Report◎ビデオフォーシーズンズ代表 井上 清
REDと言えば映画やCMの現場で使われるデジタルシネマカメラ。しかしスチルモーションカメラと言われているSCARLETはカメラ本体がコンパクトで個人で持ち運ぶことも充分可能である。実際にRED SCARLETを使って日本全国を旅しながら、四季折々の4K映像を撮り続けている筆者が、その撮影から公開までのノウハウを紹介する。
*このレポートは、2014年2月に刊行されたMOOK「4K&デジタルシネマ映像制作」のなかのレポート「ハイアマチュアと個人カメラマンに贈るRED SCARLET入門」を転載しています。情報は当時のものです。なおこのMOOKはまだ購入することが可能ですが、情報が古い部分もあることはご了承ください。
対象は従来のビデオユーザーから写真好きまで
筆者の経験も踏まえ、ハイアマチュアや個人レベルのカメラマンがSCARLETを導入する場合の参考になればと思い、本記事を書いていこう。
具体的な読者像は、次のようなユーザーを想定している。
まず、3板ビデオカメラなどを使っているが、4Kに移行したいと考えているハイアマチュアや小規模プロダクション。次にEOS 5D Mark III などDSLRを使用して動画を撮影するハイアマチュアや個人レベルカメラマン、あるいは自主制作映画を作っている学生。そして、一眼レフを使用して静止画を撮影するアマチュアフォトカメラマンである。
前の2者は分かるが、フォトカメラマンは写真のカテゴリーなのでは? と思われるかもしれない。しかし、4Kの登場により、写真を4Kテレビで観賞するという新しい見方が提案されている。
確かに4Kテレビの大画面で観る風景写真などは、圧倒的な臨場感がある。今までプリントやパソコンで見ていた写真を大画面の4Kテレビで見るようになるのかもしれない。そして、そのすぐ先には動画がある。4Kの登場で、アマチュアフォトカメラマンも動画を撮影するようになる可能性が大いにあるということだ。
動画と静止画のハイブリッドカメラとはどういうことか?
さて、そこでSCARLETのカメラとしての機能を順に見ていこう。各解像度において記録できるフレームレートは以下のようになる。
●5K:1~12fps
●4K:1~30fps
●3K:1~48fps
●HD:1~60fps
●1K:1~120fps
4Kで記録できれば充分なのに、5Kで記録するモードが用意されているのはなぜだろうか? これは、REDが提唱するDSMCというコンセプトに関係している。DSMCとは、Digital Still Motion Cameraという意味で、静止画(Still)も動画(Motion)も撮ることを想定しているのだ。実際、雑誌の表紙の写真をEPICやSCARLETで撮影しているそうで、雑誌の記事に連動したWebサイトの動画と同じカメラで撮ってしまうという使い方をしているユーザーもいるとのこと。「ビデオサロン」の2013年7月号、「コマーシャルフォト」の2013年9月号表紙もEPICで撮影されている。
4K(4096×2160)では、およそ880万画素で、これではコンパクトデジカメのレベルの画素数しかない。5K(5120 × 2700)なら1,400万画素になるので写真としても使えるというわけだ。しかし、これでも最新の一眼レフには追い付かないので、新たに投入したのがDRAGONセンサーである。これは6K(6144 × 3160)の解像度を持つセンサーで、1,900万画素以上となる。もちろん、高解像度で収録してダウンコンバートすると、最初からその解像度で撮った画質よりも解像感が高いというメリットもある。ただし、DRAGONセンサーはEPICのみに搭載モデルが設定される。
現在、SCARLETでスティルを撮る場合は、5Kモードにして動画(といっても12fpsだが)を撮り、その中から1フレームを抜き出すという手法である。秒12枚の連写と思えばよい。しかし、残念ながら、一眼レフと同じレベルの静止画撮影機能は、まだサポートされていない。例えば、1秒以上のスローシャッターで夜景を撮ることなどは、まだできない。これができれば、DSLRを持ち歩く必要はなくなるのだが…。
EPIC DRAGON
DRAGONセンサーが設定されているのは
EPICだけだが、SCARLETからEPIC DRAGON
へのアップグレードパスが用意されている。
(価格は未定)
SCARLETの前面にはSとMのポジションを持つ
スライドスイッチがある。このスイッチは、
実はまだ動作していない。将来のバージョン
アップでStillとMotionの切り替えが与えられ、
完全なスティルカメラとしても使用できる
ようになるのではないだろうか。
RAWで記録する意義とは?
