今年の12月に愛知名古屋市で開催が決定した新たな映画祭「あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)」。フェスティバルディレクターを務める井上伸一郎さんに映画祭のポイントやこれからのアニメーション制作について伺った。

【プロフィール】
井上伸一郎

1959年東京都出身。1985年、アニメ雑誌「Newtype」創刊に参加し、後に編集長を務める。以後、雑誌・文芸・マンガ雑誌の編集、アニメ・実写映画のプロデューサーを歴任。2007年株式会社角川書店代表取締役社長、2019年株式会社KADOKAWA代表取締役副社長に就任し、2018年~2023年までは、一般社団法人外国映画輸入配給協会の会長を務めた。

2022年より新潟国際アニメーション映画祭のフェスティバル・ディレクターを務め、2025年にはあいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバルのフェスティバル・ディレクターに就任。同年、「メディアミックスの悪魔 井上伸一郎のおたく文化史」を発表(星海社新書刊)。現在はほかにZEN大学客員教授コンテンツ産業史アーカイブ研究センター副所長、KADOKAWAアニメ・声優アカデミーおよびKADOKAWAマンガアカデミー名誉アカデミー長ほか役職を務める。合同会社員ENJYU代表社員。

愛知・名古屋から生まれる新しいアニメーションの潮流

――まずは今回の映画祭が開催される経緯についてお聞かせください。

今回の映画祭・ジェネラル・プロデューサーの真木太郎さんが愛知県の大村知事とお話をしている中で、今回のアニメーション・フィルム・フェスティバルの話があがりまして、大村知事が大変、快く即決いただいて、愛知県と名古屋市の協力を経て、この映画祭の実現ができました。

――井上さんは今回、フェスティバルディレクターという肩書きですが、具体的にどのようなことをされるのでしょうか。

いわゆる映画祭を盛り上げるというのが主な仕事ですね。きちんと映画祭を成立させるために、いろいろなゲストを招くなど映画祭が盛り上がる演出をするということをしています。

――愛知、名古屋という土地に対して、文化的な視点でどのように考えられていますか?


今回の舞台となる愛知、名古屋は、産業として自動車や精密機械が連想されると思います。そういった「ものづくり」へのこだわりは、まさにクラフトマンシップ(職人技)のなせる技だと思うんですね。

アニメーションは、完成した作品がヒットした、話題になったという「ハレ」の面にフォーカスがされがちですが、実際には作品ができるまでの過程は、制作現場の努力や地味な作業の積み重ねがあってこそ生まれてくるものです。そういった言うなれば「ケ」の作業の過程は、「ものづくり」と同じくクラフトマンシップ、職人技であると思います。対極に見られがちな「アニメ(芸術)」と「産業」ですが、そういった点でとても似ていて、アニメーションが受け入れられる土壌のようなものが愛知・名古屋にはとても根付いていると思います。また、以前『機動戦士ガンダム』はメ〜テレ(名古屋テレビ)がキー局として放送されていた歴史があるように、アニメファンが昔から大変多い土地柄でもあると感じます。


――今回のフェスティバルにはコンペティション部門がありますが、若手のアニメーターやクリエイターに対して、どのような作品を期待されますか?

今回の映画祭は、「国際映画祭」として、コンペティション部門は、さまざまな国の方が参加されます。そういった中で、日本で制作しているとは思うのですが、自分の作品が世界でどう見られるのかという意識ももって作品を作っていただけるととても良いかなと思います。


ただ、日本のアニメはすでに世界中で評価されているので、無理に海外を意識する必要もないとは思います。
むしろ、自分たちの身の回りで起きている課題や意識、ビジョンといったテーマを見つけて、それを切り取った作品をつくる機会になっていただけたらと思います。

未知の体験を楽しむように新たな作品に触れてほしい

――井上さんご自身は、もともとアニメ雑誌の編集者を経て、映画のプロデューサーとして数多くの作品に関わってこられたと思います。個人的にお好きなアニメ作品や、それらに共通する特徴などがあればお聞かせください。

