Film Impactの買収により、Premiereに90種類以上の高品質なエフェクト、トランジション、アニメーションが統合された。映像クリエイターの市井義彦さんとエディターの佐川正弘さんがFilm Impactの基本的な使い方から、プロならではの応用テクニックまで、実演を交えてわかりやすく解説。10月9日に開催した本誌イベントCREATORS EDGEでのトークセッションの模様をお届けする。
構成・文●編集部 萩原 協力●アドビ株式会社

市井義彦
アドビ・コミュニティ・エヴァンジェリスト。株式会社Command C代表。関西を拠点に演出・撮影・編集も手がける映像作家として活動。YouTubeチャンネル「プレミアノート」で使いこなしのテクニックを発信!

佐川正弘
2006年(株)IMAGICA入社。エディターとして音楽ライブを中心にバラエティ・ドキュメンタリー・ドラマ・MV・映画等幅広く活躍。2018年独立。YouTubeチャンネル「SG EDIT」でPremiere情報を発信中。
市井 まず僕からは軽めのTipsをご紹介できたらと思います。僕的にFilm ImpactがPremiereにもたらした恩恵というのが3つあると思っています。❶負荷の少ないエフェクト・トランジション(レンダリングが軽い、再生しやすい)❷キーフレームを使用しないアニメーション❸Premiereの基本エフェクトの強化(結構昔から「これできたらいいのに、できないよね」みたいな要望がいくつかあったんですけど、それが今回のアップデートで一気にできることが増えた)
1 Stroke FX

市井 これは僕的には待望のエフェクトですね。「Stroke FX」で境界線が付けられるようになりました。テキストには付けられてたんですけど、エフェクトとしてはなかったんですよね。テキストはもちろん、画像にも付けられるようになった。すごい汎用性高そうじゃないですか。それがようやく搭載されて、自由に使えるようになったということですね。丸ワイプなんかにも付けたりしたいですよね。
丸ワイプは不透明度のマスク、パスで切る方法が一般的かと思いますが、実はこれにStroke FXを適用しても境界線はつけられません。こういう時は右クリックしてクリップをネストにしたものに適用すればつけられるようになります。ただし、長尺の編集になった時に、たくさん切り刻んだクリップをネストするのも大変ですよね? そんなときは「クロップ」を使うのが便利です。手順としては次の通りなんですが、詳しくは動画を見てみてください。
クロップ適用のコツ
●クロップエフェクトを適用
●項目(左とか)を100%
●クロップの「不透明度」でマスク適用
●クロップを「反転」させる
●「マスクの境界のぼかし」を 0.0に
2 Stroke FX

市井 次はText Animator、ビデオトランジションに収録されている機能です。これはすごいです。
佐川 Premiereにあるまじき文字の動きが作れますよね。
市井 元々テキスト自体をアニメーションさせる機能はあったんですけど、1文字ずつ、パーツごとに動かすというのは、After Effectsでなければできなかったんですよね。これがビデオトランジションひとつでできるんです。
さらにエフェクトコントロールパネルで細かく設定を調整できます。そのなかに「Surprise Me!」というボタンがあります。これは下のパラメータをランダムに変えてアニメーションを作ってくれる、おまかせボタンですね。押す度にアニメーションが変わります。僕らは「ガチャ」って呼んでるんですけど、ただ、あまりにもランダムで、なかなか思ったような動きにならないこともあります。
そういうときは、この例のように左上から出てくるアニメーションを作りたいのであれば、「Animation Controls」の「Push Position」にキーフレームを設定して、その動きだけはFIXします。ここだけ決めたいとか、ある項目だけは固めて他をランダムで動かしたいときに、その項目にキーフレームを打つと狙った動きを作りやすいと思います。
佐川ガチャの確率を上げるってことですね。
3 Clock Wipe Impacts


市井 最後はクロックワイプ。古のワイプですけど、僕はすごく好きなんで紹介したいなと。要は時計の動きでワイプが動くというものです。昔Premiereに入っていたけど、なくなってしまっていたので、今回のFilm Impactで復活してくれたのがうれしいですね。『スターウォーズ』を彷彿させるような動きだなと思うんですけど。
僕がよくやるのはグラフィックの四角形を作り、それに適用するという方法です。「映像のなかのここに注目!」みたいなニュアンスでその箇所を囲むアニメーションが作れます。動きの開始位置を変えられるパラメータもあります。
4 Motion Tweenの基本的な使い方


佐川 僕がご紹介するのはMotion Tweenというエフェクトです。このエフェクトの基本的なところから応用的な活用法をいくつか紹介していきたいと思います。これもトランジションのエフェクトなんですが、 例えば上のようなビリヤードの1枚の写真があります。間に編集点を入れて、そこにMotion Tweenを適用します。で、2カット目を拡大してみます。すると、1カット目の引いた画から2カット目の寄った画の間を補完してMoton Tweenがスムーズにズームインしてくれます。
市井 素晴らしい、綺麗。
佐川 すごいですよね。さらにモーションの緩急を調整するカーブもついてるんです。「Ease In」「Ease Out」というパラーメーターの数値を0・0にすればスーッと等速に動きますし、100・100などに設定すると、大げさに「ピュウイン!」って動きます。今までこのズームを作るためには「位置」にも「スケール」にキーフレーム打って、アンカーポイントをうまいところに置かなければいけないなど神業的な作業が必要だったのですが、それがトランジションひとつで一括で動きやスケールを制御できるのは画期的な機能だと思いますね。
市井 動きとスケール両方とも制御できるのはすごいです。

佐川 次の例はロゴとかイラストに適用したものです。最初の例と同じように編集点を入れて、そこにMotion Tweenを適用。1カット目は画面左にロゴを配置し、2カット目は画面右に配置しました。もうこれだけで左から右へ動くロゴのアニメーションが作れてしまうという。超楽ちん。
市井 キーフレームを使わずにできるってことですね。


佐川 そうなんです。さらに「Animation Control」のなかの「Position Y」の数値を1にすると、Y軸に回転しながら移動します。「Position Z」を1にするとZ軸に回転しながら移動できる。Curve Graphも全然いじってない、もともとの状態です。っていうトランジションがMotion Tweenです。

5 実践!Motion Tweenで作るランキング表示


佐川 で、これを使った、よくありそうな例を作ってみました。「俺が好きなエフェクトベスト3」とかね。番組なんかでよくあるじゃないですか? でも、ちょっと悩みません? こういうの作るとき。After Effectsに持ってくか、Premiereで頑張るのかみたいな、そこら辺の葛藤があると思うんですけど、Film Impactを使えば、3つのクリップの間にトランジションをかけるだけでこんなランキング表示も作れてしまうんです。王冠と赤い文字がクルンクルンと回りながら切り替わるのはMotion Tweenではなくて、Flip Motionっていうトランジションをかけてますが、これもFilm Impactに収録されています。ただドラッグ&ドロップしただけです。3つ目(画面中央にある赤文字とランキングの枠に置いた黒文字の間)にMotion Tweenを適用すれば、位置も色相もいい感じで補完してくれます。
市井 「できそう」って思った人多いんじゃないですかね。
佐川 できるよ、絶対! で、「佐川、お前なんでベスト3なのにお前1位から発表してんだよ?」ってなるじゃないですか、順番的に。普通3位からでしょうよと。
そんな時もこれはキーフレームじゃないんで、シーケンス上で普通に順番を入れ替えるだけで表示の順番も簡単に変えられちゃうんです。
市井 これまでみたいにキーフレームをいっぱい設定していると、ややこしかった作業がかなり簡単にできますね。
佐川 Motion Tweenは操作も簡単で色々と応用も効くので本当におすすめですね。
市井 今回は少しだけしか紹介できなかったですが、Film Impactにはたくさんのエフェクト・トランジションが収録されているので、実際に使ってみて自分の引き出しとしてストックしていくのが一番いいかなと思いますね。
トークセッションでは新しく出たPremiere iPhone版も紹介!

9月30日にPremiereのiOSアプリがリリース。アドビIDにログイン不要で無料で使用できる。4K HDR編集、フレーム単位の編集、アニメーション付きキャプション、スピード・モーション効果、瞬時の背景削除など、細部までこだわれる機能を備えており、動画編集一連の工程をスマートフォン上で完結できる。 「スピーチを強調」や「効果音を生成(有料)」などのAI機能のほか、無料&商用利用可能な2,000以上の素材も使用できる。