REDのカメラはすべてREDRAWで記録される。RAWというのはファイルサイズが大きく、後処理が必要ということで、何となくとっつき難い印象をお持ちの方もおられるだろう。しかし、実はRAWで記録していることが、ハイアマチュアでも4Kを扱うことができるキーポイントになっているのだ。意外に思われるかもしれないので、少し解説してみたい。
RAWファイルは、イメージセンサーから出力された信号がカメラ内で“加工”されず、そのまま記録されたファイルである。加工されていないのでRAW(生)と表現されている。
MPEGやAVCの圧縮ファイルで記録される多くのビデオカメラでは、イメージセンサーから出力された信号は、カメラ内のプロセス回路により画像が加工され、圧縮されて記録メディアに収録される。
この“プロセス回路”により行われている“加工”とは、ホワイトバランスやディテール、あるいは色調や彩度などのコントロールである。これらはカメラで撮影されるときに、カメラの設定により決められる。これらの要素は、ポストプロダクションで変更することができるが、一度決められた設定をやり直すことになるため、変更の自由度は限られたものになる。料理に例えると、食材を料理し、味付けした後冷凍した食品を、もう一度解凍して味付けをやり直すようなものである。もちろん味付けの変更範囲も限られたものになってしまう。
RAWで記録するということは、食材のまま保存するということだ。食材のまま保存しているので、料理はまったく制限なく、如何様にも味付けができる。素材の鮮度(画質)を落とすこともない。これが、RAWで記録する本来のメリットである。写真の世界ではもうお馴染みで、風景写真などにおいては、むしろRAWで記録されるほうが主流であろう。
ビデオでは、時間やコストの問題でRED ONEが登場するまで、話題に上がることは少なかった。ビデオの記録データ容量が写真に比べて大きなことも理由であった。
しかし、RED ONEの登場により、映画を中心に、比較的時間とコストに余裕があるカテゴリーでRAWが注目され始めたわけである。
ところで、RAWファイルは非圧縮とよく誤解されるが、RAWも圧縮されて記録されているのだ。実際、SCARLETでも記録モードで圧縮率が指定できるようになっており、デフォルトでは1/8に設定されている。現実的に1/8程度の圧縮では、非圧縮と比べてもほとんど差がないと言える。
編集時の再生でもメリットがある
さて、RAWで記録するもう一つのメリットは、RAWファイルの再生にある。4Kのファイルは圧縮しても、それなりに大きい。REDRAWの場合、1/8圧縮で記録しても約400Mbps程度である。100MbpsのP2HDの4倍、50MbpsのXDCAMの8倍である。このような大きなビットレートのファイルをパソコンで再生させようとすると、ワークステーションレベルのパソコンが必要になり、価格も高価なものになってしまう。
しかし、もし“解像度を落として再生する”ことができれば、当然ビットレートは下がることになる。REDRAWはWAVELET(ウエーブレット)という圧縮方法を使っているため、これができるのだ。実は、この機能こそが、REDRAWで記録するもう一つのメリットであり、ハイアマチュアや個人レベルのカメラマンでも4Kを導入できるキーポイントなのである。
REDRAWの現像・カラーグレーディング用ソフトウエアであるREDCINE-X PROやAdobe Premiere ProのREDRAW編集モードには、再生解像度を1/8とか1/4、あるいはフル画質に選ぶ機能が用意されており、パソコンのパフォーマンスに応じて再生解像度を選択することができる。例えばMacBook Proの場合、1/4では多少ギクシャクするが、1/8ではスムーズに再生される。ちなみにフル画質では、ほとんど動かない。もちろん、1/8ではかなり解像感は失われるが、編集には充分使える(*)。
*なお、この1/4や1/8というのはあくまでも再生時の話であり、オリジナルのファイルの解像度が下がるわけではないのでご安心を。また、記録時に設定する1/5とか1/8の圧縮設定とは別物である。念のため。
RAWであっても、圧縮はしている。デフォルトが1/8圧縮。ハリウッドの大作映画でも1/5程度の圧縮を採用
していると言われている。非圧縮ではあまりにも記録容量が大きくなってしまい、またポストプロダクション
でも扱い難いためである。これも例えてみると、漁船で魚を捕ったら即冷凍して保存するが、これは費用対
効果の面から、生かしたまま水槽に入れて持ち帰らないのと同じである。
SCARLETのアクセサリーと構成
必要最低限の機材構成を考える
それでは、SCARLETの構成を考えてみよう。必要な機能をブロックで追加することができるモジュラー構造なので、いろいろなアクセサリーがドッキングできるが、ワンマンオペレーションならできるだけ軽量にしたい。そこで、必要最小限の構成を考えた。
