リリックビデオを中心に活躍する映像クリエイターのSHIGさん。作品制作のフローや効率化のための秘訣、そして、フォント選びや活用術などについてお話を伺った。

構成・文◎編集部 萩原/協力◎ダイナコムウェア株式会社

フリーの映像ディレクター

大学在学中に独学で映像制作を学び、一般企業への就職を経てフリーランスに転向。代表作はAdo『新時代 』(ウタ from ONE PIECE FILM RED)。主にVTuber、アプリゲームのMV制作を担当。X/ WEB

 

SHIGさんがDynaFontを使って作ったリリックビデオ
『オトナブルー/ Covered by 四季凪アキラ・狂蘭メロコ

にじさんじ所属の人気VTuber、四季凪アキラさんと狂蘭メロコさんが、新しい学校のリーダーズの楽曲「オトナブルー」をカバーした歌ってみた動画。


音楽への憧れから映像制作の世界へ

——リリックビデオ制作を始めた経緯を教えてください。

元々音楽が好きで中学、高校のときギターをやってみたんですが、才能がなくて全然できなくて。それで諦めちゃったんです。それでも写真を撮るのは好きで、文化祭なんかで展示するフォトブックを作るためのデザインを自分で考えたり…みたいなことはしていました。大学では生物学を専攻していて、映像の学校には行ったことはないのですが、当時“歌ってみた”界隈の動画を見漁っていて、そうした動画はフリーランスのクリエイターが作っていることを知りました。

そんなとき、知り合いから「“歌ってみた”の動画を作ってくれない?」と言われ、軽いノリでYouTubeのチュートリアル動画やネットの情報を調べながらAfter Effectsで作ってみると、それがいろんな方々の目に留まって、X(当時Twitter)でMV制作の依頼をいただくようになったんです。当時は映像クリエイターになろうとも思っていなくて、最初の動機は、ただ「好きな音楽にデザインや映像をやることで自分も関わることができるじゃん! やってみようかな」という気持ちでした。

——リリックビデオはどんなフローで制作していますか?   

主にディレクターとして関わるときとデザイン・モーション・編集の実作業を請け負う2パターンがあります。前者は、最初に絵コンテを作って、クライアントであるアーティスト(主にマネージャー)と方向性についてコンセンサスを取ります。OKが出たら、イラストレーターやリリックデザイナー、エディターなど各パートの方々に指示を出して制作を進めていきます。後者は、最初から楽曲とイラストが決め打ちであって、自分自身でリリックデザインやモーション、編集を担当します。

キャリアのスタートは後者のスタイルで仕事を受けることが多かったのですが、演出的な視点からみると、イラストが固まる前にディレクターとして入らせていただいたほうが、楽曲のイメージやストーリー展開なども含めて世界観に寄り添った映像を作れるので、仕事を続けていくなかでマネージャーさんに都度都度ご相談していって、徐々にディレクションの仕事もいただけるようになりました。

——確かにイラストが決め打ちだと制約ありそうですね。

逆に制約があるからこそ生まれるクリエイティブもあるのかなとは思います。1枚の絵からどれだけ幅を広げられるかみたいな。ディレクターと両方のパターンでお仕事できているので、自分のなかでは楽しんでやらせていただいています。

——リリックビデオを作るうえで大事にしていることは?

文字の配置は気を遣いますね。リリックビデオはわりとキャラクターのイラストを見たいという方も多いので、ひとつひとつ見て、キャラクターの顔にできるだけ被らないようには気をつけています。

SHIGさんの制作環境

PCはマウスコンピューターのDAIV(CPU:Core i9 プロセッサー 14900K/GPU:NVIDIA GeForce RTX4090/メモリ:128GB)。モニターは49インチの32:9の横長モニターINNOCN(イノクン) 49C1Rを使用。マウスはロジクールPRO 2 LIGHTSPEED。マウスパッドはLogicool G ゲーミングマウスパッド(マウスを置くだけで充電できる)。キーボードはRAZER HUNTSMAN V2。イヤホンはソニーINZONE Buds。ゲーム用の無線イヤホンで遅延がなく映像制作にも重宝しているという。


楽曲の世界観に寄り添うフォント選び

——リリックビデオでフォント選びの基準はありますか?

フォントの選び方の基準っていうのは明確にはないんですけど、届いたイラストにいろいろなフォントを合わせてみて決めていくパターンもあれば、元々曲や歌詞の世界観があって、イメージに合うものを各フォントメーカーのサービスを検索して調べたりもします。

それこそ今回取り上げていただいてる『大人ブルー』はまさにその感じで決まりましたね。楽曲のほかに決め打ちで描かれたイラストと「こんな感じで作ってほしい」というリファレンスをもらうんですけど、それがわりと大正ロマン、昭和チックなイメージのものでした。DynaFontの「ロマン雪」はまさにモダンな雰囲気を匂わせるフォントでした。求めていたのが駄菓子屋とかにある昔の錆びついたビールの看板とか、ああいうところに書かれてる文字が欲しかったんです。

——DynaFontのどんな部分に魅力を感じますか?

