アナクロ映像による実践

アナクロ映像作りのポイント

ひとつのウソを立たせるために周辺考証を徹底する

『幻のたばこ「マリン」』を例に、アナクロ映像作りのポイントを見ていきましょう。大切だと思うのは「ひとつのウソを立たせるために周辺考証を徹底する」ということ。ここで言うウソとは、存在しない架空のタバコですね。それを立たせるために、まわりを徹底する必要があります。

たとえば「時代あるある」。この当時、CMの右下に「Song by ○○」というテロップが必ずと言っていいほど表示されていました。それを当時っぽいフォントで入れてあげるのです。Windowsだったら「Century Gothic」を入れると結構いい感じになりますね。こういう要素を再現することによってリアリティが増すんです。

次は「技術あるある」。「海の似合う大人(ひと)に……」というテロップが入っていて、「大人」と書いて「ひと」と読むあたりもそうですが、ちょっと右斜め上に上がっている斜体が、当時の技術なんですね。いまのPremiereなどではこういう感じにはならないんですが、当時の写真植字、つまり紙焼きテロップだとこういう特徴が出たんです。そのような当時の技術的制約を再現してあげることがポイントです。

最後はやっぱり「時代考証」ですね。あの当時のタバコの価格は、200円台ぐらい。それをテロップとして見せてあげるんです。

これらの3要素を徹底していくことによって、アナクロ映像という、ちょっと時代錯誤がある独特の映像ができていくと考えています。



アナクロ映像3大ポイント

時代あるある




技術あるある




時代考証




「いまを振り返る」をテーマに

『幻のたばこ「マリン」』の制作直後にコロナ禍が始まり、「テレワーク」も声高に叫ばれるようになりました。そこで「テレワーク」という文字を古めかしく表現した画像をSNSに投稿したところ、3万ぐらい「いいね」が付きまして。この時に「いまを振り返る」というテーマを思いついたんですね。コロナ禍で毎日新しいニュースばかり飛び込んできて不安でしたし、それを昔風の視点で捉えると俯瞰して見られるんじゃないかなと。そこでそういう視点のシリーズを始めました。

「テレワーク」のほかにも「ソーシャルディスタンス」や「ステイホーム」など、毎日のように新しい言葉が出てきまして、それらをテーマに映像を作っていきました。この『ソーシャル・ディスタンス』という作品はフォントも全部手書きなんですけれども、あえて中黒「・」を入れたあたりも、フィルムエスト流のこだわりです。そういう工夫もあってか、すごく多くの人に見ていただけましたね。どれも大きな反響があった作品です。





当時のノイズ感の演出

当時は、書き出しを何回も繰り返すことで、画質を悪くしてノイズ感を出していました。4回も書き出すと結構なノイズが乗り、画面の揺れも出てきてそれらしくなります。ただ、当時の僕の理解は不十分でした。VHSテープと聞くとすごく画質が悪いイメージがありますが、案外そうでもないんです。アナクロ映像作りを続けていくうちに、そのあたりの知識も徐々に増えていきました。





「フィルムエストTV」の飛躍

著名人とのコラボや企業案件、そして長編ドラマまで

テレワークなどの動画が流行った1年後ぐらいの2021年、毎日放送大阪の福島暢啓アナウンサーからお声掛けいただき、初めて著名人とコラボ。それをご覧になったブラザーさんから、企業案件のご依頼もいただけました。2023年には『80年代にiPhoneがあった!?』というフィクション作品が大バズり。実に2,935万回も再生されました。2024年には友近さんからお声掛けいただき、初の長編作品『友近サスペンス劇場』を制作。そして2025年は、テレビ朝日とKDDIがコラボしたチャンネルに向けてショートドラマ『崖』を制作したり、テレビ東京の『架空名作劇場 人情刑事呉村安太郎』という地上波ドラマまで制作したりしました。ここまで飛躍できたのは、「得意」「自分の関心」「好き」という3要素を、うまく掛け合わせられたからだと思います。



