本項ではアニメーション監督の山本健介さんに、3DCGによるライブ感とアニメの演出について解説していただきます。作例は山本さんが錦織博さんと共同監督を務めた『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』(以下、ムビナナ)。ライブパフォーマンスシーンが見どころになっている本作において、山本さんはどのようなことを意識して演出を行なったのか…。3DCGの特性を活かして、新しい映画体験を目指したという本作の演出術に迫ります。
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講師 山本健介 Kensuke Yamamoto
アニメーション監督、東京工芸大学教授。大学在学中にゲーム会社を設立。CG制作を経て、映像制作ユニット・モーターライズに参加し実写VFXを中心に制作。その後は制作会社・オレンジにてアニメのCG表現を研究開発。主な参加作に『ガメラ3』(99)『宝石の国』(17)『BEASTARS』(19〜)など。監督作に『劇場版アイドリッシュセブンLIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』(23/錦織 博との共同監督)『100ぴきかぞく』(24)などがある。
演出家によってライブパフォーマンスそのものが作られたムビナナ
アイドルたちのライブを演出するうえで目指したのは“理想的かつリアルなライブ”。上画像のスケッチなど錦織監督が全体像を作り上げていくなかで、山本さんがアイデアを差し込んだり、この作品で“望まれていること”などを取り入れたりしたそうだ。


ムビナナにおける“二度の演出”という逆転構造
通常のアニメーション・実写作品とのフローの違い
通常の作品は映像の演出ありきで進むのが一般的。アニメーションでは演出(コンテ)から一度コンテを編集、そこから作画の工程を踏む。実写では演出(コンテや台本)から撮影へ、撮った素材を編集するという流れだ。しかし、今作では映像としての演出は制作の中盤まで行われない。どんな作品になるのかは誰も分からない状態で制作が進んだという。

『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』
4組のグループが一堂に会した壮大なライブエンタテインメントを描く劇場版。「アイドリッシュセブン」シリーズ初の“劇場ライブ”として、セットリストが一部異なる『DAY1』『DAY2』の2バージョンで2023年5月20日から上映された。オレンジがアニメーション制作を担当し、錦織 博さんと山本健介さんが共同監督を務めた。

リアリティにこだわったライブ・舞台は“現実に可能だが現実では困難”な演出に
アニメーション監督で東京工芸大学アニメーション学科の教授もしている山本です。これまでの経歴として、CGにまつわることをたくさんやってきました。ゲーム会社を起業したところから始まり、実写VFXを中心に3DCGを使った映像を扱うスタジオに16年ぐらい在籍して、現在はアニメ制作会社のオレンジでCGの手伝いをしています。
3DCGをメインに実写、ゲーム、アニメ…と、さまざまなジャンルの作品を担当してきました。今回のテーマである演出に関するところでいうと、コンテに参加した作品や、監督を担当した作品もあります。コンテは演出なのか、という問いもありますが、コンテを描く段階で演出的な要素が必ず入ってくるので、描いた時点である意味で演出をしている、と言えるのではないでしょうか。実際には演出という“役割”と演出という“仕事”があるので、この線引きは業界内でも難しいところです。
今回お話しさせていただくのは『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』についてです。全編ライブのみを表現した劇場版アニメーション作品で、ストーリーは一切ありません。“DAY1”と“DAY2”の2部作として構成されていますが、重複する部分を除いた制作尺は合計119分12秒で、総カット数は1,736カットです。特に作画のアニメーション作品は長尺のカットよりも短いカットを積み重ねることのほうが多いので、このカット数はそこまで多くないのでは…と思います。
ムビナナの演出の特徴は、“二度の演出”という逆転構造にあります。多くのアニメーション作品は、まず演出ありきで、その演出をするためにどのようなコンテを切るか、どのようにコンテを編集するか、どのように作画するか…というフローになります。実写映像の場合でも演出が決まった段階でコンテや台本を作り、撮影した素材を編集して完成となります。つまり、最初に「どういう画を完成形にするか」という演出が決まり、そこに向かって芝居やカメラワーク、編集が積み上げられていく、と。
しかし、ムビナナではいわゆる映像演出のパートが制作過程の中盤に存在しています。最初に映像的な演出は行わず、まず演出家によってライブパフォーマンスそのものが作られ、そのパフォーマンスが完成した後に、「ではこのライブをどう映像として見せるか」という次のステップが始まる形です。いわばドキュメンタリー的な考え方で、パフォーマンスが先にあり、それを映像化するための演出が後から行われました。この“二度の演出”こそが、本作の制作の大きな特徴です。
最初の演出パートであるライブ(舞台)の演出から見ていきましょう。本作は3DCGを使った作品なので、現実では不可能なライブ演出を行うことも可能でした。しかし、そういった非現実的で“ファンタジー”な要素は避け、できる限り現実的に成立するライブ演出を採用したんです。
ライブ演出において最も重視したのは“リアリティ”でした。派手で非現実的なギミックを避け、実際の舞台で成立するような演出です。ただ、現実のライブでは膨大なコストがかかる演出でも、3DCGならば現実の予算の制約を超えて実現できます。つまり「現実に可能だが現実では困難」な演出を採用できる、という豊かさはありました。結果的に、まるで巨額の予算を投入して作られたかのようなステージが完成したと思います。