DynaFontには雑誌に使いそうな綺麗なフォントもあれば、テレビのテロップで使うような視認性の高いフォントや特徴的なデザインのフォントもあり、いろんな種類があって選択の幅が広いところですね。特に特徴的なデザインのフォントは世界観強めのリリックビデオを作るときに重宝します。正直、読みにくいと感じる書体もあるのですが、リリックビデオに関しては読みやすさよりは、映像の世界観に合っていることを重視しているので、イメージにマッチした書体を見つけたときはうれしいですね。

フリーフォントなんかも調べたりもするんですけど、商用利用できなかったり、リリックのなかで欲しい漢字がそのフォントに収録されていなかったりすることもあるので、ロイヤリティーフリーで、なおかつ映像に使える書体が数多くあるのは、映像クリエイターとしてはすごくありがたいですね。


作字とフォントのアレンジテクニック

——SHIGさんの作品を拝見すると、ご自身で作字されているものもあるようですね?

制作期間が確保できるもので、作品の世界観に合うものが既存のフォントにない場合はそういうこともありますね。最近はイチから作字することが多くなってきたかもしれません。ただ、これからリリックビデオを始めようという人にはハードルが高い部分もあるかもしれません。イチから作字する以外で言うと、既存のフォントをベースにしてそれをアレンジするということもありますね。

——それはどんなふうに作られているんですか?

ベースのフォントをアドビのIllustratorでパーツごとに分解して、それぞれに色を付けてみたり、その文字のアクセントになる部分を消して自分で手書きで書いてみたりというのはよくやります。フォントベタ打ちで単色だと、どうしてものっぺりした印象になってしまうので、分解してカラフルにしてあげたほうがリリックビデオの世界観に合うこともあります。

手順としては下の通りなんですが、1文字をパーツごとに分けられます。アクセントとなる点やハネなどの部分にシェイプツールで図形を入れてみたり、手描きで描いたものを付け加えてみたりするだけでも、だいぶ印象がかわり、楽曲や作品の世界観に近づけたデザインを作ることができます。これをAfter Effectsに持っていくために、Overloadというスクリプトがあるんですが、リリックビデオには欠かせないツールですね。

①Illustratorで既存の書体をアレンジして制作したリリックデザイン。文字分割の手順は以下の通り。
⑦分割した文字をパス単位でAfter Effectsのシェイプに転送するスクリプト「OverLord」はリリックビデオには欠かせないツールだという。
②元のフォントとアレンジしたもの。
③分割したい文字を選択して右クリック。「アウトライン作成」。 右クリックで「グループ解除」。
④右クリックで「グループ解除」。
⑤「複合パスを解除」をすると、1画ごとに分割できる。
⑥選択ツールで消したい部分を削除しシェイプツールなどで好みの図形に置き換えた。


After Effectsでの作業の効率化

——After Effectsで作業効率化のために工夫されていることはありますか?

コンポジションはAメロ、Bメロ、サビと楽曲をメロディーで分けて作っています。修正があった時も全部書き出し直さず、そのパートだけ書き出せば済むようにといった工夫はしています。あとはプラグインやスクリプトも活用しています。界隈では有名なγしめぢさんが無料で配布している「GG分解」という文字分解用のスクリプトは、これがないとリリックビデオを作れないっていうぐらい重宝している必須アイテムです。

あとは、あまり知られていないかもしれませんが、「Additional Tranceform」というスクリプトもおすすめです。これも個人が開発しているもので、GG分解と相性がすごくいいんです。文字のポジション調整をする時、標準だと次元分割してXY軸を別々にしないと調整ができないという謎の仕様があって、それが面倒くさいんです。でも、これを使うと、強制的にもうひとつポジションパラメーターを追加してくれて、ふたつのパラメーターで調整できるようになるんです。

あとはモニターですかね。32:9の横長ディスプレイを愛用しています。After Effectsと合わせて連絡・進捗状況の確認用にDiscord、リファレンスを観たりするブラウザなんかを同時に立ち上げながら作業していますね。



 ①After Effectsの作業画面。プラグインやスクリプトを集めるのも大好きでいろいろ購入して試している。なかでもおすすめなのは② 打ち込んだテキストを1文字単位に分解できる「GG分解」と③ 「Additional Transform」。レイヤーに ふたつの変形プロパティを追加し、移動、回転、サイズ調整などのアニメーションをより簡単に操作できる。


今後、フォントに求めるものは?

——今後、フォントメーカーに求めることはありますか?

先程も紹介した、フォントを1文字ずつパーツごとに分解していく作業って、数が増えてくるとけっこう手間なんです…。元々1画ずつとかパーツ単位でバラバラにしたデータがあるとリリックビデオ界隈のクリエイターはうれしいんじゃないですかね。あとは、雑誌やテレビ番組向けに「読みやすいフォント」みたいにまとめられることがありますが、それのリリックビデオ版があると嬉しいですね。「可愛いMV作るんだったらこのフォント」みたいな、BGMを探すサイトでジャンルで選ぶようなイメージで、フォントもそういう風に選べると便利だと思いました。


 

DynaFont 年間ライセンス DynaSmart V

[価格] PC1台1年間  45,650円(税込)

https://www.dynacw.co.jp/product/product_dynasmart.aspx

DynaSmart Vは、DynaFont全書体が使える年間フォントライセンス。フォントは基本的な書体からデザイン書体まで2,000書体を超える。中でも金剛黒体はゴシック体のフォントとして20種類以上の多言語フォントを収録。また印刷物、映像、放送、電子書籍、ゲーム&アプリ、デジタルコンテンツ、WEBデザインなどさまざまなコンテンツに許諾対応しており、映像やメディアミックスにも使用できる。インストールや更新時以外はオフラインで使用できることや、デバイスライセンス、さらに映像での使用を前提としたテロップ書体など、映像制作者に必要な内容が充実している。





VIDEOSALON 2025年10月号より転載