「写真で残したいもの」をテーマに、この瞬間を残したいという感情を描いていくNICO STOPオリジナルドラマ『ひかりと、まばたき。』。主演の古屋呂敏さん、監督の映像ディレクター橋本侑次朗さん、撮影を担当した写真家/映像監督の軍司拓実さんの3名に、ZRで撮影した制作の過程をお聞きした。

聞き手:VIDEO SALON編集部 一柳 協力:株式会社ニコンイメージングジャパン


主人公の堤 理仁(つつみ りひと)が様々な出会いを重ねながら、 過ぎ去っていく時の中で大切に残していきたいものに向き合っていく、全3話のショートドラマ。全編ZRで撮影された。


ZRを2台使って2日で3話分を撮影する

――まずこの企画のスタートからどのように脚本が形になっていったのか教えてください。

橋本侑次朗(監督:以下・橋本) 私はこの『ひかりと、まばたき。』というドラマの企画を担当されているプロデューサーからお声がけしていただき監督として参加することになりました。その時点で決まっていたのが、写真、記憶をテーマにし、廃校を舞台にした3本のドラマを作りたいということ、1話に対してゲストが登場するということ。主演は古屋呂敏さんで、撮影は軍司拓実さんということでした。

仮のタイトルはあったのですが現在とは全然違うものでした。企画発案の時点での参考映像を見たところ、たまたま私が長年一緒に映像を作ってきた脚本家の山科有於良が書いたものだったんです。そこで彼女に声をかけて、そこからはふたりで脚本を作っていきました。それが12月初旬の撮影の2か月くらい前です。脚本の骨子が決まったのが撮影直前の11月中旬で、撮影の当日もモノローグなどを詰めていましたね。

手前左から監督の橋本さん、主演の古屋呂敏さん、撮影の軍司拓実さん。


――主演の古屋呂敏さんは決まっていたということですが、それ以外の役はオーディションですか?

橋本 はい。オーディションで何人も見るのは好きじゃないので、本当に絞った人数でそれこそマンツーマンくらいのオーディションで選びました。

――監督と主演の呂敏さんとは、脚本をもとに本読みをしたり打ち合わせをする時間はとれたのでしょうか?

古屋呂敏(主演:以下・古屋) 仮の脚本をいただいて読ませていただきまして、主人公の堤 理仁(つつみ りひと)として、過去の経験を背負って作品に臨むのではなくて、そこでの出会いや起きることに対して素直に反応したほうがこの映像作品は成立するんだろうなという思いがありました。したがって、逆にあまり深く考えすぎずに、そこでいただいた言葉に反応して、丁寧に紡ごうと思いました。

橋本 主人公の理仁は、物語上も結構ニュートラルな存在であってよい人物でもあったので、事前に深くコミュニケーションをとらなくても大丈夫だという気持ちはありました。


――撮影は発売されたばかりのZRを使うということでしたが、撮影を担当された軍司さんはどのように準備されたのでしょうか?

軍司拓実(撮影:以下・軍司) 今回ZRで撮るということでしたが、ZRがまだ登場したばかりで自分は触ったことがなく、またロケハンのときも間に合わなかったので、本番前の早めにお借りして数日撮り歩いてみました。2日で3話分を撮影するという状況を考えると、手に馴染んでいないと使えないと思いましたので。

もちろんR3D NEで撮影することを想定しましたが、グレーディングはカラリストさんにお願いする予定でしたので、現像してグレーディングするところまであえて行わず、撮ってみてのお楽しみにしようと思っていました。ただ、すでにREDから提供されているLUTが配布されていましたので、それをZRに入れて気分を作ってみるという準備はしました。

――監督として脚本から本番までにどういった準備をされたのでしょうか?

橋本 今回、絵コンテは書いてないのですが、ある程度、カット割りを事前にしています。自分はたとえ短いドラマであっても絵コンテを全部描くのですが、今回に関しては脚本ができあがってから絵コンテを作る時間がありませんでした。ただ、そういった時間の問題ではなく、実は脚本を作っている途中段階からそう切り替わっていったんです。


脚本については脚本家の山科と相談しながら詰めていきましたが、基本的に山科が書くものを信用して、それに対して自分に何ができるかを考えようと思いましたが、撮影に関しても軍司さんが撮るものに対してどう演出をするのかということに向き合おうと割り切りました。

――演出のアプローチとしてはどういうことを考えましたか?

橋本 脚本と並行しながら、どういう演出のアプローチができるのかを検討していったのですが、「写真」というモチーフに対して、そのモチーフならでのドラマにしなければと思いすぎてしまって、当初は頭でっかちな演出過多なものを考えていたんです。たとえば1話は50mmだけで撮影するなど各話で使用するレンズの焦点距離を決めるといったように、レンズを通して見えてくる世界が関係性や距離感を決めていき、物語の主題になっていくとか、画角に関しても、16:9ではなくて、写真のアスペクトである3:2にしてみるといったようなことに考えをめぐらせていました。ところがいろいろとやりとりをしていくなかで、そういうスタイルからではなく、まずはドラマとして誠実に作ろうという考え方に変わっていきました。

撮影スタイルとしても、当初はフィックスを中心にと話していたのですが、撮影準備の段階では、ハンディがメインで2カメを使い、ちょっとライブ感もありながら撮っていこうという話になっていきました。

――同じカメラを2台使用するメリットは?

軍司 会話のカットバックのシーンが多いので、そこを効率よく2カメで押さえるということと、味のある画を撮るにしても、12月の日中の撮影時間が限られるなかで2台のカメラがあれば結果的に上がりの数を稼げる、つまり良い映像にできる確率があがるということです。

NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctを使い、絞りは開放で

――使用するレンズはロケハンのときに想定されたのでしょうか?

軍司 ロケハンの時は監督とまだそこまで会話できてない状態でした。

橋本 実はロケハンを兼ねたシナハンだったんです。したがってまだ話も固まっていませんでしたね。

軍司 とりあえず40mmくらいのレンズでロケハンに行ったのですが、企画書には撮影は50mmの単焦点で通すというようなことが書かれてあってドキッとして(笑)。

橋本 もし当初の企画で焦点距離を限定して撮影するということやっていたら、時間がなくて撮りきれなかったですね(笑)。

――実際にはどういうレンズを用意して、結果的に何を使われたのでしょうか?

軍司 まずNIKKOR ZレンズのSラインを一通り揃えました。メインがNIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct、人物の見た目のカットはNIKKOR Z 85mm f/1.2 S にすることが多く、ちょっと離れて歩いてもらっているところの撮影などはNIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena、ワイド側はNIKKOR Z 35mm f/1.2 S、NIKKOR Z 20mm f/1.8 S が多かったような気がします。20mmが今回使ったなかで一番ワイドです。

メインカメラ側は7~8割がNIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctでした。まずNoctをつけて監督に確認してもらって、ああ、いいね、じゃあこれで行こうかという流れが多かったですね。だからこの作品はほぼNoctでできています。


――Noctは開放絞りが0.95という驚異的なレンズですが、絞りは?

軍司 Noctを含めてどのレンズもほぼ絞り開放で撮影しました。

橋本 軍司さんっぽいよね。

――ドラマ撮影で絞り開放で通す、特に開放0.95のレンズの開放を使うというのはかなりチャレンジングですね。

橋本 見ていただければわかる通り、ドラマでよくあるような状況を見せなければならない説明的なカットはそれほどなくて、それぞれのショットがドラマチックになっているような気がします。ドラマといっても短編で尺が短いので、それでよかったのだと思います。


いわゆるドラマではなく映像作品にしたかった

軍司 ドラマとは言いつつ、橋本さんもいわゆるザ・テレビドラマ的ではない質感にしたいと多分考えていらっしゃったと思います。僕もまったく同じ気持ちでした。ですから会話を撮っていくにしても、見え過ぎないようにしたいという気持ちが、制作スタッフのみんなにあって、それを僕なりに実現していこうとすると、NoctをはじめとしたSシリーズのレンズで絞り開放値の質感のほうがおのずとそういう雰囲気になってくる気がして選択しました。

橋本 そうですね。脚本の段階でも山科に言っていたのは、「いわゆるドラマを作りたくない」ということでした。なんか語弊がある言い方ですが(笑)。つまり形式としてはドラマなんですけど、いわゆるドラマにしたくない、映像作品にしたいんだということです。撮影の軍司さんもミュージックビデオの仕事が多いので、そういう要素が映像のなかにところどころ感じられるものになるといいなと思っていました。

軍司 自分もいわゆるショートフィルムに参加したり、ミュージックビデオのなかで脚本を設け、そこで物語的な演技を撮るということはあるのですが、いゆわるドラマとして、セリフを追って撮影していくような経験は浅いんですよね。ですから自分としても新しい試みとして現場に参加していました。


コンパクトなZRで機動力の高い現場

――その現場に入られた古屋さんとしては、いつものドラマの現場とはちょっと違うという感覚はあったのでしょうか?

古屋 はい。ありましたね。たしかに方向性としては、あくまでも映像作品であって従来スタイルのドラマだという認識でお芝居をしている感じはなかったですね。

これは今回使ったZRの良さだと思うのですが、圧倒的に機動力が高いんですね。普通の地上波のドラマであれば、シネマカメラをつかってフォーカスマンがついてという大がかりな撮り方をするのですが、今回の作品はZRをハンディで動きながら撮影されていたので、こういうスタイルでも撮影できるんだ、面白いなと思っていました。

――現場の制作スタッフ構成について教えてください。

橋本 演出としては私と脚本の山科、制作が3人くらい、撮影が2、3人、照明が3、4人、音声が2人、ヘアメイクとアシスタント、スタイリストとアシスタントという感じです。照明は音楽室のシーンで窓外から太陽を想定して作ってもらったのですが、それ以外はライトで作り込むことはせずに、陰を潰さずに起こすくらいにして、自然光を生かすようにしています。

――カメラ周りの装備はどんな感じでしょうか?

軍司 ZRにSmallRigのケージをつけて、上にHollyland Mars M1 Enhancedというワイヤレス通信機能を持つモニターを載せて、そこから監督に映像を飛ばしています。電源はZRは内蔵のバッテリーで運用して、Mars M1にはVマウントからバッテリーを供給しています。私としては、できるだけ何もつけない状態が好きなのですが、モニターへのバッテリー供給を考えると、Vマウントバッテリーをつけたほうが途中で付け替えるという手間が省けて良いと判断しました。

――LUTは当てて確認されているのでしょうか?

軍司 REDから提供されているLUTがいろいろありますので、それをひとつずつ試し、そこから3つくらいセレクトしてZRに入れて、自分のイメージに近いものを当ててモニターしていました。ただHDMIからはそのLUTがあたった状態のものは出力されないので、Mars M1 Enhanced側にもそのLUTを入れておく必要があります。

R3D NEがもたらすグレーディングでのジャンプアップ

――グレーディングはどうされたのでしょうか?

軍司 今回はARTONE FILMの名渡山先人さんにお願いしました。名渡山さんご自身も独自の持ち味のトーンはお持ちなのですが、私の今までの作品のトーンも意識してくださって、事前に4タイプくらいのルックを提案していただきました。そこで方向性を確認してベースを決めた後に、カットごとにグレーディングをしていきました。

自分でグレーディングするのも楽しいのですが、本職のカラリストの方に触ってもらえると引き出せる幅が広がるので発見と安心感があります。特にREDのR3D NEで撮っておけばイメージ通りというか、イメージ以上に引き上げてもらえるということを経験しましたね。

古屋 私はグレーディングする前の状態を見て、その後グレーディングが仕上がったものを見たのですが、その違いに本当に驚きました。RAWだとここまで引き上げることができるのか、不思議だなあと思いました。印象がまったく変わるので、違う作品にもできるんだなということが発見でした。

橋本 私がプロキシデータを使ってオフライン編集をしていた段階では、グレーディング前の状態のものを見ていたので作業しながらたまに不安になるんですよね。なにか設定を間違えていたのではないかと。でも、グレーディングスタジオに入って映像を見た時に安心しました。ジャンプアップの幅がすごいんです。これがR3D NEの力だなと実感しました。