私が特に好きなのは、時代時代で、パラダイムチェンジを起こすような作品が好きですね。たとえば、1970年代から『宇宙戦艦ヤマト』があり、『機動戦士ガンダム』があり、そして1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』があります。そのような作品はパラダイムチェンジを起こしたとともに、自分の生き方を大きく変えてくれた作品でもあります。そういった観た人の人生にまで影響を与えるような大きな力を持った作品に惹かれ、刺激を受けてきたと思います。

また、自分が関わった作品でいうと、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『時をかける少女』などが、いまでも印象的な作品として残っていて、好きというよりは、そうした作品に“助けられてきた”という感覚です。


――1970年代からアニメを見てこられたとのことですが、2020年代の今に至るまで、アニメ業界における変化について感じられることはありますか?

変化でいうと、まず家庭用ビデオの普及が大きかったと思います。同じ作品を繰り返し観るということは今は当たり前ですけれど、1980年代に一般家庭でもビデオが普及するまでは、放送されるアニメなどは一般の人は「一期一会」のような感覚で観ていたんです。そう考えると、日本のアニメ文化の発展に大きく貢献した変化だと思います。作り手側も、他の人が作ったアニメを何度も繰り返し観て、研究する機会が圧倒的に増えたことも、技術的な向上が進んだ要因のひとつだと思います。

これも1980年代前半の出来事ですが、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)の登場ですね。これにより、映像を“所有する”という文化が生まれた。配信サービスも含めて、作品を買って楽しむスタイルが広がりました。また、セル画がなくなってPC上での制作に変わったことで、色彩表現や動きの自由度が格段に広がりました。背景の描き方や演出もデジタル化で大きく変わったと感じています。

――最近ではAIの導入も進んでいますね。背景制作などでAIを使っているという話もよく聞きます。


まさにそこが、これからの大きな転換点です。個人でAIを駆使して作品を作るクリエイターが増えるでしょうし、そこから新しい映像表現が生まれるはずです。たとえば新海誠さんの『ほしのこえ』のように、個人制作から注目される作品が出てくる時代がくるはずです。AIの使用には課題も多いですが、これからは、AIをどう正しく使って、どんなクリエイティブを生み出すかが問われる時代だとも思います。正しい使い方を見つけたクリエイターが、新しい映像文化を切り開いていくと思います。


――最後に今回の映画祭が、どのように観客に受け入れられ、今後どのような存在になっていってほしいと考えていますか?

大きな野望を言えば、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭に肩を並べられるようなアニメーションの国際映画祭として育てていきたいです。ヨーロッパにアヌシーがあれば、アジアには、あいち・なごやがあるといわれるような。コンペティション部門もありますし、世界中から作品が集まりますからね。

また、特に観客の皆さんには、まだ見たことのない作品や、触れたことのない国・文化に触れる面白さを味わっていただきたい。いまヒットしている映画は品質保証のあるものが多く、「これなら面白いはず」と思って観られていると思いますが、映画祭ではそうした“保証”のない作品との出会いが一番の魅力です。まったく未知の体験を楽しむという気持ちで観ていただけると、とても面白くなると思います。

映画祭概要

名称:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル

英語表記:Aichi Nagoya International Animation Film Festival(通称ANIAFF)

会期:2025 年 12 月 12 日(金)~17 日(水)

主催:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会

東京事務局:株式会社ジェンコ

愛知事務局:株式会社新東通信

共催:愛知県・名古屋市

協力:中日本興業株式会社、株式会社東急レクリエーション、株式会社新東通信、学校法人 日本教育財団名古屋モード学園・HAL 名古屋

会場:ミッドランドスクエア シネマ、ミッドランドスクエア シネマ2、109シネマズ名古屋を中核とした上映施設、名古屋コンベンションホール、ウインクあいち 5カ所を予定

公式サイト: