視聴者がMacやiPhoneを使い、配信先もYouTubeやSNSなどと広がる中で、制作用の色基準をどこに置くかは常に悩ましい。日頃フォト・ビデオグラファーとして活動する奥山さんに、EIZO ColorEdge CS2740-Zを実際の編集環境に組み込んでもらった。従来機の操作性はそのままに、Display P3/BT.709/DCI-P3といったカラーモードが標準装備されたCS2740-Zは映像も写真も撮るクリエイターの味方になるのか?

●レポート
奥山貴嗣(おくやま たかつぐ)


1986年生まれ、関東在住のフォト・ビデオグラファー。雑誌編集・広告制作を経て2025年に独立。企業ブランディング映像の制作などを手がける傍ら、実務経験に基づく撮影機材レビューや記事執筆も行う。
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EIZOのColorEdge CS2740-Zは、従来機CS2740の外観や操作性をそのまま引き継ぎながら、現在主流となっている制作基準や視聴環境に合わせて内部仕様をアップデートしたモデルだ。外観の変化は最小限だが、実際に編集環境へ組み込むと、制作の流れの中で積み重なっていた小さな手間が丁寧に整理されている印象がある。

CS2740-Zで変わったのは、Display P3/DCI-P3/BT.709といった映像制作向けのカラーモードが追加されたことだ。YouTubeやSNSをはじめ映像の配信先が広がり、視聴デバイスもPCやスマートフォン、テレビなど多様化する中で、制作用の基準をどこに置くかは常に悩ましい。CS2740-Zはその基準をモニター側で明確に切り替えられるようになり、作業の判断が取りやすくなった。



「変わらないこと」が生む安心

CS2740-Zの筐体はCS2740から変更点はなし。スタンドの動き、ボタン配置、OSDの階層など、既存ユーザーならすぐに扱える。




専用フードもそのまま使え、EIZO純正キャリブレーターも従来どおり使用可能だ。環境を変えず、内部だけをアップデートしている点は制作現場では大きな利点となる。




パネルの見やすさは前機種から変わらず安定している。反射を抑えたマット仕上げで、映り込みが少なく、黒の階調を素直に確認できる。黒背景や白文字のカットでは特に判断しやすく、従来同様の扱いやすさだ。




CS2740-Zで最も大きく変わったもの




CS2740-Zで最も大きく変わったのは、映像規格に合わせたカラーモードが標準で備わったことだ。

制作の現場では、YouTube向けならBT.709、MacやiPhoneでの視聴を前提にするならDisplay P3、映画系ならDCI-P3と、プロジェクトごとに基準が変わる。従来機のCS2740でもキャリブレーションを行えば近い状態は作れたが、設定を切り替えてMac側の色管理も確認し、最終的な見え方を画像や動画でチェックする必要があった。基準が曖昧なまま編集すると、後で調整し直す場面も出てくる。

CS2740-Zでは、こうした基準があらかじめカラーモードとして整理されており、OSDから選ぶだけで表示を切り替えられる。制作で使う色の基準がようやくモニター側で扱いやすい形になったと感じる。



Display P3──「Mac環境と揃う」ことの意味




特にDisplay P3の扱いは、現在のWeb動画制作ではほぼ必須に近い重要度を持っている。国内スマホ市場ではiPhoneが圧倒的シェアを持ち、MacBookやiMacも多くの制作者が使用する。視聴者の多くがP3系ディスプレイを使っている以上、制作者側もP3で判断する環境を持つことが、もはや自然だ。

CS2740-ZとMacBook Pro M2に同じP3ベースの壁紙(都市+青空)を表示して比較すると、まず中間調からハイライトにかけてのトーンが非常に近い。都市部の建物のグレーや、青空のグラデーションといったP3で差が出やすい部分が双方で自然に揃うため、表示の方向性を合わせやすい。特に青空の色相の伸び方や、雲の白さのニュアンスが滑らかに一致しており、作業中に別モニターへ目線を移しても違和感が生じにくい。

制作環境と視聴環境のどちらもP3に寄っている現状では、この一致の取りやすさは実務のストレスを減らしてくれる。



BT.709──WEB視聴と整合の取れる標準画をつくる




WEB動画のほとんどはBT.709で制作されるが、一般的なモニターはsRGBガンマで表示するため、暗部がズレやすい。

CS2740-ZのBT.709モードでは、709特有の暗部の沈み方やコントラストが素直に再現され、色の安定感が出る。

実際に室内で撮影したVlog素材をFCPXで編集すると、影の深さや背景の暗部の落ち方がつかみやすく、露出や色補正の方向性を決める際に迷いが減った。709へ切り替えるだけで配信基準の見え方に近づくため、最終チェックが早くなる。



USB Type-Cで作業環境をシンプルに




USB Type-C接続で映像出力と給電を一本化でき、ノートPCとの組み合わせが扱いやすい。MacBookをつなげば即座に画面が表示され、電源も同時に供給されるため机上の配線を減らせる。

さらに、背面USBポートにはカードリーダーやマウスのUSBレシーバーなど、軽い周辺機器をまとめて接続できる。PCとUSB-CでつないでおけばモニターがUSBハブとして動作するため、机まわりの配線をすっきり保ちやすい。地味ながら嬉しいポイントだ。



キャリブレーションの安定性

モニターは日々使用する中で、明るさや色の見え方が少しずつ変化する。

映像制作ではこうしたわずかな違いが判断を揺らすため、作業前のキャリブレーションが重要だ。

EIZOは専用ソフトColor Navigatorと純正キャリブレーターで調整できる仕組みを用意している。これを使えば、Display P3でもBT.709でも基準となる明るさや色に自動で整えられ、毎日同じ状態で作業を始められる。表示がブレないことが、そのまま編集判断の安定につながる。





また、sRGBとDisplay P3の色域をColor Navigatorで比較すると、P3は赤や緑方向に再現域が広く、現在のMacやiPhoneといったP3ベースの視聴環境を意識した制作に相性がいい。色域の違いを理解した上でモニター側のカラーモードを切り替えられる点は、Zの扱いやすさにつながっている。

CS2740-ZはP3・709・DCI-P3を用途に応じて切り替えられるようになったことで、制作の最初に色の基準を定め、その上で判断していく流れが作りやすくなった。



最後に

CS2740-Zは外観や操作性こそ従来機をそのまま受け継いでいるが、Display P3・BT.709・DCI-P3といったカラーモードが整備されたことで、作業環境ははっきりと扱いやすくなった。用途に応じて基準を即座に切り替えられ、Color Navigatorで日々の表示を安定させられる。派手な刷新ではないものの、“色の基準を迷わず扱える”という変化は制作の判断に確実に効いてくる。作品の基準を曖昧にしたくない制作者にとって、CS2740-Zは信頼して置けるモニターだと言える。


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