ドラマに映像の質感が加わることで伝わるものがある

――今、WEBショートドラマが増えている気がします。体験してみていかがでしたでしょうか? それぞれの立場から感想をお聞きします。

古屋 今回のショートドラマは地上波のドラマからすると深夜ドラマ1本分くらいあるかないかの尺だと思うんですけど、それでも物語が伝えられる幅はとても広いということを感じました。今の時代はさまざまな映像が大量生産されてまさに溢れかえっています。これだけあると受け取る側のキャパも小さくなってきます。では、どう差別化していくのかというと、ドラマというスタイルはすごく貴重な立ち位置にいると思うのです。

たとえば配信サイトにしても、バラエティーではなく、ドラマのほうが再生数が多いですし、後々まで見てもらえるということがあります。ですから、今はテレビ局もいかにドラマを多く作るかといことを考えていると思います。バラエティーだと流れていってしまうのに対して、ドラマはコンテンツとして積み上げになっていくと思うんです。まさにドラマというのは資産になります。

僕としては地上波のドラマに出演することと、WEBのショートドラマに出演することにかわりはありません。特に今回はZRが発売されてすぐの撮影で、今後ドラマ制作など本格的な映像表現にチャレンジしていこうという、ここから始まっていく歴史の最初の作品に自分がいることができて本当によかったなと思います。


軍司 今回のようなドラマスタイルの映像作品にとって、クオリティというのは非常に重要だということを実感しました。それこそ、なにかすごい事件がおきたとして、それを報道して伝えるのであれば、それはスマホで撮ろうが何で撮ろうが伝えられるのかもしれませんが、さきほどオフライン状態からカラーグレーディングした後のジャンプアップがすごいという話がありましたが、内容を伝えるコミュニケーションの先、言語化できないようなこと、たとえばカメラを持つ意味とか写真を撮るということはいいよねという気分というのは、ある程度余白があって、映像の色や質感をきちんと詰めていったことによってニュアンスが足されていると思うんです。ですから、そういうことにこだわって丁寧に作っていくことと、ドラマというスタイルが合わさっていくことによって、新しい伝え方が生まれてくるということを感じています。

今、映画やドラマで丁寧に作られている作品が増えてきていると思うんですが、そういったものは今まで伝えられなかった気分までを伝えられているような気がします。

今回のドラマも新しいドラマのスタイルの着地点になっている気がするので、そういうふうに見えたらいいなと思っています。

橋本 今回のドラマはある種ブランドの価値を上げるための広告、ブランドムービーだと思うんです。ただこの企業を好きになってほしいということをダイレクトに伝えてしまうと、それは決してブランディングではなくなるし、単なるプロモーションムービーになってしまいます。ドラマというスタイルは、いろいろなシーンやセリフやストーリー、映像のルックなどによって、遠回りにはなりますが、カメラや写真っていいものだなあということを最終的に伝えられるものだと思います。それは多分ブランディングとしては大成功で、ダイレクトに直接伝えるよりも好きになってもらいやすい。

ただドラマは人によって感じ方は違います。今回はZRというカメラを使い、ストーリーを通してNICO STOPさんのコンセプトである「写真がもたらす豊かさ」を感じてもらわなければならならないので、そういった意味でのプレッシャーはありましたが、やりがいはありました。特に自分がドラマを作ることが仕事のメインではないので、この期間、楽しんで作ることができました。

――これからこういったスタイルのショートドラマはもっと増えていきそうです。ZRくらいのコンパクトながら潜在能力の高い機材を使うことで、短いスパンと少人数のスタッフでこれだけのクオリティのものが作れるということが伝わり、広まっていくといいですね。

橋本 そうですね。今回決して難しくて大掛かりなことはしていないんです。特機を使って撮影もしていないし、大規模な照明もしていません。だから現場レベルとしてのハードルは低いと思うんですよね。こういった作品を作ることで、ひとつ間口が広げられたかなと思います。

使用機材
カメラ: Nikon ZR
レンズ:NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、NIKKOR Z 20mm f/1.8 S