかなど、タイミングを計っています。
次に、そのテンポ感の中に人の表情を何秒間残すのかを考えます。結局のところ、視聴者は人間の顔が見たいんですよ。例えば、電車に乗っているとき、乗ってきた人を不意に見てしまうことってありますよね。そういうとき真っ先に視線が行くのは顔なんです。そういった本能的な部分に働きかけるため、できるだけ人の表情が残るような編集を意識しています。
最後に、そのストーリーがしっかりと伝わる構成になっているかどうか、分かりやすいかどうかを確認します。それが見終わった後の満足感に繋がる要素なので、そういった部分を意識しながら編集するようにしています。
課金型ショートドラマの作り方
クリフハンガーを意識した導線づくり
あえて一度見せることで視聴者の興味を惹きつける終わり方を意識する
一方、今流行りの課金型ショートドラマにおいて、最も大事とされているのが「クリフハンガー」です。クリフハンガーとは、物語やドラマにおいて「次も見たい」と思わせる、続きが気になるような終わり方にすることを指します。課金型ショートドラマでは、クリフハンガーによって視聴者が課金をするような仕組みになっています。
終わり方において意識していることは、綺麗になりすぎてはいけないということ。終わり方が綺麗すぎると展開が分かってしまうんです。展開が読めることで視聴者の期待に沿う形で進めることができるため、利点もあります。ただ、展開が読め過ぎると視聴者は見なくなってしまう。なので、その一歩手前、もしくは一歩先で切るんです。「普通、そこは見せずに話を跨ぐよね」というところも、あえて一度見せてから切ることで、視聴者の興味を惹きつけるような終わり方を意識して制作しています。
NUTS FILMが手がけた課金型ショートドラマの事例1
『結婚詐欺師と堕ちる女』

日本テレビと制作した、人気サスペンスコミック『夜蜘蛛は蜜をすう〜結婚詐欺師と堕ちる女〜』を原作とするショートドラマ。ショートドラマアプリ「BUMP」を通じて配信され、ドラマ制作チームにはTikTokやYouTubeを中心に展開するショートドラマアカウント『毎日はにかむ僕たちは。』プロデューサー、スタッフ陣が集結した。
ショートドラマアプリ「BUMP」

BUMP(バンプ)は、emole株式会社が運営する、SNSで話題のショートドラマやアニメが見れるショートドラマアプリ。全話無料で視聴可能なドラマも多く配信されている。
NUTS FILMが手がけた課金型ショートドラマの事例2
『大富豪のバツイチ孫娘』

株式会社テレビ朝日と香港のSHORTTV LIMITEDが共同で制作した縦型ショートドラマ。全83話からなる本作は、中国で話題となったWEB小説『離婚したら世界一裕福な孫になった』を基にした日本版リメイク。ショートドラマアプリ「ShortMax」を通じて配信され、アプリやSNSでの課金額は国内で約10億円、海外では5億円相当にも上る大ヒットを記録した。第1回アジアショートドラマアワードにて「地域市場開拓賞」を受賞。
ショートドラマアプリ「ShortMax」

ShortMax(ショートマックス)は、SHORTTV LIMITEDが運営する香港の有料縦型ショートドラマアプリ。さまざまなスタイルのショート映画や短編ドラマがあり、隙間時間で楽しめる内容に特化した動画配信サービス。
映像に対して課金するタイミングを考える
一定以上の興味とクオリティを担保しながら映像にも感覚的にお金を払いやすくする
日本人が映像にお金を払う瞬間というのは、基本的に映画でした。映画って、その人にとって「興味がある」、かつ「ハイクオリティ」の内容であることが大前提のものなんです。つまり、日本人が映像に対してお金を払う感覚の基準は映画になるわけなので、課金型ショートドラマに対しても、一定以上の興味とクオリティを担保する必要があると考えています。
一方、現代の若い世代はスマホやソーシャルネットワークのゲームにもお金をふんだんに払いますよね。課金型ショートドラマのターゲットとなる30〜40代もギリギリその世代に含まれると考えています。というのも、僕が高校生の頃にも、ネットゲームに課金する人は多く存在していたので、そういう人たちはゲームにお金を払うことには慣れているんです。ただ、映像に関してお金を払うことには慣れていないので、その間になるものを僕らが新しく作ることができれば、映像にも感覚的にお金を払いやすくなるはずなんです。
30〜40代に刺さりやすいストーリーとは?
カタルシスを感じさせる瞬間のためにどのように物語を運んでいくかが肝になる
『結婚詐欺師と堕ちる女』は、BUMPにて1カ月半の間ランキング1位を獲得していました。本作がなぜここまで見られたのかというと、女性が男性を騙そうとするという構図に理由があります。つまり、女性が悪であればあるほど、最後にその悪が成敗される瞬間に強いカタルシスを感じさせるような作りになっているんです。その女性がどれだけ最低なことをし、どのように堕ちていくのか。最後に悪を成敗する瞬間のためにどう物語を運んでいくのか。そういったカタルシスへの運び方が課金型ショートドラマでは肝になります。演出や編集による見せ方の違いでもカタルシスの感じさせ方は変わってくるので、それが先にも伝えた満足感に通ずる部分なのかなと思います。

型にハマらないアプローチが評価されることも
「こうすべき」というセオリーを崩すことでショートドラマは面白くなる可能性がある
『大富豪のバツイチ孫娘』という作品がなぜヒットしたのかを制作会社の方と話していたんですが、良し悪しは置いておいて、本作は型にハマらないことをしていたんですよね。地上波ドラマや映画の場合、「こうすべき」というセオリーがあるんですが、ショートドラマの場合はそれをやってしまうと面白くなくなる可能性があるんです。僕の場合は、助監督経験などがほとんどなかったことがたまたま幸いして、本作ではそういった型にはまらないアプローチや演出をつけることができ、それが面白いと評価されたんじゃないかと考えています。
演出については、海外の映画業界に精通した助監督に褒められたことがあり、その方は、「監督とは方向性を定めるだけの存在なのに、日本の監督は『このキャラクターは幼少期に親に虐待されていて』『実はこの友達を裏でいじめていて』など、具体的なエピソードをすぐ言ってしまう」と仰るんです。「それは役者を制限することになる。役者の自由を奪わなければその役者はもっといい芝居ができるのに」と。僕は、特に意識せず自然と方向性とゴールだけを伝えるような指示を役者に伝えてきたのですが、「具体的なことを言い過ぎず、方向性とゴールを伝えられるのがすごくいい」と言ってもらえて、それはすごく面白い見方だと思いましたね。

監督としての撮影現場での動き
現場において最も大事にしていること
スタッフや役者には対等に接しつつリスペクトを持ったコミュニケーションを
現場において最も大事なのはスタッフィングです。僕自身はただの監督であり、ひとりでは何もできない存在なので、スタッフに頼るしかないんですよ。だからこそ、いかに対応できるスタッフを揃えて、プロの方々としっかりとコミュニケーションできるかが現場では大事です。
コミュニケーションにおいて特に意識しているのは、スタッフや役者のやる気をなくさないように対等に接することです。ディレクターや監督って、どうしても自分が一番偉いと思ってしまう方が多いので、そうなると役者やスタッフを制限することに繋がって、現場も全く良くなくなるんですよ。自分より経験のあるスタッフが多くいる現場だと、「舐められたくない!」と思ってしまう人もいるかと思うんですが、僕は強気にいくのではなく、しっかりと頼るようにしています。対等に接しつつ、リスペクトを持ったコミュニケーションができれば問題ないですが、それができないディレクターや監督は意外と多いです。コミュニケーションだけでも作品のクオリティには必ず差が出るので、対等なコミュニケーションを築くことが撮影現場ではとても重要なことだと思っています。

