業務レンジのユーザーが求める機能とスペックを搭載し注目を浴びているカメラレコーダーがJVCのHM600/650。昨年末から発売が開始され、すでに2回もファームアップされているという。新しい機能も加わっているようだ。その辺りを中心に本誌でもおなじみの齊藤正広カメラマンがJVCの開発陣に迫った。



―23倍ズームレンズやデュアルコーデック、ネットワーク機能など、HM600/650は大変意欲的なカメラだと思いますが、企画コンセプトから教えてください。
「JVCでは1/3インチのコンパクトショルダータイプの700シリーズでテープからシリコンメディアに移行しました。もうひとつの路線として小型軽量のHM150というカメラがあります。この二路線の間に新たなモデルを追加することになりました。新規開発するにあたっては、レンズの倍率、コーデック、ファイルフォーマットのすべてにおいて業界トップを狙おうと考えました。光学系は最高倍率を目指すと同時にカメラ本体もクラス最軽量を目指しました。そしてとにかく1/3インチで究極に明るいカメラを作るという目標を立てました」
――ユーザーの声はどう取り入れていったのですか?
「やはりお客様の声が一番大切ですので、開発段階から先行機種をベースにこれからのカメラレコーダーに求める機能を訊いていきました。モックアップの段階で多くの放送局の方々やプロショップにヒアリングし、それを受けて仕様を変更した部分もかなりあります。
実はこのカメラはソフトウェア志向で作られているので、現在の状況を見据えて、ファイルの部分ではいろいろなファイルフォーマット(AVCHD、MXF、MP4、MOV)に対応させました」

――MPEG2系とH・264系の2種類のコーデックを積んでいるカメラというのは他社にないと思いますが、それはどうして可能なのですか?
「ファルコンブリッドというJVC開発のチップをベースにソフトウェア志向で作られているからです。このチップにはMPEG2とH・264、モーションJPEGの3つのコーデックが入っています。あとはソフトウェアの制御でそのコーデックをどういうファイル形式で使うかということを決めることができます。それで今回新たにAVCHDにも対応できたわけです。さらにアップデートすることで機能を追加したり、改善することが可能です。アップデート自体も、JVCのホームページからアップデートのファイルをダウンロードして、それをSDカードに入れ、それを本体のカードスロットにセットすれば4、5分でファームウェアをアップデートすることができます」
――今回HM650に採用されたH・264の35Mbpsに注目してテストしてみたのですが、ひじょうに優れていました。これをもっとアピールしたほうがいいし、HM600にも採用してほしいと思いました。さらにビットレートを上げることは可能ですか?
「要望があれば、ビットレートを上げることは可能です。ただSDHCのクラス6以上を推奨していますので、35Mbpsくらいが安心して使えるところだと思っています」

――さて、肝心の映像のほうですが、明るさが特徴的ですね。感度が2000ルクスでF11というのは、実際に私も試してみましたが、1/3インチとして驚くべきスペックです。
「とにかく明るいカメラを目指しました。ただ、晴天下の屋外撮影の場合、明るすぎると言われることもありましたので、0dBの感度の基準が異なる標準モードと拡張モードを選択できるようにしました。実は当初は拡張モード相当がデフォルトでマイナス6dBも設定できたのですが、多くの人は0dBを基準で使われるし、そうするとNDを入れても絞りきれないこともありました。それでモードを分けようということで、標準モードと拡張モードを作りました。現状は感度が異なる(拡張の0dBは標準の6dB相当)だけですが、今後はモードによってNRのかけ方を変えるなどのチューニングも検討しています。
具体的な使い方としては、日中屋外で撮るときは「標準モード」、夜間や屋内では「拡張モード」という使い分けをしていただけるといいですね。1/3インチは小絞りボケが起きやすく、原理的にはF5・6より絞ると小絞りボケが始まります。明るさを決めるのに絞りを使っていただくよりも、ゲイン、シャッター、NDを利用していくほうが良好な画質になります。今後は絞り過ぎた場合にVF内に警告表示を出すなどの機能追加もファームアップでやりたいと思っています」
――画の調子は、他のメーカーとは違う、暖かくて柔らかい、以前からのビクターの調子です。私は肌色のトーンが気に入って実際に以前HD100も購入したのですが、画作りについて意識している部分はありますか?
「色に関しては、従来機種から変化がないように合わせこんでいます。まさにHD100の頃に決めたものです。解像感にしてもフラットな周波数特性であまりとげとげしくない調子にして、S/Nと解像感のバランスを重視しました。一方で、カラーマトリクスを直感的に変えられるようにしました。これで逆に他社のカメラの色味に合わせこむことも可能です」
――発売以降にファームアップでAFの性能改善をされたと聞きましたが?
「はい。弊社ではHMシリーズ発売以来、常にお客様第一で開発をしてまいりました。今回お客様のご指摘を受け、開発陣の総力をあげブラッシュアップし、すでに何度かのファームアップでかなり改善しています。実は現在進行形でさらに良くなりつつあるので、近々さらなるバージョンアップをしたいと思っています」
――HM650はUSB端子を利用したWiFiアダプターを利用してカメラコントロールが可能なだけでなく、ファイルのネットワーク送信ができるのですが、試してみると新鮮で愉しかったです。私の仕事では海外ロケで撮影した素材を夜にホテルから日本に送るといった用途にいいかなと思いました。今後のビジョンは?
「当初はWiFiを内蔵しようとしていたのですが、機能が限定されてしまいます。そこでUSBホスト機能を採用しました。対応するアダプターはサイトで案内していますが、今後は3G/4G含めて使えるものを増やしていき、どこでもつながるようにインフラを強化していきます。またセキュリティの強化も考えています。さらにカメラコントロールが専用のリモートコントローラーやiPadなどからもできるので、教育機関等で簡易的なスタジオ構築ができるようになります。またライブストリーミング機能も追加する予定です」
――かなりのことがソフトウェアでアップデートできるんですね。驚きました。イメージャーやレンズなど基本設計が優れていますから、これからどんどん機能や性能がアップすると良いカメラになっていくと思います。楽しみです。本日はありがとうございました。

▲お話を訊いたのはJVCケンウッド ビジネス・ソリューション事業部の木戸武氏、塚田幸司氏、後町修氏、浅井浩氏。中央が齊藤正広カメラマン。

◎JVC GY-HM600/HM650の情報はこちらから
製品情報
http://www3.jvckenwood.com/pro/video/gy-hm600/
スペシャルサイト
http://www3.jvckenwood.com/pro/video/prohd/index.html