2021年1月:MBS『水曜トークショー』




2021年4月:ブラザー『エイプリルフール企画』




2024年4月:『友近サスペンス劇場』







「フィルムエストTV」の舞台裏

台本や小道具などの制作準備

映像には映らない細部まで徹底的に作り込む

作品作りはアイデア出しから始まり、思いついた瞬間にiPhoneのメモ帳で一気に書いていきます。それをどういう風に作品にしたらおもしろくなるかなという視点で考えていきますね。長編ドラマでは構成が必要になってくるので、自宅の壁一面にまず「時代あるある」を付箋で貼って、浮かんできたロケ場所でどういうことができるかを考えながら貼り替えていって構成を整えます。登場人物の相関図も手書きで作りますね。それが合わさってひとつの台本になります。ちなみに『架空名作劇場 人情刑事呉村安太郎』の台本では、テレビ東京さんにお願いして旧ロゴを使わせてもらいました。役者さんにも楽しんでいただきたいので、役者さんの目に触れるものまで完璧にしておきたいんです。

美術の小道具もすべて僕が用意しています。たとえば『崖』で使った指名手配の貼り紙は、当時の本物の指名手配の貼り紙を参考に作りました。「白昼の団地で人妻をけん銃で射殺した犯人!」「桜の入墨あり」「口唇厚く突き出している」などの文言も、当時のものを参考にしています。インスタント麺やもずくのパッケージなども全部作りました。映像には映らない細かな注意書きまでこだわっています。手書きの小道具でも手を抜きません。「頑張ってフォントに近づけているものの手書き感がある字」がすごく好きなので、そのあたりにもこだわって作っています。

ちなみに今年からは、生成AIを制作にも取り入れています。試しに下書きをラフで描いてAIに取り込ませて着色したのですが、すごくいい感じに色を塗ってくれました。すべてをAIに任せるのではなく、アシスタント的にAIにやってもらうのがいいのかもしれません。

どうしても技術さんなど他の人に任せなければいけない時は、手描きイラストですぐに現場に共有します。たとえばガラスを割るシーンを撮影する場合、カメラにガラスの破片が飛んでくる可能性があるため、防護用のアクリル板をカメラの前に立てるよう指示する図を手書きで用意して共有しました。


これまでに作った台本は3冊。テレビ局のロゴにまでこだわりが光る。



『崖』で使った指名手配の貼り紙。犯人の特徴に関する説明文まで当時の文体を再現している。



美術の小道具のひとつひとつを、映像には映らない細部まで徹底的に作り込む。完璧主義の西井さんだからこそなせる業だ。







撮影現場と役者指導

演技を昔っぽく見せるためのコツまで追求

自主制作作品の場合は、自分ひとりで撮影するか、アシスタントがひとりふたりいる程度ですが、ドラマなどでは、本物のドラマの撮影現場とほぼ同じ大がかりな体制で撮影します。そのためドラマの現場では技術打ち合わせから始めますが、わかりやすいように、撮影現場の配置イメージなどの資料も用意します。役者さんやカメラの配置、動線などまで、ひと目で分かるように。

「フィルムエストTV」ならではのものと言えば、撮影現場のモニターです。収録時のアスペクト比は16:9ですが、仕上がりは昔のテレビの4:3。そこで、撮影時に4:3の範囲がわかるように、モニターに黒いテープを貼って物理的にトリミングしているんです。

役者さんの演技指導も欠かせません。「ただ古いものを作ればいい」と考えられがちですが、そうではなく、あくまで「いまの出来事を昔っぽく表現するからおもしろいんだ」ということを繰り返し言葉で伝えるようにしますね。演技をどう昔っぽく見せるかを説明する資料も用意しています。表情、発声、仕草・振る舞い—いずれもなかなか難しいものですし、役者さんに任せっきりにするのはよくありませんから。

エキストラさんにも演技指導を行います。たとえば2025年春に公開した作品でメディアスクラムのシーンを撮影することになった時は、25人ぐらいの方に参加していただいたのですが、記者がマイクをどう持つとプロっぽくなるか、どういう表情だと雰囲気が出るかを資料で説明して、リアリティを高めました。


『架空名作劇場 人情刑事呉村安太郎』のラストシーンで使用した、現場の配置イメージ資料。



昔のテレビと同じ4:3の範囲になるよう、モニターに細工。



役者やエキストラに昔っぽい演技を指導するため、一挙手一投足まで細かく資料で説明。「鼻濁音を使用する」などの発声指導も欠かさない。







手書きテロップ制作講座

味わいを引き立てる手書きテロップ

手書きテロップを制作するには

これまでに、下図のようなさまざまなテロップを作ってきました。これらのテロップはすべて基本は手書きです。こうした手描きテロップをどのように映像に取り込んで制作するかをご紹介します。

今回は、「ビデオサロン編集部に潜入」という手書きテロップを作成しましょう。手描きした文字原稿を写真で撮影してパソコンに取り込み、Photoshopで編集をしたうえで、最終的にPremiereで映像として仕上げていきます。





制作工程①:ペンで文字を書く

求める雰囲気に応じてペンの種類も使い分ける

まずは紙にペンで文字を書いていきましょう。使うペンによってまったく雰囲気が変わってくるのも手書きテロップの魅力です。ぺんてるの筆ペンを使うことが圧倒的に多いのですが、ぺんてるのサインペンや、コピックのマーカー、細かいところまで修正しやすいパイロットのスーパープチもよく使いますね。今回は勢いのある文字を書きやすい筆ペンでいきましょう。書き方もさまざまですが、少し勢いのある文字にします。書体は、『新装版 日本字フリースタイル・コンプリート』(誠文堂新光社)や、『篠原榮太のテレビタイトル・デザイン』(グラフィック社)などを参考にしてみてください。



筆ペンで勢いのある文字を書く

文字を一度に書こうとせず、何度か塗るように書くこと(補筆)で、かすれ方などもよい感じに表現できる。



こちらが仕上がった生原稿。これをカメラで撮影し、パソコンに転送。




制作工程②:パソコンで編集する

取り込んだ写真をPhotoshopで編集する

Photoshopを使い、まずは2階調化してクリアにし、白黒を反転させます。そのうえで黒い部分を削除して透過状態にし、境界線を付けてテロップらしさを出しましょう。あとはノイズを削除し、古めかしいショッキングな印象を出すため文字の内側を赤で塗って仕上げます。



Photoshopで編集する

レイヤーを「2階調化」して「プロパティ」パレットでしきい値を調整し、レイヤーを結合。「階調の反転」で白黒を反転させ、レイヤーを結合。



黒い部分を選択して削除し、透過状態にする。「レイヤースタイル」で「境界線」を選択し、「サイズ」を調整するとテロップらしくなる。



ノイズを選択して削除し、文字の内側を赤で塗る。「レイヤースタイル」で「ドロップシャドウ」「境界線」を調整したら完成。PNGで書き出す。







Premiereでテロップに仕上げる

Premiereで編集する

Premiereを使い、動画の上にテロップのデータをのせます。画面外にはみ出たテロップが、画面中央に縮小しながら現れて、最後は縮小して消えていくように編集しましょう。代表的なレトロ感のあるテロップ表現です。


出現したテロップを止めたい位置に合わせ、「ビデオ」の「モーション」の「位置」「スケール」をクリック。



冒頭に合わせ、 「位置」「スケール」の数値を調整して、テロップを拡大したうえ画面からはみ出た状態にする。



テロップが消えはじめる位置で「位置」「スケール」のキーフレームを打ち、テロップが消える位置で「スケール」を0にする。