●カメラ本体(BRAIN)
●1.8インチSSDサイドスロット(DSMC 1.8″ SSD SIDE MODULE)
●サイドハンドル(DSMC SIDE HANDLE)
●AL(アルミ)キヤノンマウント(DSMC AL CANON MOUNT)
●5インチタッチスクリーンディスプレイ(RED TOUCH 5.0″ LCD)
●バッテリーパック(REDVOLT)
●バッテリーチャージャー(DSMC TRAVEL CHARGER)
●1.8インチ128GB SSD(REDMAG 1.8″ SSD)
●SSDリーダー(RED STATION REDMAG 1.8″)
●リアカバー(REAR MODULE CAP)
SCARLET-X AL CANON MOUNT COLLECTION
撮影に必要な一応のものがパッケージになっている。このパッケージにはバッテリー2個と
REDMAG1.8(SSD)1枚が含まれている。これらを必要分追加する。またREAR MODULE CAPは
含まれていないので、追加オーダーするとよいだろう。
カメラ本体(BRAIN)
BRAINは、イメージセンサーが収められている
カメラ本体である。これにアクセサリーを付けて、
はじめて使える形になる。SSDサイドスロットと
レンズマウントは、BRAINと一緒にオーダーすると、
取り付けて出荷される。サイドハンドルは別梱包に
なっており、自分で取り付けて使用する。
レンズマウント
キヤノンEFのアルミ(AL)かチタン(TI)、あるいはニコン、PLなどが選べるが、300mm程度までのキヤノンEFレンズがメインなら、ALキヤノンマウントで充分。もちろんチタンマウントでも良いが、もしチタンマウントをオーダーするなら、DSMC RED MOTION TI CANON MOUNT(写真)を選択する手もある。これは最近発売された、連続可変NDフィルター付きのマウントで、NDがカメラ本体から連続して可変できる。そして驚きなのが、このマウントを装着すると、SCARLETがグローバルシャッター仕様になってしまうこと。なぜ?の説明は機会があれば別途したいが、例の走っている電車が斜めになったり、フラッシュライトが上半分だけ写ったりといったフォーカルプレーン現象(ローリングシャッター現象ともいう)が見事解決されるのである。ただアルミマウントから比べると40万円以上の追加出費となる。
5インチタッチスクリーンディスプレイ
(RED TOUCH 5.0″ LCD)
モニターディスプレイは9インチと5インチ(写真)が選べる。どちらもタッチスクリーンになっており、SCARLETのすべての機能がタッチスクリーンでコントロールできる。大きさは5インチで問題ないだろう。タッチスクリーンのフィーリングは悪くないが、スクリーン上のボタンの位置が上部で押しにくかったり、雨で濡れた指でタッチするのもあまり気が進まないので、筆者は主にサイドハンドルのハードウエアボタンでコントロールしている。またディスプレイにフードをかぶせた場合、タッチスクリーンはほぼ使えない。なおP.51のフードは筆者が自作したものである。アクセサリーが充実している中で、モニターフードがラインアップされていないのは残念なところである。
バッテリーパック(REDVOLT)
REDVOLTは1個あたり20分~30分程度しか持たない。のんびりフレーミングを考えていたりすると、
あっという間になくなってしまう。取材対象にもよるが、多めに用意することをお勧めする。
REDVOLTを使用しないで、RED BRICKという大型のバッテリーパックを使用してもよい。
これなら、REDVOLTの4倍弱の容量がある。ただ、カメラは大きく重くなる。REDVOLTは
サイドハンドル内に収納されるので、カメラパッケージをできるだけ小さくしたい場合は
REDVOLTのほうが良いだろう。TRAVEL CHARGERはAC100VでREDVOLT1個を充電する。
フルチャージするのに、約2時間半かかる。
1.8インチSSD(REDMAG)
記録メディアは、専用の1.8インチSSDで、“REDMAG”と呼ばれる。容量は64GB、128GB、
256GB、512GBがあるが、128GBあたりが適当だろう。この容量で1/8圧縮で記録した場合、
約40分記録できる。もちろん、256GBや512GBを選択してもよいが、256GBを1個持つよりは、
128GBを2個持っているほうが効率的だろう。RED STATIONはREDMAG用リーダー。
USB2.0あるいはeSATAでパソコンと接続する。
リアカバー(REAR MODULE CAP)
リアパネルの内部接続コネクター類がむき出しになるので、このキャップで保護する。
特にネジで取り付けるわけではなく、はめ込むだけなので落下に注意したい。