ショートドラマ撮影にFX3を使う理由
どんな場面でも時間短縮ができ高いクオリティを出せるのが採用理由
ショートドラマにおける撮影機材は、課金型・SNSともにソニーFX3を使っています。実は一度だけARRI ALEXA 35というハリウッド映画も撮れるような機材を使って撮影したことがあるんですが、画は非常に綺麗なものの、予算的・規模的に扱いにくかったんです。FX3はショートドラマの規模感だとちょうどいい機材なんですよね。
また、毎日の撮影スケジュールがタイト過ぎるため時間短縮も要になります。その点、FX3とズームレンズは流動的に使えるので、セットチェンジやレンズチェンジなどの際にも時間短縮ができ、その上で高いクオリティを出せるというのも採用理由のひとつでした。
撮影現場の規模感・スピード感
課金型の現場では1日あたり10話ペースで一気に撮影することが多い
NUTS FILMにおける自主制作の現場は大体10名くらいの人数で行われることが多いですが、クライアントのいるショートドラマの現場となると30〜40名ほどの規模感でやるのが基本です。
現場のスピード感については、1日に台本の20〜40ページ分、話数で言うと1日あたり10話分ペースで一気に撮影してしまうことが多いです。
具体例として、『結婚詐欺師と堕ちる女』のときは、全30話を4日間で撮り終えました。見開き1ページの台本に対して30分で撮影する形だったので、非常にスピーディーな撮影でしたね。
これからのショートドラマについて

ショートドラマ市場の未来
媒体を超えて見てもらえる作品が生まれればショートドラマはひとつの文化になる
将来的なショートドラマの形としては、ここ1年くらいで絶対数は確実に増えると予想しています。ただ、売れるジャンルが今と変わらなければ2、3年もかからずに一過性のブームとして終わってしまうんじゃないかとも思っています。それは、単純に視聴者に飽きられるということもありますが、ショートドラマ市場としてだけを見るとやはりお金稼ぎができないからなんです。
ただし、媒体を超えて見てもらえるような作品を生み出すことができれば、ショートドラマは世間に定着して、ひとつの文化になるんじゃないかなとも考えています。
例えば、Netflixが日本で定着したのは『全裸監督』が大きく流行った背景があったからですが、ショートドラマにおいてもそういった大きなものが出ない限りは終わっていくし、出れば間違いなく変わります。これって至極当たり前のことではあるんですが、実際その通りなんですよ。
だからこそ、僕自身もそういった作品を作っていきたいという心持ちではあります。やはり、今のショートドラマ市場において売れるジャンルは限られていると思うので、ジャンルを超えて売れるような、ショートドラマ市場に風穴を開けるような作品にチャレンジしてみたいなとは思っています。
ショートドラマ制作に適した人材とは?
複雑な要素を理解し、網羅できていなければちゃんとしたショートドラマは作れない
ショートドラマにおいては、ある程度流行るジャンルが決まっていて、課金型なら「不倫」や「復讐」、SNS限定なら、「音楽」「美人」「子ども」「ペット」などです。Xであれば、電車のマナーなどの「社会的な通念」もそうですね。
そういったキーワードを抽出した上で、いかにストーリーとしてうまく組み立てられるかがショートドラマ制作としては大事な部分になってきます。
ただ、これは個人的な見解なんですが、ショートドラマって、地上波ドラマでもなければ、映画でもないので、予算をかければ面白いものが作れるわけでもないし、ショートドラマに精通した人材が多く転がっているわけでもないんです。
じゃあ、SNS向けのショートドラマを作っているハイアマチュアや広告の人たちがそのまま課金型ショートドラマもうまく作れるかというと、長尺のストーリーを作れる人が滅多にいないので難しいんですよね。しかも、それをショートドラマに興味のない人たちにも、常にお金を払って見てもらわなければビジネスコンテンツとして成り立たないし、ちゃんとした画が撮れて、優秀なスタッフとのコミュニケーションも必要になるという、非常に難易度の高いことを求められるわけです。
一方、SNS向けのショートドラマを作るためには、TikTokやInstagramなどSNSの仕組みやバズり方を知っていて、かつ表示される広告に飛んでもらうような仕組みも作らなければいけません。ショートドラマ制作には、そういった複雑に絡み合う要素をきちんと理解し、網羅する必要があると考えています。
僕は、これまでの職歴や自主制作におけるSNS経験のおかげで、ちょうどその中間に入れていると感じており、そのポジションの人間は日本においてまだ数が少ないと思うんです。だからこそ、いろんな要素を抽出して上手く融合させることが今できているのだと感じています。それらを積み重ねることで、いつかショートドラマにおける『全裸監督』のような、媒体を超える作品を自ら生み出すことができれば最高だなと思っています。